特集 2014年5月24日

誰の塩むすびが一番おいしいのか

9種類の塩むすびがズラリ!
9種類の塩むすびがズラリ!
おにぎりのおいしさって、何が決め手なんだろう。

鮭・昆布・梅干など具の好みもあるだろうが、重要なのは「米」「炊き方」「握り方」といった基本的な部分なのではないか?

つまり「塩むすび」だ。これさえおいしかったら最強のおにぎりと言えるはずである。

そんな思いつきから友人知人に声をかけ、塩むすび限定の「おにぎり競技会」を開催することにした。
1968年秋田県生まれ。食べたり飲んだりしていれば概ね幸せ。興味のあることも飲食関係が中心。もっとほかに目を向けるべきだと自覚はしています。

前の記事:50年前のスーパーのチラシを見せてもらった


「8個、握ってきてください」

会の趣旨に賛同してくれたのは私を含め8人。それぞれ「これぞ」と思う塩むすびを握り、持参することが競技会への参加条件となる。

1、白米でも玄米でも米ならなんでも可
2、味付けは塩のみ
3、海苔は巻かない

以上の3点のみが共通ルールであり、あとは普段通りに(あるいはスペシャルに)参加人数分の塩むすびを握ってくれればいい、とだけ伝えた。

それぞれ米の銘柄はもとより、炊き方も握り方も塩も違うはずである。それらの違いが、どれくらい味に現れるのだろう。

果てしなく地味ではあるが、ものすごく楽しみだ。やはり米か? 米の違いが全てを決してしまうのか?
ちなみに我が家は土鍋炊飯。米の銘柄はその都度違うが、今回は京都の「きぬひかり」を使用。
ちなみに我が家は土鍋炊飯。米の銘柄はその都度違うが、今回は京都の「きぬひかり」を使用。
さて、塩むすびである。

いつも通りに米を炊き、いつも通りに握った。食べ比べであるからには…と見栄を張り、塩は普段より少しいい物を使うことにした。藻塩ってやつだ。
手に塩をちょんと乗せて、
手に塩をちょんと乗せて、
あとは握るのみ!
あとは握るのみ!
ふんわりと握った方がいいのは分かっているが、そのふんわり加減がいつも分からない。

ボロボロと崩れるおにぎりほど悲惨なものはないとの思いから、ついしっかりめに握ってしまう。
不格好ながら、なんとか完成。いびつ三角にぎり。
不格好ながら、なんとか完成。いびつ三角にぎり。
8個をタッパーに詰め、さっそく競技会会場として場を提供してくれた友人宅へと急いだ。

自分のおにぎりがどう評価されるかも気にはなるが、それよりも人の塩むすびを食べてみたい。一度にいろんな人のが食べられるなんて、おにぎり好きにとっては夢のような機会じゃなかろうか。

これ全部食べるのか…

こうして、それぞれの塩むすびが集結した。その数、9種類・全72個!
ラップあり無し、大きいの小さいの、さまざまな塩むすびが9種類。壮観…。
ラップあり無し、大きいの小さいの、さまざまな塩むすびが9種類。壮観…。
今回は特別に、おにぎり専門店の塩むすびも食べ比べ用に紛れ込ませてある。果たしてプロとアマの違いはハッキリ現れるのだろうか。

ところで形であるが、俵型の1名をのぞき、あとはみな三角型だった。(俵型は西日本に多いと聞いたことがあるが、このおにぎりの握り主は福岡出身である。なるほど)

おにぎり屋以外でこれだけの数のおにぎりを一度に見るのは初めてとあって、興奮を隠し切れない。意味もなく写真を撮りまくってしまったのは、飢饉の時代に農民だった自分(推測)のDNAの為せる業だろうか。
大量のおにぎりを前に子どもが興奮していた。わかる。お前の気持ちはよくわかる。
大量のおにぎりを前に子どもが興奮していた。わかる。お前の気持ちはよくわかる。
しかし塩むすびオンリーってのは、豪勢なのか質素なのか、いまいち判断がつかない。下着は白しか持ってないが素材は絹、みたいな感じだろうか。違うか。…違うか。

採点方法

参加者には3枚の付箋を配布した。上位3つのおにぎりにそれぞれ投票してもらう方式である。
これを好きなおにぎりに貼ってもらい、集計。
これを好きなおにぎりに貼ってもらい、集計。
これで準備は整った。

「さあどうぞ食べてください!」と参加者に声をかけ、競技会の幕が切って落とされた。

9個食べるという苦行

ずらりと並んだ塩むずびを前に、みな「おおお~」と声が出るが、写真を見る限り若干顔がこわばっているように見えなくもない。

「これ、全部食べるの…?」という心の声がダダ漏れているせいだろうか。
引き締まる表情、そして漏れる苦笑。
引き締まる表情、そして漏れる苦笑。
大量の塩むすびを前に、遠巻きに眺める参加者一同。ま、気持ちは分かります。

戦後じゃあるまいし「銀シャリの握り飯をたらふく喰え、ただし塩むすびに限る!」と言われて喜ぶ人が平成の世にそういるとも思えない。

しかし、完食する必要はもちろん無いのだ。ほんの数口ずつ食べて、味の判断がついたら残りは好きにしてくれて構わない。テイクアウトも当然可。

そう伝えると、やっとおずおずと手が伸びてきた。
どれどれ…。
どれどれ…。
よほど特徴的な見た目じゃない限りは、どれが自分のおにぎりか分からないはずだ。

もちろん自分のがおいしいと思ったら、自分に投票してくれて全く構わない。
どんどん手が伸びる。
どんどん手が伸びる。
食べたら忘れないうちに特徴をメモ。
食べたら忘れないうちに特徴をメモ。
しかし、同じ塩むすびだというのに、見事なまでにどれもこれも違う。

米のもっちり具合、柔らかさ、塩加減…。こんな微妙な食べ物なのに、いや、だからこそなのか。

こんなに違うとは思わなかった。
米の粒が潰れておらずパラリとして、かなり好みだった。握り方がうまいんだろうか。
米の粒が潰れておらずパラリとして、かなり好みだった。握り方がうまいんだろうか。
こちらは若干柔らかめ。もっちりしていて、これもうまい。
こちらは若干柔らかめ。もっちりしていて、これもうまい。
玄米バージョンも。一緒に炊いた昆布が混ざっているが、味がしっかりしてておいしい!
玄米バージョンも。一緒に炊いた昆布が混ざっているが、味がしっかりしてておいしい!
プロの塩むすび。一般家庭であまり使わないパラフィンぽい包装のため、すぐにバレた。
プロの塩むすび。一般家庭であまり使わないパラフィンぽい包装のため、すぐにバレた。
どれも違うが、どれもいい。

固めのも、柔らかめのも、それぞれ違う良さがある。メモ帳には「もっちり。塩あまり感じず」とか「米かため。塩がしっかりしてる」という具合に、主に「塩加減」と「固さ」の感想が並んでいた。

というか、それ以外の感想が出てこなかった。基本どれもおいしいのでケチのつけようがない。これは採点が難しいぞ…。

腹がはちきれそうに

「○番のおにぎり、もう一回食べてみよう」とか「○番の塩加減が絶妙だなぁ」とか、ちょこちょこ食べ比べているうちに、気がつけば胃袋が米でみっちみちになっていた。

米だけで腹が膨れると、ここまで逃れようのない満腹感に襲われるものか。
数口ずつ食べ比べた方のお皿。これくらいの節度で挑むべきだった。
数口ずつ食べ比べた方のお皿。これくらいの節度で挑むべきだった。
もはや何がなんだか分からない状態になりつつある。炭水化物による膨満感は、こうまで人をダメにするのか。というか妙にだるい。頭が回らない。

こうなりゃもう好みの問題だ。だって、どれもおいしいことに変わりはないのだ。

ほぼ第一印象というか、一口目の「!」を重視した採点をして、付箋を該当の皿に貼る。
全員、付箋での投票が完了した模様。
全員、付箋での投票が完了した模様。
みなの評価が下ったようだ。

結果発表

付箋の点数を集計、誰の塩むすびが人気だったのか結果が出た。

ほ、ほほう、なるほど…。
発表するまでの時間が楽しい。主催者特権のひとつ。
発表するまでの時間が楽しい。主催者特権のひとつ。
まずは3位から。

計7点を集めたイラストレーター、ときのりようこさんの塩むすびに決定。
「え?」と意外そうな声を発しながらも手が挙がった
「え?」と意外そうな声を発しながらも手が挙がった
え、本当に? とまだ疑っている。
え、本当に? とまだ疑っている。
いつも握っている通りのおにぎりだそう。
いつも握っている通りのおにぎりだそう。
本人は「だって炊飯器で炊いたし、水も横須賀の水道水だし、塩もスーパーで買った普通のだし…」と戸惑っていたが、実は私が1位に投票したのが、ときのりさんの塩むすびだった。

なんといっても米がすごい。もっちりしていて米粒が長く、その一粒一粒がとてもおいしい。銘柄は「ゆめぴりか」だそうで、炊きたてを少し冷まし、握れるようになってから握ったとのこと。

なんと。「おにぎりは熱々を握るべし」と言われているが、そうとも限らないことが判明した。

続いて2位は、11点を集めたこちらの方。
ご存知、当サイトのライター玉置豊氏。なぜこの顔か。
ご存知、当サイトのライター玉置豊氏。なぜこの顔か。
ピッと角が立った、きれいな三角おにぎりでした。
ピッと角が立った、きれいな三角おにぎりでした。
玉置さんの塩むすびは米の良さもさることながら、塩がくっきりとしてエッジが効いていた。

聞けば、米は「山形のつや姫」で炊飯器炊き、塩はおひつに移したとき全体に混ぜ、握るとき改めて付けたそうだ。本人は「二重塩です」と自慢げであったが、そんな製法があるのか。

確かにおにぎりの塩というのは時間が経つにつれて薄くなっていく。少しきつめに効かせてちょうどいいのかもしれない。

そして栄えある第1位(13点獲得)は、当サイトでライター経験もある土屋遊さんの塩むすびであった。
あまりの喜びようにフレームアウト&ブレ。
あまりの喜びようにフレームアウト&ブレ。
こんなに喜ぶ大人ってあんまりいない。
こんなに喜ぶ大人ってあんまりいない。
まだ喜んでる。
まだ喜んでる。
ただでさえおいしい米に旨味が加わっており、塩も効いていた。
ただでさえおいしい米に旨味が加わっており、塩も効いていた。
この塩むすび、作るのに物凄い労力を要したらしい。

わざわざ魚沼産のこしひかりを取り寄せ、羅臼昆布を浸けた水で一晩おいた米を土鍋で炊いたのだという。しかも昆布で水が茶色くならないよう夜通し監視し続けたというから、この喜びようも頷ける。すごい。というか勝負にかける意気込みが凄すぎる。

そうか。旨味の正体は昆布だったのか。

一瞬「ドーピング疑惑」という言葉が脳裏をかすめたが、まあ細かいことはいい。おいしけりゃいいのだ。
これは私と玉置氏のメモ。本当に僅差だった。
これは私と玉置氏のメモ。本当に僅差だった。
「おいしい」が並ぶ自分のメモ書きの語彙のなさに呆れるが、本当にそう感じたのだから仕方あるまい。

以下、4位以下の塩むすびの概要を聞いた。
4位は西川千栄さん。富山コシヒカリ、鍋炊き。固めのお米もおいしかったが、塩もしっかり効いていてうまい。
4位は西川千栄さん。富山コシヒカリ、鍋炊き。固めのお米もおいしかったが、塩もしっかり効いていてうまい。
5位は米谷マリ絵さんの宮城ササニシキ、ステンレス鍋炊き。とにかく俵型というのが新鮮! 握り方がふんわりと優しかった。
5位は米谷マリ絵さんの宮城ササニシキ、ステンレス鍋炊き。とにかく俵型というのが新鮮! 握り方がふんわりと優しかった。
6位は会場提供者の鈴木陽々さん。米は熊本産の森のくまさんという銘柄だそう。水少なめの炊飯器炊き。固めが私好みだった。
6位は会場提供者の鈴木陽々さん。米は熊本産の森のくまさんという銘柄だそう。水少なめの炊飯器炊き。固めが私好みだった。
同点6位は筆者の京都きぬひかり。塩が薄かった。冷めるとここまで塩っけが感じられないものか…と勉強になりました。
同点6位は筆者の京都きぬひかり。塩が薄かった。冷めるとここまで塩っけが感じられないものか…と勉強になりました。
8位は山口マナビさんの、あきたこまち玄米と昆布の炊飯器炊き。玄米のおにぎりっておいしいんだな…と実感。今度やろう。
8位は山口マナビさんの、あきたこまち玄米と昆布の炊飯器炊き。玄米のおにぎりっておいしいんだな…と実感。今度やろう。
そして9位は某専門店のもの。「プロの」というのがバレたせいか、普通においしかったにも関わらず一票も入らず。
そして9位は某専門店のもの。「プロの」というのがバレたせいか、普通においしかったにも関わらず一票も入らず。
それぞれがおいしいと思った方法で炊き、握ってくれたおにぎりがマズいわけがない。

さらには好みの問題もある。誰かにとっての6位が、他の誰かの1位だったりするのだ。

私には炊飯器と土鍋の違いが分からなかったし、塩も「効いてるか」「効いてないか」でしか判断できなかった。
それもこれも、こうして一度に食べ比べることで分かった違いであり、別々に食べていたら「この塩むすび、すごくおいしい!」で終わる話に違いない。

だからきっと、今のままのおにぎりでいいんだと思う。(よい方向に解釈しました)
上位3名による表彰撮影。おめでとうございます!
上位3名による表彰撮影。おめでとうございます!
それにしても、偶然とはいえ同じ銘柄の米を使った人がいなかったのがすごい。

それぞれにきっちり違いがあって「ブレンド米ってちゃんと意味があるんだなぁ」「どれもうまいんだなぁ」と今さらすぎる感想を持ったくらいだ。

ひとつくらい、標準米を混ぜておいても面白かったかもしれない。次があるなら(あるのか!)参考にしようと思う。

塩むすび、奥が深すぎる

ここまで違いが出るとは思わなかった。つくづく、やってよかった。

そして残った塩むすびであるが、持ち帰って翌日食べた参加者たちの声はいずれも「すごくおいしかった!」であった。あんだけ食べたのに。

さらに「胃袋から胸にかけて米が詰まって苦しかったのに『しばらく米は見たくない』ってならないのがすごい」という感想もあった。

そうなのだ。お米って、どんなに食べても食べ飽きないのが素晴らしい。おにぎりも、また然り。

たぶん死ぬまで食べるし、握り続けるのだろう。自分のも人の分も、どんどん食べていきたい。
競技会のあとの宴会は、胃がパンパンすぎて食べ進まず…。
競技会のあとの宴会は、胃がパンパンすぎて食べ進まず…。
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