チャレンジの日曜日 2014年5月25日
 

書き出し小説大賞・第49回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表、第四十九回目である。

実はこの原稿を書いている本日24日、夕方より「第二回書き出し小説大賞授賞式」が行われる。これも一重に秀作を送り続けてくれる書き出し作家の諸君と、読者のみなさんのおかげである。さて授賞式ではある重大発表が予定されている。式に参加された方にはもう告知済みになっているのだが、その重大発表とは……!

書き出し小説の書籍化決定である!しかも版元は新潮社である!!

いみじくも文芸のいちジャンルを目指し続けていた企画なので、まさに念願叶っての形となった。出版はまだ先のことだが、これを期に一層の精進に努めていきたい。作家のみなさんもよろしくお願いします!
それでは今回もめくるめく書き出しの世界にご案内しよう。

書き出し自由部門

中心のずれた寄せ書きが届いた。
TOKUNAGA
中心がふたつある寄せ書きも。
未読メールが3万件を超えたころ、2年ぶりに電話が鳴った。
Mch
ついに滞納の催促が。
いつでも刺せると考えると、桃子は嘘みたいに人に優しくなった。
小夜子
殺意の抑止力。
女性研究員たちが猥談に興じる会議室の隣で、保温機内のシャーレのひとつが、カタン、と音を立てた。
紀野珍
猥談STOP細胞。
潮の香りに誘われて海へ行くと、巡視船に追われる父を見た。
もんぜん
密漁バレた。
遺書を毎日ちゃんと更新しているのだが、世間ではこれを日記と言うらしい。
未来屋マサル
DIEアリー。
蛇腹のストローがグラスの縁に沿って逃げる。彼女の間抜けに緩んだ朱の楕円が追いかける。
人が生きてる
で、さっきから何周もしてる。
香辛料で発汗する父はまるで妖怪のようであった。
大伴
これは暑苦しい!(笑)
やけくそで歌うヘイジュードが佳境に入って来た辺りでメガたこ焼を持った店員がドアを開けた。
哲ロマ
この大味感がたまらない。
ろくろが止まると、それは柔らかい猿だとわかった。
おかめちゃん
直後、猿が吐いた。
私が帰ると、空気清浄機は露骨に活動を始める。
粉すけ
メカは正直。
自動ドアが開くたびに風が吹き込む。地下一階にある花屋の花が一斉に揺れる。
xissa
スカートもまくって欲しい。
貼った湿布でさむい。居間から三分クッキングの音楽が聞こえる。
xissa
冷えピタも垂れてくる。
店員の目の前でレシートを捨てられる奴等が信じてきたものを壊すため私ハ創ラレタ。
義ん母
カタカナへのモーフィングが秀逸。
不正解だったその街に、二百万個の金盥が降ってきた。
suzukishika
「不正解の街」というイメージが秀逸。
里山で突如の雷雨にあい、古民家で雨宿りしていると、小豆洗いが軒下で茶菓子をもてなしてくれた。
流し目髑髏
お茶うけはおはぎ。
ひとしきりの雨、クローン人間と深いキスをした。宿は、生徒会室だ。
ボーフラ
校長室じゃなくて、よかった。
スティーブ船長が持ち帰った月の鉱石は、良質な絵の具になった。それは夏至の夕暮れの、深い深い青の色に似ていた。
prefab
月に含まれた夜の成分。
熱気に包まれた会場と、スクリーンに映し出される人力車。いったいここはどこだ。
ウウタルレロ
どこだ!(笑)

今回は秀逸なフレーズが目立った。TOKUNAGA氏の「中心のずれた寄せ書き」から起こるもどかしさ。紀野珍氏の「女性研究員たちが猥談に興じる会議室」というウキウキ設定。人が生きている氏の「蛇腹のストロー」なる言い回し。大伴氏の「香辛料で発汗する父」、哲ロマ氏の「メガたこ焼き」におけるインパクト。suzukishika氏の「不正解の街」はそれだけでドラマチックだ。ボーフラ氏の作品は全体が選りすぐったフレーズの集合体にように思える。prefab氏の「月の鉱石」は作品に叙情を生み、ウウタルレロ氏の「スクリーンに映し出される人力車」はこのフレーズが決め手となった。

すでにある単語、言葉でも言い回し、組み合わせで秀逸なフレーズが生まれる。そして秀逸なフレーズはそれだけで作品全体を引き締め、豊かな世界観を獲得する。最初にキラーフレーズありきでうまれる書き出しもある。創作のヒントにして欲しい。

つづいては規定部門、今回のモチーフは「変態」であった。書き出し作家の秘かな愉しみをのぞいて欲しい。

規定部門・モチーフ「変態」

あの娘が出したゴミ袋を漁ると、俺の捨てたゴミが出てきた。
TOKUNAGA
変態ボーイミーツガール。
中は全裸だが、コートはカシミアである。
大伴
股間じゃなくて裏地見て!
木ねじをきつく締め終わった瞬間に、友彦は射精をした。
夏猫
足指ピーン!
学生時代、周りのヤツらがどのアイドルと付き合うかの妄想話で盛り上がってる時、俺はどのアイドルから生まれてくるかを妄想していた。
悠里の父
産道フェチ。
姦という漢字が女子高生3人のピラミッドにみえてきた。
ぐぬぬぬぬ
金八先生に説明して欲しい。
女子トイレから出てきた神様みたいなのが、そのままパトカーに乗せられて行ってしまった。
suzukishika
トイレの神様御用。
日焼け止めを借りた。もう手以上のものをつないだと言っていい。
ウチボリ
分かる。間接キスっぽいけど実質なーんも関係ないんだよね。
夜も明けぬ内から地引き網に潜り込み、今日も魚たちと引きあげられるのをじっと待っている。
g-udon
網タイツより地引網。
スーツフェチをこじらせて、証明写真撮影機の中に住むようになった男の話を知っているかい。
粉すけ
即身仏になって発見された。
サウナの横にある水風呂に肩まで浸かると、足までしか入れない若者のソレが眼前に迫ってくる。つまりそういうことだ。
不眠
はい女子のみなさん!想像して!
羽子板に負けて墨を塗られた感触を、紗知子は化粧のたびに思い出す。
ウチボリ
正月羞恥プレイ。
一生涯巡り合う事の無い人々が、それぞれの理由で縛られている。
TOKUNAGA
料金まで払って。
彼のPCの履歴は、すべて「セーラー服 火縄銃」というワードで埋め尽くされていた。
m_k
火縄銃を構えた薬師丸ひろ子の画像がヒット。
エンタメの1。震える声でそう告げた。彼の、厳しい、クイズ責めが始まった。
アイアイ
ミリオネアのみのもんたっぽく。
「レンガにパンティーがはかされていたのよ!」と隣人のおばちゃんと母が鼻息荒く立話。それは、強風で公営団地から飛んできた洗濯物を親切なつもりでレンガで留めたといいだせない、九歳の春の出来事だった。
ロシアンダイバー
最初の台詞が秀逸!
あとちょっとのところで使い切れたローションは、僕の癖よりももっと他のことを嘲笑っているようだった。
箱囲
詰め替え用お得ローション欲しい。
画面が割れたままのスマホを操る女。その指先を横目で眺めつつ、俺はうなじが痺れるような興奮を自覚していた。
紀野珍
変態ハードボイルド。
3Dプリンタで作成した自身の局部を、自身の肛門へ突き刺した。
ぐぬぬぬぬ
THE・自己完結。
私はボーイの話を遮って、黄金と聖水の部分に丸をつけた。
坂口川端糸井
こちらでお召し上がりですか?お持ち帰りですか?
私の言うメスブタとは、容姿の醜悪な女性ではなく、然るべき器を持った豚そのもののことである。
全角空白
なにこの威厳(笑)
ごっことプレイを一緒にしないで頂きたい。
おかめちゃん
鬼プレイ。放置ごっこ。
我慢できなくなった私は、ついにドライバーの白手袋を裏返した。
ウチボリ
皮剥の本能が!
青空の下、全裸で開脚前転を決めたその瞬間、双眼鏡を手にした女装の大男が、向かいのビル屋上にいるのが見えた。目が合った。
松田
なんておおらかな変態。
最新の免震システムが作動する様子はどことなく女が腰をグラインドさせる様子を連想させた。
HSKN
肝心の免震部分にモザイクが。
花売りの少女の背後に忍び寄り、めしべだけを素早く千切ると石畳を駆け抜けた。
義ん母
通り魔的変態。
「あれはどうでしょう?」「いやまだまだ青い」僕が指差したサドルには目もくれず、師匠は突き出した鼻をクンクン鳴らしながら、自転車の群れの中を先へ先へと進んで行った。
よしおう
そして師匠は銀輪の海へ消えていった。
畳の縁の隙間で蠢いているダニの、八本ある足まで今朝ははっきり見える。全身にかかる重力が俺だけ数倍になったかのように、畳に足の裏がズブズブとめり込んで行く。
CUBE
なんか、もう変態こじらせすぎ。
最も変態である事は、全てにおいて平均的である事だ。
流し目髑髏
たしかにそう思う。

あらためて変態の豊かな感受性と、偏った感性を確認させられた。
冒頭のTOKUNAGA氏の作品は、モチーフにとらわれない完成度があった。夏猫氏の作品は、オーガズムに達した主人公の表情が目に浮かぶ。ぐぬぬぬぬ氏の作品、淫猥な字体にこんなかわいい解釈があったとは。ぐぬぬぬぬ氏とウチボリ氏、あとはTOKUNAGA氏も採用二作、完全変態認定である。不眠氏のビジュアルインパクトは強烈。読みながら思わず顔をそむけた一作だ。
全角空白氏、おかめちゃん氏の作品に見られるなぜか上から目線の口調。開き直りとも言えない、自信に満ちた堂々たる断定。変態諸氏にとっては心強い精神と言えるのではないだろうか。松田氏の作品も変態のじめっとした印象をひっくり返すおおらかな作品。これまでの変態観を大きく変える作品が集まった。各作家の性を尊重し、いつもより大量に採用することになった。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ「父」
父の日も近いのでこのモチーフとした。ちなみに「母」をすでにモチーフとして出している。
心理学の世界では「エディプス・コンプレックス」と言い、父の存在は初期の人格形成に大きく影響するそうである。神話、伝説に父をモチーフにしたものが多いのもこのためとも言われている。ただこれは特に西洋に顕著な考えのようにも思う。日本はどちらかというと母なるものが神話の中心におり、父の印象は薄いような気がする。現代でもなぜか父というと、哀しいものの象徴としてとらえられうことが多い。哀愁に満ちた作品が集まりそうな気がする。もちろん力強い父、怖ろしい父、かわいい父でもいい。お父さん、父ちゃん、オヤジ、父親、父上、家長、どの呼び方を選ぶかで世界もガラリと変わる。現代ではいまひとつ存在感の薄いお父さんに、とびきりの居場所を与えて欲しい。
締め切りは6月13日、発表は15日を予定している。下記の投稿フォームから自由、規定いづれかを選んで応募して欲しい。力作待ってます!
最終選考通過者

akila89/Mch/うにねこ/ゴロ/うをりんぐ/らい麦。/松っこ/大和芋/デボン人/峰岡スプリング/のぷぴろ/イセグチ/さいあきら/アイト/fifty/ひゃくえんライター/新品の畳/きうゆだわ/もみおかんで/タカラ/TL125/Mch/リルハニドー/ねもっ血風邪くん/
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