特集 2014年6月3日

食品サンプルが手芸作品の店

食品サンプルが手作りの手芸作品という店があったのです。すごいよ。
食品サンプルが手作りの手芸作品という店があったのです。すごいよ。
富山県を旅行中、さて昼飯でも食べに行こうかとなったときに、その地に住んでいる友人が、「サンプルがおもしろい店があるからそこにしよう」というので、何気なくいった店が想像の遥か斜め上を行くおもしろさだった。

ショーケースに置かれたフルーツパフェのサンプルを見て大笑いしたのは、生まれて初めての経験である。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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食堂のサンプルが手作りの手芸作品に笑う

友人に連れられてやってきたのは、富山県氷見市にある、食事処よしだや。

商店街の中程にある、地元の人達が御用達にしているようなお店なのだが、ここの食品サンプルがおもしろいらしい。

おもしろい食品サンプルってどんなだ。古くからやっている店でたまにある、色あせてしまって実物から離れてしまったタイプのやつだろうか。
手前には一押しらしい商品が写真で張られている。問題は奥にあるショーケースの中だ
手前には一押しらしい商品が写真で張られている。問題は奥にあるショーケースの中だ
ドキドキしながらショーケースを見てみるが、普通にきれいな食品サンプルが並んでいるだけのようだ。

想像していたものとは全然違う。おもしろ要素はどこなんだい?
あれ、普通だよね。
あれ、普通だよね。
しかし、近づいてみると、なにか違和感を感じる。

なにかがおかしい。
よく見る食品サンプルと、なんだか質感が違うような。
よく見る食品サンプルと、なんだか質感が違うような。
その正体に気づいて、思わず笑い出してしまった。

全部のサンプルが、味わい深い手芸でできているのだ。

まさかのフェルト。フェルトというフェイントである。そうきたか。
サラダカツ丼ってなんだよっていう疑問以上に湧き上がる、なんでフェルトなんだよという疑問。
サラダカツ丼ってなんだよっていう疑問以上に湧き上がる、なんでフェルトなんだよという疑問。

じっくりと見学してみよう

これはじっくり見なければと、お店の方に断わって、ショーケースのガラス扉を開けさせていただく。
ガラガラガラ。この距離だと普通の食品サンプルに見えるでしょ。
ガラガラガラ。この距離だと普通の食品サンプルに見えるでしょ。
顔を近づけてアップで見ると、一つ一つの食品サンプルの芸の細かさがよくわかる。

最初はなんで食品サンプルが手芸なんだよと思ったのだが、見ているうちにだんだんと、食品サンプル手芸というジャンルが存在してもいいじゃないかと、応援したい気持ちになってきた。

さすがにフェルトや毛糸では再現しづらい料理のもあるようで、それが逆にこれの実物はどんなだろうと、想像する楽しみを与えてくれる。もう私にはこのサンプルに対して、肯定的な考えしか浮かばない。
これは食品サンプル手芸の玉手箱やー(彦麻呂風に)。
これは食品サンプル手芸の玉手箱やー(彦麻呂風に)。
左のは落雁ではなく大きさ的にご飯なのかな。ウドンの上に乗っているのは、ナルトではなく富山名物の巻きカマボコと推測。
左のは落雁ではなく大きさ的にご飯なのかな。ウドンの上に乗っているのは、ナルトではなく富山名物の巻きカマボコと推測。
全体的にかわいいエビフライ定食。特にポテトサラダが絶妙。
全体的にかわいいエビフライ定食。特にポテトサラダが絶妙。
一瞬オムレツかと思ったけれど、よく見たらロースカツだった。エビフライと衣の素材が一緒のところにリアリティを感じる。
一瞬オムレツかと思ったけれど、よく見たらロースカツだった。エビフライと衣の素材が一緒のところにリアリティを感じる。
煮タマゴかチャーシューか迷うところだけれど、たぶんチャーシュー。ナルトっぽいのは巻きカマボコだと、うどん定食で学習済みだぜ!
煮タマゴかチャーシューか迷うところだけれど、たぶんチャーシュー。ナルトっぽいのは巻きカマボコだと、うどん定食で学習済みだぜ!
オリジナル商品となると、ここから実物を想像するしかない。肉団子じゃなくて魚のすり身なのか。
オリジナル商品となると、ここから実物を想像するしかない。肉団子じゃなくて魚のすり身なのか。
すべての材料までハッキリとわかるナポリタン。麺類と食品サンプル手芸の相性はバッチリだ。
すべての材料までハッキリとわかるナポリタン。麺類と食品サンプル手芸の相性はバッチリだ。
タコの足の数が8本だが、ソーセージを八分割するのは至難の業。実際の料理に合わせるのではなく、うっかり本物のタコに合わせたのではと妄想が膨らむ。
タコの足の数が8本だが、ソーセージを八分割するのは至難の業。実際の料理に合わせるのではなく、うっかり本物のタコに合わせたのではと妄想が膨らむ。
見る側のイマジネーションを刺激する表現力!料理名がないと、ぜんぜんわからない!
見る側のイマジネーションを刺激する表現力!料理名がないと、ぜんぜんわからない!
おままごとセットのようなお弁当。ウサギのリンゴがチャームポイントだな。
おままごとセットのようなお弁当。ウサギのリンゴがチャームポイントだな。
あぁ、素晴らしき哉、食品サンプル手芸の世界。

店側もうっかり張り紙で、料理ではなく食品サンプルの宣伝をしてしまっている。なかなかの本末転倒っぷりだ。
手作り料理の宣伝かと思ったら、サンプルの告知!その気持ちはよくわかる!見てほしいよね!
手作り料理の宣伝かと思ったら、サンプルの告知!その気持ちはよくわかる!見てほしいよね!

これを作った人に話を聞いてみました

うっかりショーケースの前でだいぶ時間を使ってしまった。

もちろん食品サンプルを見ながら注文する料理を迷ったのではなく、食品サンプルそのものを楽しんでしまったのだ。

サンプルを前にして、何を食べようかという発想は、まったく沸いてこなかった。
ようやく入店しました。
ようやく入店しました。
この店を案内してくれた友人が、あの食品サンプルを作った人と知り合いだというので、ちょっと話を伺わせていただいた。

あれを作ったのは、この店の厨房で20年以上働いている三浦さん。キッチンからショーケースまで、守備範囲が幅広い。
「食後にコーヒーを頼むなら、ドリンクバーがお得ですよ!」
「食後にコーヒーを頼むなら、ドリンクバーがお得ですよ!」
この食品サンプルが登場したのは1年前だそうで、それまで使っていたものが古くなって汚れてきてしまったので、孫のオモチャにとフェルトでドーナツなどを作っていた三浦さんが、では私がやってみましょうと作り始めたのだそうだ。

複雑な立体成型は、使っていた食品サンプルから型紙を作って再現したそうだ。すごいすごいすごい。

あの独特の温かみは、創作の原点が「孫のため」だからなのか。そして三浦さんの趣味が手芸ではなくプラモデルだったら、あそこにはプラモデルの食品サンプルが並んでいたかもしれないのだ!
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二階に行ったらまたあった

食品サンプル手芸の誕生秘話が制作者本人から聞けた訳だが、話はこれで終わらない。

一階の席が埋まっていたので、2階で昼食を食べようと階段を上がったら、なんとそこにも食品サンプルがあったのである。

もちろん三浦さんの手芸作品だ!
まさかあれは!
まさかあれは!
やっぱり食品サンプル手芸!
やっぱり食品サンプル手芸!
2階のショーケースにも張り紙がしてあったのだが、こっちもやっぱり食品サンプルの宣伝だった。

「『○○』はすべて手作りの『○○』でできています。」と書かれていれば、食堂なので普通だったら、『餃子』と『皮』とか、『味噌汁』と『味噌』とかである。それが『サンプル』と『フェルト』だ。もちろんサンプル自体は売り物ではない。

料理のことは置いておいても、とりあえずサンプルの「あたたかさを味わってください」と書かれているのである。店主側の気に入りっぷりもすごい。
手作りのあたたかさ、味わわせていただきます!
手作りのあたたかさ、味わわせていただきます!
カツの断面が美しいカツ丼。
カツの断面が美しいカツ丼。
かわいい要素満載のパフェ。
かわいい要素満載のパフェ。
キウイの細かさも素敵だが、なんといってもメロンの皮の模様をめでるべきだろう。
キウイの細かさも素敵だが、なんといってもメロンの皮の模様をめでるべきだろう。
謎のエビうどんグラタン。マカロニの代わりがうどんに務まるのなら、食品サンプルが手芸でもいいじゃないという意思表示か!
謎のエビうどんグラタン。マカロニの代わりがうどんに務まるのなら、食品サンプルが手芸でもいいじゃないという意思表示か!
なんだかまったくわからないが、「これください!」と言ってみたい。
なんだかまったくわからないが、「これください!」と言ってみたい。
初孫のための手作り雛人形みたいに飾られたオムライス。2階のショーケースは少しだけ三浦さんの自由度が高いようだ。
初孫のための手作り雛人形みたいに飾られたオムライス。2階のショーケースは少しだけ三浦さんの自由度が高いようだ。
ご飯の表現に苦労している感がある天丼。
ご飯の表現に苦労している感がある天丼。
一つだけロウでできたサンプルがあったが、どうも素人の作っぽい。料理名が書かれていなかったので、こんなのも試してみたよという事だろうか。その結果、やっぱり三浦さんの手芸だよねと社内会議でなったのだ!と、勝手に深読み。
一つだけロウでできたサンプルがあったが、どうも素人の作っぽい。料理名が書かれていなかったので、こんなのも試してみたよという事だろうか。その結果、やっぱり三浦さんの手芸だよねと社内会議でなったのだ!と、勝手に深読み。
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実物とサンプルを比べてみよう

さて私はこの店に何をしに来たのかというと、食品サンプルを見に来たわけではなく、お昼ごはんを食べに来たのだった。いい加減お腹が空いた。

席には写真満載のメニューが用意されており、ショーケースのサンプルではわからなかった情報を補てんすることができる。

ならばショーケースの中身も写真でよかったのではという意見もあるかもしれないが、せっかく奥行きのある空間なのだから、やはりなんらかの立体物を置きたかったのだろう。
サンプルにはなかったけれど、どうやらカレー押しのようである。
サンプルにはなかったけれど、どうやらカレー押しのようである。
せっかく料理を頼むのだから、ここはサンプルからイメージしにくいものをチョイスすることにした。

私が注文したのは、サラダカツ丼である。イマダカツテナイ丼、サラダカツ丼だ。
これがサンプル。サラダの上にトンカツを乗せたものだろうか。
これがサンプル。サラダの上にトンカツを乗せたものだろうか。
メニュー表を見ても、これが写真なのによくわからない。

補足された文字を読んでようやくわかるのだが、どうやらご飯の上にサラダとカツが乗っているらしいが、うまいのかこれは。
三浦さんの料理の腕を信じて(三浦さんが作っているのかは知らないが)、あえてこれを頼みます。
三浦さんの料理の腕を信じて(三浦さんが作っているのかは知らないが)、あえてこれを頼みます。

これがサラダカツ丼の正体だ!

しばらくして出てきた料理は、沖縄のタコライス的なカツ丼だった。確かにこれはサラダカツ丼だ。

このサラダカツ丼の明るい感じは、メニュー表の写真よりも、サンプルの方が近いかもしれない。

どうだ、写実よりも抽象の方が、真実の姿が伝わることがあるのだよと、誰に向けてだかわからないが、なんとなく誇ってみたくなった。
ドミグラスソースがたっぷりで、超うまかった。
ドミグラスソースがたっぷりで、超うまかった。
鉢に入った味噌汁がついていたのだが、その具がフグで驚いた。
鉢に入った味噌汁がついていたのだが、その具がフグで驚いた。
これまた味わい深かったドリンクバー。
これまた味わい深かったドリンクバー。
その帰り道、「ここのサンプルもすごいよ!」と教えてもらった近くの店。ここも実物と比べてみたい。
その帰り道、「ここのサンプルもすごいよ!」と教えてもらった近くの店。ここも実物と比べてみたい。

実用目的から生まれた新しい個性

三浦さんの食品サンプル手芸作品は、特にアートとかカルチャー的なものを狙っていない感じが新鮮だった。あくまでお客さんに料理の内容を伝える実用品としての手芸作品であり、やれる技術(孫のオモチャ作り)でやれるだけのことをやった結果、いつのまにかサンプル自体に価値が生まれているのだ。

これらの食品サンプルを使って、自由に組み合わせて自分の好きな定食とかお弁当をつくってみたい。でもそれって、三浦さんの孫がやっているであろう、おままごと遊びそのものですね。
食品サンプルじゃないけれど、このシャッターも気になった。絶対似ている似顔絵。
食品サンプルじゃないけれど、このシャッターも気になった。絶対似ている似顔絵。

食事処よしだや
富山県氷見市中央町9-7
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