はっけんの水曜日 2014年7月2日
 

中銀カプセルタワーお宅拝見

メタボリズム建築の中に入った
メタボリズム建築の中に入った
洗濯乾燥機をてきとうにつみあげたようなふしぎな形のビルが、銀座と汐留のちょうど境目のあたりにある。

この万博のパビリオンみたいなビル、実は現役のマンションだ。

「中銀(なかぎん)カプセルタワー」というビルなのだが、建築分野では超有名な建物で、設計者はあの黒川紀章。

このたび、中をちょっとだけ見せてもらえることになった。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。
> 個人サイト 新ニホンケミカル TwitterID:tokyo26

全景が撮りにくい

おとなしい感じのビルが立ち並ぶ新橋、銀座周辺にあっては、その奇抜なデザインはひときわ目を引く。
つくづく、へんなかたちのビルだ
つくづく、へんなかたちのビルだ
このビル、目の前に高速道路、周りは同じぐらいの高さの建物に囲まれているため、かっこいい全景を撮影するのがとても難しい。
近づくとデカすぎてカメラにおさめにくい
近づくとデカすぎてカメラにおさめにくい
一緒に取材にきてくれたライターのきだてさんが、カメラマンに徹し、様々な角度から色々と写真を撮ってくれたので、なんとかその形の奇妙さを感じていただくことができるかと思う。

メタボリズム建築の代表作

この奇抜な形のマンション、1960年代に提唱された「メタボリズム」という建築運動のもと、黒川紀章が設計して建てられたマンションだ。

洗濯乾燥機のようなユニット一つ一つがマンションの部屋となっていて、その部屋のユニットは一つづつ取り外しできるようになっており、老朽化したり古くなった場合は、ユニットごと新しいものにとりかえることができる。

ヒトの体のように常に新陳代謝(メタボリズム)していく建築、これがすなわち「メタボリズム」ということらしい。
濁点や半濁点の脱落がその年季を伺わせる
濁点や半濁点の脱落がその年季を伺わせる
1972年に竣工した建物なので、すでに40年以上経っているのでかなりのビンテージビルである。

建築に関しては全くの無知で素人なので、メタボリズム云々についてはボロが出ないうちに切り上げることにして、さっそく部屋の中を見せてもらうことにしたい。

家賃月6万円

部屋を見せてくれたのは、都内の会社に勤務するPさん。
ベッドに腰掛けてもらった
ベッドに腰掛けてもらった
Pさんは取材時のちょうど一年前にこの部屋を借りたという。
おーこれが、あのカプセルの中!
おーこれが、あのカプセルの中!
大きな丸窓から外光がたっぷりふりそそぎ、部屋の白さが引き立って、おしゃれすぎて鳥肌たちそう。

部屋は、いわゆるユニットバス付きのビジネスホテルの狭めの部屋のような作りになっている。

ドアを開けると、左手にシャワーと水洗トイレのついたユニットバス、そしてベッドがひとつ。
ユニットバスのドアが独特の形状で特注品
ユニットバスのドアが独特の形状で特注品
中は普通のユニットバスだ
中は普通のユニットバスだ
――このベッドは備え付けですか?
「いや、これは自分で買ったんです、さいしょ無印でベッドを買ったんですけど、そのベッドの長さが2010ミリで、部屋の幅より7ミリオーバーしててベッドが入らなかったんです」

――7ミリですか……既成品のベッドだと、大きさがあわないんだ。
「そうなんです、だから返品して、ネットで部屋の幅にピッタリのベッドを一生懸命探して買いましたよ」
最初に買ったベッドは返品した
最初に買ったベッドは返品した
買い替えたベッドが来るまで、友人を招いて酒盛りしたりしてたらしい。完全に秘密基地である。小学生男児永遠のあこがれ秘密基地。あぁ、うらやましい!

しかしこの秘密基地……じゃなくてマンション。一体どういった経緯で借りることになったのか?

――この物件は不動産屋で見つけたんですか?
「そうですね、検索するとけっこう出てくるらしいんですが、ただ人気はあるらしくて、ぼくの後に2人待ってるよっていわれました」

――待ってる人いるんですね……ちなみに家賃は?
「だいたい6万円ぐらいですね、これだけ状態のいいのはなかなか出ないよっていわれました」

――状態がいいのわるいのって、なんか古本みたいですね。
「カプセルが古くなると、雨漏りするんですよ、で、長い間放置されてた部屋なんかは雨漏りした水で床のカーペットが土になってたり、そんなことがあるらしいです」
カーペットが土になっている!(写真提供:中銀カプセルリノベーション)
カーペットが土になっている!(写真提供:中銀カプセルリノベーション
老朽化したカプセルは、メタボリズムの精神にのっとり、もちろん取り替えているのでは? と思ったが、このカプセル自体を交換したっていう例は今までないらしい。

取り替えるとなるとカプセル自体を新しく作りなおす。ということになるからお金がかかる。修繕して使い続けるほうが安上がりなのだ。

「そういった老朽化したカプセルを買い取って、リノベーションして賃貸に出している人たちもいるんです」
老朽化したカプセルも……(写真提供:中銀カプセルリノベーション)
老朽化したカプセルも……(写真提供:中銀カプセルリノベーション
補修されて……(写真提供:中銀カプセルリノベーション)
補修されて……(写真提供:中銀カプセルリノベーション
こんなにきれいに! (写真提供:中銀カプセルリノベーション)
こんなにきれいに! (写真提供:中銀カプセルリノベーション
――なるほど、じゃあ全部畳敷きにして和室みたいにもできるんですか?
「あ、そうしてる人も実際いますし、ぼくも最初、畳を敷いて和室にしたかったんです。現代の待庵(千利休作の茶室)みたいにしたいって、でも畳高いんですよ……玉砂利敷いてやりたかったなー」
畳敷きにするとこんな感じに……(写真提供:中銀カプセルリノベーション)
畳敷きにするとこんな感じに……(写真提供:中銀カプセルリノベーション
――でも、分譲で買うとなると大変ですよね……。
「この前きいた話だと、このカプセル、分譲として購入する場合は相場がだいたい400万前後らしいですよ」

よん、ひゃく、まん……がんばれば出せない金額ではない。リノベーションなどに200万ぐらいかかると見積もって600万。

人気の物件だから月6万で貸しても8年ちょっとで元がとれる……ぼくときだてさんがゴクリと息を呑む。

給湯は、出ません

なにしろ、築40年以上の物件なので、外観は見た目の新奇さにくらべ、近づいてみるといろいろと年季の入っている感じはみてとれる。
カプセルの下部を近寄って眺めるとこんな感じ
カプセルの下部を近寄って眺めるとこんな感じ
完成当時、各カプセルには最新鋭の電話やオーディオ機器などが備え付けで装備されていた。(入居時にオプションとしてつけることができたらしい)
浦和の埼玉県立近代美術館に展示してあるカプセルの中
浦和の埼玉県立近代美術館に展示してあるカプセルの中
現在、それらの機器が取り付けられていた場所は、収納などとして使用されている。Pさんの部屋もそうだ。
現在のようす
現在のようす
――さすがにもう、オープンリールのオーディオは使わないですもんね……でも、時計は当時のままですか?
「そうです、時計は当時のままです。ただ、動いてないです」

――作りは完全にビジネスホテルみたいですね。ユニットバスの配置なんかもう完全にホテルですよ。
「ただ、給湯システムが壊れてて、シャワーが水しか出ないんですよ」
水しかでないシャワー
水しかでないシャワー
――え! じゃあ、シャワーはどうするんですか?
「マンションの下に共同のシャワー室があるんです。でも、そこ12時までなんで、残業で遅くなったときは使えなくて使い勝手があんまりよくないんですよ」

――水しか出ないってのは確かに辛いですね
「丸窓も二重窓になってるんですけど、外側の窓は開かないですし」
二重窓で外側の窓は開かない
二重窓で外側の窓は開かない
――開かないんですか? 夏場とか暑いんじゃないですか?
「いやもう、夏はめっちゃ暑いですよ! 構造的にカプセルの上下に鉄板が入ってて、部屋を支えるようになってるんですけど、鉄板が熱されて暑くなるんです……といっても、普通の住宅の熱さぐらいではあるんですけど」

――エアコンは必須ですか
「必須ですね、エアコンだけは最新型買いましたから」

――そうすると、冬場も?
「冬は寒いです。ヒーターがないとだめですね」

夏暑く、冬寒い、京都盆地の気候みたいなマンションだ。

ただ、冷暖房はエアコンやヒーターがあればそんなに苦にはならないらしい。

住民同士の交流がさかん

――事務所やセカンドハウスみたいな形ではなくて、ここに実際に住んでるって人ってどれぐらいいるんでしょう?
「全体で144戸あるんですけど、そのうち20〜30世帯は実際に住んでるんじゃないかな?」

――けっこういますね。
「もう、ここに住むことを選んだひとたちですからね、気合が違いますよ、外国人留学生のカップルとか、いろんな工夫をして住んでますよ、バスタブに電熱ヒーター入れてお湯沸かして入ってたり……」

ただ、これらの様々な不便を乗り越えるほどのメリットがこのマンションにはある。

黒川紀章作のメタボリズム建築の代表作に住んでるという事実は、建築がすきな人たちにとってはたまらない勲章だ。

――こういった建物に住んでたってのは代え難い経験になりますね。
「そうですね。このマンションに住んでる人は、この建物が好きで住んでる人ばかりですから、しぜんと横のつながりもできて、飲み会とかあるんです」

飲み会! うらやましい。自治会とかそういう大仰な感じのものじゃなくて、マンションの住人同士で飲み会開けるみたいな横のつながりってなかなかない。

「数年前に一度取り壊して新しいマンションを建設するっていう話にはなったんですが、いろいろあって、今はその計画は白紙になってるんです。今後、どうなるかはわかりませんが……」

カプセルホテルやビジネスホテルのデザインに大きな影響を与えたと言われる「中銀カプセルタワー」老朽化に関してはとても厳しい状況であるのはわかるが、なんとか保存されて行くことを願いたい。

愛されるマンシオン

カプセルごとの新陳代謝は当初の思わくどおりには行かなかったものの、中に入ってる住人によって少しづつ補修されながら、給湯が壊れても、夏暑くて冬寒くても、どんなに老朽化しても、それでも住んでる人がたくさんいる。

住人にこれほど愛されているマンションってそうそうないのではないか?
 1階玄関に貼ってあった注意書きの張り紙、「マンシオン」という綴り方もシビれるが「ホテルではありません」の一文もすごい。確かに勘違いしそう。
1階玄関に貼ってあった注意書きの張り紙、「マンシオン」という綴り方もシビれるが「ホテルではありません」の一文もすごい。確かに勘違いしそう。
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