チャレンジの日曜日 2014年8月24日
 

書き出し小説大賞・第55回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。

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書き出し小説秀作発表第五十五回目である。

タイの代理母出産のニュースが気になっている。なんでも日本人の資産家が代理母をつかって16人もの子をつくったらしい。さらに驚くべきことに彼は今後100〜1000人の子供をもうける計画だという。法的、倫理的な問題については分からないがまずこのニュースを知り抱いた感想は「魚かっ!」だった。とりあえず生まれた子には元気に育って欲しい。それでは今回もめくるめく書き出しの世界を見ていこう。

書き出し自由部門

自ら発光する禿頭は無い。
TOKUNAGA
月と同じく。
こぼれたスパンコールをたどって、母にたどりつく。
xissa
母はウロコのない魚に似ていた。
僕は昨日、世界で一番長い嘘をついた。
ロケッ子
「嘘」の内容に想像が膨らむ。
長い夏休みだった。このクラスで信仰を持っていなかったのは、私だけだった。
ババア伝説
二学期初日、自分以外全員カルト教団の衣装を。
あのね、これ、フランクフルトの苗木。目の前の男がそっと串を差し出した。この光景、いつかどこかで。
こめどころ
デジャブ落ちも効いている。
夏の風は、添い飽きた夫婦のように纏わりついてきた。
うにねこ
倦怠夜。
ベンチに置いた魔法瓶だけがいつも僕の練習を見守ってくれる。
流し目髑髏
卒業までに告白しようと思う。
カップル4組が狭いエレベーターの四隅を取り、私はその中央で盆踊りのイメージトレーニングをしていた。
ウウタルレロ
心の和太鼓を鳴らせ。
卒業アルバムの私は一度、牛が咀嚼したような顔で枠の中に納まっていた。
義ん母
思い出を反芻する。
排気ダクトに揺れる風鈴に、芳子の夢は膨らみすぎるほど膨らんだ。
ボーフラ
夢のヒートアイランド。
忠さんが折り紙を完成させるたびに、容疑者が追い詰められていく。
もんぜん
あと2羽で千羽。
この土地に来て、夜の空の色をよく確めるようになった。
もんぜん
星ではなく夜空の色としたところがいい。
前を行く女性のワンピースに止まった青い蝶が、その花柄を完璧なものにした。
おかめちゃん
蛾じゃなくてよかった。
ガードマンは、命がけで守った金庫の中身が小学生の上履きだということを知らない。
Mch
真っ黒に汚れた片っぽだけ。
人の赤子は猿に似て、老後はますます猿に似て。
大伴
仕事はもちろんプロゴルファー。
ペンギンガールは、息切れしながらケチャップみたいな足音でカンガルーの目の前に急いだ。
ミルメーク
ケチャップみたいな足音が秀逸。
「え?これ蟹工船?」蟹は一旦、ハサミを休めた。
茂具田
かに道楽のときも同じ気分になった。
濡れ髪を漫然と弄っていると、三年前から居着いてしまったガマガエルが静かに鳴いた。
ガマガエル、家の中なんだという驚き。

これまで折に触れ「書き出し小説とはなにか?」という定義について考えて来たが、毎回斬新な作品に出会うたび暫定的な定義は覆され、拡張され、変更を余儀なくされる。最近では「書き出し小説とはなにか?」という問いそのものが、そのやわらかな定義になっているようにさえ思う。ここに集まる作品はすべてが正解であって正解ではない。そこが書き出し小説をつくっていて、また選んでいて飽きない理由だと思う。今回も面白い「不=正解」が集まった。

続いて規定部門、今回のモチーフは歴史人名(国内編)でした。教科書にのらない仰天エピソードをご覧ください。

規定部門 モチーフ「歴史人名(国内編)」

秀吉は売り物の草履をそっと懐へしのばせた。
TOKUNAGA
お城に連絡だけはやめて!
風呂から上がると着物とエレキテルが盗まれていた。
TOKUNAGA
盗んではみたけどこの針金出てる箱はなんだ?
海水を桶に入れて水が蒸発するのを待つ間、謙信は信玄の喜ぶ顔をずっと想像していた。
もんぜん
汗で出来た塩もこっそり混ぜた。
ザビエルはまず先に河童と神は無関係である事から説明を始めた。
えむ毛
布教は土着信仰との戦い。
カメラのシャッターが切られる寸前、ふんどしがずり落ちそうになった。龍馬は着物の懐に右手を入れて腰のひもをつかんだ。
百万円ライター
懐に手を入れてた理由が明らかに!
初めてのキャラメルフラペチーノに、利休の心は震えた。
Mch
しかもラテアートって!
ちらつき始めたラストエンペラーの称号は、劣等感の塊だった慶喜にとって目眩がするほど魅力的だった。
Mch
棚からエンペラー。
もう米のことなどどうでもいい平八郎だった。
g-udon
大切なのはグルーヴ。
柱に縛られた雪舟にそっと近寄ると、足の指を筆代りに涙で「SOS」と描かれてあった。
g-udon
口にはSMの猿ぐつわが。
シンコキンってどこの筋肉っすか? 後鳥羽上皇はしずかに眼を伏せる。
xissa
ワカシュウ?若い衆のことっすか?
上の空で聞き返したら10人の話を聞いていたことになっていた。
ウチボリ
結果レジェンド。
姉さん、起きて、民だよ。姉さん。卑弥呼姉さん!
suzukishika
あと甲羅も割っといたから!姉さん!
「これより夜の刀狩を始める」そう言った秀吉公は、やや乱暴に拙者の帯に手をかけてきた。
おかめちゃん
その前に夜の太閤検地も。
最澄のところから遣わされた僧、泰範といったか、彼の菊門は素晴らしかった。
うみほたる
最長、泰範、空海は最高のBL三角設定。
縁側にて慶喜が串にこびりついた団子の名残りを齧っている内に、大政はすうっと奉還された。
義ん母
見逃したからもう一回奉還して。
「聖徳太子」サインが地味と言われ、「聖」の後に星を入れた。
ぴすとる
セイント摂政
ホトトギスが鳴いている。いや、本当は泣いているのだろうか。官兵衛には、それは、どちらとも違う音色に聴こえていた。
ゆっきん
もう構わないで!(byホトトギス)
「そもとおりっ!」宣長先生はよっぽど気に入ったのか最近このフレーズばっかりだ。
g-udon
おやじギャグは一種のバワハラ。
思ったより「愛」が大き過ぎて、鴨居に勢いよく頭をぶつけた。
g-udon
顎ヒモもずれてアイーンみたいになった。
負けたのは、やせ蛙の方だった。一茶は悔しそうに、寛永通宝を投げて寄越した。
雨河童
ドーピングまでしたのに。
新しい顕微鏡を覗く野口先生が興奮気味に私を呼んだ。今度は消しゴムの断面である。
TOKUNAGA
いまは万華鏡ブームらしい。
波打ち際を駆けるカップルの、男の方は伊能忠敬。
ファームかずと
恋と測量の両立。
秀頼公は、九州へ落ち延びた。薩摩の荒寺で、蟇蛙の供養をする狂僧に変装したのである。
ボーフラ
ちょっと山田風太郎的な妖しさも漂う偽史。
ギギギギギ……。正岡子規が遂に右を向いた。
ハザマ
アホすぎる。(笑)

今回は元ネタありのモチーフなので、それをどう料理するかが腕の見せ所であった。さすがに熟練の書き出し作家陣だけあり絶妙のヒネりで歴史の捏造、改竄に成功している。

TOKUNAGA氏、誰もが知ってる秀吉エピソードを最小の力でひっくり返した名人芸。もんぜん氏、おかめちゃん氏、うみほたる氏、やはり歴史ものはBLと相性がいい。どれもいい出来。えむ毛氏、ザビエルの髪型と引っ掛けつつ布教のリアリティまで描いた秀作。百万円ライター氏の作品はもうこれを読むとこれ以外の理由が思いつかない。g-udon氏はネタの切れ味で大量採用。Mch氏、義ん母氏はともに慶喜ネタ。個性的作家のふたりが同じ人物を選んだのが興味深い。ボーフラ氏、この妖しさで続く長編が読みたい。ハザマ氏、幼稚過ぎる!(笑)近いうちに海外編も募集したくなる楽しい選考だった。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「音楽」
今回のテーマは広い。音楽に関するものを挙げるだけで、楽器、楽曲、作曲家、歌手、演奏者、演奏会……といくらでもある。またひと口に音楽といってもそのジャンルはさまざま。クラシックから民族音楽まで。ふと耳に流れてきた音楽。心の中で鳴る音楽。文章自体に音楽を感じるものであってもいい。ポイントは作品の中でいかにその音楽を響かせるかになるだろう。ただ音楽に関する言葉が作品の中に置かれているだけではもったいないと思う。胸に響き耳に残る作品を楽しみにしています。締め切りは9月5日正午、発表は9月7日を予定している。下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して応募してください。力作待っています!
最終選考通過者 十月/峰岡スプリング/Nao/山本ゆうご/さああん/朱里澤セツナ/prefab/AKIDON/天秤座/kjm/山本/カンダタ/人が生きてる/早月 志歩/もへろ3000/美里/にゃーころ/ゆっきん/酢ダコももう29歳/夏猫/
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