特集 2014年9月2日

正解の分からないパスタ料理

果たしてこれで正解なのか?
果たしてこれで正解なのか?
『新パスタ宝典』という本がある。パスタ料理のレシピばかり1347点が掲載されている、パスタ料理のバイブル的な本だ。

ところがこの本には、一般的な料理本のように出来上がりの写真が載っていない。文章だけだ。これでは、作ってみてもそれが「写真の見た目っぽくできたか」という答え合わせができない。

正解がわからないままに、パスタを作ってみた。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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とにかくゴツくて分厚いパスタ宝典

『新パスタ宝典』は、もともと1973年にイタリアで出版された『IL NUOVO CODICE DELLA PASTA』という本の日本語版。

現在は絶版のようだが、僕はたまたま知人が「本棚の整理をするから欲しければあげるよ」と言ってくれたので入手できた。
帯の「パスタ料理、至高のバイブル」という煽りにゾクゾクする。
帯の「パスタ料理、至高のバイブル」という煽りにゾクゾクする。
B5版で657ページ。でかくて分厚くて重い。ほぼ鈍器。

厚みだけで言うと6cm以上ある。
これぐらい分厚い本です。
これぐらい分厚い本です。
『家庭の医学』とか『タウンページ』ぐらいのボリュームだけど、中にはパスタのレシピのみ。文字だけでぎっしり詰め込まれているというストイックな本だ。パスタ界の修行僧、パスタ山伏である。
中はこんな感じ。文字オンリーで1347のパスタ料理を掲載。
中はこんな感じ。文字オンリーで1347のパスタ料理を掲載。
レシピ自体は簡単なものなら3行程度、長くても1ページ分で1つのパスタ料理ができあがるようになっている。ただ、先に言ったように完成写真が無いので答え合わせができない。さらに、材料の分量も載ってたり載ってなかったりとかなり適当。
さて、なにをどう作ればいいのか。
さて、なにをどう作ればいいのか。
そのうえ、料理の名前も『慰めのスパゲティ』とか『ビーナスの宝石箱』とか、結果を想像できないものが多い。直接的な料理名でも『桃風味のパスタ』や『カエル入りパスタ』など、なんというか、一筋縄ではいかない感じがプンプン漂う。

たまに『ゆでた牛肉と鶏肉入りパスタ』みたいな名前を見つけると、旅行先で偶然友達の実家を見つけたぐらい嬉しい。

『真夏の夜の夢』を作ろう。

せっかくなので、まずは手に負えないっぽい名前のパスタに挑戦してみたい。

文中の説明によると、「このパスタのソースは夏の楽しい夜に冗談で生まれたもの」とある。冗談でそんなものを作るな、と思ったが、冷静に考えたら、今まで僕が書いた料理関連記事も、かき氷ご飯とか銀杏大福とかふざけて作ったものばかりだった。
材料はこれだけ。
材料はこれだけ。
材料は「大きな穴の開いたパスタ500g、ズッキーニ2.3個、タマネギ2個、トマト2個、生のプラム3.4個(以上はすべて同じグラム数でそろえる)、ピーマン1/2個。あと塩胡椒とかバターとかそういうの。

これはあきらかに4人前とかそういう分量なので、僕が一人で食べられるぐらいの分量に調整する。この時点でもうアレンジが加わっているので、正解がぼやけてくる。
もう取り返しの付かないところまできたけど、正解かどうかは不明。
もう取り返しの付かないところまできたけど、正解かどうかは不明。
これらの材料を皮を剥いて刻んで、オリーブ油を足しながらミキサーにかけ、最後に塩胡椒、パセリ、バジリコを入れよとある。調味料の分量はない。適当にせよ、か。

応用として、オリーブ油のかわりにマグロのトロの油漬けをつぶして混ぜても良い、とあった。つまりシーチキン的なものだろう、と判断してそれも足してみた。
たぶん『真夏の夜の夢』(推定)という料理です。
たぶん『真夏の夜の夢』(推定)という料理です。
あとは、穴の開いたパスタということでマカロニを茹でて、上からドロドロのソースをかけて完成。だと思う。

いま記事を書きながら、もしかしたらネットで検索したら正解の写真が出るかもしれないと気がついたが、間違っていたらイヤなので検索しない。みんなも検索しないでいて欲しい。
『真夏の夜の夢』かと言えば、まぁ真夏の夜の夢っぽいか…。
『真夏の夜の夢』かと言えば、まぁ真夏の夜の夢っぽいか…。
まずくはない。野菜のやさしい味がして、胃が疲れていてもすんなり食べられそうだ。

例えばレストランで「こういう料理です」と出されたら「へー、そうなんだ」と納得して食べる味。

しかし、本当にこれで合っているのかどうかが分からないので、最後の部分でモヤッとする。

料理はうまいまずいだけではない。「そういうもんか」と納得して食べるのも味のうちなのだ。たぶん。

『リングイーネまたは他のパスタのコーヒー風味』を作ろう

続いて、名前から味が想像できない系のを作ってみよう。

コーヒー風味のパスタとはどういうものなのか。
この材料でどういう味に転ぶのか、想像が付かない。
この材料でどういう味に転ぶのか、想像が付かない。
材料はリングイネ(平たい、断面が楕円形のパスタ)500g、牛挽肉150gと豚挽肉150g、タマネギ300g、赤ワイン1カップ、サイフォンでいれたコーヒー1/2カップ強、ミントの葉ひとつまみ、サルビアの葉ひとつまみ。あとオリーブ油とバター。

パスタに対して肉が牛と豚で合計300gとかなり多い印象だ。とりあえず5:5の合い挽き肉を一人で食べられるだけ用意した。

あと、サルビアの葉ってなんだ。サルビアは花壇でよく見る赤い花だろう。あれ食べられるものだったのか。

ついでにミントもうちの近所のスーパーでは入手できなかったので、葉っぱ2種は除外。もう正解からブレた。
こわごわ、コーヒーも投入。
こわごわ、コーヒーも投入。
作り方は、タマネギを柔らかくなるまで気長に炒め、挽肉も入れて炒める。

赤ワインを少しずつ入れて煮詰め、さらに「エスプレッソほど濃くなく、薄過ぎもしないコーヒー」も入れて煮込み、最後に塩胡椒で味を調えよ、とある。

ミントとサルビアもこの時点で入れるらしいが、無いのでパス。

材料の所にわざわざ「サイフォンでいれたコーヒー」と指示されているが、うちはカートリッジ式のコーヒーしか無いので、それで煮込む。またもや正解からブレたが、結果としてどれぐらいブレているのか分からないのが怖い。
これが『リングイーネまたは他のパスタのコーヒー風味』らしいです。
これが『リングイーネまたは他のパスタのコーヒー風味』らしいです。
最後に茹でたリングイネと茹でた湯ちょっとをコーヒー風味ソースに入れて2分混ぜ合わせれば、完成。

パスタと肉の比率はできるだけ正しくなるように調整してみたが、こうやってみるとかなり肉っぽいパスタ。職場近くの喫茶店で、若手社員が好んで注文しそうな見た目だ。
あ、これうまい、かも。
あ、これうまい、かも。
食べてみると、よく炒めたタマネギの甘みと肉肉しい味の中に、最後に「…あれ?」ぐらいの感じでコーヒーの香ばしい風味がする。

コーヒーを入れたことでの嫌な感じは全く無い。あ、これはかなり美味しい気がする。納得はしづらいけど、少なくとも絶対にまずくはない。

本当の正解はもちろん検索しないが、でも、これも正解のひとつでいいんじゃないか、と思うぐらいには美味しい。

ミントとサルビア入れたらどんな味になっていたか、今になってすごく気になり始めた。
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『2倍、あるいは3倍のバターで和えたローマ風フェットチーネ』を作ろう

次は、今までとは逆に名前だけで全部わかるパスタを作りたい。

ほんとうにタイトル見たままである。
材料も超シンプル。
材料も超シンプル。
材料はバターとパルメザンチーズ。以上。

「これはシンプルだし味も想像できるなー。ところで2倍とか3倍ってバターの分量はなんだ」と思ってレシピを読み進めて、戦慄した。

「茹でたフェットチーネを200gのパルメザンチーズと、柔らかくしておいたバター200gで和える」

「バター200g」

ちなみにバター200gという数字でピンとこない方は、写真をよく見て欲しい。
これがバター200g。
これがバター200g。
スーパーなんかで一般的に売られているバターのあの黄色い箱。あれ1箱が200gだ。

1食でバター1箱。それは普通の人間が消費していい量じゃないだろう。

うまいまずい以前に、駄目なやつだ。

で、200gが2倍だとしたら、普通量は100gか。それでも絶対駄目だって。

あと、バターの量に気を取られすぎたが、パルメザンチーズの200gだって絶対駄目だ。
パルメザンチーズの筒を切ったのは初めての体験。
パルメザンチーズの筒を切ったのは初めての体験。
ご家庭用のパルメザンチーズ(緑色のパッケージのやつとか)は、どれも80g。あれ2本以上を使うのだ。

本当に絶対に駄目だ。

さすがに一人量ではあるまいが(なぜかこのレシピにはフェットチーネの量が書いてないので何人分か不明)、ともかく駄目だ。
パッケージから直接出したパルメザンチーズは、うまい棒に似てる。
パッケージから直接出したパルメザンチーズは、うまい棒に似てる。
とりあえず、今回はパルメザンチーズの1パッケージ80gに合わせて、バターも80g使うことにした。それでも駄目だと思うけど。

蓋付きのままではいつまでたっても中身全部を取り出せないので、カッターで筒を切って押し出すことにした。計量カップがパルメザンチーズで山盛りになる。正直、作業しながら手が震えるビジュアルである。
フライパンを占有する、箱半分弱のバター。なんか遠近感狂う。
フライパンを占有する、箱半分弱のバター。なんか遠近感狂う。
あとはフライパンでバターを温めて溶かしたところに、ゆでたフェットチーネとゆで汁少し、パルメザンチーズをぶちこんで和えろ、ということだ。

正直、作ってるだけで体重が増える気がする。
あとはフライパンでバターを温めて溶かしたところに、ゆでたフェットチーネとゆで汁少し、パルメザンチーズをぶちこんで和えろ、ということだ。 正直、作ってるだけで体重が増える気がする。
あとはフライパンでバターを温めて溶かしたところに、ゆでたフェットチーネとゆで汁少し、パルメザンチーズをぶちこんで和えろ、ということだ。 正直、作ってるだけで体重が増える気がする。
最後に、挽きたての胡椒をたっぷりとふれ、という指示なので、そのようにして完成とする。

たぶん、それ以外に迷うところもなかったし、これは写真を見ての答え合わせをしなくても、たぶん正解だろう。
おそらく正解の『2倍、あるいは3倍のバターで和えたローマ風フェットチーネ』
おそらく正解の『2倍、あるいは3倍のバターで和えたローマ風フェットチーネ』
はっきり言ってまずくなる要素はどこにもない。シンプルながら鉄板の味だろう。

しかし、うまかろうがなんだろうが、さっき溶かしたバターとチーズの量を思い出せば絶対に駄目だ。
…うまいよ。駄目だけど。
…うまいよ。駄目だけど。
さすがにバターが多すぎて若干くどいところはあるが、熱々のところをズババっと食べたら、そらもう、うまいに決まっている。

そして、うまいんだけど、ものすごい犯罪を犯した気分になる。

正解が分からないモヤッと感はゼロで、罪の意識がすごい。

贖罪の意味も込めて、このあと2食ぐらい抜きたい。

『新パスタ宝典』は、とにかく料理の名前を見ているだけでも飽きないし、実際のレシピも楽しい。とてもいい本だ。もし古本屋ででも見つけたら、入手することをオススメしたい。

あと、今回作ろうと候補に挙げておいたうちの一つに『スパゲティのもやし和え』というのがあった。

ニンニクとモヤシを炒めて同量のスパゲティと和えて塩胡椒しろ、とある。

一人暮らし始めたばかりの大学生か、という馬鹿っぽさだったので今回は除外したが、今度すごい空腹で、冷蔵庫にモヤシしかなかったら作ってみようと思う。
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