チャレンジの日曜日 2014年9月21日
 

書き出し小説大賞・第57回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表第57回である。

さて、長らくお待たせしている書き出し小説単行本。おそらく11月中には新潮社より発売できる目処が立ってきた。告知からは随分たってしまったが、それだけ素晴らしい内容になると確信している。楽しみにしていただきたい。
九月も終盤、結局夏も戻らないまま秋に突入してしまったようだ。自由業ゆえ毎年10月中旬まではサンダルで通す私だが、今年はひと月も早く靴を履いてしまった。靴、めんどください。

それでは今回もめくるめく書き出しの世界にご案内しよう。

書き出し自由部門

すこし早いニット帽が彼女の髪に段をつくった。
大伴
新しい萌え要素の発見。
僕の天使はいつも瓦屋根を踏み抜いて落ちてくる。
おこめ
ドジなくのいち的な。
空き巣に入ったら鍋が弱火にかかりっぱなしだったのだが、意図的かもしれないので俺は見守るしかない。
suzukishika
ダシ入れたいけど我慢。
父は浴びる様に育毛剤をかけ、それに応える様に眉毛だけが伸びていった。
ぴすとる
いまは眉毛を耳に掛けるまでに。
ショッピングセンターのトイレの、一番端の洋式トイレに座って海外文学を読む。最近、これがバイト前の日課である。
じゃす
華麗なるゲリピー。
店の外まで追いかけてきた店員を、振り向きざまに抱擁した。
TOKUNAGA
商品だけでなくハートまで盗むとは。
バックミラー越しに居留守していた彼女がみえる。
TOKUNAGA
あとは防波堤の灰色がつづいた。
うたたね電車でふと目を覚ますと、いちめんの野球部員だった。
xissa
地区予選コールド負けの。
収入の少ない僕の話しを妻が漫画化にしたら、軽く年収を越えられてしまった。
ルンルン
ツレの外国人がウツになりまして。
冷めた味噌汁をまぜるように、事件は闇に包まれていった。
大伴
冷めた味噌汁のエフェクト感、いいよね。
カップ焼きそばの湯切り口から水を撒いて花を育てた。
柴咲ハコ
植木鉢がボコ!って鳴った。
卵が割れると中から刑事が出てきて、親鳥を逮捕した。そうか、手錠はそうやってかけるのか。
Mch
後半の「そこかい!」感が絶妙。
カバンがずっしり重いから、忘れ物はないはずだった。
炎の文房具屋さん
「から」じゃない!(笑)
川のせせらぎ。遊ぶ童たち。独り、万力で胡桃をひたすら割っていく私。
ボーフラ
それはそれでのどかな気もする。
パレットの穴から、到底作り出せない色の指が覗いている。
松っこ
栗とカブトムシの中間色。
出窓に座り今日も街を見下ろした。何かがあれば、私が目撃者となろう。丸くなった背筋ピンと伸ばし、尾っぽを揺らした。
茂具田
まず柿泥棒と下着ドロ発見。

自由部門は文字通りノールールだが、書き手からすればやはり現実の季節感が影響しているようだ。今回の作品全体にも八月に比べるとどこか落ち着いた気配が感じられる。俳句には季語が入るが書き出し小説には必要ない。しかしそこはかとなく漂う季節感はしっかりと読み手にも伝わるだろう。
大伴氏、とくに後頭部のへこみは思わず手の平でなぞりたくなる。もう一本の冷めた味噌汁への着眼もいい。あのかき混ぜたときのエフェクト感、なんだか昭和の特撮モノって感じがする。suzukishika氏、無人の台所に灯るガスの炎になぜか小さな秋を感じた。ぴすとる氏、眉毛だけの伸びた父を想像するのも面白いが、父目線になって眉毛越しの風景を想像するのも異常にウザい気持ちになれて面白い。じゃす氏、ショッピングセンターのトイレと海外文学の取り合わせが意外なリアリティを生んでいる。ただ街ですれ違っただけの男子が実はこういうヤツだったらと想像するとなんだかうれしい。TOKUNAGA氏の二作はさすが書き出し文豪の域。炎の文房具屋さん氏、二回連続のバカネタ。作品の「抜け具合」がなんとも言えない。松っこ氏、もう親指の方を作品として提出した方がいいかもしれない。

つづいては規定部門、今回もモチーフは「虫」であった。書き出し作家の「昆虫記」をずらりと紹介しよう。

規定部門・モチーフ「虫」

高層階の蚊はエレベーターでやって来る。
g-udon
グルメ街は上階にある。
コオロギが歌い、僕は尻をふる。秋が終わりを告げる前に、このバンドでブレイクする。必ず。
にゃーころ
ブレイクOR DIE
益虫だからといって好きになるわけではない。
柴咲ハコ
これは人も同じ。
バルサンを焚いて以来、メールが来なくなった。
xissa
虫除け効果抜群。
現代アートにとまっている蝿にさっきから迷っている。
松っこ
デュシャンの「泉」にとまる蠅。
祖母の上着で擬態していた。
TOKUNAGA
これほど樹皮に馴染むとは。
なんで刺すのって聞いたら、忘れたくないから、だって。君の複眼に、僕はいくつ映っているんだろう。
Mch
痒みが引くまで僕も忘れない。
「ちわっす!自分ら今日助けてもらった蟻ッス!!」ドアを開けると我が家は、数十万人の作業服姿の男達に取り囲まれていた。
トニヲ
引越前はアリを助けよう。
8月最期の日。ただ自らの保身をはかり、虫けらどもの背中にピンを刺していった。
たくけけ
同じ蝉ばかり八匹。
「しまった、ハニートラップだ」飛び起きた時にはミツバチの顎ヒゲが完成していた。
えむ毛
やむを得ん、ギネスに申請だ。
家臣たちが息をつめて見守る中、眠り続ける姫の耳の穴から一匹のテントウムシが這い出した。
空想庭園
姫の七つの痣が消えていった。
共食いをするスズムシに、ロマンを感じる四歳児。
優凪
この世はサバイバル。
わたしが愛した芋虫は白い繭の中で死んでいた。
小夜子
絹の原料を残して。
高架橋から見た下を走るミキサー車は、なんだか虫っぽく見えた。
げっつぁん
ゾウムシっぽいビジュアルが浮かびました。
自分の名前を「キャー!」だと思っていた。
おかめちゃん
なるほど、巧い!
「騙すつもりはなかったんよ」と豆電球を背負ったゴキブリが力なく訴えた。
KESHI
流し台のスキマに偽蛍。
「そこの蚊柱を右折して下さい。」
義ん母
仮免試験中の教官が。
あの娘へ告白。「手を出して」と言われ震えながら差し出すと、虫刺されの跡に爪で「×」をもらった。
ぴすとる
やさしいNG。
ねえ、なんだか背中がもぞもぞするの。見て。そう言って背を向けた彼女の洋服の中にいたのは、たくさんの足で彼女の肌の上を這いずり回る俺の顔をした虫だった。
sakana
なんて卑猥な顔なんだ。
虫になんか興味はないわとそっぽを向いた君に、「巣の中でキノコを育てる蟻がエクアドルにいてね」と話しかけると、「嘘でしょ?」と身を乗り出してくる。そんなところがたまらなく好きだった。
淡水
ググった結果、ハキリアリだそうです。
やだなー、白蟻かなー、白蟻かなー、と思って近づいていくと、やっぱり白蟻なんですよ。
うにねこ
本当にあった害虫の話。
応募作の中でとくに人気があったのは、蚊、アリ、ハエ、ゴキちゃん、スズムシコオロギなど秋の虫、あと意外にカマキリが多かった。また虫を毛嫌いしたり気持ち悪いものとして扱った作品は想像より少なく、昆虫愛を感じるものが多かった。
xissa氏、秀逸な考えオチ。直接的な慣用句を使わず巧くヒネった。おかめちゃん氏のオチも誰もが納得の秀作。Mch氏の昆虫は蚊か蜂かでニュアンスも変わってくるだろう。読者に選択肢を与えている。トニヲ氏のドアを開けた瞬間目に飛び込むビジュアルは秀逸。これそのままアリさん引越センターのCMに使えるんじゃないだろうか。巨大化した赤井さんの次は増殖する赤井さんで。えむ毛のビジュアルインパクトもすごい。げっつぁん氏は全体の中でも異質のアプローチだが、思い描いた瞬間「ああ〜〜」となる。今回もっとも意表を突かれたのは義ん母氏の作品。あらためてこの人の発想には驚かされる。どんなコメントも蛇足になるだけだが、言われた通り蚊柱を曲がったとたん異世界に迷い込みそう。とっくに壊されたはずの母校が現れたりとか。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ「相撲」
現在、秋場所の最中ということで「相撲」にしてみた。スポーツの中ではもっともネタにしやすいモチーフではないだろうか。なんと言っても国技、長い伝統に裏打ちされた確固たる世界観。とくに最近はトピックも多くイジれる要素はいくらでもある。もちろん萌え、BL要素もアリだ。諸君たちの作品で「書き出し場所」を開催したい。締め切りは10月3日正午、発表は10月5日を予定している。下の応募フォームから自由部門、規定部門を選んで送って欲しい。力作待っています!
最終選考通過者

わっち/マッドまっすぐ/ゆっきん/ちたん/北を見ると深海/wabisuke/スートラ/5時のおやつ/Dawn/流し目髑髏/紀野珍/りずむ原きざむ/もんぜん/名前は「ナイ」/米虫/人が生きてる/アイアイ/トミ子/イワモト/prefab/弔辞ルーカス/ふじーよしたか/床野誰太/築地3号/海渡り浮雲/吉蔵/秋菜/哲ロマ/砂砂砂/翌日未明/pueda/もろもろ/夏猫/不眠
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