チャレンジの日曜日 2014年11月2日
 

書き出し小説大賞・第60回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

書き出し小説秀作発表第六十回である。

まずは単行本の進捗状況をお知らせ。原稿はすでに収め、先日はゲラ直しのために新潮社クラブに一泊してきた。新潮社クラブというのは作家を執筆に専念させるための宿泊施設で、わざわざゲラ直しのためだけに使うことはまずないのだが「せっかくなので文学っぽいポーズだけでも!」という出版社のご厚意で体験させてもらった。その様子は次回改めて報告しよう。

昭和レトロ風の凝りに凝った装幀も完成、また帯文は糸井重里氏からこの上ないお言葉を頂きました。もう本当はいますぐにでも見て欲しい書き出し小説単行本、発売は12月中旬。乞うご期待!
それでは今回もめくるめく書き出しの世界にご案内しよう!

書き出し自由部門

鼻の穴の画鋲が懐中電灯でぎらりと光った。
大伴
消防ポスターのアイドルの鼻に刺した画鋲ね。
赤く色づいた街路樹の葉が落ちて、ようやくあの看板が「パチンコ」になった。
サイズ
「ンコ」→「チンコ」→「パチンコ」
女子は水筒を傾け、男子は噴水を飲んでいた。
大伴
水筒の蓋ってよく歯形ついてたよね。
もう、脱げるものはカツラしかなかった。
AD794
カツラが靴下より先?!
発信機を埋め込まれたけど、誰からも探されてない気がする。
人が生きてる
発信器はあるけど受信機は無い。
薬局が消灯すると同時にボックスの電源も落ちた。写真は落ちてこなかった。
人が生きてる
カーテンの下から足だけ見えてる。
滞納者の手元でエルメスのバッグが揺れている。
サイズ
ドコモダケのマスコットも揺れている。
底の方が沸いていない湯船に我慢して浸かっていた経験はないだろうか。狐に憑かれた感覚はそれと良く似ている。
TOKUNAGA
足湯に肩まで浸かったことならある。
打ち出の小槌で人を殴り、出てきた美しいもので賠償した。
松っこ
頭蓋骨陥没のお詫びにべっ甲のブローチを。
空飛ぶ畳に乗って世界中でお茶をたてまくった。
茂具田
すげえ泡!
鉄屑は増える一方、錬金術師はしみじみ減った。
suzukishika
「しみじみ」がよい。
ヒロシの投げた紙飛行機はグングン高く上り、結果、勢いづいたかたちで組事務所に落ちていった。
ウチボリ
事務所の神棚に着地。
面接でエコロジーについて聞かれたが、風呂場で小便する事しか思い浮かばなかった。
ぴすとる
シャワー浴びながら立ってする派です。
ジャージに増え続けるアップリケは、まるで勲章のようで信子はなんだか誇らしかった。
茂具田
そのジャージで園遊会へ。
アンデスの山々とコオロギと鈴木。どれが欠けても僕の目標は達成出来ない。
不眠
でも敢えて外すなら鈴木。
テーブルの上にポテチを出しっぱにして家を出た。帰る頃にはいい感じに湿気ってるはずだ。
ユーリ
湿気ったカールも美味しいよ!
一番風呂に浸かる喜びと、全く沸いていない驚きを、殆ど同時に感じた。
TOKUNAGA
うれつめたい!

間抜け、というのは書き出し小説の創作においてひとつのテクニックであろう。超短文の書き出しの中に読者の想像の余地、すわなち「ツッコミどころ」を与えるには敢えて「間を抜く」ことが有効に働く。今回の採用作にはそんな間抜けな作品が多かった。

間抜けと言っても描写される人物だけではなく状況、心理、また言ってること自体が間抜けなど、いろいろある。冒頭の大伴氏の作品、サイズ氏の作品などは間抜けなイメージを鮮明に描いている。AD794氏の作品は直球の間抜けキャラ。人が生きてる氏の作品には間抜けの中にひそかな孤独がある。松っこ氏は論理的な間抜け、茂具田氏は勢いのある間抜けという珍しい間抜けを表している。TOKUNAGA氏の作品の完成度の中にも間抜けのスパイスが巧妙に隠されている。

もちろん完結しきった結晶のような作品も、全体的に詩情のあふれる作品もそれはそれで素晴らしい。が、一方で間抜けの隙間から垣間見える作者の愛嬌に、読者が共感することも事実である。

では続いては規定部門、今回のモチーフは「秋の夜長」であった。文字通り秋の夜長のおつまみにお読み頂きたい。

書き出し規定部門 モチーフ「秋の夜長」

はじめに、性欲を捨てた。
紀野珍
そして賢者の長い夜がはじまる。
耳かき一本で出来る事を考えていた。
TOKUNAGA
上品に龍角散が飲める。
この本が終わるまで朝は来ない。
unnnunn
が、無念の寝オチ。
深夜放送を最後まで聞くために、漫画の主人公を書き写していた。
山本ゆうご
すげえ中学生っぽい。
ぬりたてのマニキュアに夜が映る。
xissa
いまから出勤?
何度も書き直したラブレターは最終的に箇条書きで完成した。
哲ロマ
鉄人のメニューみたいになった。
銀杏をよけて歩くには夜の大学は暗すぎた。
Mch
残らず踏む覚悟で。
どこらへんが秋味なのか考えているうちに日付が変わっていた。
Mch
秋味と冬物語に意味はない。
月あかりが差し込む書斎で、広辞苑の全頁の隅にパラパラ漫画を描いた。
おかめちゃん
鉄拳より泣けるのが出来た!
秋の夜長にフロム・ダスク・ティル・ドーン。
よしおう
後半まったく別の話になる映画だよね。
かちりかちり、と二回響く。隣人の部屋は今、橙色だ。
義ん母
「ちっちゃい電球」ね。
一台前に使っていた携帯を引っ張り出し、あの人からのメールを最初から読み返す。
遊泳禁止
文中に当時流行ったギャグを見つける。
長い夜道を、牛丼屋に向かって、真面目に歩く。胸を反らして両手を振って。
ボーフラ
今宵は味噌汁を豚汁にチェンジだ。
「秋の夜長.exe」をダブルクリックするだけで済むのだから、テクノロジーとやらを有難く思ふ。
あつし
夜を圧縮。
テレビのオフタイマーで目が覚めた。
山本ゆうご
消えた方が気づくよね。
飛行船の音が、夜の帳の彼方から聞こえる。だが、それは空耳のはずだった。白夜の国に今私はいる。
ほーほー
FMラジオのナレーションで聴きたい秀作。
そのミュージックビデオのコメント欄に、何回か聴いたら飽きる。という真理のような書き込みを見た。
人が生きてる
真夜中の天啓。
今夜こそ揺らそうと蛍光灯の紐をじっと睨んだ。
TOKUNAGA
揺れたのは鼻息のせい。
「今日はベランダで飲もう 」22時18分、息を止めた月が私を見て笑った。
まつなつ
室外機に腰骨ぶつけた。
松茸を切った包丁の仄かな匂いを嗅ぎながら、ネットで拾った文例そっくりの始末書を書く。
g-udon
想像すると猟奇的な姿でもある。
充電が6%になっても、まだ夜だった。
炎の文房具屋さん
そしてコードはみつからない。
つけっぱなしのラジオから、昔好きだった曲が流れてくる。
xissa
シンプルなれど臨場感のある秀作。

秋深き隣はなにをする人ぞ──芭蕉の有名な句だが、その隣の人がなにをやっているのかが、これらの作品でほんの少し分かった気がする。集まった作品はほとんどひとりの夜について書かれたもの、やはり秋の夜長は孤独が似合う。

紀野珍氏の作品、文学的な夜の、そのはじまりの儀式を勇気を持って書いてくれた(笑)。山本ゆうご氏の作品は思春期の夜を思い出させる懐かしい書き出し。哲ロマ氏、この結末も長い夜が為せるわざ。Mch氏、テイストの違う二作。秋味は結局一緒に食べる料理の問題だと思う。よしおう氏、フロム・ダスク・ティル・ドーンはロバート・ロドリゲスの映画、途中からまったく別の映画になってしまう問題作で、なぜそれを選んだのか分からないけど分かる的な、絶妙なチョイスがよかった。遊泳禁止氏の作品は恋愛切な系。これ一読すると女性の語り手に感じるけど結構男子もやってそうな気がする。人が生きてる氏や炎の文房具屋さん氏、あつし氏の作品を見ると、ケータイ、ネットの登場で夜の過ごし方も変わったような気がするが、流れる感情は基本変わってないようだ。最後のxissa氏の作品はシンプルで何気ない描写のように感じるが、だからこそのリアリティを感じた。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ「吉田」
人の苗字である。今回は少し趣向を変えて「吉田」という人物をモチーフにした作品を募集したい。吉田にしたのはなるべく平均的で癖のない字面を選んだだけで他意はない。また特定の有名人でもないのでそこは留意していただきたい。平凡な吉田から超イケメンな吉田、熱血の吉田から非情な吉田、老若男女、そのほかキャラ設定は問わない。「〜君」「〜氏」「〜夫人」など敬称も自由。ただし名前はつけないでください。あなたの創作によってさまざまな吉田像をつくりあげて欲しい。

締め切りは11月14日正午、発表は11月16日を予定している。下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して送っていただきたい。力作待ってます!
最終選考通過者

菅原 aka $UZY/ボルオ/柴咲ハコ/ネコヘアー/置き傘/柊一花/ブルーザー横浜/うにねこ/みつばち社長/ぽけぞう/こーき/鴻惠瑞/tara tracy/フライハイ/ユキ/もめん/弔辞ルーカス/小夜子/夏猫/流し目髑髏/えむ毛/ベル/ウウタルレロ/新品の畳/砂砂砂/箒星/トニー谷かわいそう/ひじき/
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デイリーポータルZ新人賞

 
 
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