チャレンジの日曜日 2014年11月16日
 

書き出し小説大賞・第61回秀作発表

!
書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。

前の記事:「書き出し小説大賞・第60回秀作発表」
人気記事:「書き出し小説大募集」

> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

書き出し小説秀作発表第六十一回目である。

まずは書き出し小説単行本の進捗についてお知らせ。
ついに発売を一ヶ月後に控え、Amazonでの予約も始まりました。(リンク)作品はすべて縦書きの明朝体に直し、ネットでの見た目よりさらに深い読み応えになっているので、楽しみにしてください。また作品ごとのツッコミも箸休め的にまとめて掲載。読者はいつもの蛇足に煩わされることなく作品を充分味わってもらうことができると思います。
編集の段階で関係者のみなさんからも大好評。想像以上に笑えて、しかもグッと来る仕上がり。いや、これはマジで売れて欲しいッス。また近々出版元の新潮社とのコラボ企画も実現しそうなので乞うご期待!

それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう!

書き出し自由部門

ぬ、みたいなイヤホンをもたもたほどいて、この場が過ぎるのを待つ。
人が生きてる
ひらがな一文字で持っていった秀作。
白菜をパズルのように鍋に敷き詰めながら、顔色をうかがっている。
xissa
白菜と豚肉のミルフィーユ鍋が浮かんだ。
明るみで見たそれは湯葉ではなかった。
大伴
不吉であり、不潔。
「形だけでも覚えて帰ってくださいね。」
TOKUNAGA
驚愕の掴み!
連日の残業で、左の豊胸にまだ行けていない。
義ん母
左手のごはんを大盛りにすることでバランスを取ってる。
夕暮れの旧校舎で見つけた地球儀にはあたしの知らない大陸が描かれていた。
Mch
逢魔が時のパラレル世界。
本物の地雷を踏むよりマシさ、とグラス片手の帰還兵に慰められた。
g-udon
グロ注意「帰還兵ジョーク集」より。
空っぽの部屋に飾り棚を取り付ける電動ドライバーの音だけが響く。
キンゴロー
頭にその音が反響する読後感。
ほうれい線に沿って流れた彼女の涙は、しゃくれたアゴのところで跳ねたように見えた。
ビールおかわり
スキージャンプを見るような読後感。
忘れられていく君のために、月に足跡をつけに行く。
もろ
すんなり文意を呑み込めないところがまた想像力をかき立てる秀作。
凍った水たまりで滑るのって、過去と未来を行き来してる感じするよね、と彼は笑った。私はもっとたくさん凍った水たまりがあればいいのに、と思った。
ocamo
小学生の感性と思春期の感性が入り交じった胸キュンな秀作。
飛ばしたシャンプーハットは青空と海を割り、水平線の一点をピンクに染めた。
prefab
こういう光景を描写できるのは言葉の強みだと思う。
おひたしの汁がこぼれているのか、私が泣いているのか、もう分からない。
もんぜん
とりあえず箸を下ろして。

書き出し小説はいまや書き出しの枠を越え、さまざまな見立てが可能だが、そのひとつに「言葉のオブジェ」という側面もある。選考中いい作品に出会うと、なんというかその作品自体をオブジェにして、玄関やテレビの上に飾りたくなる。(いまの薄型テレビでは飾れないけど)そして、そういう風に作品を見た場合、大切なのは作品が「自立」できているかどうかである。商品化されたフィギュアがたいてい自分の足で立つように、いい作品はなにか寄りかかることなく、その重みとバランスだけ自立できる。
ネタ系のパロディ作品などは例外だが、作者諸君は推敲がわりに、一度頭の中でその作品が自立可能かどうかたしかめて見ることをオススメする。今回の採用作も無論、すべて自立している。

続いては規定部門、今回のモチーフは「吉田」であった。
実験的に募集した今回のモチーフ、うすうすは予感していたが想像以上の質と量であった。なのでいつもより増量、ツッコミはナシ!全30本の「吉田物語」を一気読みしていただきたい!

書き出し規定部門 モチーフ「吉田」

担任に好かれている吉田と、ただの吉田がいた。
紀野珍
前方に吉田の後ろ姿。まずい、このペースでは遅刻確定だ。
モコ
歯形だけで吉田のビート板だとわかった。
大伴
年が明け、吉田先生の苗字がまた吉田に戻った。
山本ゆうご
病院内に響き渡る「吉田さ〜ん」で4人ほど立ち上がった。
俺スナ
先生怒らないから!静まり返った教室で手を挙げたのは薄目の私と、詰襟の吉田だけだった。
g-udon
卒業アルバムをゆっくり閉じると、オレと吉田の顔がぴったりと重なる事に気づいた。
TOKUNAGA
彼のジャージの青は、ヨシダブルーと呼ばれている。
xissa
終電のひとつ前の便のことを、私達の間では「吉田くん電車」と呼んでいる。
もめん
吉田の生々しい経歴に一同驚いていると、もう一人の吉田がレモンサワーをこぼした。
ボーフラ
ビンゴ大会は、吉田の不正のせいで後味の悪いものとなった。
紀野珍
吉田の家へは左折だけでたどり着いた。
TOKUNAGA
「 中学の時の方が結婚したかった。」吉田さんは笑いながらそう言った。
らい麦。
三面鏡に映った吉田は、そのうだつの上がらなさも三倍に見えた。
おかめちゃん
冷蔵庫には「吉田」と書いてあるプリンが二つ。俺のはどっちだ。
KESHI
椅子なんていらない、みたいな顔してる方が吉田ね。
義ん母
お笑い芸人「吉和田」は吉田君と和田君のコンビだ。
名前は「ナイ」
絶対王者の吉田が、あんなポッと出の吉田に負けるとは誰も思わなかったはずだ。
ユーリ
吉田、吉田、吉田。平凡な名、平凡な顔。なぜ鼓動はこんなに速い。
まんた
「あそこで草を食んでいるのが吉田です」ガイドは指を差して答えた。
えむ毛
「それ」はもう吉田では無い。私は泣きながら引き金を引いた。
ぴすとる
街は、うつろな目の吉田たちに監視されている。
夏猫
サイドカーに乗せた吉田を途中で切り離した。
茂具田
吉田の所有するアパート群は上空から見ると苗字を形作っている。
ウチボリ
吉田は手渡された石を投げ、落ちた所までの土地を貰った。石油も出た。
ハラセン
別れがつらくならないように、育てた豚はすべて「吉田」と呼んだ。
ぴすとる
吉田はバージンロードを勢い良く膝で滑り抜け、祭壇を突破し、消えた。
アイアイ
飛行機と同じくらいの高さほどに舞い上がったゲイラ・カイトを双眼鏡で辿った先に、やっぱり吉田。
いがそ君
吉田を四人まとめたら消えた。
小夜子
スタッフロールの名前は、ほぼ吉田だった。
大伴

まずは謝りたい。全国の吉田さんすいません。今回のモチーフに他意はありません。そして今回惜しくも選外になった書き出し作家のみなさんにもごめんなさい。採用不採用の境界線はいつもそうだが、今回はとくにその差がまったくといっていいほどなく、その基準は作品の善し悪しでななく、30本を並べたときのバランスと流れを考慮したものです。
今回はとくに作家陣が楽しんで書いたことが伝わってきた。また応募作の中には吉田のライバルとして古田を設定したものが多かったこと、吉田という苗字の造形に言及したものが多かったことを報告しておく。その中にも秀作は多かった。苗字モチーフ、また募集したい。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ「痛い」
身体的か精神的かは問わない。読んだだけで「痛み」を感じる作品を募集する。また痛みの程度も激痛から、かすかな痛みまで。大切なのはその痛みがどれだけ的確に、そして新鮮に伝わるかです。以下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して応募ください。締め切りは11月28日正午、発表は11月30日を予定。みなさまからの鋭い作品、待ってます。
最終選考通過者

jinsuke/りりいこれっと/床野誰太/置き傘/ゆたる/哲ロマ/ハルスミ/マッドまっすぐ/シュガーさん/毒島/ひとまるよん/真夏のコタツ/トリアージ/柴咲ハコ/Sheera/星だお。/向井肉太郎/猫ぎょうざ/柊一花/空想庭園/岩手川/wabisuke/こちべ/ユーリ/トミ子/うにねこ/NCハマー/麻奏/suzukishika/遊泳禁止/松っこ/首廻り寝具/ブルーザー横浜/くわ/ババア伝説/ロケッ子/弔辞ルーカス/不眠/ゆっきん
 ▽デイリーポータルZトップへ  

 
 
関連記事
書き出し小説大賞・第60回秀作発表
書き出し小説大賞・第59回秀作発表
書き出し小説大賞・第58回秀作発表
書き出し小説大賞・第57回秀作発表

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
↓↓↓ここからまたトップページです↓↓↓