チャレンジの日曜日 2014年11月30日
 

書き出し小説大賞・第62回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

書き出し小説秀作発表、第62回目である。

まずは告知。いよいよ来月に迫った書き出し小説単行本の発売だが、前回もチラっと書いた発売元新潮社さんとのコラボ企画は、新潮社サイトでの「出張・書き出し小説」となる模様です。
出張編ではいまのところ単行本収録のベスト・オブ・ベスト作品紹介とスペシャル規定部門の募集をするつもり。モチーフはもう先に発表してしまいます!「本屋」です。記事掲載は12月9日予定で進んでます。僕のTwitterなどでマメにチェックしていただければ幸いです。それでは今回もめくるめく書き出しの世界をお楽しみください。どーぞ!

書き出し自由部門

圧縮されたダウンを揉み戻して冬がはじまる。
大伴
冬を迎えるにあたっての儀式。
父さんのセーターが犬小屋へ移動した。
TOKUNAGA
昔たけしが着てたような派手なセーター。
ゴルフ場で法事。そして今さらの自己紹介。義父は私を試している。
ocamo
しかもキャディー姿。
烏帽子を脱いだ瞬間から、ぼくらのアフターファイブが始まる。
ウチボリ
よし、ラウンドワンで蹴鞠だ。
叔母がレーダーに映らなくなってから半年が経つ。
浦賀ペルリ
水没か?
薄汚ないオッサンが咳き込みながらランプから這い出てきた。
茂具田
開口一番「だれの精だ!?」
にじり口に挟まった師範が出てくるまで、茶道の授業が始まらない。足はとっくに痺れている。
おかめちゃん
誰も動けない茶室がゴキブリホイホイ状態になってる。
今度こそ完成まで持ってくぞ、と多量の茶をのみ、雪上でファスナーを下ろす。
人が生きてる
書道的な意味での尿道。
55人をごぼう抜きにし、37位でゴールした。
紀野珍
しかしインタビューはない。
党は分裂をはじめ、やがて見えなくなった。
ウウタルレロ
顕微鏡でのぞいた政界。
もったりした霧を切り裂き、ピンクの山が現れた。気球だ。
正花
どこか昔の実験映画を思わせる不思議な作風。
丸一日囲炉裏の火の番をしながら、鉄瓶で作ったスープ春雨をすすり、ソーシャルゲームに興じるだけの日だった。
prefab
たまに来るのは宅配業者と旅の僧。
今週号も読んでしまったし、秋田犬もすっかり伸ばしきってしまった。
義ん母
めん棒的なもので伸ばすのだろうか?
枯草に埋もれた私の掌に、冬の鉛が流し込まれた。
ボーフラ
語り手の生死も曖昧な不穏な作品。
口から胃まで絶え間なく続く小爆発の連鎖。俺はいつものようにコーラを飲み干し、日常に備える。
ちーば
屁もゲップも体内で爆ぜる。

あっという間に師走も近づき、応募作にもなんとく冬空の気配が漂う。

正花氏の作品は霧の中から気球が現れるという描写だけなのに、独特の速度とスケールの大きさが合わさって不思議な余韻を残す。実際に見た光景というよりフィルムに映った景色のようだ。義ん母氏の作品、後半の犬伸ばしに注意がいきがちだが、出だしの「今週号も読んでしまったし」が素晴らしい。これだけで語り手の手持ちぶさたが的確に伝わる。ボーフラ氏、シリアスな文字通り鉛色の世界。語り手が遺棄された死体なら面白いミステリになりそうだ。ちーば氏の作品、なにかすごいことが起こってそうで、でもそうでもなかったという脱力の読後感がよかった。

ネタ系ではウチボリ氏の烏帽子。アイテムひとつで決めてしまった。折り畳んだ烏帽子をジーパンの尻ポケットに入れてる絵を勝手に想像してしまった。

つづいては規定部門。今回のモチーフは「痛み」であった。肉体的、あるいは精神的に痛い作品。顔をしかめて読んでいただきたい。

規定部門・モチーフ「痛み」

拳銃の撃鉄が私の手の肉をはさんだ。
もんぜん
満員電車の中、スケート靴に足を踏まれている。
あつし
この靴下のどこかに、枯れた芝が刺さっているはずなのだ。
てこん道
なんの部品だかわからないが、踏むとものすごく痛いものを踏んだ。
紀野珍
痔の手術前と手術後では、空の色が全く違って見えた。
おかめちゃん
痛いよおというセリフばかり、お人形ごっこから聞こえてくる。
山本ゆうご
手ぶくろの反対を答えたところまでは覚えている。
マッドまっすぐ
痛い、と思ったが挙げる手がなかった。
K嶋
素材違いでこんなにも痛い。
xissa
同窓会では未だにダーク3世と呼ばれる。
ウチボリ
パラシュートがうまく開かない。意識がどんどん冴えてきやがる。
プレミアムバザー高田
これは床に叩きつけられた痛みではない。受け止めてくれなかったファンへの想いだ。
g-udon
「ちょっと沁みるけど我慢しな」そう言うと、セレブ無免許医師は傷口にロマネコンティを吹き付けた。
トニヲ
巨人に放り投げられたボクは、東京タワーの尖端に突き刺さった。
ゆっきん
赤い折紙が小指と交差し、同じ色の切傷を引いた。
えむ毛
酒臭い最終電車のつり革に引っかかって帰る。安いあめが舌をつっと切る。
xissa
今月だけで3枚、コンタクトレンズが目の裏側に消えた。あと何枚入るのだろう。
洞窟ピエロ
「痛いの痛いの飛んでいけ」は放物線を描きながら僕の頭上に落ちて来た。
ぴすとる
「殴った方も痛いのよ」ナックルダスターの血を拭きながら母は悲しげに呟いた。
小夜子
私は、伸びきったゴムの端を噛んでいる。反対側には、弾けるような彼の笑顔が見える。
ぽんたろ。
彼女は泣きながら割れたガラスの上を歩いてる。歩かせているのは僕だ。もうずっと前から。
ホタテ
いたいのいたいのいたいのいたいのいたいのいたいのいたいのいたいのいたいのいたいのいたいのいたいのいたいの・・・お前のせいだ。
不眠
痛みを直接伝える作品と、痛さを織り込んだ作品に別れた。
なおいつもつけてる蛇足だが規定部門に関しては今後はここで、いくつかピックアップした作品につけることにした。やはり書き出し小説は作品のみで自立する方が基本。とくに規定部門はモチーフがあるわけで、各作品がモチーフに対してどんな趣向をこらしているかは、読者に委ねる方が楽しいと思う。

では上から順番に。まずはもんでん氏の作品。拳銃という痛さの象徴を持って来てこのフェイント。鮮やか。てこん道氏、ほとんど痒みと言っていいこの痛みに着眼した時点で勝利。マッドまっすぐ氏、アホすぎる(笑)。K嶋氏は二段オチというか、ホラーにもなっている。これだけで歯医者のシチュエーションが分かるところも秀逸。ウチボリ氏、こっち系の「痛い」を扱った作品の中ではいちばんシンプルでよく出来ていた。g-udon氏、ライブ中のダイブである。K嶋氏の作品もそうだがいい作品は最低限の説明で全体を理解させる。トニヲ氏、まあ痛みとはそんな関係ないけど(笑)キャラがいいよね。ゆっきん氏、この雑さというか大雑把さは逆に目を引いた。そしてえむ毛氏、xissa氏の作品はその対極にある繊細な作品。洞窟ピエロ氏、今回個人的にもっとも顔が歪んだ作品。ぽんたろ。氏の作品で、ゆーとぴあの芸を思い出した中年も多いのでは?不眠氏、締めを飾るにふさわしい。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「プレゼント」
間近に迫ったクリスマスと単行本発売に引っ掛けて、次回のモチーフはプレゼントとする。まずその品物から発想してもいいし、誰が誰に贈るのか、その理由、あるいは状況からも考えられる。サプライズ、懸賞の賞品、迷惑な贈り物など、割と幅広く考えられるテーマではないだろうか。
締め切りは12月12日正午、発表は12月14日を予定している。下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して送ってください。力作待っています!
最終選考通過者

ユーリ/いい感じの枝/Johnny/suzukishika/laughraven/夏猫/流し目髑髏/ビールおかわり/星だお。/松っこ/哲ロマ/スリッパ/Mch/一縷/不璽王/桃モカ/るる子/さくらなつ/柴咲ハコ/sou/靖丸/トミ子/いちごミルク信貴/もへろ3000//猫ぎょうざ/名前は「ナイ」/ヨシクニ/にぬっち/ミミズグチュグチュ/星見未来//pris/aubsk/もろもろ/TxMXK1985/麻海朝美/ささボーイ/蚕/Dの26/枕木/炊ける/
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