特集 2015年1月18日

書き出し小説大賞・第65回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説秀作発表第65回である。

今年最初の更新である。遅ればせながらおめでとうございます。昨年はようやく単行本も出版でき、今年も引き続き書き出し文芸の愉しさを広めていきたい所存である。みなさまよろしくお願いします。また明朝(19日)はラジオ文化放送「福井謙二グッモニ」にゲスト出演し、書き出し小説のお話をさせて頂く。よろしければお聴き下さい。それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう!

重版出来!書き出し小説単行本発売中!
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書き出し自由部門

親方は物言いの手を挙げたまま気を失っている。
紀野珍
息を呑む国技館!
私の叫びは届かず、ただ結露だけが残った。
ウチボリ
頬とガラスに水滴が垂れた。
確かに夜景は綺麗だった。許せなかったのはその後だ。
高橋明治人
読者への丸投げ感がよい。
同じ方向に5回避け、6回目で抱き締めた。
えむ毛
これはもう運命。
「サイバーテロや!!」父ちゃんが暗闇で叫んだ。母ちゃんは急いでブレーカーを上げにいった。
茂具田
レンジとホットプレート同時につけた。
彼は皿の上で角砂糖を積み上げることに夢中になっている。このテーブルは不安定にガタついていて、星座占い機も置かれていなかった。
小夜子
文末の星座占い機で全体が跳ねた。
ジャニーズ初の多重人格としてもてはやされた。
マークパン助
ひとりユニット結成。
蟹スプーンで筋肉を抉られるとくすぐったいの。死んでてもわかるの。
おかめちゃん
死んだ甲殻類の体感ものという稀有な作品。
彼女の輪切りの二の腕は、3日経っても性的なままだった。
隣の豚バラと比べて。
じじいは寝て。ばばあが笑うから。
ocamo
納得の分担。
それはギターソロというより、顔芸と呼んで差し支えなかった。
おもち
エアギターの最中しかできないえくぼがある。
落花生の薄皮のまとわりついた指で碁を打っている。
xissa
繊細且つ間抜けな秀作。
不思議なもんで真ん中に寄って垂れてくる。
ハラセン
股の付け根あたりから?
太陽は沈み、空から一隻の潜水艦が降りてきた。
おぎにゃん
Earth, Wind & Fireのジャケットみたいな画を想像した。
隣に越してきた家族は、俺の似顔絵を持って挨拶にきた。
TOKUNAGA
自分の嫌いな部分がデフォルメされた似顔絵を。
寒天に溝を切り蜜を垂らしてやる。
suzukishika
食欲と性欲。
触れてないのにお椀が動いたり、薬味のネギが箸をロックしたり、卵の黄身が双子だったり、和食の朝は冒険に満ちている。
いがそ君
和ショック!
ほんとうにワロタか確かめに行く途中で、もう、素顔に戻っているだろな、と薄々感じながらも歩みは止めなかった。
人が生きてる
モチベーションはもはや慣性の法則のみ。
一瞬だけでも歩道橋で雨を防げたのは嬉しかった。軽トラは進む、どこまでも。
シカトろっく
前略、荷台より。
どうしてあのとき素直に「俺も(痔)だよ」と言えなかったんだろう。
Mch
友の墓標を前に……。

今回気になったのは直接体感に訴える作品である。おかめちゃん氏の蟹の作品は筋肉の内側からムズムズする。xissa氏の落花生は指先のぬるぬる感、どちらも生理的な読後感がある。リアルな体感を文章で表現するのは意外と難しい。2作品はシュールな設定を用いることで逆に生理的なリアリティを出した。またsuzukishika氏の寒天作品は食欲と性欲、藤氏の輪切りの二の腕にはさらに死の気配をも漂う。これらも人の本能に直接訴えるテーマである。こうした本能や感覚は人の感情のさらに根源にあるものである。そこにダイレクトに繋がる表現は書き出しというインパクト勝負のジャンルにおいて、ひとつの有効な手段だろう。
今回はネタもののレベルも高かった。高橋明治人氏、ocamo氏の作品は技巧を捨てた潔さが吉と出た。これはこれで難しいと思う。

つづいては規定部門、モチーフは「天才」であった。書き出し作家の天才ぶりを堪能して頂きたい。

規定部門・モチーフ「天才」

天才の家の網戸は、とてもスムーズに開いた。
哲ロマ
このくらいだった、と広げる腕のサイズがいつだってドンピシャ。
ocamo
寝正月を考えたのは、私です。
トミ子
餃子のタレとラー油をキャンパスにこぼしただけで数千万円の値が付いた。
流し目髑髏
そんなヨイショされるほどの芸でもないさと先輩ははにかみながら美しく狙撃をする。
悠弥
箸を両手でまとめてジャラジャラ洗ってると、未来が読めてきた。
g-udon
「ほんと、あなたってモノをなくす天才ね」そう言って彼女は二枚目の離婚届を差し出した。
ビールおかわり
軽トラを急停止させ、震える手でレシートに音符を書き付ける。
豆腐鉄工所
天才が近づくと、鳩は少しだけ距離をおいた。
大伴
煙突に登っていく天才が小さくみえた。
TOKUNAGA
ビンタの衝撃を最小限にする首振りに関して、天才的才能を身に付けた。
ぴすとる
用意した食材はもやしだけの筈である。
TOKUNAGA
「ハーバードを出たんだ。このギャップを活かさない手はないだろう」人力車を引きながら大石はそう答えた。
紀野珍
ヒヨコの雌雄を瞬時に見分ける能力は、神様が僕にくれた「ギフト」だ。
夏猫
天才じゃなくてもいいから。ただ、君といたかった。この、満員のカーネギーホールの壇上に。一緒に。
みつる
圧倒的な拍手の大きさに大観衆が思わず彼のいる場所を見た。
ジャーゲジョージ
ポイントカードとMENSAの会員証をよく間違える。
彩月
リンゴが落ちた、ことにしておこう。
公共の八尾
ただひとつ、わからないという感覚だけが、どうしてもわからないのだ。
えむ毛
99%も努力できないっすよ。
よしおう
投稿作を一通り読んで、天才キャラは自分の天才ぶりに無自覚な方がよりキャラが立っていたように思った。哲ロマ氏、笑いの中に妙な説得力のある快作。トミ子氏の作品には「二度寝を考えたのは、私です」という姉妹作があった。考えた私に感謝したい。豆腐鉄工所氏と紀野珍氏のギャップに笑った。TOKUNAGA氏の煙突作品は天才をまったく無視した表現に作者自身の天才ぶりを感じる。夏猫氏、「ギフト」という洒落た言い方がなぜか笑える。みつる氏の作品はいったいどういう状況なのか分からないにも関わらず、へんに余韻だけがあるという変わった作品。ジャーゲジョージ氏、天才そっちか!と脱力&爆笑した。書き出し作家の天才ぶりを楽しんだ回であった。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「官能」
次回はズバリ官能。つまりポルノである。書き出しだけで読者を官能の世界に導いて欲しい。これまでにもボーイズラブ、変態などそっち系のモチーフは出したが、今回はストレートにエロいヤツ。とは言え書き出し小説ならではのひねりの効いたものを期待している。ハードコアなものからそこはかとないエロス、これも官能に入れるか!?というものまで、幅広い作品をお待ちしております。締め切りは1月30日正午。発表は2月1日を予定している。下の応募フォームから自由部門、規定部門を選択して送って頂きたい。力作待ってます!
らい麦。/laughraven/あつし/俺スナ/プレミアムバザー高田/空想庭園/くーみん/しろり/みぃさや/七階/まむーん/早百合/マエカワグリオ(再)/ババア伝説/じゅん/置き傘/prefab/ネコヘアー/もんぜん/wabisuke/パッチョルォゥ/正夢の3人目/義ん母
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