特集 2015年1月31日

看板が消えた? 三崎港「マグロード」の謎

!
「以前、三崎港に行ったときマグロードという通りがあったんですが、最近同じ場所に行ったらなくなってました。当時は「マグロード」と看板も出てた気がしたんですが、調べてください」

はまれぽ.com読者のきょろちゃんさんからこんな投稿が届いた。

調べてみると、マグロードは1985年に大沢屋スポーツ店の店主大谷さんが命名。三崎銀座商店会・入舟すずらん通り商店会・日の出通り商友会の愛称だったが看板はもうない、ということがわかった。

はまれぽ.com 細野 誠治
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三浦の崎(みさき)、三崎口。マグロが集まる三崎口

三崎と言ったらマグロ!
まぐろ、マグロ、鮪!
まぐろ、マグロ、鮪!
マグロと虎舞竜・・・ではなく道を表すロードを組み合わせたと思われる「マグロード」。投稿によると、そんな名を冠した通りがあったらしい。そして現在は無いとか。なぜ無いのか? 街の体を表した、いいネーミングだと思うんだけど。

・・・というワケで三浦市は三崎口(三崎港)へ行って真相を確かめることに。
「マグロード、ご期待ください!」
京急久里浜線の終着駅「三崎口」へ
京急久里浜線の終着駅「三崎口」へ
駅構内から、すでにマグロ尽くし
駅構内から、すでにマグロ尽くし
三崎港へは駅前ロータリーの2番乗り場からバス(三崎口)で
三崎港へは駅前ロータリーの2番乗り場からバス(三崎口)で
20分ほどバスに揺られると三崎港へ到着。この辺りがマグロでにぎわう一大観光スポットとなっている。
目の前は港、そして海
目の前は港、そして海
お店の看板もマグロだらけ
お店の看板もマグロだらけ
三浦市三崎水産物地方卸売市場でマグロの競りを見学
三浦市三崎水産物地方卸売市場でマグロの競りを見学
取材日はあいにくの雨。が、この日、素晴らしいものに出会えた。
三崎の鎮守・海南(かいなん)神社でのこと
三崎の鎮守・海南(かいなん)神社でのこと
伝統舞踊の「チャッキラコ」
伝統舞踊の「チャッキラコ」
地元に伝わる、女性だけの小正月行事で250年以上の歴史がある。
国指定重要無形民俗文化財であり、ユネスコ無形文化遺産登録もされている非常に由緒あるもの。

毎年1月15日に少女たちが舞い、その母と祖母らが素唄で繰り広げられる様は地元や遠方、海外からも観光客が訪れるそうだ。

すごい。3代に渡って紡がれる伝統舞踊が今も残ってるなんて。
三浦って、いいところだな~。
・・・なんて、ちゃっかり観光を堪能する筆者
・・・なんて、ちゃっかり観光を堪能する筆者

マグロードを探せ! Part-1(聞き込み編)

さて問題のマグロード。一体、どこにあるのだろうか?
港周辺で聞き込みをするが、なかなか知っている方に出会えない。

そんな中、ようやく「あぁ、マグロード」とおっしゃる方に出会えた。
榎本光博さん。68歳
榎本光博さん。68歳
三崎銀座商店会の洋品店、創業1935(昭和10)年の「榎本商店」のご主人
三崎銀座商店会の洋品店、創業1935(昭和10)年の「榎本商店」のご主人
「この辺りが“マグロード”ですよ」と榎本さん。
そうなんですか? マグロードと書かれた看板が昔、あったそうなんですが。

「看板が古くなってね、街灯を取り替えたときに捨てちゃったな」と。
街灯に取り付けられたプレートに書かれていたそうだ
街灯に取り付けられたプレートに書かれていたそうだ
街灯の付け替えは今から5~6年前(2009<平成21>年くらい)。
電球タイプのものからLED照明にしたときに「マグロード」の看板を捨ててしまったという。

もったいない! すごくいい名前だと思うんですけど。

「マグロード」の始まりは30年前。1985(昭和60)年。
当時、通りのアスファルトをカラーのブロック舗装にしたことによる。
凸凹で歩きにくいからということで・・・
凸凹で歩きにくいからということで・・・
その翌年、1986(昭和61)年に街灯を設置する。この舗装化、街灯の設置は隣接する3つの商店街が協力して行われた。
3つの商店街は「榎本商店」のある「三崎銀座通り商店会」とお隣り「入舟すずらん通り商友会」、さらにそのお隣りの「日の出通り商友会」。
こちら「入舟すずらん通り商友会」
こちら「入舟すずらん通り商友会」
そして「日の出通り商友会」
そして「日の出通り商友会」
三崎港・北条湾から1本入った通りに3商店街があります
三崎港・北条湾から1本入った通りに3商店街があります
この3商店街がひとつになって「サンロード」という名に(サンロードのサンは「太陽の元」という意味と、数字の3から来ている)。

この「サンロード」という名を街灯のプレートに刻むことに。
・・・が、ここで当時、入舟すずらん通り商友会の「大沢屋スポーツ店」の店主・大谷浩一氏が「サンロードじゃ味気ない。もっと何かいい名前はないか?」との声から「マグロード」という名が誕生する。
かつてこの場所に「大沢屋スポーツ店」があった
かつてこの場所に「大沢屋スポーツ店」があった
「三崎と言えばマグロだし、マグロと通りのロードで“マグロード”でいいんじゃないか?」

これが始まり。

なるほど~と感心していると「和菓子屋の嶋清(しませい)さんならもっと知ってるかもよ」と教えていただく。
榎本さんにお礼をして次の店へ。
菓子の老舗、創業1853(嘉永5)年は162年前! 「嶋清」
菓子の老舗、創業1853(嘉永5)年は162年前! 「嶋清」
ご主人の秋本清道(きよみち)さん。64歳
ご主人の秋本清道(きよみち)さん。64歳
こちら秋本さんは三浦市商店街連合会の専務理事。
これは心強い! 何か知ってらっしゃるかも。
「マグロード? あぁ、この辺りな」
3つの商店街を指す呼び名なんですけど・・・。
「何とな~く付けただけだよ。商店街でも知ってる人間なんかいないよ。観光のお客さんなんかはもっと、認知度は少ないね」
いや、読者さまからの投稿なんですが・・・。
「あっ、そうなの!?」

秋本さん、びっくり。

それでも話しているウチに段々と思い出されたようで。
「そういえば通りを示した案内の看板もあったな・・・」
どこにあるんですか!?
「錆びて壊れて、捨てちゃった」

細野、びっくり。
駅前にある案内表示。こんな感じだったんだろうか
駅前にある案内表示。こんな感じだったんだろうか
がっかりしていると秋山さんから「向かいのお店にいる杉山さんは古い写真を集めててね、ことによると写真に撮ってるかもよ」と教えていただく。

何だかロールプレイングゲームのように。
秋本さんにお礼をして次のお店へ。
第3の証言「Sugiyama(杉山洋品店)」さん。レディースファッションのお店
第3の証言「Sugiyama(杉山洋品店)」さん。レディースファッションのお店
お隣りを無料スペースとして解放している。お近くの方はぜひ
お隣りを無料スペースとして解放している。お近くの方はぜひ
創業から100年以上の歴史があるSugiyama、オーナーの杉山匡子(きょうこ)さん(年齢とお写真はNG)に取材目的をお話すると、古いお写真を見せていただくことができたのだが、こちらでもマグロードの手がかりは得られなかった。
それでも大変に貴重なお写真が見れた。少しだけ掲載。
昭和初期と思われる、当時の三崎港
昭和初期と思われる、当時の三崎港
左から1929(昭和4)年、1930(昭和5)年の市場の様子
左から1929(昭和4)年、1930(昭和5)年の市場の様子
1964(昭和39)年ごろの“マグロード”
1964(昭和39)年ごろの“マグロード”
同じく1964年ごろのにぎわう“マグロード”
同じく1964年ごろのにぎわう“マグロード”
すごいにぎわいだ。

かつて三崎港はカツオの水揚げで有名な港だったそうだ。やがてカツオの漁獲量が減るとマグロへとシフト。そして現在、マグロの水揚げ量も減少しているそうだ。

三崎港近くにあるお店は、ここマグロードを含め大変に歴史が深いお店が多く、創業が100年を越える店がたくさんある。
多くは元々、入港した船の乗組員たちを当て込んだ宿や食品、雑貨や作業服、釣り具といったものを扱っていたとか。それが時代を経てさまざまな業種へと変わっていったのだ。
1957(昭和32)年の港前。写真に見える酒屋さんは現在もある
1957(昭和32)年の港前。写真に見える酒屋さんは現在もある
万事休すか。
「商工会議所に行ってみたら」と匡子さん。
「その間にマグロードに関係あるものを探しておくから」とも。

ありがとうございます! 確かに商工会議所なら記録があるのでは。
マグロード目の前、三浦商工会議所
マグロード目の前、三浦商工会議所
事務局長の堀越英一さん(お写真はNG)を訪ねるも・・・。
カラー舗装、サンロード命名の記述はあるも「マグロード」はナシ
カラー舗装、サンロード命名の記述はあるも「マグロード」はナシ
終わった・・・。
調査が、きっちり終わった。
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マグロードを探せ! Part2(マグロ実食編)

事務局長に商工会議所、街の古写真を収集されている方に聞いても、当時のマグロードの看板のあったころの名残りは見つからなかった。

がっかりと肩を落として匡子さんの元へ行くと・・・
「マグロードの看板があったころのものが見つかった」と嬉しいお知らせ。

どこですかっ!?
「こっち、こっち・・・」
えーーーーーっ!!
えーーーーーっ!!
秋本さんのお店、嶋清の外壁とエアコン室外機の間に「すっごく無造作」に丸い看板が。
マグロードの看板と同じころに掲げられていたものだそう
マグロードの看板と同じころに掲げられていたものだそう
間違いなくマグロのイラスト
間違いなくマグロのイラスト
「海が見える三崎 歴史の散歩径」
「海が見える三崎 歴史の散歩径」
「マグロード」という文字は入っていないものの、同じころに取り付けられていたもの。

「すっごく無造作」過ぎたんで秋山さんに言う。
ちゃんとしまっておいて下さいよ、盗まれちゃいますよっ。
「分かった、しまっとく」
本当ですよ?

丸1日かけて投稿をいただいたきょろちゃんさん思い出の看板を探したが、そのものズバリは見つけることが叶わなかった。(同時期のものはあったけど)それでも探す過程で三崎の歴史、3商店街の変遷をチラリと伺うことができた。

・・・と、記事を締める前に、せっかく三崎に来たということでマグロを堪能しよう。場所はもちろんマグロード(日の出通り商店会)のお店へ。
三崎の超・超有名店、創業1970(昭和45)年「くろば亭」
三崎の超・超有名店、創業1970(昭和45)年「くろば亭」
・・・だ、そうです
・・・だ、そうです
元々、地元料理だった「マグロの兜焼き」を全国に知らしめたお店。

テレビや雑誌で見たことあるという読者さまはきっと、こちらのお店だったと思います。
カウンター10、お座敷席30の40席
カウンター10、お座敷席30の40席
土日祝日ともなると約2時間待ちは当たり前。筆者は平日の午後、昼時のピークを避けて入店。雨ということもあり、ゆっくりと堪能できた(よしっ!)。

筆者が頼んだのは定食と単品の1番人気メニュー。
まぐろ漬けトロ天丼、1620円
まぐろ漬けトロ天丼、1620円
鮪カルビ焼、1080円
鮪カルビ焼、1080円
いただきまーす(自撮り失敗ショット)
いただきまーす(自撮り失敗ショット)
漬けマグロは肉厚で上品な味付け。そして漬けながら新鮮なことが分かる。口に入れると「良~いお刺身!」って理解できます。
マグロの天ぷらはこんなにデカい
マグロの天ぷらはこんなにデカい
この天ぷら、サクサクで味しっかり。漬けマグロと交互に食べれば対比でその都度、新鮮に美味しく堪能できます。

で、細野的オススメは鮪カルビ焼。すっごく美味いです! 牛肉のそれと言われて信じる人もいるくらいのもの。甘辛タレが本当に凄い。クドくなくサラリなのでパクパク食べちゃいます。薬味の「唐辛子味噌」を付けるとさらに食が進みます。
訪れたら絶対!
訪れたら絶対!
記事を書いている今でも思い出すと涎が・・・。
2時間待っても全然、余裕なお店です。ここは是非ぜひ!
と、ここでサービスのお刺身が
と、ここでサービスのお刺身が
お昼時にタマ~にサービスで出るそうで、この日は当たり。
左からアジ(東京湾)、メジナにタコ(城ヶ島)にサワラ(相模湾)とすべて三崎港で水揚げされたもの。
2代目の山田拓哉さん、42歳
2代目の山田拓哉さん、42歳
「ウチはすべて三崎港で上がったものをお出ししています。三崎というと、まずマグロというイメージですが、(三崎は)東京湾と相模湾の船が入るのでいろいろな魚が新鮮で本当に美味しいものがそろうんです」と拓哉さん。
地産地消。写真に見えるメモは三崎で揚がったことを示す
地産地消。写真に見えるメモは三崎で揚がったことを示す
ここでお店にいらっしゃるほかのお客さんにも聞いてみよう。
平塚からお越しのお嬢様方
平塚からお越しのお嬢様方
平塚から来た5名は月に一度「美味しいものを食べる会」の皆さま。三崎と言ったら、くろば亭!」ということでご来店。
この日はチャッキラコを見て、ぶらぶら散策、くろば亭でご飯を食べてこれからお土産を探すそう。

この通り、マグロードって呼ばれているんですがご存じでしたか?

この質問、ポカーンとされてしまった(失礼しました)。

取材を終えて

三崎の街は「マグロの街」。それは港から水揚げされるマグロで有名になった。しかし今は水揚げが減ってしまった。このままでは街が廃れてしまう。

そこで三崎の飲食店が力を合わせてさまざまな料理を作り、アピールして今に至っているそうだ。

マグロが水揚げされる街から、美味いマグロ料理が食べられる街へと変わったのだ。食材は地場のもので、間違いがなく新鮮。美味しさは絶対だ。
メバルの唐揚げ。くろば亭、2番人気の品
メバルの唐揚げ。くろば亭、2番人気の品
マグロードという看板は、もう無いものの通り全体、街全体で「マグロの美味しさ」を発信している街です。

横浜から京急線に乗って50分。歴史散策するも良し、美味しいマグロを堪能するも良し、な街だと思います。

そして最後に、マグロードを散策中にメインストリートから伸びる小さな路地に、あの看板を発見しました。
マグロードの名残り
マグロードの名残り
それではこの辺で。

―終わり―
菓子の老舗 嶋清
〒238-0243 三浦市三崎3-4-13
電話:046-881-2036
営業時間:9:00~18:00(水曜定休)

榎本商店
〒238-0243 三浦市三崎3-3-2
電話:046-881-3505
営業時間:10:00~18:00(水曜定休)

杉山洋品店
〒238-0243 三浦市三崎2-11-6
電話:046-881-3363
営業時間:10:00~18:00(水曜定休)

くろば亭
〒238-0243 三浦市三崎1-9-11
電話:046-882-5637
営業時間:11:00~20:00(水曜定休)
URL:http://www.kurobatei.com
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