チャレンジの日曜日 2015年2月1日
 

書き出し小説大賞・第66回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

書き出し小説秀作発表第66回目である。

さて、来る2月10日、書き出し小説発売記念イベント「2015年書き出し本屋大賞」を開催する。ゲストはデイリーポータルZのウェブマスターこと林雄司氏、新譜「1212」も発売されたばかりのスチャダラパーANIさん!詳細はこちら! 書き出し小説の魅力を存分に語るつもりです。是非、お立ち会いよろしくお願いします。
それでは今週もめくるめく書き出しの世界にご案内しよう!
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書き出し自由部門

能面はクール便で届いた。
ウチボリ
すぐに冷凍庫へ。
アニキと呼んで後ろをついてまわっていたトラックが左折した。
xissa
流石だぜアニキ!(どこが流石か分からんけど)
広告を閉じているうちに動画は終わっていた。
紀野珍
犬がしゃべる動画ね。
全員かかってこいよ。鍵を掛けたアカウントでつぶやいた。
人が生きてる
孤独な部屋で不敵な笑み。
箸から落ちたマカロニが、太ももで冷たい。
人が生きてる
咳をしてもひとり的な。
上司に怒られている間、ずっと軽快な日本語ラップが流れていた。
トミ子
ブックオフで流れそうなヤツ。
デート中もずっと丸太を履いている彼女は、そのまま川の上を歩いて帰った。
俺スナ
若干川下に流されながら。
故郷から二五〇キロ遠くまできた蝿はサービスエリアの裏の森に消えた。
suzukishik
蠅ってそういうとこあるよね、と思わせる秀作。
ズボンを履こうと片脚を上げたがストレッチャーで目覚めた。
いがそ君
ズボンは穿けてなかった。
話が弾んだので、火葬はすぐに終わった。
TOKUNAGA
おすすめアプリの話で。
私服の委員長は猫背をめいっぱい反らして短く2度鳴いた。
Mch
私服委員長萌え。
金魚の吐き先を求めて、口をふくらましながら、川のほとりを歩く。
もんぜん
だから話し掛けないで!
彼は共産主義に共鳴し、資産の1%を寄付した。
ウチボリ
ペットの里親支援にも1%
オカマだらけの口ゲンカ大会は愛に満ち溢れ、48時間後に出場者は全員美しい釜になった。
茂具田
罵声のようで実は激励。
午前三時、ゆっくり引き金を引くが如く、ゆっくり玄関の鍵を回す。
ぴすとる
奥から女房のイビキが。

一発目、ウチボリ氏の能面作品は読んだ瞬間に浮かぶ衝撃的なビジュアル、たしかに能面はクール便だなという、根拠のない説得力を併せ持つ快作。人か生きている氏の二作はどちらも現代の尾崎放哉といっていい孤独感が漂う。俺スナ氏、丸太を履いたビジュアルというのが多少想像しずらいがそれを上回る間抜けな後半でもうどうでもよくなる(笑)suzukishik氏、蠅の無自覚な行動からなんとも言い難い感傷をつくり出した。トイレじゃなく裏の森というところがいい。TOKUNAGA氏、深刻は状況をまるで回転寿司の順番待ちのようなライト感覚に変換した。もんぜん氏、人はさまざまな理由で歩く。が、これほどレアな理由はなかなかない。主人公の表情を想像するだけで笑える。
TOKUNAGA氏、人が生きてる氏の作品などは自由律俳句のセンスに近い。単行本を出したあと何人かに書き出し小説と自由律俳句の違いについて問われたが、とくに別けて考える必要はないと思う。ただ書き出し小説は自由律俳句よりさらに自由な題材、趣向を扱える短文表現とは言えるだろう。

続いては規定部門、モチーフは「官能」であった。さすがに引きの強いモチーフだけあって応募数もいつもの倍近くあった。なので採用も30本に増量した。書き出しだけのエロスにぞわぞわして頂きたい。

書き出し規定部門・モチーフ「官能」

女は恵方を向いてしゃがみ、私は反対に立って目を閉じた。
g-udon
SがMを責めるとLが生まれた。
ネコヘアー
薫の喘ぎ声で割れたワイングラスは、もう何脚目だろう。
おかめちゃん
コタツで乱暴にみかんの皮を剥くと、濃厚な汁が飛び散った。
ピザオブテツ
細切れになった豚肉に罵声を浴びせ、カレーに入れていく。
俺スナ
夜の義母はまるで吸引力の落ちない掃除機だった。
Mch
聞いて欲しい。新しく雇った息子の家庭教師は「たす」を「くわえる」と言うのだ。
g-udon
木魚が激しくなるにつれ、加奈子は未亡人としての自覚を失っていった。
g-udon
結婚指輪を外す彼女の指が、艶かしく、反った。
悠弥
窓の外で信号が変わり、汗ばんだ女の体が赤く染まった。
紀野珍
夜の営みを終えると、金魚の餌は幾らか沈んでいた。
TOKUNAGA
ささくれた指先に溶けた彼女が染みこんでくる。
大伴
髪は冷たく、肌は熱い。
xissa
女は慣れた手つきで傘袋を抜いた。先端に溜まった雨が、他の人よりも少し多い。
大伴
団地の暗い踊り場で、人妻は着ぐるみを脱いだ。
たこフェリー
その音を挿入曲と名付けた。
TOKUNAGA
今だ痙攣が止まないうちに、脱がされ、骨抜きにされ、鮮魚コーナーに並ばされた。
お米炊けるのミコト
返しそびれた節子の乳首が、引き出しの奥で静かに硬くなり始めた。
タクタクさん
ゆっくりと唾液を遊ばせながら、漢字王の舌は夕子の口の中で薔薇と書いた。
もんぜん
薄い壁の向こう。専門学生が揺らせるものを全て揺らしている。
義ん母
灯りを消した。二人の身体から、マジックテープを剥がす音だけが聞こえる。
あつし
・− ・− −・ ・・ ・−・− (いいだろ)−・ ・・ −・・・− −− (だめよ)真夜中の戦線で信号が交わった。
よしおう
女将エロけりゃ割烹着までエロい。
よしおう
肢体を固く縛る縄が、笛の音色と共に曇り空へ伸びて行く。
あつし
私はあなたの、狼になり、豚になる。
もんぜん
打ち据えるたびに彼女からは水仙の匂いがする。
xissa
「顔面騎乗って、意外と苦しくないな…」そこまでの記憶は確かにあったんだ。
ぷにくさん
性転換の境目で絶頂を迎えた。
えむ毛
したのまつげ。
人工知能
帰巣本能の赴くままに僕は顔をうずめた。
えむ毛
言葉のエロスはやはり、どれだけ相手のイマジネーションを刺激するかに掛かっている。その点で書き出しと官能はかなり相性がいい。ピザオブテツ氏、俺スナ氏は食欲と性欲をうまくマッシュアップした。g-udon氏の作品はどれも安定のネタもの。紀野珍氏、TOKUNAGA氏、大伴氏、xissa氏、常連組はさすがにただ扇情的な作品ではなく、繊細なエロスを感じさせる。おかめちゃん氏の採用作は大人しめだが、得意のモチーフだけあって他にもあらゆるアプローチの作品があった。タクタクさん氏の作品はシュールな作風が現実では捕らえきれない官能を表現した。性癖は人の数だけを実感した回であった。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「歴史人物(世界編)」
以前、日本編はやったので今回は海外編。歴史上有名な人物をモチーフに語られなかったもうひとつの歴史を書いていただきたい。今回は人物のチョイスも大切だが、どんなキャラに仕上げるか、またどんな文体で語るかで面白い作品ができると思う。締め切りは2月13日、発表は2月15日を予定している。下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して送って頂きたい。力作待ってます!
最終選考通過者

流し目髑髏/ふじーよしたか/アイアイ/ほねつくり/ネコヘアー/大倉野のりゆき/妖怪きのこ/鼻めがね/小夜子/彩月/トーフ・ジャパニーズ/wabisuke/悠弥/ocamo/merumo/ミミズグチュグチュ/哲子の時間/正夢の3人目/かずあき/ボーフラ/死んだ黒猫/prefab/テクハネ/
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デイリーポータルZ新人賞

 
 
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