チャレンジの日曜日 2015年2月15日
 

書き出し小説大賞・第67回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。

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書き出し小説秀作発表、第67回目である。

先日、イベント「書き出し本屋大賞」が神楽坂ラカグにおいて開催された。お集まりいただいたファンのみなさま、作家のみなさま、関係者のみなさま、どうもありがとうございました!「本屋」をモチーフにしたスペシャル規定部門では見事、義ん母氏の作品「いきなり背表紙に叱られた」が優勝。イベントは盛況のうち幕を閉じた。今後とも一層、書き出しの輪が広がるよう精進する所存である。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界をご紹介しよう!

書き出し自由部門

裸族がそう言うことで、逆に説得力が増した。
おかめちゃん
裸族ならではマナーも知りたい。
創作イタリアンの正面ガラスに、白い文字でびっしり私の愚痴が書かれてある。
人が生きてる
おしゃれな被害妄想。
母校の手すりからもらったささくれ、まだ親指の根元にしまったままだ。
人が生きてる
シャーペンの芯も。
白いうんこを出す時期に、一年の短さを感じます。
まじいい
バリウムかな? 年に一度は人間ドッグへ。
審判全員が踵で線を引き出した。
いがそ君
ナスカの地上絵も審判が?!
2人の落ち武者は、髪の乱れ具合を誉めあい続けた。
茂具田
「続けた」のシメが怖ろしさをアホらしさを倍増させる。
三回目の賃貸契約更新はしなかった。プロポーズまで、徒歩七分。
真夜野ふみ
ストーリーの輪郭がつかめそうでつかめないところがいい。
人が避けた席には、それなりの理由がある。
ふじーよしたか
「席」は世間的なポジションともとれる名言。
向かい風に立向かい、目の前の栄光まであと少し。そんな髪型にして欲しいと頼んだ。
kjm
髪型の注文はときとしてポエムになる。
「ここらの天狗は、蹴ってくるから気を付けんといかん」
正夢の3人目
頭上から?!
想像してごらん。そういう眼鏡がダサくなり、そしてふたたび流行ることを。
大伴
無駄な時間をありがとう!
風呂場でしゃがんでいた爺ちゃんが、復活したての戦士にみえた。
TOKUNAGA
老いたターミネーターにも見える。
夢の中で跳ねたトランポリンの感触が、午後の会議を無意味な物にする。
エリンギ
プールの後の授業的な。
寄りかかった猫の形に網戸が伸びて、家主は留守だ。
xissa
広がった網目のCGっぽさよ。
みぞれが墓場を叩く頃、和尚さんの読経は寝言に変わってゆきました。
ボーフラ
和風ゴシックからのほのぼのオチ。
私が見始めたのは、マジシャンの手から練りワサビが出たところからだった。
ウウタルレロ
ネズミ花火っぽくね。

今回も書き出し小説らしいバラエティに富んだ作品が集まった。もはや「書き出し」という枠に囚われない書き出し小説だが、この表現がいわゆる「ネタ」と一線を画すのは、一文が持つ深さと広がりにある。笑える作品はたしかに多いが、そこには敢えて秘された事情や経緯、世界観がある。
冒頭のおかめちゃん氏の作品、裸族が言った説得力あるひと言とはなんだったのか? 人が生きてる氏のガラスに書かれた愚痴の内容とは? 正夢の3人目氏の「ここらの天狗」が足技を使うようになった経緯とは? もっとも作者は「敢えて」書かなかったわけではなく、ただ読者に丸投げしただけかもしれない。しかしなにをどう投げるか、そしてそれをどう受け止めるか。作品にはさまざまなタイプがあるが、このコミュニケーションが書き出しの醍醐味であることに変わりはない。

続いては規定部門。今回のモチーフは「歴史人物(世界編)」であった。教科書に書かれなかった裏歴史をご紹介しよう!

書き出し規定部門・モチーフ「歴史人物(世界編)」

ガンジーが生涯でただ一人、殴った男の話をしよう。
高橋明治人
ナイチンゲールの前に検尿の列が出来ていた。
もんぜん
ファーブルにも少なめに虫除けスプレーをかけた。
TOKUNAGA
「またとびきり悲しいやつ、頼みますよ」と声をかけられ、シェークスピアはほとほと嫌気が差した。
紀野珍
「娘の部屋には一歩も入れません」が、ペリーの鉄板ジョークだ。
NCハマー
そもそも、ナポレオンこそが下町生まれだった。
菅原 aka $UZY
鏡のなかのぎこちない笑顔に、トルストイは絶望した。
紀野珍
電気メーターが勢いよく回るのを見て、劉備は孔明の居留守を悟った。
g-udon
パンもねえ、菓子もねえ、ネイルもそれほどデコってねえ。
suzukishika
ごはん、味噌汁、おかず。順ぐりに食べなさいと叱られて、モンテスキューは思った。「これって……?」
suzukishika
実物と棺が違いすぎる。ツタンカーメンのプライベート写真が流出した。
アイアイ
イチジクの葉の裏には小さな毛がたくさんあり、それが陰毛に絡んで股間に貼り付いているのだと男は教えてくれた。
山本ゆうご
万引きの瞬間をニュートンは見ていた。
TOKUNAGA
三時ピッタリに私の家の前を横切るカントじいさんは、きまって門扉脇に痰を吐いていく。
g-udon
釈迦が歯を磨き始めると、弟子たちは思わず耳をそばだてた。
柴咲ハコ
これはまだヌルハチが、羽毛布団の訪問販売員をしていたころのはなしである。
よしおう
アインシュタインの舌が、日に日に伸びている。
大伴
カフカと連呼し続けていると、次第に手触りになった。
人が生きてる
ルイは見た。ルイの手のひらには汗で滲んだ数字が書かれていた。ルイはたまに、自分が何世だったか忘れてしまうのだ。
哲ロマ
あらあら、おじいちゃん。またユリイカなのね?
正夢の3人目
方舟と方舟が擦れ違う瞬間に、ノアとノアは手を上げて挨拶を交わした。
あつし
五枚目の覆面を取ったところで、クレオパトラは乳液を顔に塗りたくった。
みぃさや
舞台が暗転し、「もっと光を!」でゲーテの一人コントは終わった。
たこフェリー
エジソンが本当に作りたかった物。それを今、そっと股間に押し当てる。
kjm
歴史は残された資料によって歴史家がつくった物語である。ならば歴史は自称歴史家を名乗る人の数だけあってかまわない。
ガンジーの逆鱗に触れた行為はほんのささいなことだったのかもしれない。ナイチンゲールは保健室のマドンナ的キャラだった。ファーブル家の軒先に出来たスズメバチの巣は駆除さえるのだろうか。シェークスピアだって不条理コントを書きたかったのかもしれない。三顧の礼の二回は居留守だった。三権分立の起源は三角食べ。盗癖もまたひとつの引力である。もしもアインシュタインの写真に霊が取り憑いたら。カフカが手触りに「変身」するという驚き! ルイ王はもう額にナンバリングした方がいいかもしれない。方舟がすれ違う際のまるでバスの運転手のような挨拶、発明王のモチベーションはやはり性欲だった……いやはや歴史モチーフはいつも鉄板、今回も笑わせていただきました!

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「戦争」
重いテーマである。とくにいまのご時世からすれば深刻なモチーフかもしれない。しかしここでこのモチーフを取り上げることに思想的な理由は一切ない。いつも通りに臨んでもらいたい。徹底して笑いにするもよし、戦場エンタメにしてもよし、また国際間の戦争だけではなく、日常、身の回りはさまざまな戦争がある。もちろん創作の過程でなんらかの思いが沸き起こればそんなメッセージを込めた作品でも構わない。無数の戦争作品を並べることによってまた違う価値観が生まれるかもしれない。

締め切りは2月27日正午、発表は3月1日を予定している。下の投稿フォームから自由、規定いずれかを選択して応募して欲しい。力作待ってます!
最終選考通過者

ぴすとる/ねもっ血風クン/ババア伝説/鼻めがね/流し目髑髏/Mch/ハラセン/prefab
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