特集 2015年2月19日

積雪3m!真冬のダム見学会

見慣れた場所の見たことない景色
見慣れた場所の見たことない景色
関東地方の水がめのひとつ、群馬県みなかみ町の利根川最上流に造られた矢木沢ダムは、毎年12月から4月くらいまで訪れることができなくなる。

豪雪すぎて道が閉鎖されるのだ。

しかし今年、初めて一般向けに冬季見学会が開催された。人目に触れることのなかった真冬の矢木沢ダムの姿が見られる!ということで、迷わず応募した。そして参加してきた。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:ものすごく動く錯視

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マスコミからダム好きへ

矢木沢ダムの冬は厳しいと聞いていた。多いときで積雪は3mを超すという。
春から秋にかけては空気の美味しい気持ちいい場所です
春から秋にかけては空気の美味しい気持ちいい場所です
そんな真冬でも、ダムに水を貯めたり放流したり操作しなければならない。以前はダムの管理所とトンネルで繋がった宿舎があって、冬は1週間交代で数人が泊まり込みの勤務をしていたという。下界とは雪上車で行き来していたそうだ。
以前はこれでダムまで通勤していたらしい
以前はこれでダムまで通勤していたらしい
最近は除雪用の重機が増え、ダムまでの道は除雪されるようになった。また、ダムも遠隔操作できるようになり、職員さんが来るのも週に2日程度で良くなったという。きっと点検などのほか、管理事務所まわりの除雪をしないとドアが開かなくなったりするのかも知れない。

でも関東平野にほとんど雨が降らず、山の方も雪ばかりで利根川を流れる水の量が減る冬場こそ、それまで貯めた水を少しずつ流して飲み水などを供給するダムの本領発揮のとき。雪に覆われた中でもがんばっているんだぞー、ということをPRするため、実は過去2年、この時期にマスコミ関係者向けの見学会が行われていた。しかしそれほど人数が集まらなかったのか、記事にはなっても小さな写真と数行の文章だけであまりPR効果がなかったのか、どうしてか分からないけれど、とにかく今年は一般向けの見学会が開かれることになった。

でも、ホームページに出た募集の告知をよく見ると、参加資格は「SNS等何らかの方法で情報発信できる方」となっていた。見学会の内容を積極的に公開して良いのだ。これってつまりマスコミを通したPRをやめて、ダム好きを通したPRに切り替えたということなのかも知れない。

というわけで張り切ってレポートします!
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初めて一般人が冬の矢木沢ダムへ!

平日の朝8時半、参加者は群馬県沼田市にある水資源機構沼田総合管理所に集合した。ここから4輪駆動のマイクロバスに乗って厳冬の奥利根を目指すのだ。

沼田では道路脇に少し残る程度だった雪が、みなかみ町に入ると一面銀世界。屋根の上や道路脇に高く積み上がっていた。
みなかみは雪深かった
みなかみは雪深かった
あちこちで除雪作業が行われている
あちこちで除雪作業が行われている
みなかみの温泉街を抜け、バスはぐんぐん山道へ。矢木沢ダムに向かう専用道路に入ると、両側の雪の壁はバスと同じくらいの高さになった。
こういう景色見たの初めて
こういう景色見たの初めて
雪の壁の間を進む
雪の壁の間を進む
ちなみにここ、去年の春先は試験放流の見物で車がズラリと並んでいた(→この記事)あたりである。およそ9ヶ月ぶりに訪れたらまったく違う景色になっていて感慨もひとしおだ。
あと3ヶ月で本当にこうなるのか
あと3ヶ月で本当にこうなるのか
そして、ようやく矢木沢ダム近くの以前は宿舎だった建物に到着。ここからはバスを降りて、およそ500mのトンネルを歩いてダムに向かう。でもその前に、これまで何度も来た場所のあまりの景色の違いに圧倒された。
放流を見るために多くの人が陣取っていた橋は
放流を見るために多くの人が陣取っていた橋は
こんなに埋まり
こんなに埋まり
ずぶ濡れになりながら放流を見ていた道路も
ずぶ濡れになりながら放流を見ていた道路も
先に進むことさえできない
先に進むことさえできない
豪雪地帯だから当たり前なんだけど、やっぱり話に聞いていても想像はできなかった世界だった。雪が融けたら、雪のあった頃を思い出しながらもう一度景色を眺めてみたいと思った。

それでは、ダムへ続くトンネルに潜入。冬の矢木沢ダムに向かいます。
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柵より高い

宿舎とダムの間を結ぶトンネルは埃っぽくて、ところどころ水たまりもあって、あまり快適とは言えない道だった。でも冬の間はこれがダムと下界を結ぶ唯一の手段なのだ。みんな黙ってダムまで歩いた。
トンネルを歩くことおよそ20分
トンネルを歩くことおよそ20分
やがてエレベーター乗り場に到着。これは矢木沢ダムの堤体の中を通っているエレベーターだ。これに乗って最上部まで行くとダム上の道路に出られるはずだけれど、この日は途中で降りてダムの中の通路を歩く。きっとダムの上の道路は雪で覆われていて外に出られないんだろう。

通路は管理事務所に直結していて、その中を通ってようやくダムの外に出られた。

2月の矢木沢ダムは想像よりもすごいことになっていて、うまく言葉が見つからない。
堤体の上に3mくらい積もっている雪の上を歩く
堤体の上に3mくらい積もっている雪の上を歩く
この記事最初の写真の場所はこんな感じ(ダム名が書いてある看板は壊れないように取り外してある)
この記事最初の写真の場所はこんな感じ(ダム名が書いてある看板は壊れないように取り外してある)
下流側はオーバーハングしているので雪がつかない
下流側はオーバーハングしているので雪がつかない
これまで何度も来ている矢木沢ダムだけど、いつもより視点が2~3m高いところにあるので微妙に見える景色が違って不思議な感じだった。

堤体の上も歩いてみたかったけど、柵と同じかそれ以上の高さまで雪が積もっているので怖すぎて無理。案内してくれている職員さんも「あまり端の方に行かないでください、落ちたら助かりません!」と言っていた。
雪が柵より高いの怖い
雪が柵より高いの怖い
湖はほとんど凍っている
湖はほとんど凍っている
何もかも雪で埋め尽くされている
何もかも雪で埋め尽くされている
ちょっと角度違うけど上の写真の夏はこんな感じ
ちょっと角度違うけど上の写真の夏はこんな感じ
ちなみに気温はマイナス5度くらいで、風がなかったせいもあって意外にもそれほど寒く感じなかった。

せっかく見学会を開いてくれたのでダムのPRをすると、冬の間は川の水が減るので、それを補うため矢木沢ダムは毎日少しずつ放流して水位がどんどん下がって、だいたい3月の終わりから4月にかけて貯水量がいちばん少なくなる。でも、春になるとこの雪が融けて湖に流れ込むので、5月くらいには満水に戻る。それを見越した上で、冬の間は雪の多いダムの水を積極的に流しているのだ。
見学会はすぐ隣の奈良俣ダムにも行って終了しました
見学会はすぐ隣の奈良俣ダムにも行って終了しました
こちらも約3m雪の積もった奈良俣ダムはほとんどスキー場のゲレンデのようだった
こちらも約3m雪の積もった奈良俣ダムはほとんどスキー場のゲレンデのようだった
奈良俣ダムは積雪もすごかったけど管理所のつららがやばかった
奈良俣ダムは積雪もすごかったけど管理所のつららがやばかった
矢木沢ダムや奈良俣ダムの水は東京をはじめとした首都圏の多くのエリアに送られるので、いまこの記事を読んでいる首都圏に住むあなたは、きっとここに写っている雪が融けた水を飲んだりお風呂で浸かったりすることになるはずだ。

なので、冬でなくてもいいから、自宅の蛇口をひねると出てくる水のスタート地点に一度行ってみてください。

みんなの声で来年も

2年前に報道機関向け見学会が行われたとき、悔しいのと同時に楽しみになった。冬の矢木沢ダムに関係者以外の一般人が行けるのだ、と知ったからだ。それ以来、このダムの関係者の人に行きたい行きたいとしつこく言い続けたのが実ったのかどうかは分からないけど、不可能と思われた一般向け見学会が行われたのはすごいことだと思う。

今後も続けるかどうかは今のところ分からないけど、ご要望があれば検討します、とのことなので、冬の矢木沢ダムを見たい人はぜひアピールするべき。具体的にはこの記事をシェアするのがいいと思います(それかよ)。
去年このあたりのダムをマルチコプターで空撮したDVDを作らせてもらったんだけど(→こちら)撮影に立ち会っていたダム職員さんがさっそくダムの点検用に導入していた。あ、ちなみにDVDは近々第二弾が出ます!
去年このあたりのダムをマルチコプターで空撮したDVDを作らせてもらったんだけど(→こちら)撮影に立ち会っていたダム職員さんがさっそくダムの点検用に導入していた。あ、ちなみにDVDは近々第二弾が出ます!
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