特集 2015年3月16日

電柱、傾いていますか

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今までまったく気にも留めていなかったのに、一度それに気づいてしまうともう気になって仕方が無くなる。そんな経験は無いだろうか。まるで呪いにかかったように。
僕はいま、目下そんな状態である。そしてこの記事をクリックしたあなたも、たった今からその道に踏み込んでしまった。

呪いの言葉はこれだ。
「街中の電柱、よく見るとけっこう傾いてますよ。」
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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電柱は傾いている

たとえばこの写真。
赤い矢印がついている電柱2本に注目
赤い矢印がついている電柱2本に注目
この2本、根元のほうは重なっているのに、上のほうに行くにつれて間隔が離れてきていないだろうか。
後ろの電柱が、人間でいうとこういう状態になっている。
 (写真はこの記事より</a>)
(写真はこの記事より
後ろの電柱が、前の電柱から顔を出している感じになっていないだろうか。
画像を重ねて検証してみよう。
いやちょっと違ったかもしれない
いやちょっと違ったかもしれない
冒頭からいきなり話をそらしてしまった。
ファンシーなポーズ似ているかどうかの話ではなく、電柱が傾いているかどうかの話だった。
もうちょっと気が散らない方法で検証してみよう。
補助線を引くとこう
補助線を引くとこう
2本の直線は上が開いた逆ハの字の形になっている。
実際に傾きを測ってみた。
手前の電柱は、だいたい垂直。0度。
手前の電柱は、だいたい垂直。0度。
後ろの電柱、2度くらい傾いてる!
後ろの電柱、2度くらい傾いてる!
ふだん、なんとなく「電柱は垂直に立っているもの」と思って生活しているが、気を払って見ると意外に傾いている。
それも「よく見るとわかる」レベルではなく、「見回してすぐ気づく」わかりやすさなのだ。

記事タイトルでは電柱としたが、これは電柱に限った話ではなくて、街灯の柱とか、交通標識とか、けっこういろんなものが傾いている。

数ヶ月前にこのことに気づいてから、僕は外に出ると電柱や柱の角度ばかり気にしている。傾きノイローゼだ。
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写真には写らない

この傾きノイローゼを読者の皆様にも伝染すべく、傾いている電柱や柱の写真をどっさり撮ってきた。

が、記事にするにあたって致命的な欠点があった。
写真だとあんまり傾いて見えないのだ。
消火栓標識が3度も傾いてる!
消火栓標識が3度も傾いてる!
が、写真で見るとまっすぐだ
が、写真で見るとまっすぐだ
この電柱も2~3度傾いてる
この電柱も2~3度傾いてる
まっすぐに見える…
まっすぐに見える…
あまりに違和感が無いので、読者の皆様の中には「2度くらいでなに細かいこと言っちゃってんの?」と思われた方もいるかもしれない。違う、違うんです。僕がしたいのはそういう粗探しみたいなことじゃないんです。

ものすごく傾いてるんです。肉眼で見ると!
この驚きをみんなに伝えたいんです!

補助線(天然もの)

そこでやっぱり役に立つのが補助線である。中学校の数学でならった図形問題(相似とか合同とか)はあんまりその後の人生で生きている気がしないのだが、あそこから我々が得た最大の収穫は「補助線」の概念だ。

前ページではPhotoshopで補助線を引いたが、そうしなくても天然で補助線が存在する場合がある。
これはどう見ても傾いてるだろう
これはどう見ても傾いてるだろう
高架から降りてくる階段の手前にある電柱。高架の支柱(これは垂直)が補助線となって、電柱が右に傾斜しているのを引き立ててくれている。

この写真のいいところは、右のカーブミラーも同じくらい傾いているところである。補助線に加えて平行線が登場し、一気に図形問題っぽくなった。

余談だが、中学校の図形問題の件、アレを一生懸命実生活に生かそうとした記事もあるので興味があったら読んでみてください。→これ
これも傾いてる
これも傾いてる
電柱の根元のほうは、背景のビルの一番左の窓と重なっているが、上のほうになると2枚目の窓と重なっている。
外から見てもよくわかるが、ビルの内側から窓越しに見たらかなり傾いて見えるのではないだろうか。
これなんかは傾いているというより曲がっているように見える
これなんかは傾いているというより曲がっているように見える
止まっているトラックの横にある電柱に注目してほしい。

一般的に広角レンズで撮った写真は、端のほうほど絵がゆがむ。私たちはそれを見慣れているので、写真で見ると電柱の傾きが気にならないのだろう。

ただこの電柱に関しては、レンズのせいだけではない。肉眼で見ても本当に少し曲がっているように見えた。
これはビルの壁が垂直なので、電柱が左に傾いているのがよくわかる。
これはビルの壁が垂直なので、電柱が左に傾いているのがよくわかる。
こちらも、建物の壁と比べると右側手前の電柱がはっきり傾いてる
こちらも、建物の壁と比べると右側手前の電柱がはっきり傾いてる
補助線として一番強力なのは建物の壁だ。垂直で、まっすぐで、長くて、たくさんある。わかりやすい。

ただやっぱり、こうやって写真で見るより、肉眼で見たほうがインパクトが強いのは確か。電柱なら全国どこでも見られると思うので、ぜひお出かけの際は探してみてほしい。

傾きの角度は、「あ、傾いてる」と思うのが2度、「わ、ものすごく傾いてる!」と思うので4度くらいであった。
いずれも分度器上で見ると些細な角度だ。人間の感覚というのは敏感にできているのだなあと実感する。
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なんで傾いてるの?

いろんな柱が傾いてるのはわかった。ではそもそもなんでこんなことになっているんだろうか。

ここでは電柱に的を絞って、NTTと東京電力に電話できいてみました。(以下、2社の回答を抜粋しています)
「なぜ電柱が傾いているんですか?」
(回答)引っ張られる力で傾いてきてしまう場合がある。電柱には電線が垂れ下がってこないようにワイヤーが張られていて、それに沿って電線を渡している。そのワイヤーの引っ張る力が強い。(NTT)
電線自体は切れないようにゆるめに張られているけど、このワイヤーの力が強いらしい
電線自体は切れないようにゆるめに張られているけど、このワイヤーの力が強いらしい
「最初は垂直に立てているんですか?」
(回答)はい。(東京電力)
「傾いてくることを見越してあらかじめ反対側に傾けているとか?」
そういったことは無い。補強が必要な場合は、支線を打つ。(東京電力)
歩道の地面から出ている、黄色いガードのついたワイヤーが「支線」。地面と電柱の上部をつないで、支えている
歩道の地面から出ている、黄色いガードのついたワイヤーが「支線」。地面と電柱の上部をつないで、支えている
「傾いている電柱を見かけましたが、倒れないんですか?」
(回答)倒れることは無い。数度くらいなら正常の範囲内なので安心してほしい。(東京電力、NTT)
「でも、もっと傾いてきたら?」
(回答)ちゃんと点検して、必要ならメンテナンスしているので大丈夫です。もし不安な場合は、ご連絡いただければ調べに行きます。(NTT)
どうやら「建てるときにうっかり曲がっちゃった!」というようなものではなく、ちゃんと垂直に立てているけどだんだん傾いてくる(場合がある)もののようだった。10年くらい定点カメラで毎日撮影してみたら、傾いていく様子が撮影できるのだろうか。

世界がゆがむ瞬間

人間は関心外の物事は単純化して考える傾向があるので、3次元世界はだいたい90度のグリッドに沿っていて、電柱や柱は垂直に立っているものだと思っているのではないだろうか。少なくとも僕はそうであった。

でも先入観を捨ててよく見てみると、世界はけっこう傾いていて、ずれていて、ゆがんでいる。
それに気がついた途端に、いままでまっすぐ見えていた世界が急にグニャグニャとして見えてくる。その感覚がおもしろいなーと思いつつ、毎日を過ごしています。(近況)
今回のために買った角度計の裏についていた謎の図。これは一体。
今回のために買った角度計の裏についていた謎の図。宇宙人に人間の体の構想を説明するときに使うやつか
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