チャレンジの日曜日 2015年3月29日
 

書き出し小説大賞・第70回秀作発表

!
書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。

前の記事:「書き出し小説大賞・第69回秀作発表」
人気記事:「書き出し小説大募集」

> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

書き出し小説秀作発表第70回目である。

まずは朗報!このたび書き出し小説が朝のNHKラジオ「すっぴん!」で紹介されます。予定では4月2日の10時より1時間。この回は私、天久聖一のインタビュー企画というかたちですが、その後ひと月に一度、1時間枠でコーナー化される予定です。もちろん通常の書き出し小説のほか、番組独自のテーマを決めた規定部門なども募集するつもりですので、ご試聴ご応募のほどよろしくお願いします!
それでは今回もめくるめく書き出しの世界をご堪能ください。

書き出し自由部門

氷上の最速は亀だ。
TOKUNAGA
新しいスポーツの予感。
「いいか、おまえは何もするな」未来から来た自分に言われた。
紀野珍
あんな真剣な自分を見たのもはじめて!
はしゃげばはしゃぐほどサボテンが枯れた。
Mch
森は腐海に……。
どうしても開かない瓶と、一緒に暮らしている。
xissa
開いてくれる王子待ち。
客は何も貸さず、マジシャンは何も消せなかった。
哲ロマ
ハトも死んでいた。
賞味期限がとうに切れた草団子を貧乏神は美味そうに食べた。
流し目髑髏
湿気ったポテチも。
勝ってはいけないジャンケンに、必ず勝利する人生だった。
いがそ君
罰ゲームの神と呼ばれている。
ゾンビから逃げ、垂れたアイスを舐める。
大伴
下からキリンっぽく。
パーカーの紐を引くと、一斉に水門が開いた。
マークパン助
顔は縮んだ。
覗き穴を覗くと石像と目が合った。
もんぜん
下の穴からは股間が見えた。
山頂にて破裂しそうなパプリカを押しつけ合った。
人が生きてる
気圧で!
「戻し汁をシェアしないか」と隣人が熱烈に誘ってくる。
suzukishika
ベランダの防火壁から。

TOKUNAGA氏の亀作品。高速回転で向かってくる亀が一瞬で浮かぶ、まさに飛び出す書き出しと言ってもいい秀作。xissa氏、文末の「暮らしている」という表現が語り手のみならず、瓶にまでたしかなキャラを与えている。瓶と語り手は似たもの同士かもしれない。哲ロマ氏ともんぜん氏の作品には共通した読後感、漫画の吹き出しで例えるなら「……」の余韻がある。書き出しというと続きを想像したくなるが、両作は時間を止めることで、読み手の想像力を凍結させる。これも書き出し小説ならではのテクニックと言えよう。流し目髑髏氏の作品、貧乏神の貧乏臭い笑顔が浮かんでくる。貧しくも微笑ましい作品。大伴氏、緊迫したシチュエーションと間抜けな人間性の組み合わせ、鮮やか。今回は少数ながらどれもお手本のような秀作が集まった。

つづいては規定部門、今回のモチーフは「小学生」であった。ノスタルジックでかなりバカ、書き出し小説家たちの小学生マインドに笑っていただきたい。

書き出し規定部門・モチーフ「小学生」

白ブリーフの落とし主は永遠に見つからない。
おかめちゃん
蹴った石ころが側溝に吸い込まれた。一機死んだ。
紀野珍
揉みたいものがまだ、友の睾丸だった頃だ。
義ん母
理科のテストは「白くにごる」で乗り切った。
Mch
一度帰宅してから忘れ物を取りに戻った校舎は、とてもよそよそしかった。
井沢
プールのシャワーで滝修行している近藤君はカナヅチだ。
ぴすとる
小学校を卒業した。一度も使うことがなかった「武器」を捨てた。
山本ゆうご
口に水を含んだまま、あと5分で2時間目をやり過ごせる。水はだいぶ生ぬるくなってきた。
エマニエル成田山
準備室は静かだった。
まじいい
でかい三角定規を装備して冒険に出る。
suzukishika
半紙を水に濡らす。丸める。3階から落とす。何も残らずそれは綺麗に飛び散った。
山本ゆうご
彼は今日も良さげな棒を持っていた。
哲ロマ
鉛筆の皮は苦いが木はジューシーだ。芯は残す。
g-udon
もう着替えていた。
TOKUNAGA
机の上に積まれた40個のゼリーが、学級委員長の権力を物語っていた。
Yan
ゾウリムシの「ゾ」の字だけおっきくかけました。
ドルオタパッカマン
習いたてのヘボン式でCHINKOと書いた。
suzukishika
かかとを使って線を引く子が現れた。
山本ゆうご
タイムカプセルから出てきた島崎先生は激怒していた。
大伴
風を切る効果音を発しながら、息子は最下位を疾走している。
えむ毛
ジャンケンの前に両手を組んでねじって覗き込んで、宇宙の一端を垣間見た。
おかめちゃん
女の子の声が聴きたかった。怒ってても、泣いててもいいから。
ババア伝説
給食に裏献立が在るのを知っているのは、ごく一部の上級生だけなのだ。
あつし
転校したのが隣町の小学校だったので、校歌に出てくる海や山がまったく同じだった。
xissa
「楽しかった、こども株主総会!」「株主総会!!」唱和する声が、体育館に響き渡った。
あつし
定番のネタものから、親視線もの、シュールネタなどバラエティに富んだ作品が集まった。紀野珍氏、あるあるネタをキッチリ書くことで誰しも経験ある「あの瞬間」が鮮やかに蘇る。義ん母氏、これほどバカバカしいネタをこれほど澄まして書くのは反則。思わず「なにが友だよ!(笑)」とツッコんでしまった。その他の作品もあったあった!と思いながら、同時にその当時の気分までが蘇り、ちょっと切なくなる作品が集まった。エマニエル成田山氏の口に含んだ水、哲ロマ氏のよさげな棒、山本ゆうど氏の水で濡らした半紙など、子供ならではの無意味行動になぜ共感するのか。それは私たち誰もが元子供だったからに他ならない。ババア伝説氏の切実さ、あつし氏のアホらしさ、今回は選んでいて元気をもらえる回であった。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「変わった仕事」
小書き出し小説にはこれまで「旅館の歓迎看板を消す仕事」「王様の後ろで扇をあおぐ仕事」など、架空の仕事を書いた職業モノが多くある。では一度それを特集してみようと思いこのモチーフにした。架空の仕事でなくとも、珍しい専門職、ひょっとしたらあるかもしれない仕事をフィクションで書いたものならオッケーとする。現代だけに囚われず、時代もの、SFものに広げればアイデアもたくさん出るように思う。ポイントはその仕事にどうリアリティをもたせるかだろう。
締め切りは4月10日正午、発表は12日を予定している。下記の応募フォームで自由部門、規定部門を選択して送って頂きたい。力作待ってます!
最終選考通過者

あだんそん/九官鳥級艦長/ハラセン/キビタン/うなぎいぬの母/prefab/ウチボリ
 ▽デイリーポータルZトップへ  

 
 
関連記事
書き出し小説大賞・第69回秀作発表
書き出し小説大賞・第68回秀作発表
書き出し小説大賞・第67回秀作発表
書き出し小説大賞・第66回秀作発表

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
↓↓↓ここからまたトップページです↓↓↓