チャレンジの日曜日 2015年5月10日
 

書き出し小説大賞・第73回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表第73回目である。

母の日である。母の日は五月の第二日曜日のため、うっかりしているとやり過ごしてしまう。毎年母の日が近いことはテレビの特集や花屋に並ぶカーネーションで知るのだが、今年はアダルト通販サイトの「母の日セール」で知ってしまった。熟女モノが30パーセントオフだった。
それでは今週もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう!

書き出し自由部門

「手術中」の表示灯が不規則に点滅している。
紀野珍
ユニコーンが破いた障子はそのままでいいとのこと。
人が生きてる
メッキしたての彼女の膝は陽光に熱を帯び、僕の頬を火傷させる。
TOKUNAGA
午後の巨人は酔い止めを忘れた海賊くらい非力だった。
Mch
いやに長いきび団子をお腰から垂らしていた。
松っこ
ダメなの有楽町のあのお店じゃなきゃ、と駄々をこねてみる。見られてしまえばいい、会社の人にも、同じ職場で働く奥さんにも。
どちらもすごく好き
空港のターンテーブル上に乗せられた観音像は、四周目にはすでに有り難みを失っていた。
おかめちゃん
ボブの合気道は、結局力で投げている。
正夢の3人目
夕暮れ、部屋の隅で満ちる日だまり、それは永遠を含んだ時の水たまりだ。
タクタクさん
部長の土下座からのアッパーカットは、激しく、激しく空を切った。
kjm
たぶんここにいる、と分かってから、道端の花がとてもきれいに見えるようになった。
ocamo
観客のボルテージが上がってきたところで、孔雀警備員は羽を広げ会場の安全を守った。
茂具田
外反母趾にちょうちょが止まった。
xissa
僕にそっくりなのに、なんでこんなに可愛いのだろう?
トミ子
ドアが開き、すぐに両膝をつく。メイドに促されるまま四つん這いの館へと入る。
suzukishika
時は、江戸。わたしは、誰?
にら将軍ハルナ
紀野珍氏の手術中、至ってシリアスな状況が見事なコントに。このシチュエーションで志村けんに演じて欲しい。TOKUNAGA氏のメッキ、非日常の世界観ながらこの切なさはなんだろう。松っこ氏のきび団子、先端は引きずっているのだろうか、犬猿キジも声掛けづらいと思う。正夢の3人目氏、合気道に限らず力技で誤魔化すパターンは日常でもよくある。タクタクさん氏、「永遠を含んだ時の水たまり」つい思いついてしまったのだろう。思いついたからには書かずにはいられなかったのだろう。その衝動も含めていい作品だと思います。
ocamo氏、書き出しでありながらすべてを語り終えた後のような余韻が染みる作品。茂具田氏の孔雀警備員、最高潮のボルテージがさらに跳ね上がる展開に。トミ子氏、全国のお父さんの思いを代弁。
suzukishika氏、四つん這いフェチには垂涎の冒頭。にら将軍ハルナ氏、冒頭からしてこのぶっ壊れ方、逆に続きが気になります。

続いては規定部門、今回のモチーフは「嘘」であった。嘘つきは作家のはじまり、書き出し作家たちの華麗な嘘にだまされてください。

規定部門・モチーフ「嘘」

しばらく道なりです。と彼女は嘘をついた。
哲ロマ
君がついた嘘が僕の世界のすべてだった。
もんぜん
ロボットが人間に始めてついた嘘は「似合っていますよ」だった。
もんぜん
うちの中で認知症のおばあちゃんだけが本当の事を言う。
マシマロ
これでもし針を千本飲ませられなかったら、僕まで嘘つきになってしまう。
イワモト
「ニホンオオカミが出たぞ!」
ビールおかわり
はにかんだその瞬間、彼に嘘のえくぼが出来る。
通りすがりのひよこ
後輩連れてメシ食いに行ったところまでは、本当です。
たこフェリー
嘘っ八先生の嘘ばなしに、不良たちは嘘泣きを続けている。
kjm
ガンダムは俺をモデルにしている。
正夢の3人目
ペーター、これがヤギの群れをあやつるリモコンよ。
xissa
仕事を休むために発想の幅が広がった。
まじいい
髪は整ってるし、顔に米粒なんてついてないし、鼻毛も出てない。行ってらっしゃい。
おかめちゃん
袋は、どちら側からも切れなかった。
大伴
遺言書。第一条、遺産はすべてユニセフに寄付するものとする。第二条、なんちゃって。
g-udon
「ウソ!夢みたい!」歓喜の寝言を連呼する妻にそっと毛布をかけた。
流し目髑髏
撮り直すたび、現実から遠のいて行く。
TOKUNAGA
丘を越えると、叔父の嘘でできた集落が見えてきた。
紀野珍
語りながら、いま嘘になった、と自覚した。
紀野珍
本来、ソーセージとは、肉を使ったジョークでしかなかったのです。
ボーフラ
外野手は落下地点に入ったふりをした。打球はその背後でスタンドに突き刺さった。
suzukishik
「なぁんも思い残すことなか」と言って亡くなった祖母が化けて出た。
Mch
五つの嘘でピノキオの鼻がのび、オラキリオスの耳がひっこみ、ララッキゾフの戸棚が壊れ、モロザミンシャンスのフンニクソリの色が変わり、残った一つの嘘が真実になった。
松っこ
#彼氏 #デート #パンケーキ #大好き #ベストカップル
ちゃんえり
子供が生まれたのも嘘だし、妊娠したのも嘘だ、ゴムが破れていたのも嘘だし、そもそも抱いたのはヤギだ。
prefab
全員が信じたので、そこで終わった。
えむ毛
哲ロマ氏、シンプルな嘘に彼女の小悪魔性を感じなぜか萌えてしまう。もんぜん氏のロボット、はじめてロボットが人間性を獲得した瞬間である。イワモト氏、たしかに(笑)語り手の追い詰めれた口調がまたいい。ビールおかわり氏、絶滅してる。オオカミ少年ネタの中では珠玉のパロディでした。たこフェリー氏、この後の事件がマジで気になる。kjm氏、いったいなにがしたいのかまったく分からない。笑った。おかめちゃん氏、徐々に全容を見せる寝ぐせ米粒鼻毛ボーボーの亭主が面白い。紀野珍氏の「語りながら〜」ハッとさせられるリアリティ。Mch氏の祖母、このフェイント感、へそくりの場所でも教えに来たようで可愛い。松っこ氏、たたみかめるような嘘の副作用。ちゃんえり氏、嘘まみれのハッシュタグ、えむ毛氏、嘘の本質を言い当てている。今回は嘘をモチーフにすることで逆に人間の本質を表しているような作品が多く興味深かった。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「恥」
恥ずかしい……実はこれほど人間を揺さぶる感情はないのではないだろうか。欧米が罪の文化なら日本は恥の文化とも言われている。罪ほどドラマティックではなくとも、恥にはそのぶん繊細で人間味豊かなドラマがあると思う。ささいな恥から取り返しのつかない恥まで、スケールもさまざまだろう。思わず椅子から立ち上がってしまうような恥ずかしい作品を期待しています。締め切りは5月22日正午、発表は5月31日(注意・締め切りと発表は通常より一週間開いてます)を予定しています。下記の応募フォームから自由部門、規定部門を選んでご応募ください。力作待ってます!
最終選考通過者

寿寿/卯村/豆ん棒/貝殻レモン/柴咲ハコ/山本ゆうご/らいみ/ババア伝説/あつし/ぴすとる/こらん/かち割りサルコウ/義ん母/ら+/沖野聖史〜ガンバルジン〜/shanagi/仙きち/井沢/帽子
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デイリーポータルZ新人賞

 
 
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