特集 2015年7月8日

ぶらり郵便ポストの旅

郵便取集車と一緒にポストを旅します
郵便取集車と一緒にポストを旅します
全国各地には、都会から田舎まで、無数の郵便ポストが存在している。しかもどのポストに投函しても、郵便物は必ず相手の元へと届けられる。

裏を返せば、そんな数えきれない数のポストから、毎日郵便物を回収している人がいるのである。そして回収している人がいるということは、すべてのポストには巡回ルート、つまりは路線図があるはずなのだ。全国のポストをつなぐ路線図――なんだか壮大でわくわくしてこないだろうか。

鉄道旅行をするように、そんな郵便ポストの路線を旅してみたい。
1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

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きっかけはポスト番号

そもそも、なぜポストの路線図が気になったかというと、「ポスト番号」を見つけたからだ。
何の変哲もない郵便ポストをよく観察してみると、
何の変哲もない郵便ポストをよく観察してみると、
「ポスト番号」という通し番号があることに気付いた
「ポスト番号」という通し番号があることに気付いた
全国のポストに共通の番号があるわけではないと思うが、大阪市にある大阪北郵便局管轄のポストには、このような番号が振られていた。

コレクタ気質のある私は、通し番号を見ると、その全貌がどうなっているのか気になって仕方がない。さっそく他のポストも調べてみたところ……
「6-9」の近くにあるポストは、ちゃんと「6-10」になっていた。おー、謎の感動が押し寄せる
「6-9」の近くにあるポストは、ちゃんと「6-10」になっていた。おー、謎の感動が押し寄せる
ここで思い出すのは、銀林みのる『鉄塔武蔵野線』である。映画化もされたこの小説では、鉄塔に通し番号が振られているのを発見した少年が、好奇心から鉄塔番号を辿る探検に出発する。

私はもしかして、その郵便ポスト版の始点に立っているのかもしれない。全国のポストにはつながりがあって、それを順番に辿って行けば、未知の世界への扉が開けるかもしれない!――なんて、壮大なことを考えた。
ポストどうしはつながっている?
ポストどうしはつながっている?

ポストを結ぶ郵便取集車

鉄塔の場合は送電線があるため、そのつながりが目で見て分かる。
一方、郵便ポストはどうだろう。ポストは街中いたるところに立っていて、それぞれのポストにつながりがあるだなんて、考えたこともなかった。

しかし、その手がかりはポスト自身に示されていた。もう一度ポストを見直してみよう。
注目したいのは「取集時刻」の記載。これって、鉄道でいう「時刻表」じゃないだろうか
注目したいのは「取集時刻」の記載。これって、鉄道でいう「時刻表」じゃないだろうか
ポストには「時刻表」がある。となると、その時刻にやって来る「電車」のような存在があるはず。そう、それが郵便物を回収してまわる赤い「郵便取集車」だ。
決められた時刻通りにポストをまわって郵便物を回収する取集車
決められた時刻通りにポストをまわって郵便物を回収する取集車
それはあたかも、ダイヤ通りに運行する電車のようではないか!
それはあたかも、ダイヤ通りに運行する電車のようではないか!
とすると、この取集車がポストをたどるルートがあるはずで、それが各ポストを結ぶ「路線図」となるはずだ。

身近にありながら、今まで全く意識することのなかったポストの路線図。これが分かれば、鉄道に乗って全国の駅を巡るように、郵便ポストを巡って旅をすることができるのではないか。なんだかわくわくしてきた。

ポストの路線図が知りたい

しかし、ポストの路線図なんてどうやったら分かるのだろう?

電車の場合は簡単だ。書店に行けば鉄道の時刻表が売られていて、詳細が全て記されている。どういう路線があって、その路線にはどんな駅があって、その駅に何時何分に電車が来るかということが、手に取るように分かる。
一般人には必要のない貨物列車の時刻表でさえ本屋に売っている。路線図も見慣れないもので、独特のスカスカ感がある
一般人には必要のない貨物列車の時刻表でさえ本屋に売っている。路線図も見慣れないもので、独特のスカスカ感がある
しかし、郵便の場合は全くの未知数である。郵便趣味(いわゆる郵趣)は広大な趣味世界の中では比較的メジャーなものだとは思うが、ポストの路線図にまで踏みこんでいる人はネット上では見つけられなかった。

郵便局に聞いてみた

仕方がないので、まずは直球で聞いてみることにした。最初に電話したのは、郵便局の「お客様サービス相談センター」。

ポストの路線図という怪しげな質問にも、オペレータの方は大変丁寧に対応してくれた。しかしそこは全国の窓口なので、今回のようなデータは「集配業務を行っている郵便局」でないと分からないという。

ならば、と、大阪市中心部にある大阪北郵便局宛に電話をかけ直したところ──

私 「ポストの路線図が知りたいのですが」
郵便局の人 「残念ながら、一般に公開している情報はありません」

さすがに路線図そのものを教えてもらうのは無理だったが、郵便局の人は親切に郵便取集についていろいろ教えてくれた。これによって、ポストの路線図がどういうものか、おぼろげながら輪郭が見えてきた。

・比較的大きめの郵便局(集配郵便局)が、ポストの取集業務を行っている
・例えば大阪北郵便局は、大阪市北区と福島区にあるポストを担当している
・エリアごとに異なる「所定の取集ルート」があって、一つのルートで一度に10~20個くらいのポストを回る
集配郵便局を起点にして、エリアごとに分かれたポストを巡回しているらしい
集配郵便局を起点にして、エリアごとに分かれたポストを巡回しているらしい
なるほど。この場合、集配郵便局はさながらターミナル駅のような存在であり、各エリアを巡回するルートは、それぞれが一つの「路線」と言っていいだろう。

ぼんやりと仕組みが分かったところで、あとは成り行きに任せることにして、とりあえずターミナル駅となる郵便局に行ってみることにした。さあ、旅に出よう!

始発駅に立つ

そんなわけで、やって来たのは大阪北郵便局。ここが言わば始発駅だ。
さすがに取集車に乗ることはできないため、今回は自転車で付いていく作戦にした
さすがに取集車に乗ることはできないため、今回は自転車で付いていく作戦にした
ちなみに、当日の最高気温は32℃。撮影スタッフとして知人を誘ったところ「暑いからいやだ」と断られたため、初の郵便ポストの旅は一人旅となった。

さて、まずは始発駅を出発する取集車を探さなければならない。しかし便数は一日3便程度なので、あらかじめ郵便局のすぐ近くにあるポストの時刻表を調べておいた。
今回は土曜日2便の「14:00ごろ」を待ってみることに。電車と違って、時刻は結構アバウトなのだ
今回は土曜日2便の「14:00ごろ」を待ってみることに。電車と違って、時刻は結構アバウトなのだ
郵便局の前にいると、中からいろんな車が出てくる。車が出てくるたびに写真を撮っていると、駅で電車を撮っている撮り鉄のようだ
郵便局の前にいると、中からいろんな車が出てくる。車が出てくるたびに写真を撮っていると、駅で電車を撮っている撮り鉄のようだ
こういう大型のトラックは明らかに「違う」と分かるのだが、
こういう大型のトラックは明らかに「違う」と分かるのだが、
この手の車は、素人の私には判断が付かなかった。いったいどの車が取集車なんだ?
この手の車は、素人の私には判断が付かなかった。いったいどの車が取集車なんだ?
正直、開始10分にして「もう駄目か……」と半分諦めかけていた。だが、待ち続けるうちに救世主が現れた。この車である。
後部窓に燦然と輝く「集荷中 ご迷惑をお掛けします」の文字。こ、こいつだー!
後部窓に燦然と輝く「集荷中 ご迷惑をお掛けします」の文字。こ、こいつだー!
旅のお供を見つけたところで、ようやくポスト巡り旅の開始である。

地味で地道なポスト巡り旅

郵便局出発から1分と経たないうちに、まずは最初に確認していた郵便局最寄りのポストに到着。これが記念すべき第一ポストだ。
第一ポスト。いやまあ、ただの郵便ポストだけれど
第一ポスト。いやまあ、ただの郵便ポストだけれど
ちなみに、ポスト番号は「6-1」。路線名「6」の1つ目のポストである
ちなみに、ポスト番号は「6-1」。路線名「6」の1つ目のポストである
ゆっくりとポスト到着の余韻を楽しみたいところだけど、取集車は郵便物を回収次第すぐに次のポストに向けて出発してしまった。停車時間は、1~2分といったところか。結構あわただしい。
当たり前だけど、ポスト番号が大きくなるにつれ、時刻表も徐々に変化していく
当たり前だけど、ポスト番号が大きくなるにつれ、時刻表も徐々に変化していく
そしてこれが「6-5」のポストだ。交通量の多い道路に背を向けて、孤高を気取る真っ赤なポスト
そしてこれが「6-5」のポストだ。交通量の多い道路に背を向けて、孤高を気取る真っ赤なポスト
その後も順調にポストを巡る。これは「6-8」である。由緒正しき、たばこ屋前ポスト
その後も順調にポストを巡る。これは「6-8」である。由緒正しき、たばこ屋前ポスト
やっているうちに、「実はこれってめちゃくちゃ地味じゃないか?」って気分になってきたけど、気にせず巡る。これは「6-11」。うん、このポストも赤い
やっているうちに、「実はこれってめちゃくちゃ地味じゃないか?」って気分になってきたけど、気にせず巡る。これは「6-11」。うん、このポストも赤い

あわただしい移動

と、なんだかお気楽な旅のように見えるかもしれないけれど、実は結構ハードである。

というのも、路線図を示してくれる取集車を追いかけるのが、思ったほど簡単ではないのだ。路地を行く場合は車のスピードが落ちるので楽勝なのだが、幹線道路に出てしまうとギュイーンと一気に引き離されてしまう。
待ってくれー
待ってくれー
ぐおーーー!
ぐおーーー!
「角を曲がると車がいなくなっている」という、漫画みたいな展開にもなりがちなので、安全に気を付けながら全力で追いかける必要がある。あれ? なんだか全然「ぶらり」という感じではないな……。

そして恐れていた事態が

旅にはトラブルが付きものである。今回のぶらり郵便ポストの旅にも、突然のピンチがやってきた。
無常なる赤信号。車は先に進んで行ってしまい、ついには姿が見えなくなった……
無常なる赤信号。車は先に進んで行ってしまい、ついには姿が見えなくなった……
さすがの私も交通法規の前には太刀打ちできず、次のポストへと向かう取集車を見失ってしまったのである。
これを鉄道に例えると、時間に遅れて目的の電車を乗り逃した感じだ。やってしまった感が大きい。

信号が青になったあと、必死で取集車と次のポストを探すも、見つけることは出来なかった。仕方ない、次の便まで待つしかあるまい……。

しかし、次の便まで待つと言っても、時刻表がこれである。
先ほどまで「土曜日14:30ごろ」の便を追っていた。となると、次の便は3時間後か……
先ほどまで「土曜日14:30ごろ」の便を追っていた。となると、次の便は3時間後か……
まさに鉄道のローカル線と同じだ。うっかり乗り逃してしまったら、次の列車が3時間後だったという、それにかなり近い。呆然としてしまうが、待つしかないのだ。
時間を持て余して虚空を見つめていた。ローカル線の待ち時間も、大体こんな感じだ
時間を持て余して虚空を見つめていた。ローカル線の待ち時間も、大体こんな感じだ

そして後半戦へ

待つこと3時間。先ほど取集車を見失った「6-12」のポストに、次の取集車がやって来た。
きちんと時間通りにやって来た取集車。こんなに取集車がありがたく見えたことはない
きちんと時間通りにやって来た取集車。こんなに取集車がありがたく見えたことはない
ポスト巡りの再開である。これは「6-14」で、やはり普通のポストだ。「郵便車が来ます」の看板が立っているのは珍しい
ポスト巡りの再開である。これは「6-14」で、やはり普通のポストだ。「郵便車が来ます」の看板が立っているのは珍しい
どんどん巡って、これは終盤の「6-25」。赤い
どんどん巡って、これは終盤の「6-25」。赤い
そして、旅行開始から4時間半後――見慣れた建物に戻ってきた。
終着駅、大阪北郵便局にゴール!
終着駅、大阪北郵便局にゴール!
つ、つかれた……
つ、つかれた……

これがポストの路線図だ!

楽しかったかどうかはさておき、ポストの路線を巡るぶらり旅は終了した。今回巡ったポストは、ポスト番号が「6-○」だったため、これを「大阪北郵便局 ルート6」と名付けたい。
大阪北郵便局 ルート6
大阪北郵便局 ルート6
このルートを通る取集車は、約1時間半かけて計26個のポストを回っていた。平均すると3分30秒に一個のポストに寄って集荷を行う計算となり、予想以上にせわしない。都会の電車並の停車頻度である。

またルートは、一筆書きとは言わないまでも、東西に3kmほどの範囲をぐるりと一周しており、効率的にポストを回っていることが確認できた。

しかし、ルート6とその他のルートとの位置関係や、ルートはいくつまであるのかなど、気になることはまだまだ多い。機会があれば、また他の路線も巡ってみたい――いや、もういいか。

私たちが普通に生活している今この瞬間にも、郵便取集車は決まったルートを時刻表どおりに動いており、粛々と郵便物を回収している。それが都市部から山間部まで、全国いたるところで見られる普通の日常だ。

何の気なしに利用している郵便というシステムも、こういう地道な作業やルールの積み重ねの上に成り立っているのだ。そう思うと、一層ありがたいサービスのように思えてこないだろうか。ビバ郵便! と言いたい。
郵便局に戻った取集車からは、すぐに荷物が下ろされていた。これから全国へ運ばれていくのかと思うと、胸が熱くなる
郵便局に戻った取集車からは、すぐに荷物が下ろされていた。これから全国へ運ばれていくのかと思うと、胸が熱くなる
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