チャレンジの日曜日 2015年7月19日
 

書き出し小説大賞・第77回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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昨日、イトーヨーカドーの傘売り場でちっちゃい傘を見掛けた。ひろげた直径はせいぜい20センチほど、売り物ではなくディスプレイ用だ。なにげなく手に取り差してみた。バカに見えたと思う。極端にちっちゃい傘を差すとどんな人でもバカに見える。あなたもそう思いませんか?
では今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう!

書き出し自由部門

おじいちゃんと犬の小太郎はいつも別々に帰ってくる。
紀野珍
「このポリープは、切るより育てた方がいいな」医師が独り言のように言った。
事務総長
伊達眼鏡と伊達眼鏡が出会い頭にぶつかり、度が入った。
suzukishika
未来から来た男は、十二単をレイヤードと呼んだ。
東ことり
敵に照準を合わたが、乗っていたメリーゴーランドが回りはじめてしまった。
茂具田
切ったスイカは、小さいのから順になくなっていった。
xissa
私が嫉妬する女はいつも、花の名前を名乗っていた。
merumo
「その他」フォルダの中の「その他」フォルダに答えがあるなんて。
くのゐち
腰掛けを取り去ったブランコは、二本の鎖になった。
TOKUNAGA
手のひらに触れた夏子の歯は冷たかった。今日、僕はディナーとなる。
夏猫
彼女の首の産毛と校庭と空ばかり見ていた。
いこうさま
髪型の神は、神話に様々な髪型で出てくる。
ヘリコプター
叫びたい夜なんてない。ぜんぶ叫んできた。
義ん母
庭先で荒くれるホースにはセンチメンタリズムなど通用しなかった。
g-udon
猫をなでたい方は一度改札の外へ出てください、と車掌は怒鳴った。
もんぜん
農業研修生のジョシュさんとワントさんがやって来て、自治会館での飲み会が増えて、異国のつまみが増え、蝉の声が減った。
乾燥肌
台風が過ぎると、ハムスターが大きく膨れます。
prefab
親方は僕の絵をひとしきり褒めてから、外れた関節をひとつずつ戻した。
Mch
お手の数だけ肉球がある。
ビールおかわり
所さんが作った棺桶はやっぱり所さんっぽくてタイヤとか付いてた。
人が生きてる
紀野珍氏「おじいちゃんと〜」先に帰ってくるのは小太郎の方だと思う。事務総長氏「このポリープ」人面瘡にも人権を。
茂具田氏「敵に標準を〜」暗殺とファンシーが間抜けに融合。
merumo氏「私の嫉妬〜」merumo氏には以前イベントで会ったとき彼女の描いたイラストを見せてもらったが、書き出しにもそれに共通する透明感がある。
くのゐち氏「その他フォルダ」分類できない記憶にこそ発見がある。
続いてのTOKUNAGA氏「腰掛けを〜」はまさにそんな分類できない光景。そこはかとないホラー感
夏猫氏「手のひらに〜」ふたつのセンテンスの距離感が絶妙。読者のイマジネーションがその距離を埋める。
ヘリコプター氏「髪型の神〜」なかなかキャラの定まらない神。
義ん母氏「叫びたい夜〜」隣人は怒鳴りたい夜ばかりだと思う。
乾燥肌氏「農業研修生〜」特殊な設定からリアリティを積み上げ最後に不思議な読後感を残す秀作。とくに「異国のつまみが増え」が中盤をシメている。
prefab氏「台風が〜」気圧のせいだろうか。かわいい。
Mch氏「親方は〜」後半で「あ、関節外れてたんや〜」と分かる。どんな気持ちになっていいのか分からない怪作。
人が生きてる氏「所さんの〜」さすが所さん!

続いては規定部門。今回のモチーフは「初体験」であった。書き出し作家たちの赤裸々な告白をどうぞ!

規定部門・モチーフ「初体験」

初担架のあとの初キスだった。
suzukishika
この感じ何かに似てるな……と考えているうちに終わっていた。
Mch
とりあえず二番目に薄いやつを買った。
大伴
初めてウニを食べた時は、口の中が血まみれだった。
ねことか
初めて書いたラブレターはほぼ遺書となった。
井沢
初体験の帰りにラジオ体操に参加した。
ヘリコプター
ロッテリアのトイレで、きみとはじめてキスをした。
泡沫あい
突然、焼印をせがまれた。
kjm
座布団を投げた手が震えていた。
kjm
初めてのおつかいで捕まった。
えむ毛
小説の主人公は初めてなので緊張している。
公共の八尾
テトラポットの上でファーストキスを済ませた直後、彼女もろとも高波にさらわれた。
イワモト
舌だけが頼りだった。
下川下助
初めて使ってみたんですけど、断然スプーンのほうがカレー食べやすいですね。
たこフェリー
人質になっている僕は、うまく怯えられているだろうか。
おかめちゃん
機械からソフトクリームが止まらないし店長もいない。
おかめちゃん
臨死体験から戻って来た祖母が女の顔をして微笑んでいる。
流し目髑髏
引っ張った帯の重さも腰元の回転速度も、想像を超えていた。
あつし
「被告人を死刑に処す」鏡の前で最後の練習をした。
山本ゆうご
マイクの前に1人で立つと、客席がいつもの倍に見えた。
正夢の3人目
あのサイズの鳩はじめて見た。
人が生きてる
suzukishika氏「初担架〜」まず「初担架」という言葉にやられる。担架に乗ると言うことはなんらかの事故に遭ったわけで、それは彼女を守るためだったと考えれば「初キッス」に繋がる。言葉の面白さプラスストーリーもある秀作。
大伴氏「とりあえず〜」妥当な選択です。
ねことか氏「初めてウニ〜」栗のときと同じ失敗を……。
泡沫あい氏「ロッテリア〜」飾りない言葉でリアリティが伝わる。ファーストフードのそこそこ不潔なトイレ。実際記憶に残るのはキスの味より、視界の隅に映った黒カビだったりする。
kjm氏「座布団〜」はじめて相撲の番狂わせに立ち会った人。初体験のテーマでこれを着想した時点で勝利。
下川下助氏「舌だけが〜」シモネタでありながらそれを凌駕する集中力を感じる。もはやサスペンスの領域。
たこフェリー氏「初めて使って〜」食わず嫌いならぬ使わず嫌いだったんでしょうね。
おかめちゃん「人質〜」は視点の逆転「機械から〜」は日常パニックもの。どちらも秀作。
あつし氏「引っ張った帯〜」何事も体験しないと分からないですね。
正夢の3人目氏「マイクの〜」はじめてのピンでしょうか、芸人ものはいまが旬。
人が生きてる氏「あのサイズ〜」小さくても嫌、大きくても嫌。
今回はモチーフとの距離感が難しかったと思う。採用の分かれ目になったのは「初体験」というテーマがすんなり入ってくるかどうか。抽象的なモチーフはあまりテーマから離れず直球で勝負した方がいいと感じました。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
書き出し読書感想文
さて、次回は「書き出しだけの読書感想文」を募集する。いつものような「読書感想文」をテーマにした作品ではなく、あくまで本の感想を一文で書くという趣旨なのでお間違いないように。作品の最後には本の名前も明記してください。
ただ本の感想を一文でまとめるもよし、本の内容を一文で要約してもいい。またその本を読まなくていい。未読の本の感想文ならぬ想像文も面白いと思う。夏と言えば読書。いつもとは変則的ですがよろしくどーぞ。
締め切りは7月31日正午、発表は8月2日を予定しています。下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して送って下さい。力作待ってます!
最終選考通過者
爪切り抜刀斎/ウチボリ/マエカワグリオ(再)/まるめろ/タクタクさん/ふじーよしたか/にら将軍ハルナ/まじいい/松っこ/小夜子/早百合/菅原 aka $UZY/wabisuke/kwsk/腑分け/こま/カスクストレングス/かすたどん/あぷる/
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デイリーポータルZ新人賞

 
 
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