特集 2015年7月23日

ウイスキーは仕込み水で割るとうまい、ではカルピスはどうか?

最高のカルピスをもとめて
最高のカルピスをもとめて
ウイスキーの水割りを作るときにはそのウイスキーが作られた土地の水で割ると格段にうまくなると聞いた。本当だろうか。

だとしたら、同じく水で割る飲み物であるカルピスも工場のある土地の水を使うと美味しくなるのではないだろうか。
1986年埼玉生まれ、埼玉育ち。大学ではコミュニケーション論を学ぶ。しかし社会に出るためのコミュニケーション力は養えず悲しむ。インドに行ったことがある。NHKのドラマに出たことがある(エキストラで)。(動画インタビュー)

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ウイスキーの親子丼

まずはウイスキーを仕込み水で割るとうまい、という噂を検証したい。

まずウイスキーの産地の水なんてどうやって手に入れるんだという話だが、これは何種類か売られている(スコッチだとハイランドスプリングとかディーサイドとか)。
左が「スペイサイド グレンリベット」。水のくせに瓶入りである
左が「スペイサイド グレンリベット」。水のくせに瓶入りである
「スペイサイド グレンリベット」という水で、その名の通り、スコットランドはスペイサイド地域のリベット川から採取した水である。

つまりこの地域で作られるスコッチウイスキーは、この水を仕込み水として作られていると言っていい。写真右に並んでるウイスキー、ザ・グレンリベットもそうだ。

ゆえに相性もいいということなのだが。
ラベルの裏面に模様が。かっこいい
ラベルの裏面に模様が。かっこいい
水にこだわるなんてこまっしゃくれている気もするが、元と結果を混ぜてうまいというのだから、きっと親子丼みたいなものだ。

はじめて親子丼をつくった人も興奮したはず(鳥と卵混ぜるなんて「人は神にでもなったつもりか!」と思ったはず)。そのドキドキを追体験する意気込みだ。

3種類の水で比較

グレンリベットの水、南アルプスの天然水、うちの水。
グレンリベットの水、南アルプスの天然水、うちの水。
グレンリベットの水(スペイサイド~は長いからこう呼ぶ)はミネラル成分の少ない軟水である。

ここで比較対象としてエビアンなどの硬水をもってきて「味が違いました!」などと言ってもしょうがないので、同じく軟水の「南アルプスの天然水」と「うちの水道水」を用意した。

ザ・グレンリベットと常温の水とを1:1で混ぜて味を比べる。
見た目と匂いは変わらず
見た目と匂いは変わらず
見た目と香りは…変わらないようだ。

味はどうか。
うまいよ
うまいよ
うまい。どれもうまいことには変わりないのだが、比べるとグレンリベットの水の水割りは、アルコールのぴりっとした刺激が少ないようだ。

他の水も水の量を増やせば刺激が収まるが、それだとスコッチの風味が薄まってしまう。僅差ではあるが明らかだ。これが仕込み水との相性と言ったところか。なるほどこれが、といった思いだ。

日本のウイスキーだったらどうか

スペイサイド産のスコッチの相性はわかった。では日本のウイスキーと日本の水ではどうか。グレンリベットの水がすごいというだけかもしれない。

ここで取水地が同じらしい「南アルプスの天然水」と「白州」の組み合わせを試したい。
普通のボトルを買う勇気は出なかった
普通のボトルを買う勇気は出なかった
白州は700mlのボトルで買うと結構するので恥ずかしながらのミニチュアボトルを用意。

50mlしかないので水道水を入れるのはやめて、グレンリベットの水と南アルプスの天然水と割って比較する。
12年ものである。半々にわける
12年ものである。半々にわける
人間で言えば小6人間で言えば小6
人間で言えば小6人間で言えば小6
小6…
小6…
飲んでみる。これもうまい。

さっきのスコッチと比べると両者にあまり違いは感じない。が、しいて言えば南アルプスの天然水を使ったほうが白州独特の酸味がまろやかになっている。

つまりスコッチも日本のウイスキーも、仕込み水を使って割ると尖ったところが少なくなるということでよさそうだ。
Q. ウイスキーを仕込み水で割ると美味しくなるか

A.おいしくなる

カルピスだったらどうか

そしてこれ
そしてこれ
そしてカルピスである。

ウイスキーと同じように、カルピスも仕込み水を使って希釈したら美味しくなるのだろうか。やってみたい。

問題は仕込み水だ。そんなものあるのか。

あるのである。並んでいるのがそれだ。
あった。
あった。
いろいろあって手に入れたこの水。まずはその道のりをお伝えしたい。
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館林に来ました

カルピスの仕込み水来たのは群馬県館林市。ここにカルピスの工場があるのだ。

カルピスの工場から最も近い浄水場から供給される水がカルピスの仕込み水(に近い水)と考えていいだろう。できればそれを手に入れたい。
カメラの設定がわからなくなるほどの日差し
カメラの設定がわからなくなるほどの日差し
しかし館林、暑い。

タクシーの運転手は「(同じく暑さで有名な)熊谷さんと同じで町の北に川が流れてて、南からくる暑さがせき止められてるんですよね」と言っていた。

熱さをせき止めるその川こそがカルピスの仕込み水流る渡良瀬川である。
気温38℃。高3の夏くらい暑い。
気温38℃。高3の夏くらい暑い。

カルピスの工場があります

今日の目的は水なのだが、せっかくなのでカルピスの工場も見ておこう。館林駅の隣渡瀬駅から歩いて10分位のところにある。
とくにすることもなくカルピスの工場と記念写真
とくにすることもなくカルピスの工場と記念写真
一見ただの工場でありつつも、屋根からちらりと見える銀色のタンク。あれにカルピスの原液が入っているのだろうか。

聞くところによるとカルピスの原液1mlには1億程度の乳酸菌が入っているそうだ。だとしたらあのタンクの中にいる乳酸菌の数は……もはや宇宙だ。興奮を禁じ得ない。
この暑さで乳酸菌たちは大丈夫だろうか
この暑さで乳酸菌たちは大丈夫だろうか

カルピスの水で育つ米

さて仕込み水である。立地的におそらく渡良瀬川の水を使って工場を動かしていると思われるが、川の水をそのまますくって飲むわけにもいかない。

なので工場の近くにある浄水場に行こう。徒歩である。
ありあわせの装備感まる出しで向かう
ありあわせの装備感まる出しで向かう
繰り返すが本当に暑い。1キロ程度の道のりが果てしなく感じる。見回しても道を歩いている人はどこにもいない。馬鹿だけが歩いていて、馬鹿は自分だということだ。

ただそのような状況だとかえって頭は働くもので、「そういえばカルピスの原料は牛乳だな…」ということを思い出してしまった。つまり、この土地の水を使っているか怪しい。

……。

調べると工場ではカルピスウォーターも作ってるらしい。きっとカルピスに一番あう水なのだろう、ということで納得して歩み続けた。
やがて遠くに見えてきたのが館林の浄水場
やがて遠くに見えてきたのが館林の浄水場
まわりに広がるのは田んぼ。この稲もカルピスと同じ水で育っているのか。なんだかわからないがありがたい気がしてきた。

ちなみにカルピスの工場の横にはブルドックソースの工場もあった。この米は味が濃そうだ、とぼんやり思った。

そして干からびる寸前になりつつも浄水場に辿り着く。さて、どうしよう。
館林第二浄水場前で記念写真。
館林第二浄水場前で記念写真。
浄水場に隣接して蛇口とか水飲み場はないかなあと思ってうろうろしてみたが、そのようなものは特に用意されていなかった。相変わらず田んぼが広がるのみである。

灼熱の太陽の下、目の前に浄水場があるのに飲水は手に入らない。こういう状況を的確に言い表す言葉がある。「地獄」である。
こちらが地獄からの景色です。広い空、青い田んぼ、ソーラーパネル。
こちらが地獄からの景色です。広い空、青い田んぼ、ソーラーパネル。
最も近い公園はさらにしばらく移動しなければならない。そうすると浄水場から離れてわけがわからなくなってしまうし、何より暑い。

どうするか。
ひとまず途方に暮れることにするか
ひとまず途方に暮れることにするか

水ではなく善意をもらう

見ると、田んぼの他に、数件の民家がある。

そこで水をもらうという選択肢が出てくる。まよう。

知らない人に水をくださいと言うか。怪しすぎないか。でも言うのか。突然訪問してペットボトルに水をくださいと頼むのか。しかし、ここを離れたら浄水場に来た意味がない。どうするのか俺よ。

迷うこと20分。猛烈な暑さの中、体は自然と知らない家の人にあいさつをしはじめていた。
今年最高の「こんにちは」が出たと思う
今年最高の「こんにちは」が出たと思う
住んでいる方の姿が見えたのであいさつ(最高にいい感じだったと思う)をしつつ、このペットボトルに水を、とお願いしたら「はいはい、今日は暑いですもんね」と快くお願いを受け入れてくれた。

しばらくして蛇口から水が出る音がする。ミッションコンプリートの音である。
ひとんちの水GET
ひとんちの水GET
どうやらこの方は暑さで干からびた旅人が水を恵んでくれとやって来た、と思っていたようである。

なんだか騙しているような気がしたので企画趣旨を説明すると「だったらここの水はおいしいですよ」と言われた。

もらったのはもう水なんかではない。「善意」だ。
この水ならありがとうを聞かせてやってもいい
この水ならありがとうを聞かせてやってもいい
ついでに地元のスーパーでカルピスの原液も買っておいた。
「とりせん」というローカルスーパー
「とりせん」というローカルスーパー
カルピスもゲット
カルピスもゲット

いよいよカルピスの味くらべ

そして話は1ページ目に戻る。

さあ、水を変えたカルピスの飲み比べである。5倍に希釈したレシピ通りのカルピスを作る。
左から館林の水、グレンリベットの水、うちの水
左から館林の水、グレンリベットの水、うちの水
……なるほど
……なるほど
味はほぼ同じであった。
Q. カルピスを工場近くの水道水で割ると美味しくなるか

A.どの水で割っても変わらない
以上です。

かわった水でカルピスを割る

工場にほど近い最高の水を使っても、カルピスは安定して味は変わらなかった。

「味」でいうと確かに変わらないのだが、「飲んだ感じ」だとやはり館林の水で割ったカルピスはすばらしかった。手に入れたときのエピソードが浮かんでくるというか。

自らの足で登った山頂の景色と、ロープウェイで登った山頂の景色は違うだろう。その意味で館林のカルピスは最高なのである。

かわった手法で入手した水でカルピスをを割るという変な趣味に目覚めそうなほどである。ヘレン・ケラーの水がほしい。
暑かった記念に館林のアメダスも見に行きました。
暑かった記念に館林のアメダスも見に行きました。
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