特集 2015年8月2日

書き出し小説大賞・第78回秀作発表

うれしいお知らせ。新潮社より発売中の書き出し小説単行本の3刷が決まりました。昨年出して以来、本当にじわじわですが売れています。最近書き出し小説を知った方はぜひ、本書で初期の名作に触れてみてください。
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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それでは今週もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう。

書き出し自由部門

緊張のあまり蟻塚の方に告白してしまった。
義ん母
妻の名前がついた台風が各地で被害をもたらしている。
もんぜん
スリッパは歩いた形に脱いであった。
まじいい
グラウンドでの告白は五種類の蝉の鳴き声でかき消された。
g-udon
湯船につかって昨日読んだ入浴剤の裏書を今日もまた読んでいる。
xissa
見慣れない診察券をそっとトランプの中に入れた。
ヘリコプター
夏の墓地に、ゆっくりと、巨きな錠前をかける音が響き渡った。
ボーフラ
二枚組のベスト盤を最後に活動を休止したような顔で母が昼寝している。
マークパン助
洗濯のたびに伸びたタイツが、とうとう私の身長を越えた。
おかめちゃん
小鳥はカゴごと飛び立った。
ウウタルレロ
自撮り棒の壁に囲まれて、ギャル神輿は町内を巡る。
流し目髑髏
君はいつだって目立ちたがりで、だからこそ孤独だし一生懸命に見える。
終点いのり
のこされた麺は「さよなら」と読めた。
大伴
このジャージで行けば、間に合うような気がしていた。
ocamo
転校するたび、誰も知らないモノマネだけが増えてゆく。
マークパン助
排水口の栓を抜くと、女神は回転しながら水の底に消えた。
紀野珍
四人乗りの軽自動車に、四人の刑事たちが乗り込んだ。
TOKUNAGA
「緊張のあまり~」義ん母氏。サバンナ地域の部族にとってはお馴染みのあるあるネタかもしれない。「グラウンドでは~」g-udon氏。外国人にとってセミの声は騒音にしか聞こえないらしい。なんでも日本人は虫の鳴き声を左脳で「声」として聞き、外人は右脳で「音」として聞くのが理由だそうだ。とすればこの場合、告白をかき消すセミの声は冷やかしだろうか。「湯船につかって~」xissa氏。防水テレビを持つ込むよりこういう入浴タイムの方が個人的には好き。あと関係ないけど排水口につまった毛を石鹸台の上に置いたまま忘れ、翌日ぎょっとするときありませんか?
「見慣れない診察券~」ヘリコプター氏。知らずに扇形に広げたときの、この一枚の破壊力は相当だと思う。「二枚組のベスト盤を~」マークパン助氏。こういう回りくどい比喩をいろいろ集めてみたい。面白いコレクションができそう。「小鳥はカゴごと~」ウウタルレロ氏。シンプルかつ鮮やかな秀作。「自撮り棒の壁~」流し目髑髏氏。自撮り棒……かつてこんなエゴにまみれた棒の使い方があっただろうか。「このジャージでいけば~」ocamo氏。テツ&トモがはじめて赤と青のジャージを見掛けたとき、これと似た心境だったと思う。「四人乗りの軽自動車~」TOKUNAGA氏、このナンセンスの妙味は説明できない。そこがいい。

つづいては規定部門。今回は変則的なルールで行った書き出し感想文。お題になった本を読んだことのある人は自分の感想と比べて、読んだことのない人は読んだ気になってご覧ください。

規定部門・モチーフ「書き出し感想文」

「川から桃が流れてくる」という伏線が回収されていない。(作者不明『桃太郎』)
くのゐち
ばか、っていう人がばか。(トルストイ『イワンのばか』)
xissa
トンネルを抜けてからが長い。(川端康成『雪国』)
TOKUNAGA
出前はしてくれないんだろうなと思いました。(宮沢賢治『注文の多い料理店』)
菅原 aka $UZY
格調高い平安文学だと思っていたけど、これはギャルゲーだ。(紫式部『源氏物語』)
タクタクさん
疾走する龍馬に、司馬遼太郎の歴史ウンチクが行く手を阻む。(司馬遼太郎『龍馬がゆく』)
タクタクさん
赤シャツ主役のスピンオフとか見てみたいと思いました。(夏目漱石『坊っちゃん)』
たこフェリー
そこそこ強度があった糸がすごいと思った。(芥川龍之介『蜘蛛の糸』)
大伴
カンダタ、ファイナルステージクリアならず。(芥川龍之介『蜘蛛の糸』)
義ん母
竹同士のプライドがぶつかり合う決勝の展開には鳥肌が立ちました。(樋口一葉「たけくらべ」)
Mch
読み終えたとき思わず椅子から立ち上がった。バス車内でのことだ。(江戸川乱歩『人間椅子』)
紀野珍
自由研究で作ってみようと思いました。(江戸川乱歩『鏡地獄』)大伴
ラムネの瓶を陽に透かすと地面に落ちる影はこんな感じだろう。(村上龍『限りなく透明に近いブルー』)
マシマロ
つまり、局部にはお経を書いていたのか。(小泉八雲『耳なし芳一』)
くのゐち
こんなの一休さんじゃない。 (平野宗浄監修『一休和尚全集 狂雲集他、全五巻/別巻』)
TOKUNAGA
もし逃げ切っていたら、また違う結末を迎えていたのかも知れない。(サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』)
あつし
挟まれたいと強く思った。(江國香織『冷静と情熱のあいだ』
)茂具田
お前の案配じゃないか。(俵万智『サラダ記念日』)
正夢の3人目
引きこもりをやめるきっかけになった。(井伏鱒二『山椒魚』)
g-udon
一般でも十分特殊だった。(アインシュタイン『相対性理論』)
ビールおかわり
どのタイミングで読むのが正しいのだろう。(又吉直樹『火花』)
正夢の3人目
「川から桃が~」くのゐち氏。たしかに(笑)この作品ではじめて桃太郎の不自然さに気づかされました。逆にこの冒頭につながるループものの展開とか考えてみたくなりました。「出前は~」菅原 aka $UZY氏。待ち伏せ型じゃなく狩猟型の『注文の多い料理店』。さらにホラー要素が増してます。「疾走する龍馬に~」タクタクさん氏。こちらは『注釈の多い歴史もの』。司馬遼の「~に違いない」「~のであろう」って文体を読んでると結局全部この人の妄想だろうと思ってしまうことが、ままある。「赤シャツ主役の~」たこフェリー氏。素直に見たいです。サブタイトルは~赤いジェラシー~で。「竹同士のプライド~」Mch氏。絶対読んでませんね。勝負開始のゴングは鹿威しだと思います。「自由研究で~」大伴氏。小学生のみなさん是非!「ラムネの瓶~」マシマロ氏。タイトルしか読まなくてもこんな素敵な感想文が書けるという好例。「こんなの一休さん~」TOKUNAGA氏。アニメから入るとねえ。原作派の意見も聞きたい。「もし逃げ切っていたら~」あつし氏。ライ麦畑以外の逃走ルートも考えたい。「お前の案配~」正夢の3人目氏。よくぞ言ってくれました。同じく正夢氏の「どのタイミングで~」これも代弁に感謝したい。

どれでは次回のモチーフを発表します。
次回モチーフ
バトルもの
次回は戦い、バトルものです。もちろんバトル描写からはじまってもいいですし、その後のバトル展開が予想されるシチュエーション、心情描写でもかまいません。誰と誰、なにとなにをバトルさせるか、その理由はなにか、はたまた肉弾戦か心理戦かなど、取っかかりも多いと思います。締め切りは8月14日正午、発表は16日を予定しております。下記の投稿フォームから自由、規定いづれかを選択してお送り下さい。力作待ってます!
最終選考通過者
ウチボリ/夏猫/人が生きてる/不眠/prefab/小夜子/冬至/merumo/りんすず/うにねこ/マエカワグリオ(再)/ロサンゼルス/ねもっ血風クン/藻屑/みよ/ぴすとる/山本ゆうご/乾燥肌/松っこ/ばんぶるびー/
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