はっけんの水曜日 2015年8月12日
 

虫と自撮りをする男

盛夏!青い空!カマキリとおっさん2人の自撮り!
盛夏!青い空!カマキリとおっさん2人の自撮り!
魂が激震した。1冊の本のせいだ。

その名は「虫とツーショット」。プロの昆虫写真家が被写体である虫と一緒にフレームに収まっているという、自撮りカルチャーの極北に達したビジュアルブックだ。もう、いてもたってもいられなくてオファーした。

「私も虫と自撮りしたいんですが!」
1975年神奈川県生まれ。普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。 最近バレンチノ収集を始めました。
> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

想像を斜め上に超えた読書体験

この夏、一番の衝撃だった。マッドマックスすら二番目っていうくらいの。文一総合出版より5月に発売された『虫とツーショット ― 自撮りにチャレンジ! 虫といっしょ(写真・文:森上信夫)』
まずこの表紙にすごく呼ばれた。
まずこの表紙にすごく呼ばれた。
書店で偶然目に止まったこの本、タイトルの通り、全てのページが徹頭徹尾、一人のおっさんと虫のツーショット、しかも自撮りで埋め尽くされている。
吹き出し付きでストーリーになっている。自撮りファンタジー。
吹き出し付きでストーリーになっている。自撮りファンタジー。
このプロの自撮り本、斬新などという言葉では言い表せない。これはインタビューなんかじゃだめだ。「一緒に自撮りをしたい!このおっさんと!」

自撮り(虫と)ワークショップはじまる

というわけで連日の猛暑が叫ばれる中、某所の森林公園へ。
手慣れた自撮りフォーム!
手慣れた自撮りフォーム!
オファーを快諾いただき、「虫とツーショット」著者の森上信夫(もりうえ のぶお)さんとの自撮りフィールドワークが実現した。

冒頭でおっさんおっさんと失礼な物言いを繰り返したが、森上さんはプロの昆虫写真家である。
ベスト、ジーンズ、長靴がフィールドワークの戦闘服
ベスト、ジーンズ、長靴がフィールドワークの戦闘服
虫好きが高じて、その表現手段として写真を独学で学び、1996年には平凡社主催の「動物写真界の芥川賞」と呼ばれる「アニマ賞」を受賞。図鑑などに写真を提供するだけでなく、今までに幾多の昆虫本を執筆している。
森上さん撮影。目が合うだけで謝りたくなるオオスズメバチ
森上さん撮影。目が合うだけで謝りたくなるオオスズメバチ
昆虫のディテールをつぶさにとらえた精細さと今にも動き出しそうな躍動感を兼ね備えた写真、そして深すぎる造詣をベースにしたユーモラスな語り口の文章で、昆虫を楽しく談じているものばかりだ。
熱帯雨林の航空写真みたいなテクスチャーが映えるアカスジキンカメムシ
熱帯雨林の航空写真みたいなテクスチャーが映えるアカスジキンカメムシ
森上さんいわく、「私が作る本のコンセプトは大きくわけると、昆虫に関する知識を真面目に楽しむ『直球系』とエンタメに強く振り切った『変化球系』の2つがあります」
私が所有している森上本。右の2冊が「直球系」、左の2冊が「変化球系」
私が所有している森上本。右の2冊が「直球系」、左の2冊が「変化球系」
「虫とツーショット」はその「変化球系」の最新作である。ていうかもう魔球なんだけれども。
変化し過ぎて球がどこに行ったかわからなくなった例。蚊とツーショット (『虫とツーショット』で使用した写真)※森上さんはプロのノウハウと覚悟でこの写真を撮影しています。わざと蚊にさされる行為は絶対にやめましょう。
変化し過ぎて球がどこに行ったかわからなくなった例。蚊とツーショット (『虫とツーショット』で使用した写真) ※森上さんはプロのノウハウと覚悟でこの写真を撮影しています。わざと蚊にさされる行為は絶対にやめましょう。
今回使用するメインのマシンはコンパクトデジカメ。
オリンパスTGに魚眼コンバージョンレンズ「魚露目(ギョロ目)8号」を取り付け虫撮り仕様に。今回は自撮りに使うんだけど。
オリンパスTGに魚眼コンバージョンレンズ「魚露目(ギョロ目)8号」を取り付け虫撮り仕様に。今回は自撮りに使うんだけど。
――これは虫の撮影用に開発されたレンズですか!?

「ドアスコープレンズを転用したもので、手軽に虫を大きく、迫力あるアングルでとらえる事ができます。もちろん通常のレンズでもできますが、自撮りにこれを使うと人間と虫が対等な存在感になっていいですよ」

自撮りは表情

「まずは動きのない被写体で練習しましょう」

森上さんが最初に選んだ被写体はセミの抜け殻。たしかにこれなら動くこともなく、気軽に撮影の練習が可能だ。
対象を抱え込むようにして手首を返し、こちら側にレンズを向けてパシャリ!
対象を抱え込むようにして手首を返し、こちら側にレンズを向けてパシャリ!
――「虫とツーショット」の中では昆虫との自撮り写真に吹き出しで台詞が付けられたり、4コマでストーリーになっていたりしますが、あれは撮影する時に考えるんですか?」
「撮影する時にはストーリーが出来ている場合と、撮ってから考える場合と両方あります。いずれにしろ写真からいろいろ展開が考えられる様に表情には気を付けていますね。喜怒哀楽をしっかりとね、まあおもに笑顔ですが」
うお!絶妙!ばっちり!
うお!絶妙!ばっちり!
あまりにもあっさり撮るので「え、こんなの余裕じゃないですか」とすぐさま私もチャレンジ。
森上さん撮影。こんな姿を写真家に撮影してもらえてうれしい。
森上さん撮影。こんな姿を写真家に撮影してもらえてうれしい。
うわーグダグダだ。ていうか後ろの森上さんのほうがいい笑顔。
うわーグダグダだ。ていうか後ろの森上さんのほうがいい笑顔。
これがなかなか難しい。当たり前だがファインダーが見えないのでアングルがよくわからない。そして表情、自分の目の前に虫がいて、レンズが無機質にこっちを見つめていて、さらにそれを支えているのは自分の腕というシュールな状況に異次元の照れが生じる。どんな顔をしていいのかわからないのだ。
すぐ向こうにはちゃんとした自撮りを楽しんでいるファミリーが。
すぐ向こうにはちゃんとした自撮りを楽しんでいるファミリーが。
「表情はねえ、そこが芸のひとつなんですよ。僕の本を見てやってみると言った人から、一番難しいのはこの状態で和やかな表情をする事だっていう声をよく聞きます」
――いやほんとに。これ写真家だからうまく撮れるっていうものでもないですよね、撮るだけでなく撮られるスキルも必要だし。
「いや、僕ね、自撮りが無駄にうまかったんですよ」
――え?どういう事ですか?
「スマホなんかで流行る前から日常のいろんなシーンで自撮り、やってたんですよね」
後日送られてきた自撮りカット。確かに…「無駄にうまい」という形容がぴったりだ。いい写真なんだけどなんかこう、無駄なよさが。
後日送られてきた自撮りカット。確かに…「無駄にうまい」という形容がぴったりだ。いい写真なんだけどなんかこう、無駄なよさが。
日頃から培っていた自撮りのスキルが昨今のブームにより大好きな昆虫と結びつくのは必然の流れだったのだ。いや、書いておいてなんだが違う気がする。
森上さん撮影によるウシカメムシ。この記事はたびたび、森上さんがすごい昆虫写真家である事を思い出していただく構成になっています。
森上さん撮影によるウシカメムシ。この記事はたびたび、森上さんがすごい昆虫写真家である事を思い出していただく構成になっています。

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