チャレンジの日曜日 2015年8月16日
 

書き出し小説大賞・第79回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。

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書き出し小説秀作発表第79回目である。

暑い。汗で濡れたTシャツが背中に貼りついて脱ぎづらい。加齢に伴い体が固くなるにつれ脱ぎづらさも増している。脱衣場の暗がりで脱皮できない巨大な海老を見掛けたら、それが私です。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう。

書き出し自由部門

欠伸をすると、祭り囃子がすこし遠ざかった。
紀野珍
勢いよく飛び出した伝令がマウンドを通り過ぎ、相手ベンチに寝返った。
g-udon
フラッシュモブで余命を告げられた。
えむ毛
充実しているように見えるかもしれないが、この網から抜けられなくなっているだけだ。
ocamo
二階へ上る階段の中程から暑さが増した。
まじいい
遺言状には今シーズンのアニメのことしか書かれていなかった。
もんぜん
神殿に差し込む光が僕をまばらに日焼けさせた。
TOKUNAGA
つられないように耳を塞ぎ、大声で下のパートを歌っている。
xissa
この平均台で振り返るといつもフラミンゴがいる。近づくと飛んでゆく。
ヘリコプター
昨日と照らし合わせて歩く、間違い探しのような町だ。
xissa
目当ての小銭が昇ってくるまでガマ口を振る少年の後ろに、優しい列ができていく。
人が生きてる
水面に浮かべたえびせんが蓮の葉に当たってゆっくりと沈んでゆく。
ら+
昼に金粉を出した彼の手が、今夜も私を優しく撫でる。
おかめちゃん
その猪の毛は綺麗な三つ編になっていた。この森でまだお母さまは生きておられるのだ。
正夢の3人目
お土産にもらった岩塩は牛に舐められ消えてしまった。
suzukishika
彼女の歯型だと信じて食べた。
ウチボリ
まだ書き出しだけしか読んでいない又吉さんの「火花」だが、その冒頭シーンは祭り囃子の描写からはじまる。紀野珍氏の「欠伸を〜」はそれと対になる書き出しかもしれない。g-udon氏「勢いよく〜」なんという大胆は謀反だろう。サブタイトルは〜裏切りの、夏〜としたい。えむ毛氏「フラッシュモブ〜」本人への過剰な気遣いが最悪の形で出た。ocamo氏「充実しているように〜」人はスランプのときほど、どうにか突破口を見つけようと試行錯誤する。ただその姿は他人から見れば遊んでるようにしか見えない。誰にでも思い当たる節がある秀作。まじいい氏「二階へ〜」うん、リアルである。
人が生きてる氏「目当ての小銭〜」小銭を探す表現は手の平に移すか、指でまさぐるかが普通だが、揺すって昇らすとしたところにこの作品の妙味がある。そんな少年の行為に対する「優しい列」もよい。おかめちゃん氏「昼は金粉〜」怪しい教祖との怪しい関係。宗教と欲望、奇跡と性癖、ただならぬエロティシズム。正夢の3人目氏「その猪の毛〜」どんな事情があったのか皆目わからないが、お母さまが無事でよかった。suzukishika氏「お土産にもらった〜」夢か現実かわからない光景、しかしこの為す術のない情景が、読み手を言葉にできない感情に誘う。言葉に出来ない感情をどう言葉にするか、その矛盾にこそ創作の意義がある。

つづいては規定部門、今回もモチーフは「バトルもの」であった。書き出し作家たちの息詰まる攻防戦をご覧頂きたい。

規定部門・モチーフ「バトルもの」

布団にくるまり、「戦う理由」と戦っていた。
紀野珍
疲労でふたえになる癖はバトルの後も変わらなかった。
TOKUNAGA
ひとしきり睨み合いが続いた後、ハブとマングースは同時に飛びかかった。私に。
イワモト
必殺技の名前を長くし過ぎたことを後悔していた。
g-udon
必殺技の名の由来が死んだ愛犬との思い出であると知り、涙が止まらなくなった。
あつし
能力者同士の激しい睨み合いが続き、町中のスプーンがくの字に曲がってゆく。
タクタクさん
互いのスペシュウム光線がぶつかり合うと、卑猥な臭いが周囲に充満した。
タクタクさん
お祖母様は徘徊中にいくつかの大会を制した。
横尾モスラ
上げても上げてもずり落ちてくる肩紐と戦っている。
xissa
エアボクサーも決勝レベルにもなると、イメージだけで流血する。
山本ゆうご
次回予告で負けることがネタバレされてしまった以上、もうやる気も出てこない。
愛沢のぞみ
戦いの後に芽生える友情など存在しないことを、俺は証明し続けている。
殿様バッハ
二問目の早押しで、右腕はすでに折れていた。
大伴
「やんのかコラ!」「あん?ブッ殺してやるよ」2人のヤンキーはスマホのアプリを起動させた。
たこフェリー
恥ずかしいくらい撃たれていた。
名前澤
仲間と幾度かフライングし合うと、そこからはもう爆笑の連続だった。
まじいい
嫁は全力でリビングを磨きあげた。姑はひとさし指でその後を追った。
茂具田
半額シールが貼られるのを三人の主婦が素知らぬ顔して狙っている。
g-udon
新体操と競泳の異種格闘技戦は、接点を見い出せないまま引き分けとなった。
タクタクさん
土俵に置いたら交尾を始めた。
小夜子
激しい空中戦の下で、町内会長の挨拶が始まった。
あつし
紀野珍氏「布団にくるまり〜」xissa氏「上げても上げても〜」g-udon氏「半額シールが〜」日常とはバトルの連続である。TOKUNAGA氏「疲労で〜」明日もバトルだ。早めに寝よう。タクタクさん「互いのスペシュウム光線〜」争いから大義名分を奪うと、残るのはやはり戦いそのものに対する性的な本能ではないか。卑猥な臭いはおそらくその事実を暗示している。横尾モスラ氏「お祖母様〜」制した大会を想像するだけで楽しいw 個人的に真っ先に浮かんだのはホットドッグの早食い大会です。
殿様バッハ氏「戦いの後に〜」拡大解釈すれば政治的な作品だと思う。大伴氏「二問目の〜」そんな状態で三問目の書き問題を?!名前澤氏「恥ずかしいくらい〜」戦争ほどハレンチな行為はない。茂具田氏「嫁は全力で〜」姑の指紋はもはや摩滅している。小夜子氏「土俵に〜」昆虫同士を戦わせる際はオス同士が基本。戦後70年。平和へのメッセージがこもった作品が多かったように思う。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
再会
再会には初めての出会いとはまた違ったドラマがある。あらかじめ経由した過去が、再びはじまるドラマをより濃密にする。再開のシチュエーションからはさまざまな場面が想像できるし、人物たちのリアクションを考えるのも楽しいと思う。人物同士の再会ばかりではない、モノ、場所、に対する再会もある。また喜ばしい再会ばかりではなく、憎しみ、恥ずかしさを伴うものもある。心を揺さぶる再会のドラマに期待したい。
締め切りは8月28日正午、発表は30日を予定している。下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択し送って頂きたい。力作待ってます!
最終選考通過者
ウウタルレロ/哲ロマ/松っこ/merumo/流し目髑髏/義ん母/Mch/prefab/水菜ななみ/東ことり/ふじーよしたか/アイアイ/くのゐち/トミ子/オクラホマト/夏猫/
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