特集 2015年8月19日

時刻表づくりをちょっとだけ体験できるツアー

時刻表の校正をちょっとだけ体験
時刻表の校正をちょっとだけ体験
先日「時刻表づくり体験ツアー」という、地味ながらも好奇心をそそるツアーが開催された。

これは子供向け体験ツアーだったのだか、ツアーの様子を見学させてもらうことができた。

想像以上に濃いイベントであった。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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でも、作るのは大変だろうな……

時刻表をながめるのが好きだ。

やたら時間のかかる鈍行を眺めたり、読みづらい駅名を探したり、なんだかんだでしばらく時間は潰せる。

ただ、ながめていると「校正大変なんだろうな……」という思いもわく。

以前、編集プロダクションで編集者のまね事みたいなことをしていたため、いちばん苦手だった校正のことは、どの印刷物をみていても気になる。

もちろん、時刻表も毎月発行されているということは、毎月校正もしているだろうし、1000ページ以上ある、しかも時間がズラーっと書いてあるだけの原稿をいちいち校正してると思うとなかなか胸が熱くなる。

見学させてもらったツアーは、そんな時刻表の編集を少しだけ体験することができるという。子供向けとはいえ、時刻表がどんな風にできているのかを大まかにしることができるというのだ。
まずは時刻表についての基本的な知識から
まずは時刻表についての基本的な知識から

鉄道好きの子供たちが集まった

まずは、JTB時刻表の編集長大内さんによる時刻表の基本講座だ。JTB時刻表編集長の大内さんといえば、以前、握手会で握手してもらったひとである。
時刻表の妖精「ジーコくん」
時刻表の妖精「ジーコくん」
着席した子供たちに、大内編集長が「みなさん、どんな列車や電車をしってますか?」と質問すると「内房線!」「SL人吉!」「ぶらり横浜・鎌倉号!」と元気のいい返事がかえってきた。「内房線」はまだわかるけど「ぶらり横浜・鎌倉号」なんて申し訳ないけどおじさんは知らんかったぞ。

これはマジな子供たちが集まっている。これはふんどしを締めてかからなければならない。

実は便利な紙の時刻表

さて、ひとくちに時刻表というけれども、時刻表にはいったい何の時刻表が載っているのか?
時刻表に載っている乗り物はどれかな?
時刻表に載っている乗り物はどれかな?
これはぜひみなさんも考えていただきたい。

次のうち、時刻表に載っている乗り物は?
(1) 新幹線
(2) 列車
(3) 蒸気機関車
(4) バス
(5) 飛行機
(6) 船

意外と思われるかもしれないが、じつはこれ全部載っている。

もちろん、バス、飛行機、船は網羅しているわけではないが、主要な路線は時刻が掲載されている。時刻表、意外と使えるやつなのだ。

最近はスマホのルート案内でサクッと調べちゃうことも多いかもしれないけれど、乗り換えが多い旅や、途中下車したり、普通列車にしか乗れない(18きっぷ)などの制約がある旅程を自分で調べる場合は、やはり時刻表があると便利……と、ぼくは思ってしまう。

1000グラムを超えないようになっている

ところで、大内編集長が突然こんなことをいいだした。「時刻表の重さってどれぐらいか想像つきますか?」

時刻表、重いなとは思うものの、具体的に何グラムかなんて考えたこと無い。
たじろぐ大内編集長
たじろぐ大内編集長
すると、黄色いシャツの少年が手を挙げる。

少年「だいたい1000グラムぐらい?」

大内編集長「お! 大正解! なんでわかったの?」

たじろぐ大内編集長。

少年は時刻表の重さをキッチンスケールで量ったことがあるらしい。なんなんだこの子たちは。
大内編集長のサイン入りJTB時刻表4月号954グラム
大内編集長のサイン入りJTB時刻表4月号954グラム
鉄道好きの、SKE48松井玲奈が表紙のJTB時刻表6月号969グラム
鉄道好きの、SKE48松井玲奈が表紙のJTB時刻表6月号969グラム
念のため、家にあったJTB時刻表2冊の重さをそれぞれ量ったところ、いずれも1000グラムにちょっと足りない960グラム前後となっていた。

時刻表は、普通より少し安い料金で郵送できる第三種郵便物の制限ギリギリの重さ1000グラムを超えないように作られている。

どうしても微妙にオーバーしてしまう場合は、本のサイズを縮めて、背を低くして重さを調整したことがあるそうだ。

重さをなるべく軽くするために、紙も時刻表用の特別な紙で作られている。薄いけど、めくりやすい不思議な触り心地の紙は特注品だった。

ちなみに、以前握手会の記事でも紹介したけれど、JTB時刻表は縦の線をウラとオモテで同じ位置になるよう合わせている。これは、紙が薄くて裏写りしても見づらくならないための工夫でもある。
JTB時刻表は縦線が揃ってるから見やすい
JTB時刻表は縦線が揃ってるから見やすい
さらにJTB時刻表のトリビアは続く。

大内編集長「時刻表は各鉄道会社からもらってくる時刻のデータはどうしても同じになってしまいます。JTB時刻表だけ、他の時刻表とくらべて新幹線が10分早く着くなんてわけにはいきません。したがって、内容の見やすさで勝負するしかないんです」

そのための工夫として「赤を使わない」というものがあるらしい。

他社の時刻表では、特急を赤で表示して他の列車と区別しているものもあるが、JTB時刻表は特急は太字で表示しているだけだ。

これは、JTB時刻表を旅行に持っていく場合、必要なページだけモノクロコピーして持っていくときに、赤だと色が薄くなってしまう。さらに、JTB時刻表の読者は年配が多く、赤が見づらいということもあり、あえて赤は使っていないという。
特急が黒い太字のJTB時刻表
特急が黒い太字のJTB時刻表

時刻表づくりのおおまかな流れ

時刻表は、鉄道会社からもらってきた列車の運行資料を元に、前月の紙面に赤字を入れ、それを時刻表を作成する専用のソフトで作成し、それを校正して完成となる。
列車の運行概要が書かれた資料「額表」の見本
列車の運行概要が書かれた資料「額表」の見本
額表の内容を訂正する資料の見本
額表の内容を訂正する資料の見本
訂正資料を元に額表に赤を入れる
訂正資料を元に額表に赤を入れる
なんていうか、これ仕事だ。しかし、鉄道が好きでここに集まった子供たちは黙々と仕事をこなしていく。

赤入れが終わると、今度はパソコンのある部屋に移動して時刻表作成ソフトで修正したデータを実際に入力してプリントアウトだ。
修正したデータを元に、パソコン上のデータも修正する。
修正したデータを元に、パソコン上のデータも修正する。
時刻表のデータそのものを修正する
時刻表のデータそのものを修正する
赤入れしたカスゲラの通りに修正されているか確認
赤入れしたカスゲラの通りに修正されているか確認
親もチェック
親もチェック
編集長のチェックのあと
編集長のチェックのあと
校了!
校了!
大内編集長に最終チェックをしてもらい校了の判が押されたら完成だ。

実際は校正がこんなに早くおわるわけではない。もっと何重ものチェックをくぐり抜けて時刻表は発行される。

時刻表編集部らしさを観察

ところで、時刻表編集部をのぞいてみて「時刻表の編集部だなあ」と、感じた部分がけっこうあったので最後にざっと紹介したい。
半年分以上のカレンダーが掲示されていたいちいちめくって確認しなくてもいいから便利だなこれ。
半年分以上のカレンダーが掲示されていたいちいちめくって確認しなくてもいいから便利だなこれ。
改正号とか無回転とか時刻表らしい判子
改正号とか無回転とか時刻表らしい判子
カラフルな色鉛筆、構成する人によって使う色が決まっていて、同じ色を使わないので、誰の修正なのかひと目でわかる。
カラフルな色鉛筆、構成する人によって使う色が決まっていて、同じ色を使わないので、誰の修正なのかひと目でわかる。
電動の鉛筆削り、各テーブルに1台はあった
電動の鉛筆削り、各テーブルに1台はあった
持って帰っていい鉄道グッズ、これ、もってけドロボーってやつだ
持って帰っていい鉄道グッズ、これ、もってけドロボーってやつだ

地味なキッザニア

時刻表は、時刻が1分でも間違っていると、そのせいで被害を被るひとがたくさん出てくる可能性があるので、ミスがないように細心の注意を払って作られているのだ。

時刻表作成は、はっきり言って派手さやかっこよさというよりも、地味な作業が多いというのは否めない。しかし、世の中の仕事ってたいていこんな感じだよな。という気はした。こういうキッザニアにはなさそうな仕事体験ができるというのもけっこう面白いと思う。

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