記事制作インターン 2015年9月14日

縦に細長い建物に個性を主張する声を聴いた

細長いビルの声ならぬ主張を聞きたい
細長いビルの声ならぬ主張を聞きたい
「細長い」もの…パスタにストローにごぼう、マッキー…と日本中、いや世界中に細長いものは転がっている。細長いものには不思議な魅力がある。妙な緊張感、アンバランス、不安定、いびつ…王道を外しまくる不穏なフレーズがこれでもかと登場する。魅力すぎやしないか。

細長いものは小さなモノだけではない。日本国土だって細長いし、細長い公園だってあるし細長い建物だってもちろんある。

そういうことだから、細長い建物探しに秋の都心に繰り出すことにする。
東京八王子出身の大学3年生。冬は氷点下5℃まで気温が下がるのでNHKの天気予報で別枠扱いなのがひそかな誇り。大学では地理学を専攻。公共交通をぶいぶい乗り回して日本全国の商業施設を訪ね歩くのが好き。自動車免許取得中。



傾向と対策

細長い建物はどこにあるのだろう。

漫然としすぎた質問である。さっぱりである。そもそも「細長い建物探して来い」なんて、無茶である。

地図をぐりぐりして、細長い建物がたくさんありそうな場所を、目を皿のようにして探す……うーーーーん……

これは開始5分にして限界である。もうテーマを「わたしが大好きなからあげの食べ方はお酢をかけることです」という食レポに切り替えるしかない…ん、あれ、
細長い建物がみっちり
あった………

善は急げである。筆者は細長い建物を捕獲しに、急ぎ千代田区の馬喰町へと飛んだ。

急いては事を仕損じるとも言う

都営新宿線の馬喰横山駅で降りる。地上に上がり、地図で確認しながら目星をつけたエリアへと向かう。
細長い建物があるオーラがぷんぷんする
細長い建物があるオーラがぷんぷんする
少し歩いてみて気づいたことがある。

…あれ、これ…奥行きがよくわからないぞ??
物理的に建物の懐へ飛び込めない
物理的に建物の懐へ飛び込めない
建物が密集しすぎていて奥行方向の長さが実感できない、測れないという取材の根本を揺るがす事態がまた発生した。完全な調査不足である。さっき「善は急げ」と言った。しかし「急いては事を仕損じる」とも言う。日本語はいとも簡単に言ったことを覆す。許されないことである。

さまざまな言い訳を考えた結果、「縦に細長いビルを探す」という、馬喰町である必要性が0%のお題にクラスチェンジを図ることにした。

細長いビルの声を聴いてみる

冷静になって辺りを見回してみると、ちょっと異質な雰囲気である。この一帯は正しくは日本橋横山町といい、古くから衣服系の問屋が集中するエリアだそうだ。
超お安いのだが、普通の人は買うことができない店が多い
超お安いのだが、普通の人は買うことができない店が多い
しばらくうろうろさまよった結果、5軒の細長いビルが個性を語ってくれたので、その声を紹介したい。

1棟目

どちらかというと「薄い」
どちらかというと「薄い」
交差点にある洋服問屋さんなのだが、細長い、というか「薄い」…さらに四角形ならまだしも、交差点のせいで1角に切れ込みが入っており、不安定さに拍車がかかっている。切る配分を間違えたショートケーキのようなわびしさである。

四角形の建物と仮定して測ってみると、横3m×縦9mといったところか。そういえば右隣の建物ともくっついていない。薄いのに自立している。じつに危うい。隙間をコンクリートで埋めてやりたい。そろそろ他人を頼ってもいいんだよ。

2棟目

窓ガラスの位置を最上階だけ外す憎たらしさが◎
窓ガラスの位置を最上階だけ外す憎たらしさが◎
奥行きは不明だが細長い印象を持つ物件。均整美を前面に出したイケメンかと思いつつ、よく見てみると最上階の窓ガラスだけ逆になっている。自分がイケメンであることが分かっていてあえてファッションを崩して危ない挑戦をする奴だ。筆者の敵かもしれない。

駅周辺にはなさそうだったので他にも場所を探す。
必死になって細長物件を探す
必死になって細長物件を探す
おっ
なんか妙に細長い区画がある
なんか妙に細長い区画がある
妙に細長い区画がある!細長い建物があるに違いない!

ならば向かうしかない。
細長度高そうな物件が
細長度高そうな物件が
おお、あるある。

3棟目

空気を読まない高さがすき
空気を読まない高さがすき
これも印象に残った物件である。個性は高さで主張するのだ。前後左右をがっつり挟まれたフラストレーションの爆発だ。これは。

よく見ると入口に設置されている自販機も妙に細長い。設置者は趣味がわかっているなぁ。

4棟目

2棟が力を合わせても細い
2棟が力を合わせても細い
細いビルは時として団結するときがある。しかし中途半端な団結は悲劇を生むだけかもしれない。2棟が団結しても左右のビルの幅に勝てない。どうしよう。規模の暴力には個性で対抗するしかない。そんなわけで黒くなったのかもしれない。

それにしても右のビル、幅が狭いくせに真ん中をくぼませてさらに狭く見せる独特なデザインにしている。これはもはや細長さの受容なのか。なるほど細長さを受けいれると個性になるのか。

団結は他にもある。

5棟目

トラックを撤去したい
トラックを撤去したい
写真の左から2軒目の物件である。建物そのものは小さいけれども存在感がある。小さな巨人だ。よりよい写真を撮るために前に止まっているトラックを念動力で撤去したい気分だったが、トラックは移動してはくれなかった。悲しい。
すばらしき兄弟愛
すばらしき兄弟愛
じつはこの物件、兄弟物件である。左右合わせて4軒の建物が左へ移るにしたがってどんどん高さが低くなっている。細長物件は三男坊である。

真面目で大きい長男、妙にチャラい右隣の次男とおおらかすぎるきらいのある左隣の四男に挟まれ、文字通り肩身の狭い思いをしている。三男だって目立ちたい。

窓の下の白塗りの壁というささやかな反抗に気づく兄弟は誰一人いない。三男の細長物件がグレたりしないか不安が残る。

細長いビルから勝手に処世術を教わる

細長いビルを写真にたくさん収め、思ったことがある。
細長いビルは細長いことがハンデであるから、逆にデザインの個性で勝負するビルが多かった。どのようにして迫りくる強大な力と張り合うのか。自信を持って小さくても自立するビルもいれば、皆で寄り添って生きるビルもある。自分のできることで勝負するビルもある。

すごい、なぜか細長いビルから厳しい現代社会の生き方を勝手に教わっているぞ。

細長いビルを見に行ったら、処世術がたくさん隠されていたのだ。

最大のトラップ物件(実は1つのビル)
最大のトラップ物件(実は1つのビル)

細長いビル…細長いビル…とビルをつぶやきながら街並みを見ていると、それはそれで目が肥えてくるもので、だんだんと街にうもれた細長いビルを発見できるようになった。そうなると写真のようなトラップにもひっかかるわけで…

まさか細長いビルを見に行っただけで処世術なんて話になるなんて…でも、けなげに建つ細長いビルにはやはり魅力があった。今後は、細長いビルもなめ回すように見る対象に加えていくか…
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