チャレンジの日曜日 2015年9月27日
 

書き出し小説大賞・第82回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。

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お待たせしました!ようやく第三回書き出し小説大賞授賞式のチケットが発売になりました。チケットのお求めはこちらから!

リンク先ではまだゲスト未定ですが、長嶋有先生、しまおまほ先生、ウェブマスター林雄司氏の登壇は決定しております。そのほかみなさまに驚き、喜んでいただける企画を着々準備中でございます。一夜限りのプチ文壇サロン、ご来場お待ちしております。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!

書き出し自由部門

せーの!で棺の底が抜けた。
TOKUNAGA
元カノがまだ予測変換にいる。
ふじーよしたか
外壁を褒める男が三周目に突入した。
ヘリコプター
向かいの男の額は、冷却ジェルシート一枚分もない。
まじいい
父親によく似た銅像が悲しそうに分譲マンションを見つめていた。
俺スナ
直角に二等辺まで加わったら身動きが取れないじゃないか。
ビールおかわり
あまりのやかましさに振り返ると白鳥が羽ばたいていた。
ババア伝説
オセロ部の誇りにかけて、不良から部屋の角だけは死守した。
もんぜん
塀と塀の間にサーフボードが嵌っている。
xissa
食べ散らかすことでしか得られない虚しさがある。
マークパン助
コーヒーを混ぜた匙、トレーに置きっぱなしにしていたら貼り付いていて、それを洗って剥がした。昨日はそれだけをした。
人が生きてる
北ウイングに待ち合わせた未亡人たちは、和服で凛として立つ。
ボーフラ
私は社歌のソロパートを高らかに歌い上げた。
くのゐち
ヘッドフォンを外し、焼香を済ませた。
マークパン助
いま一歩盛り上がれない僕と彼女をしり目に、七輪のトントロは素知らぬ顔で燃え上がる。
タクタクさん
ここは病院か? エリザベスカラーで周りが見えない。
えむ毛
延長コードの先には延長コードが繋がれていて、その延長コードの先には埃しかなかった。
prefab
新居の鍵は全部で2kgある。
suzukishika
そのラクダは未だに僕のパスポートを反芻している。
人畜無害人間
海、と声に出しながら風呂に入ると尾てい骨がじんとしびれた。
たうる
音楽性の違いで解散した三人は、同じ工場に就職した。
哲ロマ
ふじーよしかた氏「元カノが〜」いかにもありそうな切実なあるある。人工知能はまだ空気を読むまでには至らない。ヘリコプター氏「外壁を褒める〜」渡辺篤史似の男性が「ほぉほぉ」言いながら回る映像が浮かぶ。次は城壁にも挑戦して欲しい。ビールおかわり氏「直角に二等辺〜」直角二等辺、地元銀行に就職し一切浮気をせず一生を終える的な実直さを感じる。マークパン助氏「食べ散らかすことでしか〜」まず積極的に虚しさを得ようとする態度がすごい。人が生きてる氏「コーヒーを混ぜた匙〜」以前大伴氏の作品に「走馬燈が終わり、NG集がはじまった」というのがあったが、まさにそこに加えたいシーンである。タクタクさん「いま一歩〜」気まずさと炎の対比。私もトントロの燃え盛りぶりにはいつも場違いな劇的さを感じておりました。えむ毛氏「ここは病院か?〜」エリザベスカラーの猫を想像して思わずニヤついてしまったが、それが猫であるとは限らない。たうる氏「海、と〜」とらえどころのないイメージが逆にイマジネーションを誘う。シュールな作品には欠かせないポエムな手触りがある。哲ロマ氏「音楽性〜」作者の作品に共通して見られる健気な貧しさはここでも横溢している。

自由部門の傾向はここしばらく、鮮明でユニークなビジュアルが浮かぶ自由律的な作品が多い。完成度を求めるとそうした傾向になるのもやむを得ないとも思う。しかしここは原点に戻り「続きの気になる書き出し的な書き出し」にも期待したい。新しいジャンルとはそのように、行きつ戻りつ成熟してゆくものではないだろうか。

つづいて規定部門。今回のモチーフは「傷」であった。傷つき上手な作家たちの、繊細な感性をご覧頂こう。

規定部門・モチーフ「傷」

傷が癒え、個性も消えた。
g-udon
判決ではなく、その言い方に傷ついた。
紀野珍
消毒液は平気だったのに、伝った涙がやけに滲みた。
早百合
傷口から万国旗を出し、奇術師は息絶えた。
大伴
友達カップルと三人で花火に行ったことがある。
東ことり
糠床をかきまぜて指先の傷に気がついた。
のらぽよ
グラスを洗う泡がピンク色に変わった。
大伴
小さな傷の上から大きな傷を負った時、小さな傷は治ったことになるのだろうか。
ロサンゼルス
姉妹が喧嘩する度にテディベアの傷は増えていった。
kwsk
斜めに入った柱の傷が、ケンジの成長の謎を深めた。
悲しげな女が踊る
彼女は遂に「傷付いた」とすら言わなくなってしまった。
merumo
教頭の傷は暗記シートで覗くと全て消えた。
ヘリコプター
柱の傷に知らない男の子の名前がある。タクちゃん。昔の僕より、少し小さい。
正夢の3人目
傷口に塩を塗りこまれたうえに一晩寝かせ、オリーブオイルを引いたフライパンで丹念に焼き上げられたような目に遭ってしまった。
あつし
祖父の古傷に気象庁が目をつけた。
Mch
エマの額のこぶは、離れの鴨居のへこみと完全に一致していた。
よしおう
昼休みになるとクラスメートは私の松葉杖に飽き始めた。
山本ゆうご
腕に並んだリストカットの痕で、彼女は正確に長さを計った。
タクタクさん
ほんの小さな傷から腐る。果物も卓球部も。
Mch
この集落で性的被害に遭った女たち全員、そして唯一被害に遭わなかった私も、心に深い傷を負った。
おかめちゃん
その傷をみると、なぜか食が進む。
にら将軍ハルナ
「そこは覗いたけど傷なんてなかったよ。」「いや、君は傷口を覗いたんだよ。」
三刀月
傷を舐め合うっていうけど、どんな体位で舐め合ったらいいのかわからない。
猿象
リビングの傷跡は、デリバリー岸和田だんじりを頼んだ時のものだ。
morin
「磨く」というのは、どこまで暴力的な行為なのだろうか。物に無数の傷を付けておきながら、本人はそれを満足気な顔で眺めている。
はい
好きな数字を言うと、その回数だけ切り傷をパカパカさせてくれた。
プレミアムバザー高田

パーで負けたときが一番傷つく。
五捨六入
g-udon氏「傷が癒え〜」笑える。そして深い。外傷にも心傷にも捉えられる。トラウマのない人はただ明るいだけの人のような気がする。東ことり氏「友達カップルと〜」これは語り手の自業自得。のらぽよ氏「糠床〜」大伴氏「グラス〜」ともに無自覚な傷が露わになる瞬間。ディテールの細かさがいい。kwsk氏「姉妹が〜」傷つくのが第三者、しかもテディベアという視点の置き所とその対象が秀逸。ヘリコプター氏「教頭の傷〜」シートをとって答え合わせを。正夢の3人目氏「柱の傷〜」柱の傷ネタは多数あったものの、ノスタルジーにホラーを加味したこの作品が頭ひとつ抜けていた。Mch氏「ほんの少し〜」オチの卓球部に尽きる。その後の卓球部の腐敗が気になりすぎる。おかめちゃん「この集落で〜」もっとも傷ついたのは誰だろうか。三刀月氏「そこは覗いた〜」すごく哲学的なショートコントの趣。猿象氏「傷をなめ合う」この場合裂傷と腫瘍か?やはりシモネタには楽しい。はい氏「磨く〜」傷というテーマでここまでたどり着く思考の道のりに脱帽です。プレミアムバザー高田氏「好きな数字〜」五捨六入氏「パーで負け〜」うん、バカです。

採用作を通読するとなぜか癒される。やはり文章を書く、読むことには一種の治癒効果があるのだろう。普遍的に傷をテーマにした文学が多いことが分かる気がした。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
走る人
師走はまだ先だけど、次回のテーマは「走る人」とする。遅刻、逃亡、追跡、健康……あらゆる事情で人は走る。そしてそこにはドラマがある。なぜその人は走るのか、走った先になにが起きたか、考えてい頂きたい。スポーツの秋らしいフィジカルな作品に期待します。

締め切りは10月9日正午、発表は10月11日を予定しています。下記の応募フォームから自由部門、規定部門を選択しご応募ください。力作待ってます!
最終選考通過者
渡辺アイリ/うにねこ/ナナハン/義ん母/あつし/いがそ君/fumi/ら+/ウウタルレロ/ねもっ血風ク/中納言/てつの屋/井沢/トミ子/ラクイチ/ぴよだん/コンパスゼット/kzk/茂具田/松っこ/
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