チャレンジの日曜日 2015年10月11日
 

書き出し小説大賞・第83回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

いよいよ明日10月12日、第三回書き出し小説大賞授賞式が開催されます! 場所はお台場のカルチャー×カルチャー、時間は18時からです。当日でも入れます。くわしくはコチラ!

長嶋有先生、しまおまほ先生、林雄司先生をゲスト審査員にお迎えし、60本のノミネート作から今年の書き出し小説大賞を決定します。その他にもDPZ大北くん率いるユニット「明日のアー」による書き出しコントなど内容もりだくさん。人見知りとフレンドーが絶妙に混じり合ったイベントなので、おひとりさま、一見さんでも安心してお越し頂けます。ぜひどーぞ!

それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう。

書き出し自由部門

私は王様ゲームでできた子どもだ。
ら+
父が家族を集めて貯金箱を割った。鬼のような一円玉が出た。
コンパスゼット
牛モツを噛むと薄い耳たぶの上でピアスが震えた。
ババア伝説
蒸しパン。蒸れパン。僕は後者を売っていて、今日死ぬつもりだ。
義ん母
庵からマフラーを巻いた僧が顔を出した。
ウウタルレロ
「ここは任せとけ」そう言った父は、すでにクレーマーの顔になっていた。
紀野珍
「なめらかなほうがピカピカ光るじゃないですか!」
「屈折してるほうがキラキラ輝くし!」
些細なことでこの二人はすぐギラギラしだす。
木冬
車掌の鞄からオウムが顔を出し、それを必死にねじ込んでいる。
井沢
連凧に乗った盗賊団が一斉に連行された。
えむ毛
モテすぎる女にモテたとき、人は何も信じられなくなる。
マークパン助
初めて球場で見たホームスチールを、いまもときどき思い出す。
Mch
対バンへのリスペクトを欠かさない子に育てた。
まじいい
年老いた男娼の前にあらわれた最後の客は、更に年老いた最初の客であった。
TOKUNAGA
リセット穴に乾麺を挿した。
おかめちゃん
論理的に否定されたのを感覚的に理解した。
ウチボリ
洗面台でかざした三枚刃から四枚の明かりが見える。
人が生きてる
天狗にも序列がある。僕の父は、最期まで団扇を持たせちゃもらえなかった。
正夢の3人目
「特になし」をひたすらアンケート用紙に書き続けた。
たこフェリー
どうしてここにいるのかわからないといった風情でお伝は私を見上げる。お伝は今日、首を斬られるのだ。
xissa
海藻から良質な自家製ローションをつくる秘訣は、アクを取りながら、とろ火で根気よく炊き続けることくらいで、特別な技術は必要ない。あとは勘と経験が頼りで口では上手く説明できないが、父はそれをまごころと言っていた。
TOKUNAGA
官房長官見いつけた。
じゅん
ら+氏「私は王様ゲーム」王様ゲームで生まれても王子にはなれない。でもこの主人公の行く末すごく気になります。コンパスゼット氏「父が家族を〜」鬼のような量だろうか、個人的なぜか鬼のように存在感のある一円玉一個を想像して笑いました。ババア伝説氏「牛モツを〜」牛の内臓の後にくるオシャレな描写。このギャップ、逆に萌えます。義ん母氏「蒸しパン〜」蒸れパンの方はブルセラ的なものだろうか。死を覚悟した語り手の結末を見届けたい。木冬氏「なめらかなほうが〜」子供のケンカのようにも読めるし根源的な問答にも読める。言葉遊びも含めて高度なテクニックに満ちた作品。マークパン助氏「モテすぎる〜」パン助氏は毎回真理をついた一文がうまい。TOKUNAGA氏「年老いた男娼〜」渋すぎる老け専BL。おかめちゃん氏「リセット穴〜」秀逸なあるあるからドラマは立ち上がる。ウチボリ氏「理論的に〜」夫婦ゲンカのスイッチってこんな感じで入るんですよ。じゅん氏「官房長官〜」こういう理屈を超えたホームランが現れるのが書き出し小説の醍醐味だと思います。
前回提言してみた原点回帰「続きが気になる書き出し的な書き出し」、今回はそれに即した作品が多かったように思う。しかもそれがいい方向に伸びている。もちろん一文で完結した作品も面白い。また木冬氏や、義ん母氏のような文体の冒険もある。あらためて作家諸君の新機軸を受け止められるよう、こちらも感性を磨かなければと思いました。

つづいては規定部門、今回のモチーフは「走る人」だった。失踪する29作品に併走していただきたい。

規定部門・モチーフ「走る人」

一緒に走ろうね、と言っていた友達とパトカーから逃げている。
もんぜん
私を追う寝癖男に座席から手を振った。
小夜子
追えば追うほど、靴下は脱げていった。
えむ毛
プラットホームでお別れのはずだったが、彼は想像以上に速かった。
どらいすきん
駆けぬけた彼女の残り香を胸いっぱいに吸い込んだ。
大伴
食い逃げ犯が、ゴールテープを切った。
にら将軍ハルナ
追ってきた店員と徐々に呼吸が合いはじめた。
TOKUNAGA
二手に分かれると、必ず自分が追いかけられる。
morin
十万人が皇居の周りに集った。もはや皇居の方が回っているようだ。
ごり田もう
鷹匠は勢い良く鷹を放つと、自ら走って野兎を捕まえた。
流し目髑髏
「お義母さん、米柱が立ちました」と、景子さんが両手で釡を持って走ってくる。
おかめちゃん
「かどのや」のランチタイムは13時で終わる。俺は体を斜めにしながら宝くじ売り場の前を駆け抜けた。
プレミアムバザー高田
ひとりだけ袴の片方に両足をつっこんでランニングしている子がいる。
xissa
軽いジョギングで汗を流したあと、天と地と人を創ったのだ。
あつし
おばあちゃんのきな粉餅だけが並ぶ給水ポイントだった。
アイアイ
「負けないで」が流れ始めると、恥ずかしさで早くゴールしたくなった。
g-udon
人力車の荷台に私たちを残したまま、取手だけが走っていく。
もんぜん
ドッチボールではこっそり好きな人と同じ軌跡を走った。
コンパスゼット
銀行から商店街、スーパーへと駆け抜ける。警官の「待て」に混じって監督の「自己ベスト」が聞こえた。
ウチボリ
完璧なフライングは観客を魅了し、審判団を熱狂させた。
五捨六入
奇跡的に借りられた能面をかぶってゴールへ急ぐ。
大伴
端数が嫌いだというその天才ランナーはいつも40kmで姿を消した。
Mch
ミニ忍者は倒れゆくドミノの上を器用に駆け抜けた。
茂具田
たかが学生の、委員会の分際で、仕事とかほざいて充実ぎみに廊下を走るんですよ。
ガジ画伯
リレーで周回遅れの俺を追い抜く瞬間に、急にあいつはナンバ走りに変えたんだ。まつげを揺らしながらね。十分な動機だろう?
スパルタ
走りながら心底、こういう道は歩きたいと思った。
松っこ
泥棒が逃げる。警官が追う。私はふたりをひょいとつまみ上げケースに戻す。
Mch
毎朝5時に起きて走る夢をみる。
ロサンゼルス
生前ごきぶりを叩き続けた箒とそれを取り続けたちりとりは、擬人化してからも虫を追いかけ回している。
prefab
もんぜん氏「一緒に走ろうね〜」ありがちなネタにどうオチをつけるか、さすが常連、鮮やかです。大伴氏「駆け抜けた彼女〜」部活中の同経験がリアルに蘇りました。青春ッスね。morin氏「二手に分かれると〜」人生の暗喩。プレミアムバザー高田氏「かどやの〜」正確な描写だけで自然と物語は立ち上がります。g-udon氏「負けないで」あれは現代版生け贄の儀式です。ウチボリ氏「銀行から〜」ふたつのシーンをレイヤーで重ねた技ありな秀作。大伴氏「奇跡的に〜」これが借り物競走の場面だと分かった瞬間、爆笑です。Mch氏「端数が嫌い〜」「泥棒が逃げる〜」どちらも確固たる世界観と見事な結末。完成された一行小説。今回のMch氏は秀作が多く選ぶのに悩みました。ガジ画伯氏「たかが学生の〜」憎まれ口の中にも語り手の屈折と繊細さが含まれていて面白い作品だと思いました。スパルタ氏「リレーで〜」こちらも語り口に一工夫ある作品。文末が効いている。ロサンゼルス氏「毎朝5時〜」夢オチなのにこのブレのなさ、スゴイ(笑)prefab氏「生前ごきぶり〜」狂ったアニメのような世界観、好きです。
モチーフがモチーフだけに躍動感のある作品が多かった。文章、とくに書き出し小説のような短文だと、どうしてもシーンの描写に執心してしまうが、運動性のある文章はやはり読み心地もよい。これは今回のモチーフ以外でも心掛けたい作文のキモのなのではないだろうか。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
ファッション
秋はオシャレの季節、というわけで「ファッション」。といっても別にオシャレである必要はまったくない。ファッション感覚は文化や風土によってさまざまだろう。その職業限定のファッションもあるだろうし、銀行強盗にとっては被るパンストも一種のファッションだ。洋服以外でもアクセサリー、靴、帽子、ファッションにはさまざまなアイテムがある。とは言ってもファッションを生活スタイルまでに広げると、大きくなり過ぎるので今回は身につけるものメインで考えて欲しい。
締め切りは10月23日正午、発表は25日を予定。下記の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して送って欲しい。力作待っています!
最終選考通過者
なげの/すり身/(たま)/ミィさや/トミ子/れをる/もの言うおはぎ/ぴすとる/童/ビールおかわり/山本ゆうご/
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デイリーポータルZ新人賞

 
 
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