はっけんの水曜日 2015年10月21日
 

マスター、「武蔵境」ください

26歳の筆者
26歳の筆者
バーや居酒屋の店主に、その街をイメージしたお酒を作ってもらうシリーズ。今回は「武蔵境」「鷹の台」という、上京後に住んだ場所を訪れた。

街はどう変わっているのか。住んでいたアパートはあるのか。そして、どんなお酒が出てくるのか。図らずも、20代をせつなく振り返るセンチメンタルな旅となった。
ライター。たき火。俳句。酒。『酔って記憶をなくします』『ますます酔って記憶をなくします』発売中。デイリー道場担当です。押忍!

前の記事:「マスター、「満月」ください」
人気記事:「うまい棒に仏像を彫る」

> 個人サイト 道場主ブログ

教えていたのは、おもに中学の数学

上京したのは大学卒業後。当時は俳句で生計を立てる人、つまりは“俳人”になりたいと、なかば真剣に考えていた。

週休3日ぐらいで作句に専念しようという決意から、選んだ職業は塾講師。勤務先の塾から自転車圏内の武蔵境に住居を決めた。
新宿駅からJR中央線で20分ちょっと
新宿駅からJR中央線で20分ちょっと
自作の俳句を記した大学ノートは、最終的に10冊近くに達した。いまでも保存してあり、ごくたまに開いてみるが、恥ずかしすぎてすぐに閉じる。俳人にはなれず、やがて塾講師という仕事も面白くなり、結局4年間働いた。

教えていたのは、おもに中学の数学。テスト当日の早朝に勝手に教室を開けて直前対策などをしていたので、生徒や父兄からの信頼は厚かったと思う。
辞める際に生徒のお母さんと撮ったポラロイド
辞める際に生徒のお母さんと撮ったポラロイド
お母さんは、なぜこのメッセージを贈ってくれたのだろうか。夢と希望については、あまり考えないでここまで生きてきたような気がするが、まあそこそこ悪くない人生かもしれない。
北口を出ると「すきっぷ通り」
北口を出ると「すきっぷ通り」
当時のアパートは、この通りを10分ほど歩いたところにあった。4畳半、風呂なし、家賃3万円。塾の給料はあまりよくなかったのだ。

東京に友達はいない。週末の夜はひとりで新宿のテクノのクラブに行き、誰とも喋らずに始発で帰るような生活だった。
見覚えがあるようなないような花
見覚えがあるようなないような花
果たして、アパートはまだあった。あの頃で築20年ぐらいだったはずなので、いまでは相当古い物件だ。アパート名はもう思い出せない。
もう誰も住んでいないような雰囲気
もう誰も住んでいないような雰囲気
僕の部屋は3階で、階下には一人暮らしのおばあちゃんが住んでいた。なぜか気に入られ、日曜になると「ご飯を食べにいらっしゃい」とお呼びがかかる。

若くして未亡人になった女性で、食卓の向かいの椅子にはいつもクマのぬいぐるみが座っていた。

さて、店を探そう。
「あ」
「あ」
駅にほど近いバーの前に、クマのぬいぐるみがいた。ここにしよう。

マリブというリキュールのかき氷

中を覗いみて、不意に思い出した。当時、たまに通っていたレゲエバーがあった場所だ。そこは、「穴熊」という名前の店に変わっている。
ずいぶん賑わっていた
ずいぶん賑わっていた
カウンターの中にマスターがいた。趣旨を説明すると、「ああ、どうぞどうぞ」とおっしゃる。
五郎丸ポーズで迎え入れてくれるマスター
五郎丸ポーズで迎え入れてくれるマスター
おちゃめな彼は夏川雄哉さん(36歳)。この店は、もうすぐ12年目を迎えるとのことで、くだんのレゲエバーのことももちろん知っていた。

では、さっそくですがマスター、「武蔵境」ください。
「わかりました」と、かき氷を作り始める
「わかりました」と、かき氷を作り始める
ほどなくして、それは運ばれてきた。
これが「武蔵境」だ!
これが「武蔵境」だ!
えっと、お酒ですか?

「マリブというリキュールにブルーハワイのシロップを入れたかき氷ですね。上にバニラアイスを乗っけました」
なかなかお酒までたどり着かない
なかなかお酒までたどり着かない
あ、でもこれは普通においしい。アルコールをほとんど感じないが、マリブの度数は20%以上ある。

「5年前から『酒氷』というオリジナルメニューとして出していて、味やトッピングもいろいろ変えられるんですよ」
おお、なるほど
おお、なるほど
いただいたものは、いわゆる「全部のせ」で600円。焼酎や日本酒でも作ってくれるので、組み合わせは無限の可能性を秘めている。

170cmになりたいので、毎日牛乳を飲んでいる

「穴熊」という名前は、店を始める際に知人がクマの剥製をくれたから。

「最初は店頭に置いていたんですが、上の階の塾に通う子供たちにいじられすぎてボロボロになっちゃって。いまは店の奥に引っ込めて、代わりにぬいぐるみを出しています」

クマといい塾といい、武蔵境時代の思い出ときれいにリンクする。
初代のクマはお腹の部分が裂けて新聞紙がはみ出ていた
初代のクマはお腹の部分が裂けて新聞紙がはみ出ていた
そうだ、常連さんにも武蔵境のイメージを聞いてみよう。
武蔵境生まれの女性客
武蔵境生まれの女性客
「いいお店がいっぱいあって、ひとも優しいですね。昔は開かずの踏切があって北口と南口の交流があまりなかったんですが、いまは高架化されてだいぶ状況は違います」

この方は身長が169cm。どうしても170cmになりたいので、毎日大量に牛乳を飲んでいるそうだ。
そこへ、「うるめ」持参の新客がご来店
そこへ、「うるめ」持参の新客がご来店
「ありがたいことに、常連さんから差し入れをいただくことが多いんですよ。お客さん同士も仲がよくて、いっしょにどこかへ出かけることもよくあります」と夏川さん。

しかし、さっきからTシャツが気になる。
“微妙におかしな日本語Tシャツ”だった
“微妙におかしな日本語Tシャツ”だった
「面白Tシャツが好きで、100枚以上持っています。これはマニアパレルというブランドの商品ですね」

ちなみに、夏川さんはダム巡りも好きで、ライターの萩原さんとも交流があるそうだ。
サインがあった
サインがあった
ノーチャージなので、お会計は600円。
「料理もすごくおいしいよ」と常連さん
「料理もすごくおいしいよ」と常連さん
ごちそうさま。武蔵境を堪能したら、次は鷹の台だ。時間差でマリブがじわじわと効いてきた。

 ▽デイリーポータルZトップへ つぎへ>
デイリーポータルZをサポートする じゃあせめてこれだけでも メルマガ SNS!

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
↓↓↓ここからまたトップページです↓↓↓