チャレンジの日曜日 2015年10月25日
 

書き出し小説大賞・第84回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

書き出し小説秀作発表、第84回である。

去る10月12日行われた第三回書き出し小説大賞授賞式は、おかげさまで大盛況のうちに幕を閉じました。お越し頂いたみなさま、ゲストで駆けつてくれたみなさま、誠にありがとうござました!イベントの模様、受賞作の発表はこちらに記してあります。どうぞご覧下さい。

第三回書き出し小説大賞授賞式レポート

またイベントで告知しましたが、現在書き出し作家のみなさんを中心としたメルマガ「文芸ヌー」を準備中です。いまは創刊に向けたアイデア出しの最中、メルマガ登録は以下のリンクから行えます。ご興味のある方はどうぞ!

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それでは早速今回も、めくるめく書き出しの世界へご案内しよう!

書き出し自由部門

なんでもそうだが、先頭に並ぶのは恥ずかしい。
g-udon
月が綺麗に見える夜は、街ごと作り物っぽく感じる。
紀野珍
のろしを見てもらえたかどうかメールで確認してから火を消した。
おかめちゃん
分度器を二つ合わせても、綺麗な円はできなかった。
くのゐち
あなたに私が成虫になる直前のどろどろの状態を見せてあげる。
ロサンゼルス
店主の壮大な湯切りのたびに、顔にお湯が飛んでくる。
ウチボリ
姉が睨むと自転車が錆び始めた。
TOKUNAGA
喫茶見晴らし亭は入ってすぐのところに電子レンジが二台ある。
xissa
ここは偽造課。紙幣は勿論、人の記憶、感情、果ては運命すらも偽造してしまう。
ら+
晩秋の蚊は見逃してやったのに刺した。
まじいい
机上に広がる付箋の花畑が、彼女の不在と必要性を示していた。
suzukishika
ヌートリア。悲しい歴史を持つネズミ。彼らは加古川を遡り、涙の川を泳ぐ。
木冬
今回パーティを組んだ女戦士は剣の腕前もさる事ながら、美味しい味付け卵の作り方とか、かまどの油汚れを効果的に落とす方法とか、そういう技術に優れていた。
prefab
魚肉ソーセージを食べた跡と土器がある。
ヘリコプター
カーテンレールに連なる亡霊は、一週間分の私。
merumo
秋の海からうちあげられたタコは、プリズムを発しながら所在なさげにしている。
ボーフラ
付けヒゲを忘れた手品師はトランプすらまともに切れなかった。
たこフェリー
SNSは私の頭に無数の幸せを注射する。私は死ぬ。
コンパスゼット
賞状を受け取る所作? 作法? それはなぜか身体が記憶していた。
紀野珍
そうしてそのうち地平線がなくなった。
小夜子
g-udon氏「なんでもそうだが〜」とりあえず、この作品が先頭に来るべきだと思いました。くのゐち氏「分度器を〜」そういえば!と小学生の頃の同経験を思い出した。(ちゃんと円になる分度器もあるが)ひとつの書き出しが思いもよらぬ記憶の引き出しを開けてくれる。ロサンゼルス氏「あなたに私の〜」少女が大人になる直前はたしかにこういう時期がある、と思う。xissa氏「喫茶見晴らし亭〜」店名は爽やかなれど料理は業者の冷凍モノを思わせる。木冬氏「ヌートリア〜」この哀しみを湛えた文体からどんな展開が待っているのか……途中からネタに走らずこのトーンで通したところがよい。merumo氏「カーテンレール〜」カーテンの襞ひとつひとつが過去の自分だろうか、隠喩は扱うのに勇気がいると思うけれどこれは高度に決まっている。コンパスゼット氏「SNSは〜」最後の一文がなくても成立するが、あるとこれしか考えられない作品となる。完結系の作品。紀野珍氏「賞状を受け取る〜」おそらく類人猿に賞状を渡しても同じ動きをするのではないだろうか。

続いては規定部門。今回のテーマは「ファッション」であった。書き出しだけのファッションショーをご覧頂きたい。

規定部門・モチーフ「ファッション」

無人島とはいえ、一日たりとも気を抜いたことはない。
茂具田
ガラガラの電車の中、同じTシャツを着たおじさんと向かい合わせに座り続けた。
morin
そのパーティーは、防虫剤臭かった。
ねもっ血風クン
彼は毎日違う学校のブルマをはいてくる。
ぽて珍
「王様は裸だよ!」と叫ぼうとして少年は口をつぐんだ。股間に置かれた1枚の葉が、彼の判断を迷わせる。
夏猫
初デートにサスペンダーでやってきた彼を見た時、私は一生彼の服を見立てることになるんだと直感した。
コンパスゼット
「着てるものがファッションだと思うだろう? 違うんだ。脱いだものが、ファッションなんだよ」
ヌートリア
女は慣れた手付きで22個目の輪っかを首にはめた。
ビールおかわり
唇にはめる皿をDVDに変えたその日、ソニアはアフリカを出てみようと思った。
えむ毛
お洒落風のファッションと言われ、怒ることも喜ぶこともできなかった。
マークパン助
試着室のカーテンが開く度に娘を絶賛するのが今日の私のミッションだ。
山本ゆうご
履き物を見ればお洒落がどうか分かると言った男の足もとは、木靴だった。
松っこ
ボールペンで描いた腕時計は永遠に三時を指す。未来の三時を。そして過去の三時を。
井沢
形見でもらったジャケットから肩パットがぼろぼろ落ちてきた。
xissa
どこまでもアシンメトリーを貫くパーカーの紐と戦い続けている。
五捨六入
「これのSサイズはありませんか?」「Mサイズもないのですか?」雪の降りしきる晩、Lサイズを手にした少女が、通行人によびかけていました。でも、誰も立ち止まってはくれません。
TOKUNAGA
平和が訪れた今でも彼は布の服を「そうび」と呼んでしまう。
suzukishika
脱がしても脱がしてもカーキの肌着。
Mch
熊を斬り、熊を着た。
義ん母
ユニクロに行くためだけに着る、ユニクロではない服を用意している。
おかめちゃん
慌てて手の甲にメモした数字は個体識別番号のようだった。
ふじーよしたか
結局あのブーツを一度も履かないまま僕は逝く。
不眠
冷蔵庫が満たされて、やっと服を着る気になれた。
ocamo
ランウェイを海の幸が流れつづけた。
大伴
火が燃え移った瞬間が一番格好良かった。
ベランダ
衣食住というように「衣」は人を人たらしめる基本要素である。茂具田氏の「無人島とはいえ〜」はその点でユーモアを交えながら、人間性とはなにかを問いかける作品になっている。ぽて珍氏「彼は〜」変態という設定を上回るオシャレ感。 ヌートリア氏「着てるものが〜」言葉の意味を考える前に納得させる力がある。関係ないけれど自由部門の秀作がここでは作者で登場してることに奇遇を感じる。ビールおかわり氏「女は慣れた〜」えむ毛氏「唇にはめる〜」の地域限定ファッション感。マークパン助氏の「お洒落風〜」のもやもや感、どれも笑わせていただいた。義ん母氏「熊を漸り〜」かっこいい。防寒ではない「衣」への本能をこれ以上ないシンプルさで書ききった。おかめちゃん氏「ユニクロに〜」もある意味、おしゃれの本質が書かれていると思う。不眠氏「結局あのブーツ〜」死ぬ間際にこんなことを考えるクールなヤツになりたい。大伴氏「ランナウェイを〜」ビジュアルを想像するだけで理屈を超えて笑える。ベランダ氏「火が燃え移った〜」ファッションの究極を「全裸」に据える作品は多かったが、まさかその上を行く作品が現れるとは思わなかった。火が燃え移った瞬間。……うーん、すごい。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
旬の食べ物ということで次回のモチーフは「芋」とする。カタカナで「イモ」と表記してもいい。イモにはジャガイモ、サツマイモなどさまざまな品種があり、焼き芋、芋煮、フライドポテトなどいろんな調理法がある。また食べ物としてだけではなく、ダサイものの象徴という意味もある。代表的な連想にはオナラもある。数ある食物の中でも芋はもっともキャラの立ったもののひとつと言えるのではないだろうか。面白い作品が期待できそうだ。

締め切りは11月6日正午、発表は11月8日を予定している。下記の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して送っていただきたい。力作待ってます!
最終選考通過者
あだんそん/中納言/トミ子/プレミアムバザー高田/もんぜん/ミミズグチュグチュ/にら将軍ハルナ/あつし/シカトろっく/哲ロマ/乾燥肌/狐日和/卯村/いがそ君/ヘリコプター/正夢の3人目
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デイリーポータルZ新人賞

 
 
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