ロマンの木曜日 2015年11月12日
 

オオカミウオを釣って食べたら色々大変だった

この写真が騒動の発端。
この写真が騒動の発端。
北の海に「オオカミウオ」というものすごくカッコいい魚がいる。
どうしてもこの魚の生きている姿を自然下で拝んでみたかったので、この夏に知床で釣り上げた。そして食べた。
しかも、それがきっかけでちょっとした騒ぎが起きてしまったのだ。
この場を借りて顛末をお話させていただく。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。
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フィールドは知床、オホーツクの海

その存在を知ったのは小学校低学年の頃だった。子供向けの魚類図鑑を眺めていると、恐ろしい顔をした魚が目に飛び込んできた。でこぼこでしわしわの顔に大きな口と厳つい歯。まるで特撮怪獣。で、名前はオオカミウオ。見た目も名前も強そう。そして怖い。
水族館ではもはや定番の存在になりつつあるようで、飼育・展示している施設も珍しくない。この子はしながわ水族館にいた個体。
水族館ではもはや定番の存在になりつつあるようで、飼育・展示している施設も珍しくない。この子はしながわ水族館にいた個体。
だが写真に添えられた解説には「サザエも強力な顎と歯で殻ごと噛み砕いて食べる。でもおとなしい魚だよ。」とある。
えぇ…。怖…。気は優しくて力持ちということなのだろうが、「サザエを砕く」というフレーズのインパクトが強すぎる。「根は優しいけどヤクザ」みたいなもんだろ、それ。やっぱり怖いよ。

だが男子たるもの怖くてかっこいいものを好いてしまうのは避けようのないことである。そのおっかなさすら魅力的なのだ。
オオカミウオの潜むオホーツク海から知床半島を望む。今年はこの景色を何度も見た。
オオカミウオの潜むオホーツク海から知床半島を望む。今年はこの景色を何度も見た。
数年前、ついに僕はオオカミウオを釣り上げるための計画を立て始めた。インターネットで検索してみると北海道・道東方面ではしばしば他の魚に混じって釣られているようだ。さらに、季節によってはダイバーが浅場で遭遇することも珍しくないという。

これは長期休暇を全てつぎ込み、磯や漁港でキャンプ生活をしながら1週間も粘れば、ひょっとすると顔くらい見られるかもしれない。おお、燃えてきた。
道東の道の駅ではいろいろと魅力的な食べ物が売られている。熊肉バーガーがあるかと思えばコケモモやハスカップのアイスクリームなんかも。ドライブと食べ歩きだけでも退屈しない。
道東の道の駅ではいろいろと魅力的な食べ物が売られている。熊肉バーガーがあるかと思えばコケモモやハスカップのアイスクリームなんかも。ドライブと食べ歩きだけでも退屈しない。
が、間もなくして心の炎は鎮火することとなる。
計画というか妄想を始めて数か月後、タイミングよく「オオカミウオは船で沖へ出れば、そこそこ簡単に釣れる」という情報が飛び込んできたのだ。

あっ、そうなんだ。へー。
 特に気に入ったカスベ(ガンギエイの類)の唐揚げ。揚げたては抜群に美味い。
特に気に入ったカスベ(ガンギエイの類)の唐揚げ。揚げたては抜群に美味い。
オオカミウオへの道が一気に開けたのだからこれは喜ばしい情報である。だが、これから苦労と工夫を重ねて一歩ずつ目標へ近づいていくドラマが頭の中で展開しつつあったため、なんだか拍子抜けしてしまった。別に海辺でキャンプとか、そういうプロセスいらないんだね。
でもやっぱり、最初はゼロから自力で探してみるよね。
でもやっぱり、最初はゼロから自力で探してみるよね。
だが、船(というか漁場を知ってる船頭さん)の力を借りる前に、自分の脚で居場所を探して釣り上げることが出来たら、それは最高だ。

2015年の6月、3日間だけ磯からオオカミウオを狙ってみることに。
エサはイカを丸ごと。たぶん、魚が居さえすればゲソのみでも問題なく釣れると思う。
エサはイカを丸ごと。たぶん、魚が居さえすればゲソのみでも問題なく釣れると思う。
結果から言うと、この3日間でオオカミウオは釣れなかった。

魚の反応はあるのだが、いずれもオオカミウオの姿からイメージされるような豪快なものではなかった。残念。
一度、大きなアタリがあったものの針には掛からず。まあ、アイナメか何かだったんだろう。
一度、大きなアタリがあったものの針には掛からず。まあ、アイナメか何かだったんだろう。
だが一応、自力ではどうしようもないことを確認し、納得することができた。
これで悔いなく船に助けを求めることができる。僕にとってこの3日間は、憧れのオオカミウオに顔を合わせるための禊というか、ケジメというか、そんなものだったのだ。誰に宛てるわけでもない言い訳である。

積み重ねていた憧れが分厚すぎて、なんかこうポロッと簡単に出会ってしまってはいけないような気がしたのだ。読者の方にはよくわからないかもしれないが、そういうもんなの。
大半の時間は磯にいる昆虫を撮影したりして楽しんでいた。
大半の時間は磯にいる昆虫を撮影したりして楽しんでいた。
さて、気持ちを切り替えて船の手配だ。
北海道の魚に詳しい友人Kくんから、オオカミウオを狙って釣らせてくれる釣り船を教えてもらい、電話をかける。

「すみません、オオカミウオ釣りたいんですけど…。」
ついにオオカミウオに会える日が来た!かもしれない!
ついにオオカミウオに会える日が来た!かもしれない!
「ああオオカミ?釣れるけんど、まだ6月じゃ早いかもしんねえぞ?今まで7,8月にしか試したことないから、この時季に釣れるかどうかはわかんねえな。」

あらら、これは。嫌な選択を迫られてしまった。だが、ここで尻尾を巻いて一月後に出直すというのはさすがにちょっと。会いたい気持ちも抑えられないし、ハイシーズンは航空券も高い。じゃあ思い切って賭けてみるぜ。
釣りを開始してすぐに何か大物が!オオカミウオか!?
釣りを開始してすぐに何か大物が!オオカミウオか!?
Kくん(オオカミウオを釣らせてくれる船を見つけ出したパイオニア。もちろん過去に何匹も釣っている)のほかに、オオカミウオを見てみたいという友人らと船をチャーターし、知床沖へ向かう。道中、船から見える知床半島の景色には圧倒されっぱなしだった。

船を停め、餌のイカを水深100メートル前後の岩礁地帯へ沈めると、すぐに魚が掛かった。オオカミウオかこれ?オオカミウオだろこれ!
タラ(マダラ)でした!最初の一匹は嬉しかったけど、この後も延々釣れ続けて船上がタラ漁船のように。
タラ(マダラ)でした!最初の一匹は嬉しかったけど、この後も延々釣れ続けて船上がタラ漁船のように。
やはり、というか浮いてきたのはおいしそうなマダラだった。
その後もタラ、タラ、ひたすらタラ!

タラを釣っては元気な個体を逃がし、水圧差で弱った個体は血と内臓を抜いてクーラーに収めるというルーチンワークに陥る僕ら。たまーに釣れるソイやアイナメの顔を見る時間だけが癒やし。タラをいじめる作業に心も身体も削られていく。

時間をたっぷり残しながらも全員が悟った。「敗けた…。」

一月半後に即リベンジ!

やはりタイミングが早すぎたようで、船長曰く「あんなにタラが出るってことはまだ海ん中が冬のままなんだな。水温上がる夏にまた来たら釣れるよ」とのことだった。

…気がつけば航空券の手配が済んでいた。はい、秋まで金欠確定。
ちなみに前回の挑戦が、我が人生初の北海道旅行である。二度目が一月半後で、しかもまた知床行きだとは自分でも予想できなかった。
絶景なのだが、個人的にはタラ地獄がフラッシュバックする…
絶景なのだが、個人的にはタラ地獄がフラッシュバックする…
8月末。前回から引き続いての参加者は僕とKくんのみ。初参加のメンバーは皆、期待に満ちた顔をしている。ああ、この間は俺もそんな顔してたっけなあ…。
開始早々、Nさんが何やら大物を掛けた!
開始早々、Nさんが何やら大物を掛けた!
8月だというのに少し肌寒いのはさすが北海道と言ったところか。凍ったままなかなか解けないエサのイカに海水をぶっかける。…水が温かくなっている。明らかに状況は変わっているということだ。これはイケるかもしれない!タラの代わりにオオカミウオが入ってきているに違いない!
でかいタラ!Nさん、この一匹で魚運を使いすぎてしまったか。
でかいタラ!Nさん、この一匹で魚運を使いすぎてしまったか。
そうほくそ笑んでいる僕を尻目に、Nさんがドでかいタラを釣り上げた。

「あれ?まだタラいるの…?」「ヤバいかもしんないですね…。」K君と小声でやりとりする。その時だった。
Kくん「んっ??これ、たぶん、ぽいですよ!」おお!たぶん、ぽいですか!
Kくん「んっ??これ、たぶん、ぽいですよ!」おお!たぶん、ぽいですか!
K君の持っていた竿が勢いよく曲がる。またタラか?と思っているとKくんが「タラじゃないかも…。」とつぶやく。船長も「おお、それ、そうじゃねえか?」と操舵室から身を乗り出す。え、ホントに?
落ち着いた様子でリールを巻くKくん。
やがて海面に魚影が浮かぶ。茶色い。そして長い。これは…
「オオカミだぁーーッ!!」
オオカミウオだーーーー!!
オオカミウオだーーーー!!
タモ網に収まり、船上へ引き上げられたのは紛れもなくあのオオカミウオ!

ついに図鑑や水族館のガラス越しでしか見たことの無かったあの魚が眼前に!
タモ網に収まり、船上へ引き上げられたのは紛れもなくあのオオカミウオ! ついに図鑑や水族館のガラス越しでしか見たことの無かったあの魚が眼前に!
タモ網に収まり、船上へ引き上げられたのは紛れもなくあのオオカミウオ! ついに図鑑や水族館のガラス越しでしか見たことの無かったあの魚が眼前に!

オオカミウオ、めちゃくちゃ釣れる!

憧れの魚を前にしてみんなの興奮はピークに!…と思いきや、ここからがすごかった!
すぐさま地元の釣り師Sさんにドでかいのが!
すぐさま地元の釣り師Sさんにドでかいのが!
堰を切ったようにオオカミウオが釣れ始めたのだ。オオカミ・ラッシュである。僕にとって夢の魚だったのだがこんなに釣れちゃっていいのか。夢の魚が夢みたいに釣れまくる。夢のようなひととき。
間髪を入れず、Kさんと
間髪を入れず、Kさんと
僕とに同時にヒット!感激のあまり手足が震える。しかし、知床沖にはものすごい数のオオカミウオが潜んでいるようだ。
僕とに同時にヒット!感激のあまり手足が震える。しかし、知床沖にはものすごい数のオオカミウオが潜んでいるようだ。
船長が語るところによれば、オオカミウオは一つの根(岩礁地帯)に相当な数がいるらしい。そして時合になると一斉に餌を採りはじめるので、こうしてバンバン釣れるのだそうだ。一日に20匹以上が釣れたこともあるという。
後日、ワケあって乗った別の船でも特大サイズが!こうして複数の個体を並べると、オオカミウオには褐色のものと黒っぽいものとがあることに気づく。雌雄の差だろうか。
後日、ワケあって乗った別の船でも特大サイズが!こうして複数の個体を並べると、オオカミウオには褐色のものと黒っぽいものとがあることに気づく。雌雄の差だろうか。
しかし、その時合が読めない。いつ始まって、いつまで続くかが分からないのだ。

5名の乗船者中、Nさんを除く4名が1匹ずつオオカミウオを釣り上げた。皆、それで満足しきって竿を置き、Nさんを見守る。これでNさんが一匹釣れれば万々歳だ。

…が、ここで状況が直滑降。オオカミウオはおろか、タラやソイなど他の魚もほとんど釣れなくなってしまったのだ。先ほどまでの盛況が嘘のよう。まるで海が眠ってしまったみたいだ。

帰港後、自然の気まぐれにもめげず「また来年、北海道に来る理由が出来たからいいんですよ」と笑うNさんは格好良かった。

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