暮れなずむ街とぶどうの軸
これがぶどうの軸。
なんだろう、このかっこよさは。
すごく有機的に入り組んでいるのにうるさくない。
決して媚びていないが、かといってストイックでもなく、自分が何者かを悟らせないような不気味なかっこよさがある。
戦隊ヒーローで言うなら、中盤で出てくる、敵か味方か分からないやたら気取った性格のキャラクターである。
(主人公の生き別れの兄だったりする。)
大きな生き物の化石みたいにも見える。「大きな生き物の化石」兼「主人公の生き別れの兄」。
持ち手から見るとこう。ずっと見ていると動き出しそうな気がしてくる。
暮れなずむ街とぶどうの軸。孤高。
鑑賞にあたって
今回は、このぶどうの軸を品種別にじっくり鑑賞してみたいと思う。
まず鑑賞にあたって、ぶどうの軸の部位の名前を決めておこう。
軸の部位の名称(この記事内に限り有効です)
インターネットで検索したのだが、思うような情報を得られなかったので自分で名前を付けてしまうことにした。
まず軸の中心を通っている太い棒を「芯」、芯の中でも根元の、手で持つ部分を「持ち手」、芯から生えてきている棒を「枝」(芯から生えている枝を「第一枝(だいいっし)」、第一枝から生えている枝を「第二枝(だいにし)」、更に第二枝から生える枝があれば「第三枝(だいさんし)」と続く。)
そしてぶどうの果実が付いていた枝の先を「グリップ」と呼ぶことにした。(実を握っていたわけだし、形も「ギュッ」としていて「グリップ」っぽいことからこう呼ばれた。)
それではこの呼称を使って、4つの品種のぶどうの軸を見ていきたいと思います。
ピオーネ
ピオーネである。
太く、力強い芯に荒々しく伸びる枝。
本日の1軸目、ピオーネである。
グリップが不規則に方々を向いている。
注目すべきはグリップの向きであろうか。
色んな方向を向いているなあと眺めていると、そのうちの一つと目が合ったような気がしてハッとする瞬間がある。
「見ているぞ」とこちらの出来心を抑制してくれるような力が、ピオーネにはある。
大きな商業施設の中心にピオーネを立てて、グリップ一つ一つに監視カメラを取り付けたら高い防犯効果が期待できるかもしれない。
軸の魅力を5つの指標に分けてチャート図を作った。これはピオーネのチャート図。
余談だが、軸のスタンドはプラ板を曲げて作った。気に入っています。
巨峰
巨峰である。
「王道」「リーダー」と、写真撮影時のメモにはある。
ぶどうの軸の魅力を素直に表現している、軸界のスタンダードである。
美しく真っ直ぐのびた芯。長さのそろった枝としっかりとした頼もしいグリップ。
見ると枝はほとんどが芯から生えており、つまり第一枝ばかりであり、ひとつの枝の根元から2から3の枝が決まった角度で生えているようである。
均整のとれたプロポーション。
見れば見るほどシンプルでいて飽きのこないフォルムである。
機能美、という単語を連想させる。
スマートで気取らない軸である。
やはりダントツに持ちたくなる軸であると思う。
スチューベン
スチューベンである。
大きなグリップがかわいらしさを演出しているスチューベンである。
芯は大きく蛇行していて、とても有機的な印象を受ける。
上から見るとこんなに曲がっている。
そしてやはりグリップが大きくとてもファンタジックな物体に見える。
しかるべき人間がファンタジーな気持ちを持って振ると、グリップのところに森のエネルギーが集まってもう一度ぶどうがなるかもしれない。
タツノオトシゴのようにも見える。
かわいさはマックス。
レッドグローブ
レッドグローブである。
奔放なフォルム。
当初想定していた軸の魅力とは趣を異にするレッドグローブであるが、見慣れていないことも手伝ってしげしげと眺めてしまった。
まず、枝がとても長い。
なにかを探し求めるかのようにうねうねと、それぞれの枝が好き勝手に生えている。
すでに付いている実の間をぬって伸びていった結果なのだろうか。
そして、芯も枝も質感がすべすべしていて気持ちが良い。
波にもまれて磨かれた流木みたいな手触りである。
このレッドグローブは、持ち手から全体が大きく横に向かって伸びていて、これが上に向かってくれさえいればかなり気分が盛り上がるのになあと歯がゆい気持ちになった。
秋の楽しみとして、自分の思い通りのレッドグローブの軸を探してみるのも一興かもしれない。
軸鑑賞の奥深さを教えてくれる一品であった。
不思議さマックス。
より高みへ
以上が今回じっくり見てみた軸たちであるが、より軸に、魅力を付加させる方法がある。
塗装である。
塗装することで、もともと持っていた軸の植物っぽさが消え、「得体の知れない雰囲気」「持ちたくなる雰囲気」が際立ってくる。
なんだか分からないけどとてもいいもので、高価なものみたいに見えるのだ。
飾ってみると、このようになる。
聖歌隊の歌が聞こえる。
価値がうなぎのぼりである。
とんでもない錬金術を見つけてしまった。
ちなみにこれはナガノパープルという品種の軸である。
この秋最初に買ったぶどうなのだが、しっかり観察する前に我慢できず塗装してしまったので、こういう写真しかない。
房のついた写真もない。撮り直しにスーパーへ行ったら店頭からなくなってしまっていた。ぶどうとの出会いは一期一会だ。
これは、朝日を受けて輝くスチューベン。
塗装後、値段で言うとどの程度の物に見えるかと妻に聞いたら「3,000円」と答えた。
!!
この軸で、ぶどうが5房は買える。
巨峰。
ちなみに、スタンドの手は指輪などをディスプレイするためのものであるが、人差し指と中指が軸の枝にうまく引っかかって、軸のディスプレイにもぴったりだった。
全員集合。
デパートのショーウインドウみたいになった。
宝飾品売り場だ。
自宅が宝飾品売り場になった。
左から、レッドグローブ、ナガノパープル、スチューベン、ピオーネ、巨峰。
スタンドの力がだいぶ大きいな、ということもうっすら分かっています。
ケースに入れてみる
軸を飾るの楽しいぞ、と思ったので、今度は展示用のケースに入れてみた。
入っているのはピオーネ
実家に五月人形を入れるケースがあったので借りてきた。
これもとてもいい。
先ほどの展示では軸が貴金属的な魅力を帯びたが、この展示では学術的な魅力を感じる。
急に外気にさらされてしまって、五月人形には申し訳ないと思う。
ということは搬入である
ケースに入ったということは、展示のための搬入である。
上野にある、東京都美術館に来ました。よろしくお願いします。
搬入の時こんな写真って撮るのだろうか。
撮らないだろう。
でも急きょ特別に展示が決まった美術品や出土品をお知らせするために撮影した写真だと思うと、そんな風に見えなくもない。
モネ展が同時開催中です。
国立科学博物館にも搬入。
国立西洋美術館にも搬入。(ケース持って美術館や博物館の入り口で写真を撮ることを「搬入」と呼んでいます。)後ろにロダンの『地獄の門』がある。
突然だが、このようなツノを持つ伝説の生き物、ユニコーン(一角獣)の姿も上野で確認ができた。
こちらである。確かに頭頂部に一本、ツノが確認できる。
(ダダダッ!!)…視線を感じて逃げてしまった。
(ダダダダッ!!)ケースを持っている!搬入に来たユニコーンである!
ちなみに、ぶどうの品種はこちらになります。
ぶどうの旬が過ぎようとしているが、スーパーの売り場からなくなってしまう前にたくさんの軸を見ることができて本当に良かった。
記事をあらかた書き終えたころにスーパーへ行くと、今までぶどうが並んでいた棚にカキやミカンがどっさり積まれていて、なんだか泣き出したくなってしまった。
カキもミカンも好きだが。
缶コーヒーの種類の多さについて思いを巡らすユニコーン。