チャレンジの日曜日 2015年11月22日
 

書き出し小説大賞・第86回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表第86回目である。

気がつけば師走目前。毎年加速する一年の速さには驚くばかりである。ただ今年は流行語が不作だったせいか「ラッスンゴレライ」も「あったかいんだから〜」もずいぶん昔のことのように思う。ついでに言えば「ダメよ〜ダメダメ」は去年の流行である。個人的にはアレ、十年前くらいに感じるんだけど……と、どうでもいいつぶやきはさておき、今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しょう!

書き出し自由部門

これはザリガニで家賃を払った男の物語である。
牛乳
乗り継ぎに乗り継ぎを重ねて、この金券ショップに辿り着いたのである。
たこフェリー
深夜の公園に懐中電灯のあかりがふたつ、何かを捜している。
xissa
人物相関図のハート付き矢印が主人公に刺さったまま、ドラマが始まった。
松っこ
近所に吹き矢屋ができてからどうも寝付きが悪い。
マークパン助
モットーは腹七分目。それ以上食うと逃げるのに支障が出る。
紀野珍
初めて木から降りたウガピは、まず足の裏から感じる「地面」というものが大変柔らかかった事に驚いた。
prefab
コウモリがポールダンサーをうまく避けた。
ビールおかわり
あの回転中のスケーターみたいな顔してるのが母だ。
大伴
風神と雷神は、互いが見えなくなるまで風と雷を送りあいながら別れを惜しんだ。
茂具田
犯人が作ったものに囲まれて、両親と暮らしている。
ヘリコプター
GIF画像の街は無音の爆発を繰り返している。
TOKUNAGA
「自由に泣いていいよ」という言葉に自由があるように思えなかった。
くずきり
言われた通りに一万円札を渡すと、手品師は消えた。
えむ毛
ピエロが子供を蹴っている。これが夢かはまだわからない。
正夢の3人目
銃声が鳴り、そぼろが溢れた。
義ん母
面接官が遠い。
xissa
その屋敷に隠されたモナ・リザの絵画は二種類で、どちらもカレンダーであるという。
TOKUNAGA
書き出し小説は基本「つづきが気になる書き出し」を目指しているが、その「気になり具合」にもいろいろある。たとえば牛乳氏の作品「これはザリガニで〜」はたしかに気になる書き出しである。が、もしこの物語が分厚い上下巻の長編だとしたら、そこまで好奇心は保たないだろう。私たちの興味はザリガニが家賃とみなされた経緯にあり、男の物語ではないはずだ。たこフェリー氏「乗り継ぎに乗り継ぎを〜」xissa氏「深夜の公園に〜」は冒頭からサスペンスを孕んでいる。松っこ氏「人物相関図〜」の矢印を刺した相手は誰なのだろうか。prefab氏「初めて木から〜」のウガピとはどんな生物なのか。大伴氏「あの回転中の〜」は比喩がますます実像を曖昧にしているという高等テクニック。ヘリコプター氏「犯人が作ったもの〜」はそのまんま「犯人が作ったもの」が激しく気になる。正夢の3人目氏「ピエロが〜」は悪夢か悪夢じみた現実なのか、不気味な雰囲気がよい。義ん母氏「銃声が鳴り〜」は銃声とそぼろにどんな因果関係があるのか気になる(気にしても仕方ない気もするが……)
TOKUNAGA氏の作品「GIF画像の街〜」はツイッターやフェイスブックで流れてくる、もはや出典先も曖昧なGIF画像の、言葉にしがたい空疎な気持ちが伝わってくる。同氏「その屋敷〜」の読後感(とくに語るほどでもない物語感)もよかった。

つづいては規定部門。今回のモチーフは「女子力」であった。想像を超えた女子力に圧倒されて欲しい。

規定部門・モチーフ「女子力」

今日はガーリーな感じで泣けた。
もんぜん
上目遣いだけでなんとか今日まで生きてこれた。
五捨六入
小さなお弁当箱に変えた日、授業が中断するほどお腹が鳴った。
ぴすとる
肉じゃがを失敗したときの言い訳にこそ弱いのである。
プレミアムバザー高田
家庭科は1だが女子力は5だと言う。合コンではよくある話だ。
g-udon
焼いたクッキーと倒した牛を手みやげに女子会へ向かった。
TOKUNAGA
写経女子会はとても静かだ。
ヘリコプター
最長老さまが頭を撫でると潜在的な女子力が湧き上がってきた。
ベランダ
貴子は気付かない振りがとにかく上手だった。
Mch
勝負するのは下着じゃない。私だ。
Mch
うそではない。ふりがうまいだけ。
ocamo
あの娘はまだ変身を2回残している。 J
日曜日。ラテアートを崩さないように気をつけながら登頂。
suzukishika
あげた果物がタルトになって返ってきた。
伊勢崎おかめ
初めての美容室にも関わらず娘は美容師と談笑していた。
山本ゆうご
女子力を極限まで高めたサユリは、1キロ先のボタンのほつれを察知し、手をかざすだけでお弁当を作り、意のままに男を操る。
タクタクさん
「チエがかわいいかもって言うから、額に目玉のタトゥーを入れたんじゃない!」
正夢の3人目
テヘッと出した彼女の舌は、胃が荒れていることを物語っていた。
tosso
出産時、すべての女子力は無力で無意味となる。
ocamo
雑居ビルの合間を吹き抜けた風に流され、路地のポリバケツにまとわりついたメモ紙に、女子力と書かれていた。
TOKUNAGA
政子は女子力で実権を握った。
九官鳥級艦長
勇者の前でだけ、薬草取り分けたり、ローブの裾踏んで転んだりして、なんなんあいつ。燃やすし。
義ん母
お嬢様はどこまでも優雅に下手人の爪を剥がした。
Mch
山をデコれ。海をデコれ。この国はもっとかわいくなければならぬ。
正夢の3人目
ショートケーキがたべたい。可愛くなれなかったら死にたい。
催涙雨
女子力を使い果たした花子は、頭から綿毛を飛ばし始めた。
えむ毛
採用作を通読すると、これまで曖昧に使われてきた「女子」なるものの正体が見えてきたような気がする。「女子」とはつまりキャラの「型」であり、直截的に女性を指すものではない。ややこしいのはその「型」が人それぞれ違うことである。
もんぜん氏の「今日はガーリー〜」五捨六入氏の「上目遣い〜」など、たいてい女子力は異性に向けて発揮されるものだが、それを突き抜けるとMch氏の「勝負するのは〜」やsuzukishika氏「日曜日〜」など己に向けた闘いになっていく。中には九官鳥級艦長氏「政子は〜」のように時代を相手取るスケールの大きな女子力もある。ocamo氏「出産時〜」は女子力の本質を突いたような作品だと言えよう。
最近では「女子力高めの男子」などという言葉も普通に使われている。すべてにコンテンツとして価値が問われる現在、正夢の3人目氏の「山をデコれ〜」のように、女子力は今後、国策のひとつとして視野に入れるべきなのかもしれない。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
童貞
今回の「女子力」に続き、次回は「童貞」である。この言葉も最近、以前のイメージとは違った意味で使われている。昭和の童貞は単に恥ずかしいイメージだったが、いまや童貞は「DT」と呼ばれひとつのブランド、生き方と主張する向きもある。たしかに最近のサブカルチャーを見ると童貞発信の笑いやファンタジーがやたらと多い。皆さんなりの新しい童貞像を書き出して欲しい。
締め切りは12月5日正午、発表は12月7日を予定している。下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して送っていただきたい。力作待ってます!
最終選考通過者
社交ダンク/くのゐち/まぐお/悲しげな女が踊る/流し目髑髏/ウチボリ/小夜子/あつし/井沢/もかぴの/ゆじを/タクシー/tatsu298/ほ/morin/かなえ60/青井A/
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デイリーポータルZ新人賞

 
 
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