ちしきの金曜日 2015年12月4日
 

たまには母に洋服でもプレゼントしようと思って

この方は僕の母ではありません
この方は僕の母ではありません
70才を過ぎた僕の母の趣味はオシャレをすること。オシャレを諦めるようになったらおしまいね、と言う母の服がお洒落かどうかは置いといて、洋服が好きなことは昔から変わらない。そんな母に、たまには洋服でもプレゼントしようと思い、近所のファッションセンターに行くことにした。
1970年神奈川県生まれ。デザイン、執筆、映像制作など各種コンテンツ制作に携わる。「どうしたら毎日をご機嫌に過ごせるか」を日々検討中。
> 個人サイト すみましん

しまむらじゃない方のファッションセンターへ

ファッションセンターと言えば、誰もがファッションセンターしまむらを想像すると思う。だが、僕が住む世田谷区駒沢のファッションセンターは「しまむら」ではない。駒沢のファッションセンターは「ファッションセンターパル」さんだ。
ファッションセンターパル
ファッションセンターパル
ファッションセンターパルは、家から駅までの道にあり、ずっと気になっていたお店だ。「しまむら」と比べると規模感はギュッとコンパクトであるが、ちゃんと「ファッションセンター」と書いてある。

ここに母親好みの洋服はあるだろうか?

事前にネット検索で「ファッションセンターパル」を検索すると、商店街のホームページ内にお店を紹介するページがあった。そこには、こう書いてある。

「500円、1000円を中心に2000円までがほとんどの品揃え、毎週商品が入荷しています。ただ、どんな商品かは見ないとわかりません。ヤングミセスから年配の奥様まで色々と入ります。」

まず、値段が安いのが嬉しい。そして、「ヤングミセスから年配の奥様まで」というターゲットの幅広さも魅力だ。

よし、ここで母のプレゼントを調達しよう。
ファッションセンターパルの店内
ファッションセンターパルの店内
ガラスの引き戸を引いて店内に入るが、店員さんの姿が見当たらない。

「ごめんください」と声をかけるが、返事もない。もう一度、今度は大きめの声で「ごめんください」と言ってみた。すると、店の奥の、床の方から「はい」という声が聞こえた。誰かいたのか? 奥に入っていくと、奥の角の試着室らしき場所におばあちゃんが座っているのが見える。
お店の人かな?
お店の人かな?
このおばあちゃんはお店の人だろうか。それとも、ここに服を買いに来たお客さんだろうか。

「洋服を探しに来たのですが」

とおばあちゃんに声をかけるが、良く聞こえていないようだ。しゃがみ込んでおばあちゃんに声をかけてみた。

「洋服を探しに来ました」

今度は通じたようで、笑顔で大きく頷いてから、「私は、もうすぐ82才になりますよ」と言った。82才ですか、お若いですね! と言いたかったのだが、もう少し年上に見えたので、僕は言葉に詰まった。

いや、そういうことじゃない。

「洋服を探しに来た」と告げた僕の言葉は通じていなかったのか。おばあちゃんがお店の人なのかどうか、まだ分からない。
もうすぐ82才になるというおばあちゃん
もうすぐ82才になるというおばあちゃん
さてどうしたものか。戸惑っていると、更に奥から男性が出てきた。
奥から男性が
奥から男性が
「ご用件は?」

良かった。この人はお店の人で間違いない。

母と息子、二人で営むファッションセンター

奥から出て来た男性は、ファッションセンターパルのオーナーだった。そして、試着室と思われる場所に鎮座するおばあちゃんは、オーナーのお母様。母と息子の二人でお店を切り盛りしているという。

母へのプレゼントで、とオーナーに告げてから店内を見回すと、入り口から見て右側の壁にあるカラフルな洋服にまず目がいく。どの服も価格帯は500円から790円まで。実にリーズナブルなお値段である。
カラフルな
カラフルな
洋服が
洋服が
並ぶ
並ぶ
反対側には靴が何足か陳列されていた。こちらも値段は安く設定されていて、1609円から1825円まで。
靴のバリエーションも豊富
靴のバリエーションも豊富
リーズナブルなお値段で
リーズナブルなお値段で
お店の中央にはハンガーラックが設置されていて、洋服とパンツがかけられていた。「500円より」という札がある。
吊るしコーナー「500円より」
吊るしコーナー「500円より」
履き心地が良さそうなパンツ類
履き心地が良さそうなパンツ類
入り口付近に「バッグ500円より」とあるが、
バッグも500円から!
バッグも500円から!
この日は2つしかなかった。
この日は2つのみ。
この日は2つのみ。
ファッションセンターパルの品揃えは大体分かった。さて、どうするか。ここに母が気に入る洋服はあるだろうか。

先ほどのオーナーに再び声をかけてみた。

「どういう服がいいですかね? 母は72才なのですが」

するとそこからオーナーのお話が始まった。そして、その後、約1時間に渡ってオーナーのお話を聞くことになる。

話し好きのご主人の半生

創業50年、そんな風格を感じさせるファッションセンターパルであるが、この場所に来て21年目ということだった。駒沢に来る前は富士見台で同じような洋服屋をやっていたのだとか。
駒沢では21年目
駒沢では21年目
「富士見台の前は鎌倉でやっていました」

鎌倉でも洋服屋さんを?

「いや、鎌倉ではお煎餅を売っていたんですよ」

ちょっと待ってください。ということは、お煎餅屋さん→洋服屋→洋服屋、ということですか?

「いえいえ、お煎餅屋さんやる前には、大手量販店でサラリーマンをしていました」

なるほど。大手量販店では、お煎餅と洋服、どちらを扱っていたのですか?

「量販店では衣料コーナーを担当していました。まぁ、その時の経験を生かして洋服屋をやっている訳です」

お煎餅屋さんは?

「大手量販店の内部って、学閥主義なんですよ。いい大学出てないと上にはいけないんです。だから、独立して」

いや、一旦お煎餅屋さんを挟んだ理由を…

「ああ、あの頃は儲かったんですよ。お煎餅が。でも、富士見台に越す時に煎餅屋に向いている場所がなくて。それは駒沢でも同じです。この辺で煎餅売っていても誰も買いませんから」

なるほど。それにしても、洋服が本当に安いですね。

「中内さんじゃないけど、安いのが最大のサービスである。っていう」

中内さん?

「ダイエーの中内さんです。あ、私が勤めていたのダイエーだったんですよ」

ダイエーの創業者の中内さんですね!

「洋服屋やってから、ずっと安くやっていますが、最近は本当に厳しいですよ。洋服1着売れても、儲けは100円、200円の世界ですから」

ずっとお母様と一緒に?

「そうです。母ももう来年で90ですから」

え? さっき82才って…

「母はいつもそう言うんですよ。本当は89才。だって、私が69才ですから」
本当は89才だったお母さん
本当は89才だったお母さん
「まぁ、昔は、こうしてお店をやって、自分のブランドを作る、って夢見てましたけど…。中々難しいですよ。今は、このお店の他に掃除の仕事もしていますからね」

これだけ安く提供してくれたら、儲けは少ないですよね。

「こっちで(洋服屋)食べていこうとは思ってないんです。近所の常連さんがやって来て、うちの息子が職に就けなくてさ、なんて話を聞いたり。そういうコミュニケーションが楽しいんですよ」

それは良いですね。

「ほら、私、広告代理店にも勤めていたから。やっぱりコミュニケーションが大事だな、と思うんです」

え? ちょっと待ってください。広告代理店はお煎餅屋の前ですか?

「いや、ダイエーの前です」

なるほど、ということは、広告代理店→ダイエー→お煎餅屋さん→洋服屋→洋服屋、ですね。

試着してもいいですか?

オーナーさんのお話はとても面白かったのだが、僕の目的はそこにない。母へのプレゼントだ。どの服が良いのか全くイメージが湧かない。

これは、あれかな? 自分で着てみたら分かるのかな?

「すいません、試着してもいいですか?」
「え? あなたが着るの?」
「ええ。イメージしやすいかなぁと」
「うちの商品は全部Lサイズだから、あなただったら着れそうだね。それにあなたメイクもしてないから試着してもいいですよ。メイクしてると洋服についちゃうから」

という流れを経て、試着させていただくことにした。

「母さん、ちょっとそこどいて。試着室使うから」

オーナーさんがお母さんにそう声をかける。やっぱりあそこが試着室だったのだ。
試着の為に場所を空けてくれたお母さん
試着の為に場所を空けてくれたお母さん
まずは、お店の中央にあったハンガーラックから、履き心地が良さそうなパンツを手に取ってみた。
まずはストレッチパンツから
まずはストレッチパンツから
試着
試着
サイズ感がぴったりな事に驚いた。僕のサイズはレディースのLなのか。

このパンツに上を合わせてみよう。
ニット素材のパープルを合わせてみた
ニット素材のパープルを合わせてみた
僕の母にパープルのイメージはないかな。辛子色はどうか?
辛子色を合わせてみる
辛子色を合わせてみる
うーん、どうだろう。

パンツが少し地味かもしれない。パンツでちょっと冒険してみるのはどうか。
甘くなりがちなデザインなので胸元のベルトでハード感を演出しました
甘くなりがちなデザインなので胸元のベルトでハード感を演出しました
ちょっと若造りな感じがするかな。

こっちはどうだ。
スナックを2軒経営しています
スナックを2軒経営しています
ボーダーとチェックで少し喧嘩している感がある。
お店が休みの日は、新宿御苑を散歩するのが唯一の楽しみです
お店が休みの日は、新宿御苑を散歩するのが唯一の楽しみです
悪くないかも。いや、ちょっと待てよ。これの色違いがあるぞ。
天気に合わせて黒と緑を着分けてるの、気付きました?
天気に合わせて黒と緑を着分けてるの、気付きました?
この緑だったら、さっきの黒かな。とりあえず、この2着はキープで。
ゴミ出しの時はこの服に決めてます
ゴミ出しの時はこの服に決めてます
悪くはないが、半袖だ。この季節のプレゼントには向かないだろう。
画像処理で腕を細くしといてよ!(笑)
画像処理で腕を細くしといてよ!(笑)
なんでだろう。全体的に志茂田景樹さんを少し地味にした人、という雰囲気が漂っている。髪の色を金髪にしたのがいけなかったのか?

結局、2着買いました

試着させていただいている間ずっと、「んくっ、んくっ、んくっ、んくっ」というお母さんのうめき声のような音が店内に響いていた。

何かな? と思ってお母さんの方をみると、足の裏にマッサージ機を当てている。
お母さんのマッサージ機
お母さんのマッサージ機
マッサージ機の刺激で思わずうめき声を出してしまったようだった。

ちょっと刺激が強いのでは?

と心配になったが、婦人用の服を試着している男から心配されたくもないだろうと思い、黙っていた。

結局、試着で気に入ってキープしておいた、黒と緑の色違い2着を購入することにした。

母は気にいるだろうか。
黒と緑の色違いを購入。合計1080円。
黒と緑の色違いを購入。合計1080円。
再び試着室に鎮座したお母さん
再び試着室に鎮座したお母さん

オーナーさんが掃除の仕事に出る時間になり、僕はお店を出ようとした。すると、僕の背後から、

「いやぁ、昔の人の言うことって、本当に合っているというか。ほら、あそこ見てください。空き地でしょ。この前まで理髪店だったんですよ。でも、三代目がお店閉じちゃってね。昔の川柳に、『売家と唐様で書く三代目』ってありますでしょ。合っているなぁ、と」

と、ご近所情報を教えてくれた。あっ! そういえばこの間まで、あそこ理髪店だったわー。
ご近所情報、ありがとうございました。
ご近所情報、ありがとうございました。
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