特集 2015年12月25日

世界総エレベータ化計画

どこにいてもエレベータに乗っている気分が味わえる装置、その名も「どこでもエレベータ」
どこにいてもエレベータに乗っている気分が味わえる装置、その名も「どこでもエレベータ」
エレベータの中は、四方を壁に囲まれている。その中で目に入る情報といえば、操作パネルに表示されている階数くらいである。

とすると、操作パネルの情報をねつ造してしまえば、止まっているエレベータの中にいても、あたかも動いているかのように錯覚してしまうのでは?
そんなことを考えた私は、ある装置の制作に取りかかった。
1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

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ベクションという名の錯覚現象

自分が乗っている電車が動き出したと思ったら、実は隣の電車が動いただけだった――そんな体験をしたことがないだろうか。

これは専門用語で「ベクション」と呼ばれる現象らしい。周りのモノが動いているだけなのに、あたかも自分が動いているかのように錯覚してしまうのである。
動いている電車が視界の大半を占めると、自分の方が動いていると感じてしまう
動いている電車が視界の大半を占めると、自分の方が動いていると感じてしまう
このベクションの考え方を、「エレベータ」に応用できないかと考えた。

……と、急に話が飛躍したが、どういうことか順に説明するので、もう少し話を聞いてはくれまいか。

このエレベータは動いているのか、止まっているのか

まず、エレベータに乗っているときの様子を想像してみてほしい。
よくあるエレベータの内部。四方を壁に囲まれた空間
よくあるエレベータの内部。四方を壁に囲まれた空間
さて、この状態でエレベータは動いているのか、止まっているのか、どちらだろうか?

きっと多くの人は、操作パネルの階数表示を見て、いまエレベータがどういう状態なのかを把握するだろう。(外が見えるガラス張りのエレベータは除く)
操作パネルを見ると動いている様子が分かる
操作パネルを見ると動いている様子が分かる
乱暴な言い方をすれば、エレベータなんて動いてなくても、操作パネルさえ動いていれば、エレベータが動いていると思うんじゃなかろうか。

そう、ここでベクションの考え方を応用するのだ。

隣の電車を見て自分が動いていると錯覚したように、限られた情報しかないエレベータ内部では、操作パネルを見ると自分が動いていると錯覚するのではないか??

「どこでもエレベータ」という提案

この錯覚を用いることで、どこにいてもエレベータに乗っている気分を味わうことができるのではと考えた。

つまり、こういうことだ。
自宅の一角に操作パネルを設置
自宅の一角に操作パネルを設置
おー、動いた動いた。いま確かに私はエレベータに乗って移動した!
操作パネルに表示される情報によって、あたかも部屋全体がエレベータになったかのように感じられるのである。

前置きが長くなってしまった。そう、これこそが、今回提案したい「どこでもエレベータ」なのだ。

エレベータの操作パネルを作る

とはいえ、もちろんエレベータの操作パネルなんてホイホイ売られているわけはないので、イチから自作することにした。
用意した品々。本物の操作パネルと比較すると、全体的に小ぶり
用意した品々。本物の操作パネルと比較すると、全体的に小ぶり
メインの部品は、LED付のスイッチと、階数表示用のLEDマトリクスなどなど。これらを夜なべして組み上げると「どこでもエレベータ」が完成する。
「どこでもエレベータ」の内臓部分。試行錯誤の末、コンパクトなサイズに収めることができた。このハンディ感、いいでしょう
「どこでもエレベータ」の内臓部分。試行錯誤の末、コンパクトなサイズに収めることができた。このハンディ感、いいでしょう
構成は大きく分けて、ボタン部と階数表示部からなる。制御にはAruduino Unoを使用
構成は大きく分けて、ボタン部と階数表示部からなる。制御にはAruduino Unoを使用
最後に、それっぽく作ったパネルを前面に固定して完成
最後に、それっぽく作ったパネルを前面に固定して完成
どーん。これが「どこでもエレベータ」だ!
どーん。これが「どこでもエレベータ」だ!

「どこでもエレベータ」の機能を紹介しよう

基本的に、操作は一般的なエレベータと同じである。

1) 目的の階のボタンを押す
階数ボタンを押すと、このようにボタンが光る
階数ボタンを押すと、このようにボタンが光る
2) 閉じるボタンを押す
押した後は、実際にドアが閉まる光景を想像で補う。イマジン
押した後は、実際にドアが閉まる光景を想像で補う。イマジン
3) エレベータが動き出す
ドアが閉じると自動的に、目的の階に向けて想像の中のエレベータが動き出す――
ドアが閉じると自動的に、目的の階に向けて想像の中のエレベータが動き出す――
ちなみに、現在階より下の階が押されると下へ、上の階が押されると上へと移動する。

これを使えば、どんな部屋でもエレベータに変えられるという寸法だ。
従来のエレベータの概念を大きく覆す仮想エレベータ、それが「どこでもエレベータ」なのである。

いつでも、どこでも、エレベータ

「どこでもエレベータ」の革新的な点は、自分の部屋、もっと言えば日本、世界、そして宇宙をもエレベータにできるところだ。

「どこでもエレベータ」のある生活を想像してみよう。
玄関に設置することで、自宅をまるごとエレベータ化
玄関に設置することで、自宅をまるごとエレベータ化
外出する前に、好きな階へ移動することが可能になる。ものすごく電気代のかかりそうな家だ
風呂場もエレベータ化。風呂に入っていると、いつの間にか風呂場ごと別の階に移動してしまった! なんてハプニングもありそう
風呂場もエレベータ化。風呂に入っていると、いつの間にか風呂場ごと別の階に移動してしまった! なんてハプニングもありそう
あたかも異世界に飛ばされる系のファンタジーのように、自分のいる部屋だけが家を離れて移動し始める。
まさに、いつでも、どこでも、エレベータになるのだ。

さらに、部屋の外に設置すると面白いことが起こる。
屋外に設置することで、部屋の中と外の関係がひっくり返る。つまり「部屋の外」が「エレベータの中」ということになるのだ
屋外に設置することで、部屋の中と外の関係がひっくり返る。つまり「部屋の外」が「エレベータの中」ということになるのだ
部屋の外がエレベータになるということは、概念的には屋外の空間すべてがエレベータということになる。その範囲は広大で、日本、世界、もっといえば宇宙全体がこのエレベータの中に含まれる。

これは缶詰のラベルを缶の内側に貼って、宇宙全体を缶詰の中に閉じ込めてしまった、赤瀬川原平氏の作品「宇宙の缶詰」を彷彿とさせる。
私のこの一押しが、宇宙をも動かすことになる……フハハハハ!!
私のこの一押しが、宇宙をも動かすことになる……フハハハハ!!
と、なんだか大層な話になってしまったが、最後に実用的? な話をひとつ。

交通量の少ない島しょ部などでは、子どもが信号の概念を学ぶため島に1つだけ信号機が設置されている、なんて話を聞く。
「どこでもエレベータ」も、エレベータがない場所に学習用として設置してはどうだろうか。と勝手な提案をしてみるものである。

さぁ「どこでもエレベータ」で、エレベータのある暮らしを始めよう!
これだと非常ボタンも押し放題だよ
これだと非常ボタンも押し放題だよ

「どこでもエレベータ」は、重量もあるため超強力な両面テープで壁に固定していた。しっかり固定できて満足だったのだけど、いざ外そうと思ったら、あれ……外れない……。

死力を尽くしてなんとか外したら、本体と一緒にリビングの壁紙も剥がれ落ちたのであった……。
固定方法を今後の課題としたい。
泣いた。妻に自白したところ超怒られた
泣いた。妻に自白したところ超怒られた

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