チャレンジの日曜日 2016年1月10日
 

書き出し小説大賞・第89回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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ベキましてゲスでとうございます。

本年最初の書き出し小説です。まずはお目出度い告知。書き出し小説単行本第二弾が決まりました!出版元は前書と同じく新潮社さま!発売はまだ先ですが、着々と準備を進めております。それでは今回もベキるめく書き出しの世界に、みなさんをご案内するでゲスの極み!

書き出し自由部門

いざ探すとなると、虚無僧もいないものだ。
TOKUNAGA
痴女は火炎に包まれた。
義ん母
未来都市ハナビ。映画化出来なかった街並みが、今も何処か浮かんでいる。
正夢の3人目
リンゴ磨きのおじさんが卑屈に笑うほど、リンゴはピカピカになった。
もんぜん
完璧に近づくほど機械人形の切なさは増幅する。
よしおう
頼みこんで入った天国に母はいなかった。
小夜子
泣いているあいだ、世界はとても静かだった。
紀野珍
目をつぶって何とかヤモリをつかみ、キャアキャア言いながら蛇の抜け殻を裂いて、魔女鍋は完成した。
もんぜん
娘のおたんじょう会の写真なのに、一番に探すのは自分だ。
xissa
父母に感謝し、神を呪った。
ウチボリ
三日間、なにも食べてないし注文もしていない。
ヘリコプター
二つの点をじっと見ていたら、立体駐車場が浮かび上がってきた。
ヘリコプター
洗濯し尽くした肌着は、お洒落にすらなり得た。
まじいい
勇者はその夜、夢魔も人の夢の中でトイレに行くという事、その様子をまじまじと観察するとビンタが飛んでくるという二つの事を覚えた。
prefab
シンクの隙間に落ちたエリンギが、いまだ鮮度を保っている。
りょうすけ
歩道橋の上、37秒間だけ世界を統べた。
猫背脱却物語
緑色のプールを見下ろしながら列車は高架を抜けた。
大伴
斜めに走る水平線を車窓の外に眺めながら、いつのまにか眠っていた。
まナツ
解約してなおメールが来るなら、それは解約していないのだ。
ウウタルレロ
手術が終わった。白衣を脱ぎ棄て、そのまま冬のプールに飛び込んだ。
ボーフラ
捨てた恐怖を慌てて拾った。怖い。怖い。
偶数の指達
有無を言わせない。そこが書き出し小説の強みだ。あらかじめ書き出しだけ、というルールのもと書き手はどこまでも無責任に、読み手はどこまでも寛容になれる。TOKUNAGA氏の「いざ探すと〜」に理由はない。義ん母氏の「痴女は〜」に意味はない。ウチボリ氏の「父母に感謝し〜」に脈絡はない。しかし書き出し小説というフォーマットは、それら思考の断面をそのまま作品として成立させてしまう。
ヘリコプター氏の二作、とくに「三日間〜」は読み手から「敢えてかい!」と珍しいツッコミを引き出す傑作。大伴氏の「緑色の〜」、まナツ氏の「斜めに走る〜」、どちらも車窓の風景から想を得たものだが、そう言えば書き出し小説には「車窓モノ」という独自のジャンルがあるような気がする。偶数の指達氏「捨てた恐怖〜」まさにモヤモヤした思考の断面をそのまま切り出した作品、それが文体のリズムと相まって独特の味わいとなっている。

続いては規定部門、今回のモチーフは「お正月」だった。年のはじめの三十作品。一気にどうぞ!

規定部門・モチーフ「お正月」

0:00。
りょうすけ
祖母の年賀状には、見知らぬ干支が描かれていた。
大伴
ブレーカーが落ちて、年が明けた。
東ことり
「モチ、何個ーー?」で起こされる元旦
チチカステナン号
年が明け、懲役もひとつ減った。
大伴
毎年知らない家族写真が送られて来る。
井沢
予告状は年賀状に紛れて読み飛ばされた。
えむ毛
初夢からなかなか覚めない。さっきからずっとループをたどっているのだ。
まナツ
実に縁起の良い淫夢だった。
suzukishika
元旦生まれだという以外にあいつのことは知らない。
Puzzzle
おみくじだけがオレの伸びしろを認めてくれた。
Mch
おみくじを引くと、「鳥居の下」とあり、鳥居の下へ行くと「柄杓の中」とある。
茂具田
中二病の甥っ子の語彙が増えていた。
ふじーよしたか
いつものヤンキーが立ち読みをして、いつものおっさんが弁当を迷い、店内放送がお琴に変わった。
哲ロマ
獅子頭から人妻を凝視した。
TOKUNAGA
新年になると同時に、アダルトサイトは正月らしいデザインとなり、それは22日間続いた。
TOKUNAGA
断食芸人にも新年が来た。今日は特別に御粥が食べられる。
ボーフラ
人類が一斉に高エネルギー体化した3日後、はんぺんのような正月が来た。
とりりん
巫女さんの中で「神をも恐れぬ行為」というフレーズが流行った。
もんぜん
こたつの周りに必要なものが集まってきて、しだいに要塞のようになってきた。
伊勢崎おかめ
義母の話に笑顔で相槌を打ちながら、こたつの中では猫をつねっている。
伊勢崎おかめ
賽銭箱がありそうな場所を目がけて、やみくもに小銭を投げた。
タクタクさん
我が家で最も正月太りをしたのはハードディスクだった。
柴咲ハコ
七草にパクチーが加わった。
ビールおかわり
しばらくは平成27年と書くだろう。
まじいい
ラクダは初詣で、平均20リットルの水を飲むという。
炎の文房具屋さん
お年玉でつくった爆弾で、何が爆破できるというのか。
ロサンゼルス
電車の窓からほろほろ暮れる元日を眺めている。
xissa
「結局、全部、ダジャレじゃねーか!」と、お節料理をひっくり返して出て行った息子が、真打ちになって帰ってきた。
ねもっ血風クン
何がめでたいかなんて、考えたらそこで正月は終わりだよ。
マークパン助
りょうすけ氏「0:00」年明けを極限まで冷静に象徴化した作品。そう言えば昔、デザイン会議というシンポジュウムに参加したとき、「紅白歌合戦が終わって、ゆく年くる年が始まるときの静寂」が特別賞として表彰されていた。まさかそんな静寂がデザインとして表彰されるとは!とビックリしたが、いまにして思えば粋な計らいだったと思う。ちなみにその会議を発案者は故・黒川紀章氏だった。流石である。
suzukishika氏「実に縁起のいい〜」ナスビがどんな登場をしたのが気になる。それにしても初夢が淫夢ってパターン、割と多い気がするのは私だけだろうか。もんぜん氏「巫女さんの中で〜」バイト巫女たちのキャッキャッした雰囲気が伝わって微笑ましい。ビールおかわり氏「七草に〜」落選した草はなんだったのだろうか。またこの作品で勇気をもらった草もいると思う。マークパン助氏「何がめでたいか〜」、スラムダンクの名言のような作品。というわけで今年も作家のみなさん、読者のみなさん、よろしくお願いします!

それでは次回にモチーフを発表する。
次回モチーフ
四国
ご当地モチーフ第二弾です(ちなみに第一弾は大阪でした)。実は筆者の地元は香川なんですが、うどんブーム以前は全国でも最も地味な県だった気がします。四国と言えば他にみかんの愛媛、阿波踊りの徳島、坂本龍馬の高知と、ひとつひとつを取れば「ああ!」となるものの、縁のない人にとってはちょっとオーストラリアに似てるよね、程度のキャラの薄い土地だと思います。
ただ情報がないぶん縁のない人は自由な発想ができますし、地元の人はローカルネタで遊べるモチーフだと思います。ぼんやりとした四国をあなたなりのワンダーランドに仕上げてください!締め切りは1月22日正午、発表は24日を予定しています。以下の投稿フォームから、自由、規定それぞれを選んでお送り下さい。力作待ってます!
最終選考通過者
ocamo/山ノ木千代子/社交ダンク/牌流定石最高/りりー/あかねぱぱ/くのゐち/あつし/にら将軍ハルナ/おおきな助/プレミアムバザー高田
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デイリーポータルZ新人賞

 
 
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