特集 2016年2月17日

いわゆるジブリっぽいハノイの古民家カフェ

!
ジブリっぽい、という言葉は発明だと思う。

たとえば、天空の城・ラピュタ。あの作品のモデルと謳われるものだけでも、ペルーのマチュピチュ、兵庫の竹田城跡、和歌山の友ヶ島、カンボジアのベンメリア遺跡…とか、詳細はそれぞれ調べてもらうとして、今すでに頭の中では片手の指の本数を超えた。

それまで縁もゆかりもない場所が、「ジブリっぽい」と表現されるだけでグッと郷愁と冒険心を掻き立てる。ジブリは映画制作のスタジオにも関わらず、観光産業に大きな貢献を果たしているのではないか。

まぁ、それは良いとして、今回はベトナムにある「ジブリっぽいカフェ」を紹介します。
1984年大阪生まれ。2011~2019年までベトナムでダチョウに乗ったりドリアンを装備してました。今は沖永良部島という島にひきこもってます。(動画インタビュー

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「千と千尋の神隠し」っぽいカフェです

千と千尋の神隠しっぽい…というと、有名どころの台湾の九フンを思い浮かべる人が多いかもしれません。台湾北部にある街で、黒い屋根の軒下に連なる朱色の提灯と、両脇に露店がひしめく細い階段が特徴。モデル説はスタジオジブリによって公式に否定されているものの、似ていると感じる人は多いでしょう。
ウィキペディアより。作品を知らない方は、今回は九フンぽいカフェでもいいです!
ウィキペディアより。作品を知らない方は、今回は九フンぽいカフェでもいいです!
で、一方のベトナムはというと、首都・ハノイの観光地・ホアンキエム湖近辺にあるカフェ。ちなみにここを「ジブリっぽい」と評した人は私以外にほぼいないと思います、何故なら単に知名度が低いから!ただ、それはあくまで日本人にとってはというだけで、欧米人観光客を中心に人気らしい。実は過去に二度訪れているこちらのカフェ、初めて訪問する友人と連れ立って行って来ました。
どこでも見られるハノイの街並み。
どこでも見られるハノイの街並み。
中央の黄色い路地です、これは知らないと入らないよね。
中央の黄色い路地です、これは知らないと入らないよね。
カフェの名前は「Cafe Pho Co」、直訳すると「旧市街」です。
カフェの名前は「Cafe Pho Co」、直訳すると「旧市街」です。
友人「バイクどこに駐車します?」
私 「ん、そのへんの路肩でもいいんじゃない?」
店員「ちょっと!あなたたち、カフェに来たの?」
私 「そうだけど」
店員「困るなぁ、ちゃんとバイクは中に入れてよ」

えっ、中に…?
こ、この中にですか…?
こ、この中にですか…?
本当にこの中でいいんですか…?
本当にこの中でいいんですか…?
すると!
すると!
全員「お」
全員「お」
全員「おぉ~!!」
全員「おぉ~!!」
トンネルではなく路地の向こうは不思議のカフェでした、と言わんばかりの景観の変わりよう。この中華っぽさもありますが、バチッと世界が切り替わった感じも含めて、千と千尋の神隠しではないでしょうか。それにしてもバイクがめちゃくちゃ浮いている。
見上げればまさに箱庭!といった感じで、外の喧騒は届かない。
見上げればまさに箱庭!といった感じで、外の喧騒は届かない。
GoProの広角レンズカメラを用意すれば良かったな、映えそうだ。
GoProの広角レンズカメラを用意すれば良かったな、映えそうだ。
ハノイにしろホーチミンにしろ、ベトナムの都市部は大通りを動脈静脈とした毛細血管のように路地裏が張ってあり、パッと見だと建物の幅は狭くても、奥に進むと深かったということが多い。だからと言って民家に勝手に入るともちろん怒られるのだけど、たまーにこうして内側を拝見できるカフェがあるのです。まぁ、それはそれとして…。
これとか
これとか
それとか
それとか
あれとか
あれとか
何故なのか、ここには不気味な置物が多い。
この仮面なんて、装備したら防御力高くなるけど呪われるやつだ。
この仮面なんて、装備したら防御力高くなるけど呪われるやつだ。

見どころは高い位置から望むホアンキエム湖、あと名物の玉子コーヒー

このカフェは狭いながらも四階層になっており、一度上がると下に戻ることが億劫になる。という訳で、注文がてらここでカフェについて詳しく聞いてみることにした。たっぷりと年季が入っている分、さぞかしいろんな話が聞けるだろう。

私 「ねぇ」
店員1「なに?」
私 「ここっていつからあるの?」
店員1「えぇー…古いんじゃない?」
私 「あ、いや、ごめん、何年前からあるの?」
店員1「知らんよ

え!

私 「じゃ、じゃあ君は?」
店員2「知らんよ

えぇ!!

聞き出す糸口を見つけるどころか、クシャッと潰されてしまった!
期待しすぎたかなと…とりあえずカフェらしくコーヒーを飲むことに。
階段を上って振り返るとより分かる構造、まさに窮屈。
階段を上って振り返るとより分かる構造、まさに窮屈。
隣家の洗濯物が見えてるところもまたベトナムらしい。
隣家の洗濯物が見えてるところもまたベトナムらしい。
その背後には仰々しい門、きっと先祖を祀る祠だろう。
その背後には仰々しい門、きっと先祖を祀る祠だろう。
ベトナムでは民家が一階を開放してカフェに利用する、という場合が多いのだけど、ここは民家の影がどこにも見えないほどカフェに対して全力投球している。祠があるのならここは民家で、きっと何処かに家の主人がいるのだろうけど。
あとから増設されたらしき螺旋階段を登っていくと…。
あとから増設されたらしき螺旋階段を登っていくと…。
テラス!
テラス!
アンド、ホアンキエム湖!
アンド、ホアンキエム湖!
そうなんです、ここはホアンキエム湖が望める隠れスポット!と言ってもピンと来ない方がほとんどだと思うので、そんなときは井の頭公園の池あたりに読み替えてください。これも都内に住んでないと分からないな、まぁそれはいい。

それで、あいにくこの日は曇り空…と偶然を語りたいところだけど、ハノイは暑かろうが寒かろうがほぼ年中曇り空。唯一、10~11月の秋であれば快晴の日も珍しくなく何より涼しいので、もし旅行に行く機会があれば是非ともその季節に行きましょう。
そして注文の品がやって来た、本店名物「たまごコーヒー」です。
そして注文の品がやって来た、本店名物「たまごコーヒー」です。
見ての通り、ねーっとりとしている。
見ての通り、ねーっとりとしている。

たまごコーヒーは卵かけご飯の味

この「たまごコーヒー」は、ハノイの多くのカフェで扱っている、言わば現地の名物。この飲み物、ある認識をしてしまうと途端に味が変わるのです。そして今回もそれが確かか検証しようと、同行している友人の井上くんに試飲をすすめた。
ま、ま、まずは飲んでみてよ。
ま、ま、まずは飲んでみてよ。
ズッ…
ズッ…
あれ!美味しいんじゃないですか?
あれ!美味しいんじゃないですか?
私 「どう?」
井上くん「いや、まぁ甘いけど美味しいです」
私 「そうか」
井上くん「?はい」
私 「でもそれ、卵かけご飯ぽくない?
井上くん「…」
うわ!
うわ!
本当だ!
本当だ!
井上くん「もう卵かけご飯の味にしか感じない!
私 「な!そうやんな!な!な!

このたまごコーヒーは不思議なもので、先入観なしに飲むとミルクセーキのようで美味しいといえば美味しいのだけど、卵かけご飯だと思った瞬間からどう味わっても卵かけご飯としか思えないのだ。醤油の代わりに砂糖を入れた卵かけごはん、まさにコレ。生卵を食べるがゆえに卵かけごはんの味を知っている、日本人だけに有効な呪いかもしれない。

皆さんも試してみてください。
まぁ、残念ながら、これを読んだ以上は結果が見えてるけど!

最後の最後にオーナー登場

さて、たまごコーヒーも飲んだし、そろそろ帰ろう…。

私 「あの」
店員「はい」
私 「本当に、このカフェが何年前からあるか知らないんだよね?」
店員「そんなに知りたいならそこにオーナーがいるから聞いたら?」
いんのかよ!!
いんのかよ!!
最初から言ってほしかった!が、ががが、結果的には良い!
店を出る前に出会えたのでこれで良い!

こちらがオーナー、俳優一筋40年(あくまで印象です)。取材ご快諾。
こちらがオーナー、俳優一筋40年(あくまで印象です)。取材ご快諾。
私 「こちらのカフェはいつからあるんですか?」
男性「20年前だよ」
私 「あれ、もっと古くからあると思っていました…」
男性「あぁ、この建物そのものはね、1918年からあるる」
私 「あ、じゃあほぼ100年前!?」
男性「うん」

完全な古民家ってやつだ…。
私 「それにしても、家そのものは100年前からで、どうして20年前になってカフェにしたんですか?」
男性「そりゃ金に困ってたからだよ!
私 「シンプルですね!
男性「もともと古い家だから、友達のたまり場になっていたところがあってね。その延長で身内だけの喫茶店としてはじめたんだ。最初は階段も無かったんだよ」
私 「え、二階も無かったということ?」
男性「うん。ほら、こうしてうちには珍しいものがあるじゃない?友達から聞いてそれを見たいという人も増えちゃって、それならもっと多くの人に見てもらおうと開放したんだよ。そうこうしているうちに、いつの間にか四階建てになっちゃった」
私 「増築の展開が早い」
オーナーの部屋には年季の入った調度品がギッシリ。
オーナーの部屋には年季の入った調度品がギッシリ。
今突然ワー!って倒したらしばき倒されるだろうな。
今突然ワー!って倒したらしばき倒されるだろうな。
私 「この部屋もそうですけど、古い調度品や置物が多いですね?」
男性「家と一緒に代々伝わっているものばかりでね、でも中には私が描いた絵もあるよ」
私 「描いた絵?」
男性「画家だからね」
私 「そうなんだ!」
よく見るとところどころに男性が描いた絵が飾ってあった。
よく見るとところどころに男性が描いた絵が飾ってあった。
この写真は私の兄でね、これは祖父でね…。
この写真は私の兄でね、これは祖父でね…。
お兄さんinパリ。
お兄さんinパリ。
お父さんが2歳の頃の写真、1932年とのことなので84年前。
お父さんが2歳の頃の写真、1932年とのことなので84年前。
こちらは聞きそびれてしまったけど、昔のベトナムらしい写真。
こちらは聞きそびれてしまったけど、昔のベトナムらしい写真。
話を聞いているうちに、この方や家の背景が見えて来た。この周辺は今でも中心地の一等地、100年前からここに家があるなんて、さぞかし裕福な家系だったのだろう(カフェ展開はお金に困ってだけど)。ベトナムは戦後40年、逆算するとこの男性は思春期真っ只中で終戦を迎えているだろうし、その中で画家を目指せたという環境からも家庭の経済環境の想像がつく。

現代のベトナムの文化は、千年に渡る中国との攻防の歴史によって中華を基盤としており、19世紀のフランス統治によって流れこんだフランス文化と合わさった格好だ。麺類やフランスパンが共存する食文化にしてもまさにと言える。今から100年前に建てられたカフェはフランス文化が馴染む前のベトナムを思わせる、だから名前も「旧市街」なのだろう。

路地裏の向こうにあるものは、不思議の街ではなく昔かもしれない。

千と千尋の神隠しが「昔の中華」を思わせるのであれば、もしかするとベトナムの路地裏の向こうにはジブリっぽい景観が山ほど眠っているのかもしれない。だからといって勝手に立ち入ることも出来ないので、ジブリ好きの方はひとまずCafe Pho Coに行ってみてはいかがでしょう。そのまんまの名前で検索すれば出てきます。
絶対いいもん食ってるカフェの飼い猫
絶対いいもん食ってるカフェの飼い猫
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