チャレンジの日曜日 2016年2月21日
 

書き出し小説大賞・第92回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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常夜鍋とは豚肉とホウレンソイウだけをさっと煮て食べる鍋料理である。昨夜、はじめて家で常夜鍋をつくって食べてみた。その名の通り毎晩食べたくなる美味しさだった。ただホウレンソウのアクによって歯の裏側が思いっきりザラザラする。ザラザラ鍋と呼んでもいい気がする。それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しょう!

書き出し自由部門

握手会に並んでいるが、頭はガスの元栓でいっぱいだ。
ウチボリ
多分、トングのようなもので挟まれている。
ヘリコプター
紳士的なタヌキだったのですっかり信用してしまった。
Mch
汚くて、古いのに潰れない店には、大抵、地下室があり、偽札を作っているという。
いがそ君
悪魔もお世辞くらいは言う。
小夜子
誰かのヤッホーが今朝も俺を苛める。
大伴
犬の散歩の途中で、地鎮祭に参加した。
まじいい
最寄りの人はをささみを揚げたり、私を愛したりした。
義ん母
昔住んでいた家に電気がついている。
xissa
イチジクの木みたいに歪んでしまって、もう戻らない。
くのゐち
諜報員のアカウントは撒菱のようにハッシュタグが散りばめられていた。
井沢
使わなかったトキメキパワーを石にしておく。
正夢の3人目
世界地図を縮小コピーしてクリアファイルに挟む。
たこフェリー
今や天竺はアプリで探す時代である。
マエカワグリオ(再)
決勝戦にカツラが間に合わない。
マークパン助
臨終間際の父の腹にはまだ顔が書いてあった。
もんぜん
利用規約の中でうまいこと言うやつがあるか。
ウウタルレロ
まだ大仏がみえる。
TOKUNAGA
にらめっこで最も強い顔が、実は無表情であるように、笑いをねらった文章も、文体はできるだけ簡素な方がいい。そこでヘンに凝った言い回しを使ったり、エキセントリックな文体になっては、読む方も身構えてしまう。例外もあるだろうが内容がおかしかったり、ぶっ飛んでいるほど、それを語る顔は真面目な方が笑えるのだ。
今回の採用作もそんな基本をしっかり抑えている。ヘリコプター氏の「多分〜」はいま現在、トングのようなもので挟まれいている状態だと思うと余計おかしい。まじいい氏の「犬の散歩〜」は本人からすれば事実をありのまま言っているだけだが、そのありのままさが妙に面白い。正夢の3人目氏「使わなかった〜」これはゲームの中の話だろうか、それともこういう世界観のファンタジーだろうか、説明のないところが面白い。石にしたトキメキパワーがその後どんな局面で使われるかも素直に気になる。もんぜん氏「臨終間際の〜」この一文だけで、父は腹おどり中に倒れたのだと察しがつく。間抜けと深刻がせめぎ合う中の冷静な口調がいい。TOKUNAGA氏「まだ大仏〜」シンプル・イズ・ベスト、さすがの名人芸。

続いては規定部門、今回のモチーフは「台詞はじまり」であった。物語を扉を蹴破る第一声をお聞き下さい。

規定部門・モチーフ「台詞はじまり」

「ご飯できたよ」母からテレパシーがきた。
茂具田
「やかましい!」と怒鳴りつけた先には誰もいなかった。
よつば
「豊作のためだ。我慢しろ。」
ビールおかわり
「カエルの時のほうが優しかった」姫はぼやいた。
東ことり
「さみしくなったらウサギより先に死ぬ自信ありますよ、俺」
Mch
「教壇にクリスタルスカル置きっぱにしたやつ、誰や!?」
morin
「まつり縫いってそういうことじゃないから」と家庭科の先生にはっぴを脱がされた。
伊勢崎おかめ
「あと味玉も。」 カウンター越しに王妃は言った。
大伴
「ですからご主人様、そこでも王手でございます」
マエカワグリオ(再)
「秘技!手掴みケーキ食い!!」洋子が死んだその時刻、私は浮かれていた。
正夢の3人目
「悪い子はいねがぁー!!!」本当は分かっている。悪い子などいない、と。
尻炉
「しびれる、お通しだぜ」
にら将軍ハルナ
「今年もアカンやろ」本気で思ってない、阪神ファンはカワイイ。
チチカステナン号
「あとは若いお二人で……」そう言い残して、拷問室の扉を閉めた。
あつし
「キミ、伊賀なの!?オレ、伊賀伊賀伊賀!」
TOKUNAGA
「口座が凍結された。牛丼をおごってほしい」
かかえ
「実写化のこと、墓前に報告に行くんだが、おまえも来てくれるか」
紀野珍
「あ、ミッキー!」私のレントゲン写真を見ると、妻はそう言った。
イイムラヒロキ
「お助けでござる! お助けでござる!」ふかふかのソファーに野武士が沈んでいる。
偶数の指達
「おい!」総務の怒声。同人誌を会社で印刷していた事が発覚してしまった。
ボーフラ
「カップ焼きそばは焼いて無いのデス」
prefab
「流しの下のプロテイン、返してもらってもいいですか?」
津森すあま
「警部!埴輪の位置が変わっています!」
xissa
「ちゃんと相手の脳を見て話しなさい。」
くのゐち
「エウレカ!」浴室は想像以上に声が響いて自分でびっくりしてしまった。
suzukishika
「あー、この人治せます。この人も、こっちも。」突然現れた医師風の男がカルテを覗き見てきた。そして忽然と消えた。
ウウタルレロ
「と、いうわけなんだ」回想を終えた友人が言った。
哲ロマ
いつもとは違った試みとしてやってみた「台詞はじまり」だが、パターンとしては二通りあった。「台詞プラス地の文」と「台詞だけ」である。作りやすいのは「台詞プラス地の文」の方だと思っていたが、予想外に「台詞だけ」が多く、しかもインパクトという点では後者の方が断然あった。
茂具田氏「ご飯が〜」いきなりテレパシー、しかも家族間では日常化してるところがいい。ビールおかわり氏「豊作〜」妄想を刺激するひと言だ。いったいどんな儀式なんだろう……。Mch氏「さみしくなったら〜」なんだろうこの強気な感じ。「自信」の使い方を間違っている。キャラ的にはバカな後輩だろうか。面白い。マエカワグリオ(再)氏「ですから〜」拳を口にあて上目遣いに笑う執事的な、そういう萌え場面が自動的に浮かぶ。にら将軍ハルナ氏「しびれる〜」しびれる書き出しです。紀野珍氏「実写化のこと〜」この台詞だけで物語のすごく複雑な背景、人間関係が伝わる。すごい。津森すあま氏「流しの下の〜」もそこに至までの経緯や人物の逡巡を想像すると、いったいなにがあったのかすごく気になる。つまりところ前後の脈絡を絶ち、取り出された台詞は、限りなく寝言に近づくようだ。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
二人称
今回の「台詞はじまり」に続き、次回もチャレンジングなお題である。二人称とは知っての通り「あなた」や「君」など読み手をさす。つまり二人称は読者に直接語りかける文体と言えよう。日本の小説の中でも二人称はあるが、その数は圧倒的に少ない。理由はもちろん難しいからである。しかし書き出し小説というフォーマットなら、二人称でも楽しく遊べるのではないだろうか。次回はややハードルが高いかもしれないが、そのぶんハマれば傑作が生まれそうな気がする。とくに常連のみなさん、果敢にチャレンジしてみてください。
締め切りは3月4日正午、発表は3月5日を予定しております。下記の投稿フォームから自由、規定を選択して応募下さい。力作待ってます!
最終選考通過者
morin/シトラス/チチカステナン号/ミミズグチュグチュ/muddom/空想庭園/其の海/庄子遼太/早百合/トミ子/ポエマーよしかわ/じゅんじゅん/
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