フェティッシュの火曜日 2016年2月23日
 

とにかくマズいと噂の魚「イセゴイ(ターポン)」をおいしく食べたい

本当にそんなにマズいのか?
本当にそんなにマズいのか?
日本には数え切れないほど多種多様な魚がいる。
そして、それらの味も十人十色。いや、十魚十色。
ほっぺたが落ちるほど美味いものもあれば、イマイチなものもある。

今回はそんな日本産魚類の中で、ぶっちぎりと言っていいほど食味についての評判が悪い「イセゴイ」という魚を紹介したい。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。
> 個人サイト Monsters Pro Shop

どんだけ評判悪いのか

日本人は海の幸が大好きだからだろうか。ネットで海水魚の名前を検索するとマイナー魚種であっても、かなりの確率で食味レポートがヒットする。
レポートの内容はざっくり分けると「おいしい!」か「んー、あんまりおいしくはないかな」の二通りである。

意外と「めっちゃマズい!」「食えない!」という魚は案外ほとんど見かけないのだ。
マイナーな魚でも、予測検索の候補に「味」とか「食べる」なんてワードが出てくる。どんだけ食への探究心旺盛なんだよ日本人。
マイナーな魚でも、予測検索の候補に「味」とか「食べる」なんてワードが出てくる。どんだけ食への探究心旺盛なんだよ日本人。
実際、食べられないほど味の悪い魚なんて滅多にいないし、報告した人たちも「命をいただいた」手前、対象魚をそう悪くは書けないのかもしれない。

しかし、イセゴイに関しては話が違う。
この魚について検索すると、とにかくマズいマズいのシュプレヒコール。
勝手に食っておきながら(仕方ないけど)罵詈雑言の嵐である。

ご覧いただきたい。
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直球の「まずい」きた!(出典:ぼうずコンニャクの市場魚介類図鑑
直球の「まずい」きた!(出典:ぼうずコンニャクの市場魚介類図鑑
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ひどい言われようだ…。(出典:ぼうずコンニャクの寿司図鑑)
ひどい言われようだ…。(出典:ぼうずコンニャクの寿司図鑑
(出典:YAHOO!知恵袋)
(出典:YAHOO!知恵袋
まとめると、「骨が多い!身が緩い!味自体が悪い!臭い!」というのが主なマイナス要素らしい。(出展:ヤマリア 釣り百科)
まとめると、「骨が多い!身が緩い!味自体が悪い!臭い!」というのが主なマイナス要素らしい。(出展:ヤマリア 釣り百科
驚くのは、イセゴイの味をレビューしている人たちの中には、料理人や釣り人など、普段からいろいろな魚を食している玄人な方も含まれていること。

料理の腕がどうというわけではないようだし、魚への愛情も深そうだ。
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Facebookで「ターポン食べるよ」と投稿すると、魚好きの知人たちから怒涛のように不味いコールが!工場のネジ味とか、雑巾風味とか…。しかし、意外と食べたことある人多いのね。
Facebookで「ターポン食べるよ」と投稿すると、魚好きの知人たちから怒涛のように不味いコールが!工場のネジ味とか、雑巾風味とか…。しかし、意外と食べたことある人多いのね。
そんな彼らをして、「こんなもん食えるかボケ」と言わしめるイセゴイとは…。
逆に食べてみたくなってしまった。
というわけで沖縄で釣ってきたよ。
というわけで沖縄で釣ってきたよ。
この悪評から察しがつくだろうが、この魚は基本的に市場には出回らない。
漁師さんの網にかかっても放されるらしい。

ならばと自分で釣ってきた。
そういえば、釣具屋さんで釣り方を教わるついでに話を聞くと、やはり「マズい。食えたもんでない。」と顔をしかめる店員さん。

大きくて見栄えは良いので、初めて釣り上げた人は「こいつはさぞ美味かろう!」と持ち帰りがちらしい。
が、いざ捌いてみて泣きを見る…というパターンが多いのだとか。
そんなに不味そうには見えないが…。
そんなに不味そうには見えないが…。
釣り上げたイセゴイはとにかく元気!
ビビビビビッと身体を震わせてのたうち回る。まるでカツオかハマチのよう。
そういえば、針に掛かっている間もビュンビュン泳ぐわ何度もジャンプするわで手に負えなかったな。

この元気に暴れまわる様が釣り人には受けているそうだ。
ちなみに、大西洋に棲む近縁種「ターポン(アトランティック・ターポン)」は釣り人にとって夢の魚であるらしく、彼らはイセゴイもそれになぞらえて「パシフィック・ターポン(または単にターポン)」と呼ばれることも多い。
こちらは大西洋に暮らす大魚、本家のターポン。全長2メートルを超える、釣り人たちのスター。が、やはり味はあんまりおいしくないらしい。
こちらは大西洋に暮らす大魚、本家のターポン。全長2メートルを超える、釣り人たちのスター。が、やはり味はあんまりおいしくないらしい。
見た目も、良い。
流線型の魚体は大きな銀鱗に覆われ、立派な各鰭は遊泳力を誇示しているようだ。

目は大きく、光を当てるとピンク色に輝く。夜行性の魚に多く見られる特徴だ。

名前だって立派だ。
「伊勢鯉」。なんてめでたい響きだろう。
…コイの仲間じゃないし、伊勢ではあんまり獲れないはずだけども(名前の由来は諸説あり、どれが正しいかはっきりしないらしい)。
まあ、鱗が大きいところなんかはコイっぽいかな?

こんな素敵な魚がマズいわけないじゃーん!
きっと、ネット上に上がっているレポートを書いた人たちが食べたのは、漁獲後の処理がよくなかったり、鮮度がイマイチだったりしたものなのだろう。そう思いたい!
というわけで、釣り上げたターポンは即座に血抜きと内臓、鰓の除去を済ませ、氷漬けにしておいた。…なんか鉄っぽい生臭さが気になるが。
まな板の上のイセゴイ
まな板の上のイセゴイ
翌朝、いよいよ調理に取り掛かる。鮮度も処理もバッチリ!なはず。自信をもって鱗を落とし、包丁を入れる。
…そして衝撃の展開が!
肉がグズグズ崩れる…!
肉がグズグズ崩れる…!
あれ…。僕、こんなに魚さばくのヘタクソだったっけ…?
あれ…。僕、こんなに魚さばくのヘタクソだったっけ…?
刃が当たったそばから、手で押さえた端から、身がボロボロ、グズグズ崩れていく。どうなっているんだ。
ネットで頻繁に目にした「身がやわらかい」とはこういうことか。やわらかいとかいう次元じゃない気もするが。
なんてひどい…
なんてひどい…
三枚おろしにしたはずが、まな板の上にはなぜか魚の皮の上に魚のミンチが乗った物体が。
刺身にするため、皮を引く。引けるか?引きたい…!
刺身にするため、皮を引く。引けるか?引きたい…!
さらなる悲劇は、刺身を取ろうと皮を剥きにかかったところで起きた。
あああー!もうめっちゃくちゃ。
あああー!もうめっちゃくちゃ。
…皮を剥こうとしただけなのに、なぜか一瞬ですり身ができた。
なんだこれは。
こんな筋肉で、よくあれだけ泳げるな!よくあれだけ暴れられるな!おかしいだろう。どうなってるんだこの魚。
刺身にしたかったのにすり身になっちゃった。
刺身にしたかったのにすり身になっちゃった。
うーん、臭みとか嫌な味は感じないけど…。何か得体の知れないたんぱく質のペースト(粘土?)みたいな感じ。
うーん、臭みとか嫌な味は感じないけど…。何か得体の知れないたんぱく質のペースト(粘土?)みたいな感じ。
生のまま少し味見をしてみる…。もそもそとしたかったるい食感だが、変な味やにおいはない。
マグロの赤身のような味(わずかな酸味?)はかろうじてあるが、醤油をつけるとほぼ消え失せる。

そう、マグロ。色合い的にも、うまみと脂を抜いたマグロたたき(牛丼屋さんで出てくるネギトロ)のよう。美味くはないが、そんなに極端にまずいわけでもないか?
ショウガを加えて団子にし、つみれ汁に。…あれ、悪くない。
ショウガを加えて団子にし、つみれ汁に。…あれ、悪くない。
とりあえず塩とショウガで味を調え、つみれ汁にしてみる。…案外いける。
あれ?この流れ、なんかちょっと前評判と違うぞ。
刺身は叶わなかったけれど、さほど悪い味でもないので生食にチャレンジ。
刺身は叶わなかったけれど、さほど悪い味でもないので生食にチャレンジ。
ラードと合わせる。
ラードと合わせる。
マグロたたきの片鱗を感じ取ったので、ラードで脂肪分を補ってネギトロにしてみよう。
少なくとも見た目はそれっぽくなるはずだ。
ネギトロもどきのできあがり。見た目はかなりいい線いってる。
ネギトロもどきのできあがり。見た目はかなりいい線いってる。
おー…。うーん…?
おー…。うーん…?
食感はネギトロのそれに近いが、やっぱり味がなんか違う。ちょっと人工物っぽいというか。だが、そんなに悪くもない。
身が崩れないようぶつ切りに
身が崩れないようぶつ切りに
以外にも、生食では可もなく不可もなくといった結果に。
恐れていた臭みはたいして感じないし、クセが強いのは身質ゆえの食感だけではないか。
下処理を頑張りすぎたか?聞いていたほどショッキングな不味さは感じない。僕の舌が狂っていない限りは。
あれ?これ上手く工夫したら結構おいしくなるんじゃないの?
でもやっぱり断面はグズグズ。
でもやっぱり断面はグズグズ。
次はぶつ切りにして加熱調理してみることにしよう。火が通れば、あの緩い身も固まって違った印象になるはずだ。
イセゴイの塩焼き。
イセゴイの塩焼き。
まず塩焼き。予想通り、身はギュッと締まった。固く煮たカツオのような触感。パサパサ、ギョッギュッという感じ。
脂は乗っておらず、かなりさっぱりした味わい。これまた、別にそこまでまずくはないけど…という感想。
ならば、しっかり味がしみこむ煮つけや、油っ気を足せる揚げ物なんかどうだろう。
イセゴイの煮つけ。火を通すと、身はギュッと締まって固めの食感に。
イセゴイの煮つけ。火を通すと、身はギュッと締まって固めの食感に。
お、普通にうまい!
お、普通にうまい!
もくろみ通り、煮つけはなかなかおいしい仕上がりとなった。やはり身は固いが、イケる。ハラミはプリプリで、ワタが残っていたのか、ほんのり苦みを感じる。相変わらず味に特徴はないが、これならスムーズに消費できそうだ。…まあ、サバとかカレイとかには絶対勝てないけどね。

下処理を徹底して、鮮度を維持し、調理法を工夫すれば、どうにか食べられる魚ではあるようだ。それだけの労力を割く価値があるかは疑問だが。
揚げイセゴイの甘酢あんかけ
揚げイセゴイの甘酢あんかけ
なお、揚げたイセゴイをあんかけにしてみたのだが、身が固くなりすぎた上に小骨(と呼ぶにはちょっと太い)が多く、非常に食べにくかった。味自体は悪くないが、あまりオススメはできない。

身を崩さない方法、発見!

というわけで、イセゴイは頑張れば案外食べられる魚であることが判明した。
…噂の激マズっぷりも体験してみたくはあったが。

しかし、一点腑に落ちないことがある。あんなゆるゆるボソボソの身(筋肉)で、あれだけ強い遊泳力を得られるとは思えない。どう考えてもおかしい。
もう一匹だけ釣って、確認してみよう。
今度は釣って即、「その場で」解体!
今度は釣って即、「その場で」解体!
今度は血抜きもそこそこに、すぐに絞めていきなり身をぶった切ってみる。すると…
!! しっかりした身じゃないか!
!! しっかりした身じゃないか!
プリップリの、魚らしい身が現れた!
グズグズのすり身じゃない!
刃に伝わってきたのは、ブリのようなさくっとした感触。

…どうやら、イセゴイは死後にものすごい勢いで筋肉が分解されるタイプの魚らしい。
酵素による自己消化なのかなんなのか、難しいことはわからんが、要は「超大急ぎでさばかないと、どんどん身が崩壊していく」のだ。

よっしゃ。謎は解けた。また氷漬けにして持ち帰り、今回はノータイムでさばいてみよう。
刺身が引けるかもしれない。
釣り上げて一時間半後。すでに身の変性が始まっているらしく、釣った直後に比べて明らかにやわらかくなってきている。急がねば。
釣り上げて一時間半後。すでに身の変性が始まっているらしく、釣った直後に比べて明らかにやわらかくなってきている。急がねば。
一時間半しかたっていないのに、身の断面を触るともう緩くなり始めている。尋常じゃない速度。
だが、この程度ならまだ包丁が使える!
なんと、無事にサクが取れた!普通なら驚くようなところじゃないのだが。
なんと、無事にサクが取れた!普通なら驚くようなところじゃないのだが。
本邦初公開?イセゴイの刺身。
本邦初公開?イセゴイの刺身。
…骨がやたら多い点以外は、普通の魚と同様に扱える。念願の刺身も切り出すことができた。
やはりイセゴイを調理する上で最も重要なポイントは「鮮度」だったのだ。
味は…、まあたいしたことない。血抜きが不十分だったためか、今回は若干鉄っぽいにおいがする気も。あと小骨がすごい。
味は…、まあたいしたことない。血抜きが不十分だったためか、今回は若干鉄っぽいにおいがする気も。あと小骨がすごい。
だが、今回は急ぎすぎるあまり血抜きが不十分だったためか、ネット上で散見された「鉄臭さ」をほんのり味わうこととなった。アジや青物に近いにおいにも感じる。
あと、すでに食感はだいぶやわらかい。
…イセゴイをおいしく食べるには、越えなければならないハードルが多いのだなあ。また、小骨が多くて刺身には向かないなとも思った。

イセゴイも魚にとってはごちそう?

ちなみに、新鮮なイセゴイはその血なまぐささのためか良い釣り餌になる。
イセゴイの切り身を海へ放り込むと、もっとおいしい魚が釣れてくることもしばしば。
顔立ちがイセゴイに似ていることから釣り人に「有明ターポン」なんて妙な名前で呼ばれているヒラという魚。だが、こちらは抜群に美味い。
顔立ちがイセゴイに似ていることから釣り人に「有明ターポン」なんて妙な名前で呼ばれているヒラという魚。だが、こちらは抜群に美味い

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