特集 2016年3月21日

日本の名所は、海外のツアーでどう紹介されているのか?

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日本を訪れる外国人が増え続けているという。確かに、最近は街中でも様々な言語が飛び交っているように感じる。観光地ではガイド付きの外国人旅行客もよく見かけるが、そうしたツアーで日本の名所はどんな紹介のされ方をしているのだろうか? ガイドさんの解説に聞き耳を立ててみた。
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

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> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

予想以上に多国籍な浅草寺

やってきたのは東京浅草の浅草寺。いま、最も外国人が多い観光地のひとつであろう。土曜の9時、この日も朝から参道は人、人、人であふれかえっていた。
朝からすごい人だかり
朝からすごい人だかり
予想通り、海外からのツアー客とおぼしき外国人の集団が数多く見受けられる。驚くべきは、その多国籍ぶりである。中国、韓国、タイ、インド、フランス、スペイン、アメリカ、オーストラリア…。ガイドさんが持っている旗の文字や言語などから確認できただけでも10カ国以上の人たちが集まっている。日本で一番ワールドワイドな場所かもしれない。
境内にも人がみっしり
境内にも人がみっしり
ちなみに、外国人向けの観光情報サイトでは、浅草寺はどのように紹介されているのだろうか? 訪日外国人向け旅行メディアとして最も有名な「ジャパンガイド」から「浅草寺」紹介部分を紐解きGoogle翻訳してみた。

「浅草寺は東京で最も有名で人気のある寺院です。7世紀に建てられた最古の寺院のひとつで、現在の建物は戦後の復興です」
外国人も「最古」とかいう言葉に弱いのだろうか
外国人も「最古」とかいう言葉に弱いのだろうか
ちなみに、「仲見世通り」の解説はこうだ。

「仲見世商店街は、雷門から約250メートルにわたって広がっています。地元の名物や観光土産品を提供する50店以上のショップがあります」

シンプルな紹介である。現地のツアーではもっとどのへんが有名で人気があるポイントなのか、詳しい解説がなされているのだろうか。
さっそく、メモを片手にガイドさんの近くに忍び寄ってみる。幸い、耳の良さには自信がある。ガイドさんの解説を速記でメモるくらい造作もない。
集団にこっそり混ざってガイドさんの解説を聞く
集団にこっそり混ざってガイドさんの解説を聞く
しかし、耳はいいけど残念ながらあたまがわるかった。そもそも筆者の英語のヒアリングに難がある&ガイドさんの発音がネイティブすぎて苦労する。

それでも、必死で書きとめた英単語を翻訳してみると、

「浅草寺は東京で最も古い寺院である」
「大きな寺の建物(本堂)は1958年に建てられた(再建された)」
「雷門は正式には風神雷神門という」
「宝蔵門(雷門と本堂の間にある問)の左右には、スモウレスラーよりデカい像(金剛力士像)がいる」
「本堂前の香炉の煙を身体の悪いところに当てるとよくなる」
このデカい門は宝物庫でもあるらしい。日本人でもあまり知らない情報が続々出てくる
このデカい門は宝物庫でもあるらしい。日本人でもあまり知らない情報が続々出てくる

細かく丁寧な解説

断片的で恐縮だが、浅草寺の来歴やいわれ、参拝の作法などをかなり細かく説明している。さらに、詳細までは聞き取れなかったが、どうやら寺と神社の違いについても言及しているようだった。浅草寺には同じ敷地内に「浅草神社」があるため、そのあたりからきちんと解説しないと外国人には違いが理解しづらいのだろう。なるほど、思った以上に親切な観光案内である。
境内には出店も多く、一年中お祭りの様相
境内には出店も多く、一年中お祭りの様相
桜とスカイツリーの生け花
桜とスカイツリーの生け花
さて、その後も外国人のツアー客を見つけては耳をそばだててみたが、困ったことに英語圏の観光客は最初の一組以降なかなか現れなかった。英語ならなんとか英単語を拾っていけるが、中国語や韓国語、フランス語、スペイン語となるとお手上げだ。
言葉から察するに、フランスからの御一行。「エッフェル」という単語が聞こえたので、たぶん「五重塔ってエッフェル塔くらいクールだよな」みたいなことを言ってたんだろう
言葉から察するに、フランスからの御一行。「エッフェル」という単語が聞こえたので、たぶん「五重塔ってエッフェル塔くらいクールだよな」みたいなことを言ってたんだろう
ガイドさんの旗も国ごとに個性が見られる
ガイドさんの旗も国ごとに個性が見られる
パネル型。なかなかの力作
パネル型。なかなかの力作
宝蔵門の英文解説版には「浅草寺の山門であり、宝物のストレージとして建てられたこと」や「大谷米太郎さんの寄付金によって1964年に建設されたこと」などが記されていた
宝蔵門の英文解説版には「浅草寺の山門であり、宝物のストレージとして建てられたこと」や「大谷米太郎さんの寄付金によって1964年に建設されたこと」などが記されていた

外国人は「神道」がお好き

さて、そんなこんなで境内をうろつくこと半日。最終的に2~3組の英語ガイドの解説を聞くことができた。いずれも浅草寺についての解説は概ね前述の通りで大きくは違わないのだが、どのガイドさんも熱心に解説していたのが「神道」という日本ならではの宗教観についてである。前述の寺と神社の違いにも通じるが、このあたりは外国人のみなさんに食いつきのいい話題なのかもしれない。
浅草寺本堂の脇にある浅草神社。浅草寺は仏教で浅草神社は神道ということを丁寧に説明していた
浅草寺本堂の脇にある浅草神社。浅草寺は仏教で浅草神社は神道ということを丁寧に説明していた
「神道は仏教と並ぶ日本のメジャーな宗教」
「神社は神道にとって重要な場所」
「ブッダやキリストのような決まった教祖がいない」
「高い山、川といった自然そのもの、または風、雨などの自然現象の中に神を見出す」
「ヒトも死んだ後に(先祖の)神になる」

などなど、丁寧な解説がなされ、外国人のみなさんも真剣に耳を傾けている。さらには、

ガイド「ミスター○○、あなたも亡くなったら神になるんですよ」
ミスター○○「Oh! ワッハッハ」

みたいな神道ジョークが飛び出す一幕も。その後も何人かの参加者は神道と仏教の違いなどについて、ガイドにぐいぐい質問していた。
なお、ゴールデンウィークまで特別展示を開催中です
なお、ゴールデンウィークまで特別展示を開催中です
筆者自身もだし多くの日本人がそうだと思うが、ふだんは神社と寺の違いなどあまり意識せず、初詣したり何らかの祈願のために参拝したりしているわけだが、訪日外国人のほうがよほどその本質を理解しようとしているようだ。4年後にはオリンピックで多くの海外ゲストを迎えるわけだし、自国の信仰や文化について認識不足なのはちょっと、いや、かなり恥ずかしいことかもしれない。
外国人に人気だった「紅ずわい天」。ようするにカニカマ
外国人に人気だった「紅ずわい天」。ようするにカニカマ
なお、そうした観光関連の質問以上に多かったのが「Wi-Fiスポットはどこですか?」というもの。観光庁が実施した外国人観光客へのアンケートでも、旅先での困りごとの第1位に「公衆無線LAN環境」が挙げられているという。ちなみに、浅草寺周辺だと仲見世商店街に無料Wi-Fiがあるのだが、そういう質問が多く出ること自体、リアルに困っている人がいっぱいいる証だろう。まあ、外国人どうこう関係なく日本人としてもWi-Fiスポットはもっと増やしてほしいので、偉い人お願いします。

観光立国へのカギはガイドさんかもしれない

というわけで、ガイドさんの話に耳を傾けていたら、期せずして外国人が日本に対して関心を抱くポイントや課題みたいなものも見えてきた。日頃から海外ゲストをアテンドしているツアーガイドさんは、外国人が喜ぶツボや日本に対する不満を知り尽くしている。それだけに、ガイドさんを外国人向けの観光振興案を募ったら、そうとう実のあるアイデアが出てくるんじゃないでしょうか。
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