ロマンの木曜日 2016年4月7日
 

乙姫滝で音姫を作る

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同僚に藤原という男がいる。僕より5つほど年下。極端に無口な男で、顔にもあまり感情を出さない。

彼と二人で、滝に行くことになった。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変な音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
> 個人サイト nomoonwalk

同僚のこと

同僚として一緒に働き始めて、2年と少しが経つ。

彼も僕も同じく、このサイトのライター兼、編集者だ。彼はライターとしては先輩にあたり、組織上、つまり編集部員としては後輩にあたる。(最初はお互い外部ライターで、僕が先に編集部に入った。)
藤原さん。2016.3.25 JR鵜沼駅にて
藤原さん。2016.3.25 JR鵜沼駅にて
そういうわけで2年以上一緒に働いているが、彼が極端に無口で、顔にもあまり感情を出さないので、僕は彼の感情を推し量ることができない。

たとえば時折、忙しいと僕は彼に雑用を振ってしまうことがある。上下関係にこだわるわけではないが、心のどこかで「もともと先輩なのに悪いな」という思いもある。

文句も言わずに淡々と雑用を片付けながら、内心、彼はどう思っているんだろうか。僕はそれを読み取ることが出来ない。唯一、僕が読み取れる彼の感情表現といえば、仕事のやり取りに使うメッセンジャーの発言の語尾に「。」がつくか、「!」がつくか、「…」がつくか。それくらいだ。
同日、JR高山本線、車内
同日、JR高山本線、車内
そのことについて、100%、すべて彼に原因があるわけではない。僕も、もともと人とのコミュニケーションが得意なほうではないのだ。雑談が苦手だ。話すときに人と目を合わせない。
藤原さんの表情が読めないのも、僕が彼の顔を見て話さないから、ということでもある。

要は、お互いに不器用なのだ。彼のほうも、僕のことをよくわからない奴だと思っているかもしれない。
美濃太田駅で、長良川鉄道に乗り換える
美濃太田駅で、長良川鉄道に乗り換える
そんな藤原さんと2人で岐阜に旅行に行くことになった。行先は徹夜踊りで有名な、岐阜県の郡上八幡。
旅行といっても仕事なのだが、東京から新幹線・私鉄・ローカル線を乗り継いでの移動である。行き先は観光地。これを「旅」と呼ばずしてなんと呼ぼうか。
対面の座席に座る
対面の座席に座る

同僚と友になる

この記事のテーマは「友」だ。友の会(当サイトの有料コンテンツ)のプロモーション企画だから。企画の内容は「乙姫滝で音姫を作る」。もともとは、会社のトイレに音姫がなくて困っている同僚の女性に、僕たちがお手製の音姫を渡すという友情ストーリーだった。

その音姫に使う音を録音するため、郡上にあるという「乙姫滝」に向かっている。音姫に、乙姫。ダジャレをさかのぼる形である。
記事に使おうと思って撮っておいた、同僚が困っている様子の写真
記事に使おうと思って撮っておいた、同僚が困っている様子の写真
道中、藤原さんと二人でローカル線に揺られながら、しかし僕は考え直した。フィクションの友情(本当は会社のトイレには音姫がある)よりも、いま目の前にある友情のことを思うべきではないか。

藤原さんには言わずに、僕は心の中でそっと取材のテーマを変更した。

つかみどころのなかった藤原さんと、僕が、この旅を通して「友」になる。それがこの記事のテーマである。
長良川線と言いつつ、外は農地が続く
長良川線と言いつつ、外は農地が続く

ローカル線の距離感

二人で同じ一両編成のローカル線に揺られる。

電車に乗りこんだ時、僕は埋まりつつある座席から、二人座れそうな空席を選んで座ったのだ。あとに乗ってきた藤原さんは隣ではなく、対面の席に座った。
距離感……と思いかけたが、彼にとってはこれは旅行ではなく単なる仕事。友である以前に同僚である。お互いのパーソナルスペースを確保しようという気遣いだと思いなおした。
対面の藤原さんが撮った僕。空が青い。
対面の藤原さんが撮った僕。空が青い。
そのうちに線路の向かう方角が変わり、日差しが熱くなってきたので、僕は席を移動した。
藤原さんの隣の席に移り、一言「日差しが熱くて」と言った。

聞かれてもないのに言い訳するこの感じ。自分が10代の頃、付き合ってるか付き合ってないのか微妙な関係の女の子に対してとったのと同じ態度であることに驚く。
もちろん藤原さんに対して恋愛感情があるわけではない。思うに、これは単に僕が「この人と仲良くなるぞ」と強く思った時の行動で、そういう気持ちになったのが10代以来、ということなのかもしれない。

自分の35年間の生き方を見つめ直さずにはいられない発見だ。
遠くを見ながら焼き芋をほおばる
遠くを見ながら焼き芋をほおばる
お昼を過ぎて小腹がすいてきた。焼き芋を持っていたので、半分に割って藤原さんにも渡す。食べながら「皮むかないんですか」、「皮ごと食べます」。そんな会話を一言二言。それから少し雑談をしたが、まあそんなに話し込むこともなく数分で終わった。最も盛り上がった「ワンマンバスってそんなに主張する必要あるんですかね?」という会話は、1分半くらいで終わった。

雑談スキルの低い二人である。打ち解けるには会話以外の方法を考えないといけないのだろう。そういう意味では焼き芋を分け合ったのは良かったと思う。

友スタンプカードに1つハンコが押された気がして、その後は気が緩み、友そっちのけで外の景色の写真を撮りまくってしまった。
農地ばかりだった外の景色が、どんどん雄大になってきた
農地ばかりだった外の景色が、どんどん雄大になってきた
川沿いを電車は走りぬけ
川沿いを電車は走りぬけ
似たような格好の男が二人、駅に降り立った
似たような格好の男が二人、駅に降り立った

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