ひらめきの月曜日 2016年4月18日
 

1人用エスカレーターは乗り物として楽しい

「1人用エスカレーター」をライドする人々
「1人用エスカレーター」をライドする人々
駅に設置されているエスカレーターは、ひとつのステップに2人が並んで乗るタイプのものが多い。だから稀に、1人分のスペースしかない「1人乗りエスカレーター」に遭遇すると少し嬉しくなる。日常に潜む、ほんの小さな幸せだ。

束の間、ステップを占領できるあの感じが好きなのだ。1人用エスカレーターを探し、思う存分ライドしてきた。
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

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独占が嬉しい1人用

ステップ幅が広いエスカレーターは、急いでいる人に配慮して右側(左側)のスペースを(追い越し用に)空けるという暗黙の掟がある。本来、エスカレーター上の歩行は危険行為とされているためおかしなマナーともいえるが、だからといって動線をブロックするのは非常識とされてしまう。

だが、1人乗りならそんな心配はいらない。ひとりひとつのステップを、心置きなく独占することができるわけだ。
1人用エスカレーター。先に乗った人が先に着く。きわめて公平である
1人用エスカレーター。先に乗った人が先に着く。きわめて公平である

2人用は運搬装置。1人用は乗り物

1人用エスカレーターには、人を運ぶ役割だけに止まらない魅力があると思うのだ。身体にすっぽりとおさまりのいい空間は、どこかコックピットのようであり、アトラクション感がある。そう、なんというか「乗り物」という感じがするのだ。1人用エスカレーターにライドする度、ひそかに気分が高揚してしまうのは僕だけではないと思う。
2人用はだたの人を運ぶ機械なのでテンションは上がらない
2人用はだたの人を運ぶ機械なのでテンションは上がらない
一方、1人用は「乗り物に乗っている」という気分にさせてくれる
一方、1人用は「乗り物に乗っている」という気分にさせてくれる

日常に現れるアトラクション感

もちろん 利用者の多い首都圏の駅では、輸送力のある2人用のほうが便利だ。僕も急いでいる時は、2人用の追い越しルートを選択することが多い。

しかし、たまに1人用を見つけたときは迷わずそちらを選び、日常に偶然現れたアトラクションを楽しんでいる。
こちらは丸の内線「本郷三丁目駅」にて遭遇。左が2人用、右が1人用
こちらは丸の内線「本郷三丁目駅」にて遭遇。左が2人用、右が1人用
たとえば、上の写真は丸の内線「本郷三丁目」駅のエスカレーター。「昇り(左)」は2人用だが、「降り(右)」は1人用となっている。設置スペースの都合上、昇りよりも需要が少ない降りを1人用にした。そんな事情が推測できる。

さっそくライドしてみよう。
できるだけ堂々と歩幅を広げて乗ることで、より「独り占め感」を感じられる
できるだけ堂々と歩幅を広げて乗ることで、より「独り占め感」を感じられる
すれ違う2人用に比べ、なんとなくゆとりが感じられる1人用
すれ違う2人用に比べ、なんとなくゆとりが感じられる1人用
すれ違う昇りの人々は、それぞれの目的地へ向けて急ぎ足。忙しく駆け上っていく追い越しの人を横目に、こちらはクルージングを楽しむような心持ちである。そういうシチュエーションも含めて、なかなか乗り心地の良い1人用だった。
ちなみに、ホームのはじっこにあって存在感の薄い「ひっそりエレベーター」も好きだ。ラッシュタイム以外はあまり活用されていないので、こちらも独り占めできる率が高い
ちなみに、ホームのはじっこにあって存在感の薄い「ひっそりエレベーター」も好きだ。ラッシュタイム以外はあまり活用されていないので、こちらも独り占めできる率が高い

わざわざ乗りに行きたいエスカレーター

基本的に1人用エスカレーターは偶然の出合いを楽しむものだと思っているが、なかには「わざわざ乗りに行きたくなる」一基も存在する。

大江戸線「飯田橋駅」両国方面寄りにある、こちらの1人用だ。
近未来的な雰囲気。テーマパークのライド系アトラクションのたたずまいがあると思う
近未来的な雰囲気。テーマパークのライド系アトラクションのたたずまいがあると思う
インパクトのある照明が天井に張り巡らされている
インパクトのある照明が天井に張り巡らされている
恒久的に価値が失われることのないよう、視覚的に楽しめるデザインの仕掛けが随所に施された飯田橋駅。こうした意匠をゆっくり楽しめるのも、1人用エスカレーターならではだ。なお、大江戸線「飯田橋駅」の構内には昇り降り合計8基のエスカレーターがあるが、1人用はこの1基しかない。
なお、すれ違う昇りは2人用
なお、すれ違う昇りは2人用
いざ、ライドオン
いざ、ライドオン
降りなので、あえて見上げずとも自然に天井に張り巡らされた意匠(ウェブフレームというらしい)を視界にとらえることができる。案外、ゆっくりデザインを楽しんでもらうために降りの1人用を設置したのかもしれない。
これは首が疲れなくていい。距離的にもかなり長く楽しめる
これは首が疲れなくていい。距離的にもかなり長く楽しめる
途中に水平部があるのもポイント。ジェットコースターの滑降前のようなひと休み感があり、アトラクションっぽさが際立つ
途中に水平部があるのもポイント。ジェットコースターの滑降前のようなひと休み感があり、アトラクションっぽさが際立つ

赤羽駅は知られざる1人用エスカレーター銀座

次にやってきたのはJR赤羽駅だ。ここには埼京線や宇都宮線など4本の在来線が乗り入れているのだが、なんとすべてのホームに1人用エスカレーターが設置されている。その数、合計8基である。
4線全てのホームに1人用がある、非常にレアケース
4線全てのホームに1人用がある、非常にレアケース
1人用から降りてくる子どもは、心なしかテンションが高い気がする
1人用から降りてくる子どもは、心なしかテンションが高い気がする
ホームからエスカレーターを降ると、商業施設のecuteが広がっていた。各ホームのエスカレーターの間に、店舗がひとつずつ配置されている。なるほど、なぜこんなに1人用が多いのか、その理由はエスカレーター部分を圧縮し、店舗スペースを少しでも確保するためだったようだ。
エスカレーターを1人用にして、店舗部分のスペースをゆったり確保しているのだと思われる
エスカレーターを1人用にして、店舗部分のスペースをゆったり確保しているのだと思われる
限られたスペースを有効活用するための工夫により、こんなに1人用エスカレーター乗り放題な空間が生まれたのか。設計担当者の英断に敬意を表したい。

東京駅の希少な1人用

一方、数えきれないほどのエスカレーターが設置されていながら、1人用が皆無という駅もある。都内随一の巨大ターミナル、東京駅だ。
たぶん日本一エスカレーターの数が多い駅ではないかと思う。だが、1人用は本当に見当たらない
たぶん日本一エスカレーターの数が多い駅ではないかと思う。だが、1人用は本当に見当たらない
ご覧の通り、2人用を4基並べるこの余裕。 東京ドーム3.6個分という広大な面積を存分に生かし、エスカレーターのレイアウトも贅沢だ。まあこれだけ空間にゆとりがあれば、わざわざ1人用を設置する必要性はないだろう。

だが、そんな東京駅においても、1人用エスカレーターは存在する。
それがここ。地下商業施設「グランスタ」に通じるエスカレーターだ
それがここ。地下商業施設「グランスタ」に通じるエスカレーターだ
「GRANSTA(グランスタ)」は、 2012年に誕生した東京駅地下の商業施設。その入口部分は通路のど真ん中にあたるため、できるだけ省スペースで作る必要があったと推察される。ゆえに、ここは昇り・降りともに1人用である。
1人用エスカレーターから颯爽と降りてくる少年。楽しいよな、1人用
1人用エスカレーターから颯爽と降りてくる少年。楽しいよな、1人用
ちなみにここにも水平部がある
ちなみにここにも水平部がある

誰しもが童心に返る

1人用エスカレーターは両手で左右のベルトをがっちり掴めるため安全性も高い。子どもひとりで乗せても安心だし、両手を広げる乗車姿勢もかっこよくて幼心がくすぐられるポイントかもしれない。1人用エスカレーターに乗る子どもたちがみな一様に楽し気なのは、決して気のせいではないと思う。
女の子も
女の子も
男の子も。両手を広げてライドを楽しむ子どもたち
男の子も。両手を広げてライドを楽しむ子どもたち
また、このダブルベルトスタイルは、子どもだけでなく多くの大人にも見られた。ちょこんと手を置くその所作は、どんな強面も5歳児に引き戻してしまうかわいさがある。
荷物で手がふさがっていない人の多くが、このスタイルをとっていた
荷物で手がふさがっていない人の多くが、このスタイルをとっていた
手をパタパタさせているようにも見える
手をパタパタさせているようにも見える
斜めに身体をふると、スタイリッシュなライド姿勢になる
斜めに身体をふると、スタイリッシュなライド姿勢になる
誰もが童心に返れる場所、それが1人用エスカレーターではないだろうか。もしあなたが駅で1人用に遭遇したら、スマホをポケットにしまい、両手を広げてライドを楽しんでほしいのだ。
ちょこん
ちょこん

エスカレーターはマナーを守って乗りましょう
エスカレーターはマナーを守って乗りましょう
しかし、世の中には稀に、1人用エスカレーターですら前の人を追い抜こうと、身体を割りこませてくる輩がいるらしい。せまい日本そんなに急いでどこへ行く、である。

どんなに忙しくても、1人用エスカレーターを見つければひとときのライドを楽しむ。そんな心の余裕を、いつだって持っていたいと思う。
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