ロマンの木曜日 2016年5月12日
 

脱サラ養蜂家

これが「額面蜂児」だ!
これが「額面蜂児」だ!
会社員を辞めて農業を始める人はいる。カフェを開く人もいる。しかし、養蜂家になる人は珍しいだろう。今回はIT会社のコンサル営業職から養蜂家に転身した男の話だ。「ミツバチがかわいくてしょうがない」と目を細める彼に、養蜂という仕事の魅力をとことん聞いた。
ライター。たき火。俳句。酒。『酔って記憶をなくします』『ますます酔って記憶をなくします』発売中。デイリー道場担当です。押忍!
> 個人サイト 道場主ブログ

2015年3月末に退職届を出す

彼が運転する車で向かったのは千葉県木更津市の山奥にある「蜂場(はちば)」。ミツバチの巣箱を置く場所をそう呼ぶらしい。
金子裕輝さん(36歳)
金子裕輝さん(36歳)
「もともと毎日のようにはちみつを食べていて、なんか体調がいいなあと思っていました。そんな時、吉祥寺のとあるお店で鈴木さんという今の師匠のはちみつに出会って、もう大感動したんです」

すぐに鈴木さんに会いに行った。やがて巣箱を持たせてもらい、なんと美しい世界なんだとさらに深く感動したという。かくして、2015年3月末に会社を退職する。
3歳の頃の金子さん
3歳の頃の金子さん
「『長靴が大好きで、晴れの日でも履いてた』っておふくろが言ってました。養蜂も長靴は欠かせないので、やっぱり運命なのかもしれません(笑)」
大学時代はアメフト部で活躍
大学時代はアメフト部で活躍
「スポーツで実業団に入れるんじゃないかと思ってましたが、そんな甘い世界じゃなかったですね。今思うと本当にアホだったなと」
車に積まれた養蜂グッズ
車に積まれた養蜂グッズ
ところで、道中ずっと気になっていたのは「刺されないの? 刺されたらやっぱり痛いの?」という問題。

「痛いっすよ。僕、10回ぐらい刺されました。遅い時刻に巣箱を開けたら、一気に3カ所ぐらい襲われたこともあります。ミツバチは繊細なので、そういう乱暴なことをするとすぐに怒るんです」
つかまった宇宙人ではない
つかまった宇宙人ではない
ネットで完全武装したものの、それでもまだ怖い。ミツバチは匂いに超敏感なので、酒が残っている人は刺されやすいと聞いて、昨日深酒したことを後悔した。

ミツバチほど高度な社会性を持つ生物はいない

そこへ師匠が登場。
師匠の鈴木一さん(46歳)
師匠の鈴木一さん(46歳)
彼は養蜂歴10年。やはり、医療機器メーカーからの転身組だという。現在は袖ヶ浦で「坊ノ内養蜂園」という養蜂場を営んでいる。そして、金子さんを含む7人の弟子を持つ。

この木更津市の土地は約2000坪で、師匠が知人からタダで借りているもの。金子さんは、その一画を使わせてもらっている。

「最初は会社に勤めながら養蜂をやってたんだけど、ハマっていくにつれて仕事中もミツバチのことが気になっちゃって(笑)。結局、退職して専業でやることにしたんだよ」
鈴木さんの手にメモが
鈴木さんの手にメモが
「これ、何ですか?」と聞くと、「ああ、銀行に融資を頼もうと思ってるんだけど、今日その交渉をする日だから忘れないようにと思って」

お茶目な方のようだ。そして、メモの脇にとまっているミツバチを払おうとしない。

「もう何百回も刺されてるけど、あの痛さには慣れないね。ちなみに、一番腫れたのは鼻の穴。たまたま運転免許の更新があってセンターに行ったんだけど、『本人確認ができないのであらためて来てください』って言われちゃったよ(笑)」

ネットに隙間がないかを今一度確認する。
青い帽子が金子さん、右端が師匠
青い帽子が金子さん、右端が師匠
さて、いよいよミツバチとのご対面だ。この日は僕以外にも「養蜂のことを知りたい」という有志たちが同行している。
金子さんが管理しているのは奥の4台の巣箱
金子さんが管理しているのは奥の4台の巣箱
養蜂といえば、何となく「ミツバチが集めたはちみつを採集して売る仕事」というイメージだったが、とんでもなかった。じつに繊細で多岐にわたる作業があるのだ。

ちなみに、ミツバチほど高度な社会性を持つ生物はいないそうだ。人間よりはるかに成熟した共同体を形成するともいわれている。
「外見」ののち「巣枠」を取り出す
「外見」ののち「巣枠」を取り出す
春はミツバチの動きが活発になる時期なので、週に数回はここを訪れる。着いて真っ先に行うのは「外見」。文字通り、外から巣箱や周辺を観察し、整然としているかをチェックする。

「すぐに中を覗きたがるのはアマチュア。巣箱の周辺を見ると養蜂家の力量がわかるんだよ」と師匠は言う。

その後、巣箱を開けて「巣枠」と呼ばれる厚板を取り出す。ミツバチが巣板を形成する土台だ。

「額面蜂児」はこのうえなく幸せな光景

間近で見ると、集団としての一体感がすごい。巣箱全体でひとつの生物のようだ。
1匹1匹はかわいいが…
1匹1匹はかわいいが…
集団になると何ともいえぬ凄みがある
集団になると何ともいえぬ凄みがある

これらのミツバチを振り落として、産卵の様子を確認したり採蜜のタイミングを計ったりする。
振り落とした後の巣
振り落とした後の巣
金子さんによれば、上の写真は養蜂用語でいう「額面蜂児(がくめんほうじ)」。さなぎがびっしりと詰まっていて、あと数日で大量のミツバチが生まれてくるという、養蜂家にとってはこのうえなく幸せな光景なんだそうだ。

なお、振り落としたミツバチは自分から巣箱に戻っていく。戻りやすくするために、地面と巣箱の間にスロープをかける。
よく見ると前の蜂のお尻を押している
よく見ると前の蜂のお尻を押している
「せっかくだから石原さんも」と言われて、ミツバチ付きの巣枠を恐る恐る持ってみた。
完全にビビっています
完全にビビっています

 ▽デイリーポータルZトップへ つぎへ>

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
↓↓↓ここからまたトップページです↓↓↓