特集 2016年5月17日

チンジャオロースはメニューにどう表記されているのか

「あ、青椒肉絲ね」って固有名詞でわかってもらえるのに、「豚肉の細切りとピーマン炒め」って律儀に書かれているこの謙虚さ!
「あ、青椒肉絲ね」って固有名詞でわかってもらえるのに、「豚肉の細切りとピーマン炒め」って律儀に書かれているこの謙虚さ!
どんなに認知度が高いと言われているものでも、世の中の人100%が完璧に知っているものって実はほぼないんじゃないだろうか。

それを知ってか知らずか、わりと著名なくせにやたらと腰が低い食べものがあることについ最近気づいた。

青椒肉絲(チンジャオロース)だ。
1981年群馬県生まれ。ライター兼イラストレーター。飲食物全般がだいたい好きだという、ざっくりとした見解で生きています。とくに好きなのはカレー。(動画インタビュー)

前の記事:使い切れないものを空にする方法を聞いた

> 個人サイト たぶん日記

わたしを除けば認知度は高い

青椒肉絲、中華料理の定番だとおもう。
「青椒」がピーマン、「肉絲」が肉の細切り。だいたいがオイスターソースなどで調理されてる
「青椒」がピーマン、「肉絲」が肉の細切り。だいたいがオイスターソースなどで調理されてる
「3本、もしくは5本の指に入る定番!」と言われるとちょっと選考に漏れる可能性があるけど、10本の指にならばソツなくランクインしそうな安定性のある料理じゃないだろうか。

が、わたしはつい最近その漢字が読めなくて迷った。
これを見た瞬間
これを見た瞬間
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そのあと読み方をググりつつ写真を確認してやっと「あっ!」ってなった
そのあと読み方をググりつつ写真を確認してやっと「あっ!」ってなった
だけど、どうやらそれは少数派らしい。
即レスが多かったことも合わせてお伝えしたい
即レスが多かったことも合わせてお伝えしたい
還暦を過ぎた人の見解はどうなんだろうと父親にも確認したところ、メールで送った質問に電話で答えが来たうえに「おとうさんは青椒肉絲が好きだ!」と付け加えてきた。まじか。それ、ぜんぜん知らなかった。

という身内の意外な趣向のことは置いておこう。
この「青椒肉絲」、これだけの認知度がありながらなぜか「豚肉とピーマンの細切り炒め」と、ていねいに書かれていることが多い気がするのだ。
こんなかんじに
こんなかんじに

とても親切な自己紹介

気のせいかもしれないので、もうちょっと具体的に調べてみよう。
おもに新宿近辺をうろうろ歩く。中野区や港区や江東区も、出かけたついでにほんのり見た
おもに新宿近辺をうろうろ歩く。中野区や港区や江東区も、出かけたついでにほんのり見た
食品サンプルたち。右下、肉の焦げ目が強調されているのはサンプル職人さんのこだわりなのかな
食品サンプルたち。右下、肉の焦げ目が強調されているのはサンプル職人さんのこだわりなのかな
カタカナ表記はチに点々バージョンもある。「チンジョーオロス」、ほぼ合っているのに絶妙に違っているこのかんじ好きだ
カタカナ表記はチに点々バージョンもある。「チンジョーオロス」、ほぼ合っているのに絶妙に違っているこのかんじ好きだ
隠しメニューになりかけていたところを発掘
隠しメニューになりかけていたところを発掘
ほぼ中華料理のお店なのに、中華っぽくないものに包囲されている不思議
ほぼ中華料理のお店なのに、中華っぽくないものに包囲されている不思議
食べたことはないけど、美味い予感しかしないこちらもカウントしとく
食べたことはないけど、美味い予感しかしないこちらもカウントしとく
中華ファミレスといえば!のバーミヤンさんは、牛肉を炒めたバージョンのみで豚肉なし
中華ファミレスといえば!のバーミヤンさんは、牛肉を炒めたバージョンのみで豚肉なし
!
あれ、半分 ……ええっ、半分もなのか!
これはおもっていた以上に親切かもしれない。

回鍋肉は強気だ

となると、ほかのメニューのことも気になってきてしまう。
青椒肉絲だけの現象なのか、それとも他の中華もなんだろうか。
たとえばこれ、青椒肉絲とわりと互角な存在な気がしている「回鍋肉(ホイコーロー)」。日本語だと、「豚肉とキャベツの甘辛味噌炒め」あたりだとおもう
たとえばこれ、青椒肉絲とわりと互角な存在な気がしている「回鍋肉(ホイコーロー)」。日本語だと、「豚肉とキャベツの甘辛味噌炒め」あたりだとおもう
ちなみに「回鍋肉」、同じ名前を使ってはいても日本と中国のものとでは全然違うらしい。今回は本題じゃないのではしょってしまうのだけども、気になる人はぜひ各自で調べてみてほしい。
調査場所は、青椒肉絲と同じくおもに新宿近辺
調査場所は、青椒肉絲と同じくおもに新宿近辺
味噌がパンケーキにトッピングしたチョコソースみたいになってるけど、たぶんこれも仲間だ
味噌がパンケーキにトッピングしたチョコソースみたいになってるけど、たぶんこれも仲間だ
おお、こちらも日本語……!
おお、こちらも日本語……!
と、おもいきやこの店、食品サンプルだけはなぜか漢字に
と、おもいきやこの店、食品サンプルだけはなぜか漢字に
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う、うそ!と、計上が終わったメモ用紙を眺めながら呟かずにはいられない結果がでた。なんというか、よく出来すぎてる気がする。
「50%」ということばのキレのよさがこわい
「50%」ということばのキレのよさがこわい
なぜ、こんなにも違うんだろうか。
ちなみに、「八宝菜」(これは八宝肉になってるけど)は、「五目うま煮」とも書かれていたけれどほとんどが「八宝菜」表記だ
ちなみに、「八宝菜」(これは八宝肉になってるけど)は、「五目うま煮」とも書かれていたけれどほとんどが「八宝菜」表記だ
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お店の人に質問をしてみる

なぜ、青椒肉絲を日本語訳っぽく書くのか尋ねてみたい。
「回鍋肉」を「ホイコーロー」と書く一方で、
「回鍋肉」を「ホイコーロー」と書く一方で、
「青椒肉絲」を「チンジャオロース」とは書かないお店に聞いてみたいとおもう
「青椒肉絲」を「チンジャオロース」とは書かないお店に聞いてみたいとおもう
まずは食べる。テカテカというよりきらきらして見える
まずは食べる。テカテカというよりきらきらして見える
最後の一口が惜しい。土曜日の夜の9時、わたし以外にお客がいないのが不思議なくらいに美味い
最後の一口が惜しい。土曜日の夜の9時、わたし以外にお客がいないのが不思議なくらいに美味い
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あの表情を見るかぎり、このお店の方は「『青椒肉絲』だと日本の人は知っている人少ないんだろうな」という憶測のもとで「豚肉の細切りとピーマン」を選んでいるような気がした。ほんとうは、もうちょっとちゃんと聞きたかったのだけど、言葉のかべを這い上がれなかった!


あと、ちょっと話がずれるのだけども、別のお店のこんな表記も気になったので尋ねてみたい。
ここまでは普通、なんだけども……
ここまでは普通、なんだけども……
「肉かけご飯」、青椒肉絲っぽいものが乗っているけど、色々をはしょって「肉」
「肉かけご飯」、青椒肉絲っぽいものが乗っているけど、色々をはしょって「肉」
さらに追い打ちをかけるチャーハンメニューにも「肉」
さらに追い打ちをかけるチャーハンメニューにも「肉」
頼んでみた。うん、見本の写真のとおりのってるの間違いなく青椒肉絲
頼んでみた。うん、見本の写真のとおりのってるの間違いなく青椒肉絲
!
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「肉」なら、「青椒肉絲」よりもだいぶ広い解釈ができるだろうという見解……なんだとおもう
「肉」なら、「青椒肉絲」よりもだいぶ広い解釈ができるだろうという見解……なんだとおもう
「それ、たぶん『気まぐれチャーハン』とかに改名した方がいいんじゃないだろうか……?」とおもいつつも、上に乗っているものが青椒肉絲じゃなくなる瞬間を見てみたい。うっかり通いたいお店になってしまった。

ピザ界もだ

ところで、現地で使っている名称を使うか日本語訳して表示するかの惑いは、中華に限ったはなしではないとおもう。例えばイタリアンの世界でもそれは起こっているのだ。

中でも、ピザはわりと強気に「現地で呼ばれている名前」を打ち出している気がする。
ビスマルク……! (知らなかった)
ビスマルク……! (知らなかった)
たしかにピザ、「フンギ」とか「ディアボラ」とか言われたときに「え!そんな名前は知らない!」っていう人がいても(結構いるとおもう)、食品サンプルか写真があれば、どんな食材が搭載されているのかが瞬時にわかりやすい料理かもしれない。
ちなみに、上記にいくつか書いたピザの名前の詳細はざっくりとこんなかんじらしい。知らなかった!
ちなみに、上記にいくつか書いたピザの名前の詳細はざっくりとこんなかんじらしい。知らなかった!
名称の下の段に具材をちゃんと記載していることも多い。強気なのに親切だなー
名称の下の段に具材をちゃんと記載していることも多い。強気なのに親切だなー
で、こちらはゴルゴンゾーラを含む4種類のチーズを搭載したピザ、「クアトロフォルマッジ」だ
で、こちらはゴルゴンゾーラを含む4種類のチーズを搭載したピザ、「クアトロフォルマッジ」だ
まだ「4種のチーズ」って名前に留まっているところもあるものの、いつからこんなに浸透してたんだろう!「スリー(3種類)チーズのピザ」というのもあるようだし
まだ「4種のチーズ」って名前に留まっているところもあるものの、いつからこんなに浸透してたんだろう!「スリー(3種類)チーズのピザ」というのもあるようだし
美味い。「クアトロフォルマッジ」ってカンニングしながらじゃないとサラサラ書けないけど、美味いもんはうまい
美味い。「クアトロフォルマッジ」ってカンニングしながらじゃないとサラサラ書けないけど、美味いもんはうまい
調べているうちに実物をちゃんと見つめたくなった……というか食べたくなっていたんだとおもう。気がつくとこの日会う友人に「記事で使うから、今日はピザ食べたいんだ!」と伝えていた。

そして、帰り道に友人からとんがった未成年の話を聞いた折に「その人は青椒肉絲を見習うといいよ!」という発言をしていた記憶がある。お酒のせいかもしれない。

とはいえ、今回調べた中での青椒肉絲の腰の低さはダントツだとおもうので、見習うのはアリだとおもう。

わたしもちょっと見習いたい。

結局はっきりとはわかってないけど美味い

「青椒肉絲」がわりと著名なこと、その割と「豚肉細切りとピーマン炒め」みたいな表記になっている比率が高いことはわかったのだけど、その理由のちゃんとしたところは、まだぼんやりしている。

「回鍋肉」と「青椒肉絲」の認識にそこまで差はあるような気がしていない。でも、それはわたしの思い違いかともおもったので、おもわず味の素(CookDo)さんに「回鍋肉とか青椒肉絲の中華の素のシェアってどんなもんなんでしょうか?」とも尋ねてみた。なんと去年は1位(回鍋肉)と2位(青椒肉絲)だったらしい。ふたつとも、著名というに充分な売り上げを誇っているみたいだ。

ところで、「青椒肉絲」も「豚肉とピーマンの細切り炒め」も、タケノコが入っていることには全く触れる気配がない名称なのはなぜなんだろうなー。
たけのこの食感、だいじなのに!
たけのこの食感、だいじなのに!
いや、疑問はキリがないけど、とにかく美味しいからまあいいんじゃないだろうかともおもう。青椒肉絲、取材で食べつづけていたらすっかり好きになってしまった。この前までは「なんかぼんやりした味」とか、おもっていたのに。
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