フェティッシュの火曜日 2016年6月7日
 

驚異の粘液深海生物?ヌタウナギを漁港で釣って食べる

ヌタウナギって深海の生き物じゃなかったの!?
ヌタウナギって深海の生き物じゃなかったの!?
ヌタウナギという生物がいる。細長くて、ゼリー状の粘液を分泌しまくる変なやつらだ。
本サイトでも過去にライター玉置さんが深海漁船に乗り込んでレポートしているほか、テレビの深海魚特集や、水族館の深海コーナーでもよく見かけるなど、深海生物の代表格としておなじみの存在になりつつある。

…だが彼らは意外と普通に、その辺の堤防や漁港でも釣れるらしい。
しかもなかなか味も良いと聞く。それは面白い。あのヌタウナギを、気軽に陸からキャッチアンドイートしてみようか。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。

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深海生物が陸から釣れる?

ある年の8月、ネットで神奈川の魚について調べていると妙な情報に行き当たった。
八景島周辺の港や水路で、やたらヌタウナギが釣れているというのだ。
夜の八景島へ
夜の八景島へ
てっきりヌタウナギというのは深海の生き物だと思っていたので、とても驚いた。
本当ならぜひ僕も釣り上げて、岸辺でのたうつ姿を見てみたいと思った。
釣り具店員さんの情報に従って、アナゴ釣りの要領でトライ。
釣り具店員さんの情報に従って、アナゴ釣りの要領でトライ。
とりあえず情報収集のために八景島近くの釣具店へと向かった。
店員さんに訊ねると、確かにヌタウナギは周辺の漁港などで釣れるという。
ただし、わざわざ狙って釣っている人がいるわけではなく、アナゴ釣りをしているとたまに「招かれざる客」として釣れてくるのだそうだ。
なぜ招かれざるのかというと、ヌタウナギは針に掛かると大量の粘液を出しながら仕掛けをぐちゃぐちゃに絡めて台無しにしてしまうためらしい。

…要はアナゴを釣るつもりで挑めばそのうち釣れるのだな!さっそくエサのゴカイと小魚を買って海へ向かう。
開始直後に釣れたのはメバル。リリース!
開始直後に釣れたのはメバル。リリース!
良さげなポイントで仕掛けを放り込むと、さっそく何かが掛かった。プルプルという感触が竿に伝わる。が、釣具店の方が言うには「ヌタウナギは釣れても仕掛けが重たくなるだけで、ほとんど暴れたり泳いだりはしない」らしい。

ということはこれは残念ながらハズレということか。仕掛けを引き上げると、水面からかわいらしいメバルが飛び出した。うーん、普段の釣りならうれしいんだろうけど…。
カサゴかー…。リリース!
カサゴかー…。リリース!
「魚が掛かるとガッカリする」という奇妙な夜釣りが始まってしまった。
その後もメバルとカサゴが次々に釣れて、プルプル、ビクビクと小気味の良い引き味で楽しませてくれる。
しかし、違うのだ。今日に限っては、雑巾でも引っ掛けたような、普段なら「あーあ、これ絶対魚じゃないわ」と落胆するタイプの重みを竿に感じたいのだ。

だが、釣りを始めて二時間が経った頃、ついに竿がもたれるように曲がった。リールを巻いてもどんより重いだけ。これは!間違いなくヌタウナギだろう!暗闇の中、獲物を岸へ引っこ抜く。ライトに照らし出された生物は、確かに魚ではなかった!
ああ…。タイワンガザミかー…。リリース!
ああ…。タイワンガザミかー…。リリース!
…おいしそうなカニ、タイワンガザミだった。
おお、ものすごくドキドキしたのに!別にキミが悪いわけじゃないけどね!
結局この夜、ヌタウナギが姿を見せることはなかった。
キミじゃない!でも釣れてくれてありがとうね!でもキミじゃないんだよね!
キミじゃない!でも釣れてくれてありがとうね!でもキミじゃないんだよね!
まあ、一晩やって釣れなかったくらいどうということはない。どんな生物を狙っていてもよくあることだ。しかし、その後も二回三回と現場へ通うがヌタウナギは現れない。
これはまずいと地元の釣り人に話を聞いて回ると、重要な情報が手に入った。

・その日によって釣れる場所と時間が違う。いいポイントで時合を迎えてしまうとヌタウナギばかりが何匹も釣れてしまうほど。
・ヌタウナギが八景島周辺で釣れ始めたのはここ数年以内の話で、年によって釣れる数にかなりの差がある。そして、この年は前代未聞の豊漁だった。
・しかし、ヌタウナギが釣れるのは初夏が主で、本格的に暑くなるとほとんど姿を見せなくなる。


ということだった。あれ、今もう8月なんだけど…。ということは、来年出直すしかないのか。

一年後越しのリベンジ!

というわけで翌年の5月。僕はまた神奈川のとある漁港へとやってきた。
今回は行き当たりばったりの去年とはわけが違う。ポイントも時期もちゃんと調べなおしてきたのだ。
さっそく反応があるが、引き上げてみるとアナゴ…。リリース!でも、この魚が釣れたということはヌタウナギに近づいている証拠かもしれない。
さっそく反応があるが、引き上げてみるとアナゴ…。リリース!でも、この魚が釣れたということはヌタウナギに近づいている証拠かもしれない。
ヌタウナギが初夏限定で岸に近寄ってくるのは、どうやら繁殖のための行動らしい。ヌタウナギの多産する隠岐における研究では、ちょうど5月が接岸のピークを迎えることがわかっているそうだ。
隠岐と神奈川ではずいぶん距離があるが、まあそこまで差は無いだろうと考え、この時期を選んだのだ。

だが、そう甘くはない。釣りを始めて6時間以上が経つが釣れるのはアナゴばかり。空がわずかに白んできた。ああ、ヌタウナギは夜行性だから、きっと朝になったらチャンスは無い。
今年もまたダメなのか…?むしろ、今年は接岸していないのか…?絶望しかけたその時だった。
うわ!なんかすごい物体が!きっとコレこそが求めていたアレだ!
うわ!なんかすごい物体が!きっとコレこそが求めていたアレだ!
エサを交換しようと釣り竿に手をかけると、なんだか重い。ゴミか木の枝でも引っ掛けたような感じである。
だが、このつまらない感触こそ、僕が一年越しで求めているものだった。
心臓が高鳴る。またカニではあるまいな!期待と不安で、リールを巻く手が速くなる。
やがて、水面に謎の塊が浮かんだ。
大量のゼリー状物質に極太のアナゴのような生物が包まれている。間違いない!ヌタウナギだ!
大量のゼリー状物質に極太のアナゴのような生物が包まれている。間違いない!ヌタウナギだ!
泥だらけのクラゲのような半透明の塊から薄茶色の帯がはみ出ている。
その帯状の物体はヌロヌロとゆっくり、ウナギのように身をくねらせている。
ヌタにまみれたウナギ…。そう、こいつだ!!こいつはヌタウナギだ!
ヌタウナギの名前の由来となった分泌物。意外としっかりしていて、粘液というよりはもはや葛餅のような感触。きな粉まぶしたらおいしそう。…それにしても、体のサイズに対してボリューム多すぎない?その理由は後述。
ヌタウナギの名前の由来となった分泌物。意外としっかりしていて、粘液というよりはもはや葛餅のような感触。きな粉まぶしたらおいしそう。…それにしても、体のサイズに対してボリューム多すぎない?その理由は後述。
泥をたっぷり巻き込んだ部分は草餅のようにもったりした固さ。
泥をたっぷり巻き込んだ部分は草餅のようにもったりした固さ。

顎が無いから小顔です

思った以上に固い手触りのヌタをかき分けると、本体の全貌が明らかになった。
体色は、背側は白みがかった薄茶色で、脳天から尾にかけて白いラインが一本走っている。そして腹側は真っ白。
カラーリングはウナギというより、むしろアナゴに近い。
ついに姿を現したヌタウナギの本体。頭部はほっそりしていて、尾にかけて緩やかに太くなっていくシルエット。ウナギやアナゴとは一線を画するテーパードデザイン。ヒレは尾ビレのみ。
ついに姿を現したヌタウナギの本体。頭部はほっそりしていて、尾にかけて緩やかに太くなっていくシルエット。ウナギやアナゴとは一線を画するテーパードデザイン。ヒレは尾ビレのみ。
だが、そのシルエットは、魚類にはあまり見られない独特なものである。
やたら小顔で、尾にかけてなめらかに太くなっていく感じだ。
背中に走る一本の白いラインがおしゃれ。
背中に走る一本の白いラインがおしゃれ。
一方で、一見するとよく似ているように感じられるウナギやアナゴ、ウツボの類は真上から見ると頬のあたりが膨らんでおり、首がくびれているように見える。この頬のふくらみはいわゆる「ほほ肉」、つまり顎を動かして物を噛む筋肉なのだ。大きなエサに食いつき、噛みちぎるタイプの摂餌様式をとるこの手の魚はとくにこの筋肉が強く発達しているため、こうした下膨れ気味な顔立ちになるのだ。

ヌタウナギが細面なのも同様の理屈で説明できる。ヌタウナギにはほほ肉が無いのだ。なぜなら、そもそもヌタウナギは「顎自体を持っていない」からである。
眼は皮下に埋もれている。このことから、かつては「メクラウナギ」という和名で呼ばれていたこともある。…馬面というかキツネ面というか、なんだか特徴的な顔立ちだ。だんだんかわいく見えてきたぞ。
眼は皮下に埋もれている。このことから、かつては「メクラウナギ」という和名で呼ばれていたこともある。…馬面というかキツネ面というか、なんだか特徴的な顔立ちだ。だんだんかわいく見えてきたぞ。
ヌタウナギは厳密に言うと魚類ではない(ただし、図鑑などでは広義の魚類として扱われることも多い)。
一般的に「魚類」として分類されるのは、タイやウナギ、フナなどのいわゆる「普通の魚」である硬骨魚類とサメやエイの類である軟骨魚類の2タイプである。
そして、ヌタウナギはそのどちらでもない「無顎類(むがくるい)」というグループに属すのだ。他の無顎類にはヤツメウナギなどがある。
超ざっくり言うと、無顎類は魚類をはじめとする我々脊椎動物の始祖的なポジションである。これまたスーパー大雑把に説明すると、大昔に無顎類の仲間が効率よくエサを食べるために進化しまくって、ついに顎をゲットしたのがいわゆる「魚類」。で、それがまためっちゃ進化して脚を生やして両生類になって、爬虫類になって、鳥類や哺乳類になって…という具合に脊椎動物は進化してきたのである。
つまり、ヌタウナギ類は生物の歴史を研究する上で、実はなかなか重要な存在なのだ。

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