特集 2016年6月21日

「ビールを見ないで注ぐとかっこいい」は本当か

普段の行為を「見ないでやるとかっこよくなる」という仮説を立てた
普段の行為を「見ないでやるとかっこよくなる」という仮説を立てた
男がビールを注ぐポスターを見つけた。かっこいいと思った。一体どこがかっこいいのかを考えたところ「ビールを見ていない」という点にあることに気づいた。

ひょっとするとビールにかぎらず「見ないで何かをやるとかっこいい」のかもしれない。本稿ではこの仮説を検証してみたい。
動画を作ったり明日のアーというコントの舞台をしたりもします。プープーテレビにも登場。2006年より参加。(動画インタビュー)

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> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

きっかけとなったポスター。色あせていても妙に訴えかけるものがある。被写体の視線だ
きっかけとなったポスター。色あせていても妙に訴えかけるものがある。被写体の視線だ

「見ないでやるとかっこいい」のか

発端となったポスターをよく見るとふだんとはちがったなにかを感じる。それは注いでいるビールを見ていないことである。

はたして本当に見ないでやるとかっこよく見えるのか。

まずは同じような状況で見てやる写真(1)と見ないでやる写真(2)を撮影して比較することにした。

同じようにビールを注ぎ、また、ポスターは望遠気味のレンズで撮影されたことも考慮して条件を近づけた。
写真1.同じ「ビールを注ぐ」という行為を見ながら行ったもの
写真1.同じ「ビールを注ぐ」という行為を見ながら行ったもの
写真2.同行為を見ないで行ったもの。アンケート結果によると「心配だ」「泡が多い」などさまざまな意見が寄せられたが「かっこいい」に票が多く集まった
写真2.同行為を見ないで行ったもの。アンケート結果によると「心配だ」「泡が多い」などさまざまな意見が寄せられたが「かっこいい」に票が多く集まった

「かっこいい」に向上が見られた

いかがであろうか。「かっこよさ」とは個々人の主観に委ねられるが、独自にとったアンケートによると写真2においては「かっこいい」に最も多く票が集まった。

たしかにビールは見ないで注ぐとかっこよさに向上が見られた。はたしてこれは他の状況でも普遍的なものなのだろうか。

人員を増やして飲み会のような状況を作り出して撮影を行ったのが写真3と写真4である。
写真3.人員を増加。見ながらビールを注ぐ/注がれる
写真3.人員を増加。見ながらビールを注ぐ/注がれる
写真4.見ないでビールを注ぐ/注がれる。「かっこいい」という声が多かったものの「心配である」「こぼれている」の数が増えた
写真4.見ないでビールを注ぐ/注がれる。「かっこいい」という声が多かったものの「心配である」「こぼれている」の数が増えた
写真5.たしかにこぼしてはいる。かっこよさの代償として多くのビールが必要となる
写真5.たしかにこぼしてはいる。かっこよさの代償として多くのビールが必要となる

難しさがかっこいいのか

アンケートによると「かっこいい」が最多数であったが「こぼれている」という声も増加した。たしかに撮影においてビールはこぼれてしまった。見ないでやることはそもそも難しいのである。

もしかしたらこうした難しさの対価として「かっこよさ」が得られるのだろうか。

思い当たる状況が一つある。手遊びの『アルプス一万尺』を目をつぶってできると6歳児が自慢して実際に見せてくれたことがあった。見えないことで難易度が上がり、かっこいいものになるというロジックか。
写真6.こうしたアルプス一万尺であるが
写真6.こうしたアルプス一万尺であるが
写真7.ポスターにならい「見ないで」やったのがこちらである。「かっこいい」「真剣だ」「頭がわるそうだ」「いい大人なのに心配だ」といった声が上がった
写真7.ポスターにならい「見ないで」やったのがこちらである。「かっこいい」「真剣だ」「頭がわるそうだ」「いい大人なのに心配だ」といった声が上がった
写真8.角度を変えて撮影したものがこちらである。「角度が変わってもやはりかっこいい」「年齢に対しての収入が低そうだ」などの声が上がった
写真8.角度を変えて撮影したものがこちらである。「角度が変わってもやはりかっこいい」「年齢に対しての収入が低そうだ」などの声が上がった

さまざまな見ないでやる状況

アルプス一万尺は子供の手遊びであるから成人男性がやるには「かっこいい」とはいいがたい。他にもいろいろと実験を繰り返した。

写真9からは炊きたてごはんをおにぎりにした様子だ。「ほっかほか」なごはんがダイナミックに握られる様はかっこよくなるのだろうか。
写真9.炊きたてのごはんでおにぎりをにぎるのがこちらである
写真9.炊きたてのごはんでおにぎりをにぎるのがこちらである
写真10.「見ないで」はこちら。米粒が飛んだり実際の手つきはかなり危なっかしい。「集中をしろ」「熱くないのか」「ちゃんと握れているのか心配だ」など「かっこいい」が減ってきた
写真10.「見ないで」はこちら。米粒が飛んだり実際の手つきはかなり危なっかしい。「集中をしろ」「熱くないのか」「ちゃんと握れているのか心配だ」など「かっこいい」が減ってきた
写真11.見ないで握ったものは左側。「いびつになった」「握った者はサイコパスか」などの声があがった
写真11.見ないで握ったものは左側。「いびつになった」「握った者はサイコパスか」などの声があがった

結果が伴わないとかっこよさは減る

炊きたてのご飯をおにぎりにするとかっこよさもさらに上がるかに思えた。なんといってもほっかほかである。

しかしこのあたりからアンケートに変化が見られた。「かっこいい」の声が減り、結果を心配する声が大きくなってきたのだ。

たしかに握られたおにぎりはいびつなものであった。

ここで「結果がともなわない(なさそう)とかっこよさはむしろ減る」のではないかという仮説が持ち上がった。

たとえばパソコンをしてみたのが写真13である。もちろんパソコンは視覚でとらえる必要があるものである。見るからに結果がともなわなさそうである。
写真12.一般的なパソコンを使用しているときの写真である
写真12.一般的なパソコンを使用しているときの写真である
写真13.「見ないで」パソコンを使用する。実際の現場では手が動いていて違和感があった。「かっこいい」とともに「心配だ」「仕事ができなさそうだ」の声も多かった
写真13.「見ないで」パソコンを使用する。実際の現場では手が動いていて違和感があった。「かっこいい」とともに「心配だ」「仕事ができなさそうだ」の声も多かった
写真14.人員を追加したものがこちらである。「かっこいい」よりも「心配だ」「頭が悪そうだ」「この会社は大丈夫なのか」の声が増加した
写真14.人員を追加したものがこちらである。「かっこいい」よりも「心配だ」「頭が悪そうだ」「この会社は大丈夫なのか」の声が増加した
写真15.角度を変えてみている。「まだ見ているのか」「早く仕事をしろ」「窓際に追いやれ」などの声が上がった。かっこよさの向上は失敗であった
写真15.角度を変えてみている。「まだ見ているのか」「早く仕事をしろ」「窓際に追いやれ」などの声が上がった。かっこよさの向上は失敗であった
写真16.本を「見ないで」読む人がこちらである。「頭がわるそうだ」「集中力がなさそう」「字が大きそう」などの声が上がった。かっこよさにおいては失敗のようだ
写真16.本を「見ないで」読む人がこちらである。「頭がわるそうだ」「集中力がなさそう」「字が大きそう」などの声が上がった。かっこよさにおいては失敗のようだ
写真17.はノートを見ないで書く人である。「全部ひらがなで書いてそうだ」「文字じゃなくて絵でメモとってそうだ」など。失敗の気配である
写真17.はノートを見ないで書く人である。「全部ひらがなで書いてそうだ」「文字じゃなくて絵でメモとってそうだ」など。失敗の気配である
写真18.はその二人を合わせてみた。「ケミストリーを感じる」「IQの低い堂珍川端」失敗を組み合わせるとおよそビールのCMから遠いところに来た
写真18.はその二人を合わせてみた。「ケミストリーを感じる」「IQの低い堂珍川端」失敗を組み合わせるとおよそビールのCMから遠いところに来た
写真19.見ないでピザを注文する男である。実際にかけてみたところ「たくさん種類があるやつください」などの頭の悪そうな言動しかできなかった。結果、ファミリー4Mサイズを注文。かっこよさは失敗だがピザはよいものがきた。
写真19.見ないでピザを注文する男である。実際にかけてみたところ「たくさん種類があるやつください」などの頭の悪そうな言動しかできなかった。結果、ファミリー4Mサイズを注文。かっこよさは失敗だがピザはよいものがきた。
写真20.見ないであっちむいてホイをやった結果である。驚くことに両方とも「ホイ」をしている。じゃんけんの結果もホイの結果もわからないので永久にホイをする羽目になった。失敗である
写真20.見ないであっちむいてホイをやった結果である。驚くことに両方とも「ホイ」をしている。じゃんけんの結果もホイの結果もわからないので永久にホイをする羽目になった。失敗である
写真21.クイズの早押しボタンを見ないで押した。「越後製菓以外の正解が出てこなさそう」「ニューヨークに行きたくてもそもそもどこかわからなさそう」などの声が上がった。失敗だった
写真21.クイズの早押しボタンを見ないで押した。「越後製菓以外の正解が出てこなさそう」「ニューヨークに行きたくてもそもそもどこかわからなさそう」などの声が上がった。失敗だった
写真22.「見ないで」水を飲む人である。「かっこよさが一周まわってきた」「家のないベストジーニスト」などの声が上がった。
写真22.「見ないで」水を飲む人である。「かっこよさが一周まわってきた」「家のないベストジーニスト」などの声が上がった。

ある程度であればかっこよさが見られる

多少の心配する声があるものの、結果に影響なさそうであれば見ないでやるとかっこよさはある程度向上することがわかった。そして結果に心配がおよぶと今度はかっこよさが低下するようだ。

しかし世の中のことがらはほとんど見る必要のあるものばかりである。私たちがこうした事柄を見ずにやるには相当に熟練を要する。

かっこいいと思われるその日まで、少しずつビールを見ないで注ぐ努力をするべきである。
こぼすたびに笑ってしまってかっこよさが台無しであった
こぼすたびに笑ってしまってかっこよさが台無しであった
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