特集 2016年6月28日

座ってる二宮金次郎ってどうなの!?七代目子孫に直撃取材

二宮金次郎といったら、この石像ですよね?
二宮金次郎といったら、この石像ですよね?
「二宮金次郎」と聞いて、あなたはどんなイメージが思い浮かべるだろうか?薪を背負い、本を片手に歩く少年の石像を思い浮かべる方がほとんどだろう。もちろんわたしも、その一人だ。

しかし、世の中には、あなたの思い浮かべる二宮金次郎像とは別の二宮金次郎像があるらしい。“歩きながら本を読んでいる姿は、歩きスマホを助長させる”などという意見が噴出したことから、二宮金次郎を座らせた石像があるそうだ(しかも全国に複数個所!)

これも時代の流れなのだろうか…
立っている姿がスタンダードな世代からすると、気になるテーマだ。

賛否両論あるこのテーマに決着をつけるため、二宮金次郎七代目子孫に直撃取材してきた。
1988年静岡生まれ・静岡在住。平日は制作会社勤務、休日は大体浜名湖にいる。
ダイエット目的でマラソンに挑戦するが、練習後温泉に入り、美味しいものをたらふく食べるというサイクルを繰り返しているため、半年で10kg近く太る。

前の記事:男子歓喜!?艶めかし過ぎる「女体の森」に行ってみた


そこらじゅうに、二宮金次郎

そもそも、なぜ今回このような記事を書こうかと思ったか。

わたしの出身地である静岡県掛川市は二宮金次郎と関わりがあり、二宮金次郎の教えや思想が深く根付いてるため、とても身近に感じているからだ。(ここからは親しみを込めて、金次郎さんと呼ばせていただく。)

そのことを人に話すとよく「え?二宮金次郎って小田原出身じゃないの?」「掛川って関係あるの?」と言われるが、割とある。

金次郎さんの弟子のひとりに岡田佐平冶という人がいる。この佐平冶さんは掛川の人で、金次郎さんを心から慕い、金次郎さんの教えを元に熱心に村おこしをしていたことから、小田原から遠く離れた掛川にも金次郎さんの教え・思想が広まったのだ。

現在も掛川市には金次郎像はじめ、金次郎さんに関係する施設が多くあり、イベントや講座なども頻繁に開かれている。
こちらはJR掛川駅から徒歩10分程の距離にある「大日本報徳社」の公会堂。金次郎さんが唱えた“報徳思想(ほうとくしそう)”の普及を目指し作られ、国の重要文化財にもなっている
こちらはJR掛川駅から徒歩10分程の距離にある「大日本報徳社」の公会堂。金次郎さんが唱えた“報徳思想(ほうとくしそう)”の普及を目指し作られ、国の重要文化財にもなっている
敷地内にはもちろん、おなじみの金次郎像もあるし…
敷地内にはもちろん、おなじみの金次郎像もあるし…
大人になった金次郎像もある!
大人になった金次郎像もある!
台座には「二宮先生 村民表彰」と書いてある。これは、金次郎さんが農業を活発化するため、働き者の村民や良い行いをした村民を表彰する制度を作ったからだ
台座には「二宮先生 村民表彰」と書いてある。これは、金次郎さんが農業を活発化するため、働き者の村民や良い行いをした村民を表彰する制度を作ったからだ
入口の「道徳門」「経済門」も見どころのひとつ。金次郎さんの名言のひとつに“道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である”という言葉があるが、まさにそれを表しているのがこの門だ
入口の「道徳門」「経済門」も見どころのひとつ。金次郎さんの名言のひとつに“道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である”という言葉があるが、まさにそれを表しているのがこの門だ
平日の朝大日本報徳社に来ると、ほうとくラジオ体操に参加できるぞ!
平日の朝大日本報徳社に来ると、ほうとくラジオ体操に参加できるぞ!
少し場所を移動して、駅前に行ってみても…
ちゃんと金次郎さんがいる
ちゃんと金次郎さんがいる
渋谷駅集合の場合はハチ公前だが、掛川駅集合の場合は金次郎前だ。

また少し移動して、市内の小学校に行ってみても…
もちろん、いる
もちろん、いる
ここの小学校には、金次郎が唱えた報徳思想の4つの柱について、児童が作ったであろう看板まで設置されていた
ここの小学校には、金次郎が唱えた報徳思想の4つの柱について、児童が作ったであろう看板まで設置されていた
掛川市内の小・中学校の金次郎像設置率は100%らしい。金次郎さんはそれぐらい掛川市には根付いた存在なのだ。
ちなみに、掛川市のゆるキャラも金次郎さんをモチーフに作られている。その名も「茶のみやきんじろう」
ちなみに、掛川市のゆるキャラも金次郎さんをモチーフに作られている。その名も「茶のみやきんじろう」
2015年のゆるキャラグランプリの順位は74位と控えめだ。

金次郎さん、座る

このように、金次郎さんはわたしにとって非常に身近な存在なのだが、今年はじめ、そんな金次郎さんに関する目を疑うようなニュースが飛び込んできた。

【 「座り二宮金次郎」に呆れ声噴出 】

…え?座りって、何?金次郎さんが座ってるってこと?座っちゃっていいの?

詳しくニュースを見てみると、そこには衝撃の金次郎像が。
いやマジで座ってるし。(※趣旨を話して撮影許可をもらう勇気がなかったので、模写ですみません。)
いやマジで座ってるし。(※趣旨を話して撮影許可をもらう勇気がなかったので、模写ですみません。)
本当に座ってた。ガッツリ丸太に腰掛けてた。薪も置いちゃってるし。

もう一度従来の金次郎像と見比べてみよう。
あなたもよく知っている従来の金次郎像はこれだ。
従来の金次郎像
従来の金次郎像
そして、ニュースで取り上げられた金次郎像が…
これ
これ
休んじゃったよ
休んじゃったよ
金次郎さん、働きすぎてさすがに疲れちゃったのかしら…

では、なぜこんな姿に変えられたのだろうか。ニュースを読み進めると、どうやら“歩きながら本を読んでいる姿は、歩きスマホを助長させる”などという声が噴出し、子どもたちに良い影響を与えないと判断され、従来の立っている姿から座っているに変更されたらしい。

このまま行くと、金次郎さんはどんどん怠けるぞ…

時代の流れはあるにしろ、そもそも勝手に座らせてよいものだろうか。金次郎さんにゆかりのある方々、末裔の方々はこのことをどう思っているのだろうか。

気になって気になって仕方がなかったので、嫌がられることを覚悟で金次郎さんのご子孫に直撃取材してみた。

いよいよ、ご子孫を直撃取材!!

今回、幸運にも話を聞かせていただけることになったのは、何を隠そうあの二宮金次郎の七代目子孫・中桐万里子さんだ!!
二宮金次郎の七代目子孫・中桐万里子さん
二宮金次郎の七代目子孫・中桐万里子さん
中桐さんは二宮金次郎に関する講演を全国各地でされており、掛川市にも何度も来ていただいている。わたしもこれまで2回程お会いする機会があったが、このように時間をいただいてお話するのは初めてだったので、正直ブルった。
中桐さん、本日は変なお願いにも関わらずお付き合いいただき、ありがとうございます!!よろしくお願いします!!
いえいえ、こちらこそお願いします。
早速なんですが、ずばり、座っている金次郎像についてどう思います?
これね、難しくて、コメントしづらいです。
ははははは!!(ですよね…)
実はこのあいだも同じ質問でテレビ取材を受けたんですけど、取材対象になっていた金次郎像が日光(栃木県日光市)の金次郎像だったんですね。日光って関係地なんで、掛川と同じように「なんとか金次郎の思想を広めたい」と思ってる人たちがいるところで、その人たちが頑張った結果が、あの座っている金次郎像なんです。
頑張った結果というと?
「現代でも金次郎像を残したい」というギリギリの選択なんです。でも残すためには、もうあの姿じゃダメなんだっていうことで、もはやその頑張る人たちが座らせたわけですよ。
そういうことですか!!
コメントしづらい質問にも関わらず、丁寧に答えてくださる中桐さん
コメントしづらい質問にも関わらず、丁寧に答えてくださる中桐さん
そういう経緯まで読めるとすご~くコメントしづらいんですけど、単純に「交通事故が危ないから」みたいな陳腐な理由だけで座らせたわけではないと思うので、非常に複雑なんです。

最初に聞いた時は、本当に正直に言うとばかばかしいと思ったんですよ。ばかばかしいと思ったんですけど、次に「えっ、でもなんでそこまでして金次郎なんだろう?」と思ったんですね。
確かに、言われてみればそうですね…
そこまでするなら思いきって別の像にすればいいのに、どうしてアレンジしてまで金次郎を置くんだろうという不思議さ。わたしが通っていた、小学校は少年と少女がハトを持ってる像でしたから、金次郎はいなかったんです。そういうのでもいいじゃないですか、現代風に。なのに、どうして座ってまで金次郎なのかなっていうのが次に思ったことで…

それで考えてみると、日光とか小田原とかに、結構そういう座っている像が多いんですよ。要は、結構頑張っている地に多い(金次郎や金次郎の思想を広めようと頑張っている地に多い)。で、あぁ~そうまでして残そうとした結果だったんだなっていう、わたしの心の動きはありましたね。
そうかぁ~、そういう事情あってのあの座っている金次郎像だったんですね。
単純に反対者で「時代錯誤だ!」という人は像を残そうともしないので、撤廃しろっていう運動をすると思うんですよ。座らせろっていう運動はしない。むしろ座らせてまで学校に置こうとしようとする人がいるという驚きっていうんですかね…

あれ、やっぱり賛否両論あって、まさに交通事故論が多いんですけど、いわゆる“ながらスマホ”ならぬ“ながら読書”を(金次郎像は)してるじゃないですか。それを見た子どもたちが真似して、スマホしながら歩いたり、マンガ読みながら歩いたり。それで交通事故にあっても学校としては責任取れないからっていう理由が一番多いんですね。

あとは働き、かつ読書もするのは、児童虐待にあたると。
えー!!そんな意見もあるんですか!?
働かせもして勉強もさせるみたいな、二重の苦役を子どもにやらせる児童虐待的像であると。だからあれは良くない、そういう論もあります。
はぁ…
そして、普通に時代錯誤。蒔なんて知ってる子どもいないし、あの姿の意味もわかんないじゃんっていうのも、理由のひとつとしてありますね。

反対の理由のメインはその3つなんですけど、それで撤去になるところは多いは多いんだろうと思います。
なるほど、だったら中間を取って…
そう、だったら座らせるのはどう?みたいな。勉強中に休憩するっていうていはどう?みたいな(笑)そういう感じで持っていって、妥協点が見出されていくのもあるのかもしれないですね。
そう考えると、複雑な事情が裏にあるんですね!!
まとめ
二宮金次郎の子孫である中桐さんは、座っている金次郎像に対して正直なところ快く思っていなかったが、その裏に隠される複雑な事情もくんでくれる優しい方だった!!

従来の金次郎像が伝えたいものとは?

せっかく中桐さんにお会いできたので、普段中桐さんが講演でお話されている“金次郎像のポーズの秘密”を直々に教えてもらった。

今一度、従来の立っている金次郎像を思い出していただきたい。

もし「今、あなたがイメージしている金次郎像を説明してください」と言われたら、あなたはどのように答えるだろうか?
※蒔を背負っている
※本を読んでいる
※歩いている
※チョンマゲ姿の少年
正解を見てみよう。
こちらが従来の金次郎像
こちらが従来の金次郎像
先ほど挙げた答えは、どれも正解だ。しかし中桐さんは、これらとは少し違うポイントに注目して、金次郎像のポーズの秘密を解説してくれた。

中桐さんがまず注目してほしいというのは、蒔でも、本でもない。

一歩踏み出している足である。
確かに、一歩踏み出している
確かに、一歩踏み出している
なるほど、金次郎さんは「一歩を踏み出しなさい」「勇気を持って行動しなさい」ということを伝えたいのか、と思ったが、単純にそれだけではないそうだ。

一歩踏み出している足に注目した後に見てほしいのが、多くの方が勤勉の象徴としてとらえている、片手に持っている本である。

この本は、中桐さん曰く“一歩を踏み出すために必要なもの”だそうだ。
“一歩を踏み出すために必要なもの”
“一歩を踏み出すために必要なもの”
つまり、一歩を踏み出すために何かを学んだり、現実を見たり、知ろうとすることがとても重要で、それをすることによって道が開けていくんだというのが、あのポーズで表されているのだ。(諸説あるが、中桐さんのご家族の中ではこのような説が受け継がれているとのこと)

残念ながら座っている金次郎像は、中桐さんが大切にされているこの“一歩”が消えてしまっている。そういう意味でも、様々な意見はあると思うが、わたしは従来の立っている、本を読みながら一歩踏み出している金次郎像を推奨したい。
中桐さん、際どい取材内容にも関わらず快く引き受けてくださり、ありがとうございました!!
中桐さん、際どい取材内容にも関わらず快く引き受けてくださり、ありがとうございました!!
ちなみに、わたしが働く会社の建物横にも金次郎像がある。
木々がすくすく育ち過ぎて金次郎さんが少し埋もれてしまっていたので、撮影終了後感謝の意味も込めて周りをきれいにした。
金次郎さんのように日々学び、行動しながら、わたしもデイリーライターとして精進してまいります!!
金次郎さんのように日々学び、行動しながら、わたしもデイリーライターとして精進してまいります!!

グラビア撮影みたいになった

大日本報徳社敷地内にある金次郎像を撮影する、同行したカメラマンO氏。

角度を変えながら金次郎さんの写真を何枚も連写している姿が、まるでグラビア撮影のようだった
いいよいいよ~!!
いいよいいよ~!!
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