特集 2016年7月7日

白雪姫で応援上映をしてみたら、魔女が好きになった

\キース!/ \キース!/ \きゃー!/
\キース!/ \キース!/ \きゃー!/
応援上映というものが流行っているらしい。
上映中に声をだしてもOK、登場するキャラクターに声援を送りながら映画を楽しむという形式の上映だ。劇場や作品によってはコスプレやペンライトの持ち込みが許可されているものもある。声をだして、ペンライトを振るなんて、まるでライブではないか。

「映画館ではお静かに」という常識を打ち破る応援上映。一体何が起こっているのだろう。

当サイトでもプープーテレビで応援上映形式の総集編を行っている。
おお、楽しそう。私もやってみたいぞ、応援上映。
1991年北海道生まれ。埼玉在住。20歳まで海鮮が苦手だったので、
北海道で寿司を食べた経験がほとんどない。もったいないとよく言われるが、自分でもそう思う。

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応援上映ってなんだろう

声援OK! コスプレOK! と力強い表記がある。
声援OK! コスプレOK! と力強い表記がある。
応援上映という言葉を目にするようになって、気になって行ったことのある友人たちに話を聞くと皆必ず「あれはすごい」と言っていた。

その後実際に2回(通常の応援上映が1回、4DX応援上映が1回)ほど劇場に行ったのだが、「あれはすごい」としかいいようのないものだった。
劇場ではのどをいたわるドリンクまで販売されていた。(作中にはちみつが登場するシーンがある)
劇場ではのどをいたわるドリンクまで販売されていた。(作中にはちみつが登場するシーンがある)
面白いのだけど、その面白さをうまく表現できない。友人からもらった台湾土産のお菓子がちょうどそんな感じだった。たしかにおいしいのだけど、甘いでもしょっぱいでもない、スパイスの効いた不思議な味のケーキで、「不思議な味」としか感想を言えなかったことがある。
最近のカラオケ屋さんはDVDプレーヤーの貸し出しも行っている。
最近のカラオケ屋さんはDVDプレーヤーの貸し出しも行っている。
ということで、応援上映をもっとよく理解するために、個人的にも応援上映を開催してみた。具体的にはDVD鑑賞が可能なカラオケ店で、DVDを見ながら応援上映をしてみようという試みだ。

パブリックドメインでやろう

ストーリーの説明がいらないくらい有名なものがいい。「あのシーンのあれ」と書いただけでわかるものということで、『白雪姫』をチョイスした。
新宿の100円ショップで購入。他にも『シンデレラ』や『不思議の国のアリス』が売られていた。
新宿の100円ショップで購入。他にも『シンデレラ』や『不思議の国のアリス』が売られていた。
ありがたいことに『白雪姫』はパブリックドメイン、つまり著作権切れになっているので、ある程度自由に使用できるし、100円ショップでDVDが入手できる。(ちなみにパブリックドメインといえば、当サイトでは北村ヂンさんがカルタをつくっています。)

いざ応援

ここには写っていませんがライターの江ノ島さんに撮影してもらいました。
ここには写っていませんがライターの江ノ島さんに撮影してもらいました。
友人たちに声をかけて集まってもらった。応援上映経験者と「そもそも応援上映ってなに?」という人間が入り混じった編成だ。うち一人は顔出しが恥ずかしいとのことなのでお面をかぶっての参加である。

映画館でもキャラクターのお面をかぶっている人がいるので、ある意味ただしい振る舞いである。ちなみに映画館に行ったとき、お面を被った人とすれ違って声がでそうになるくらいびっくりした経験がある。
100円のDVDなので、翻訳や吹き替えがちょっとあやしいのはご愛敬。
100円のDVDなので、翻訳や吹き替えがちょっとあやしいのはご愛敬。
前置きが長くなってしまったが、以降は実際に応援上映をやってみて気付いたことを紹介したい。

9個のコツのようなもの

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人前で大きな声をだすのは恥ずかしい。

「応援って、そもそも何を言えばいいの?」という状態なのに、「何を言っても大丈夫」と言われても、さらに困ってしまう。

5人のうち、応援上映に行ったことがあるのは私を含めて2名だけ。他の人たちには「白雪姫を応援するから、ちょっと来て」とだけ伝えて集まってもらったのだ。今考えるとよく来てくれたな、と思う。

そもそも応援上映自体を知らない人もいたので、始める前にいくら「応援上映っていうのは……」と説明しても、十分に伝えられた自信がない。

「じゃあ、始めるからよろしく」とDVDを再生したが、気恥ずかしさからか、遠慮がちに声を出したあとに沈黙が続き妙な空気になってしまった。これはまずいぞと突然不安に襲われた。

いくら気の置けない仲とはいえ、社会人の貴重な休日を潰しているうえに、一人は茨城県から一時間以上かけて来てもらっているのだ。やり直しはきかない。とにかく自分が声を出すしかない。

プレッシャーに汗をかきながら、大きな声を出しているうちに、なんとなく形になってきた。見て真似をするというやつである。
声をださずに見ても面白いけど、今日はそうじゃない。
声をださずに見ても面白いけど、今日はそうじゃない。
手拍子しながら「ハイ・ホー」を歌う。
手拍子しながら「ハイ・ホー」を歌う。
中途半端にやるよりも思い切って声をだしてしまった方が恥ずかしくない。

とにかく声だ。声を出せ!
とはいえ、やはり完全に照れが抜けたわけではない。そんな簡単にありのままの自分をさらけ出すことができるのなら、世の中に悩みは存在しない。

なんとも言えない空気に耐えられなくなり、一度再生を中断して言った。「わかった。奢るから! お酒飲んで!」

困ったら酒だ。たいていの飲み会だって、それほど会話が弾まなくても、お酒を飲んで大声を出していればなんとかなる。酔え、酔え。お願いだから。

「酔えるやつにしよう」とエナジードリンクの入ったものを選んだのだが、これが大正解だったようで、酔いが回ると全員いい感じに声がでてきた。
酔いがまわっていい感じになってきた。
酔いがまわっていい感じになってきた。
途中でトイレに行った人から「廊下まで聞こえてたよ」と言われるほどには盛り上がっていたようだ。酒の力は偉大である。今後もう酒に足を向けて寝られないぞ。
身を乗り出してキスを煽る。たちの悪い学生みたいになってしまった。
身を乗り出してキスを煽る。たちの悪い学生みたいになってしまった。
ちなみに、多くの映画館でも酒類の販売が行われておりますが、飲酒可能かは劇場や上映作品、形式ごとに異なる場合があるのでご確認ください。
お酒をペンライトで照らすときれいでした。
お酒をペンライトで照らすときれいでした。
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だす声は、「○○だぞー!」「○○だろ!」より「○○だよー!」の方がやりやすい。なんだろう。『応援上映口調』というようなものが存在するのだ。

口調が優しい方が、より応援している感じがでるからだろうか。野次とは違うので、あくまでも愛のある言葉を選んだ方が良いように感じた。

これはウケるだろう、と自信満々に「そのリンゴ、吸水性良すぎるだろ!」と声を張り上げて、スベってしまったときは帰りたくなる。そんなことは起きてないけど、帰りたくなる。
「へいへいピッチャー、びびってるー!」
「へいへいピッチャー、びびってるー!」
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もう一度書こう。「物を持つと楽しい!」これ本当。

初めて劇場に行ったときは何も持っていかなかったのだけど、周りにいる人がみんなペンライトを持っているのを見て羨ましくなった。別になくても楽しめるのだが、みんなが光る棒を楽しそうに振っていたら自分も欲しくなる。ファミコンやケータイまったくと同じである。
100円ショップと家電量販店で買いました。
100円ショップと家電量販店で買いました。
せっかくなので劇場2回目は、15色に切り替え可能なちょっといいペンライトを2本購入してから臨んだ。

新しいものはスマートフォンアプリと連動して、光る色の順番を変更したり、自分の好きな色に調整できたり、「すごいぞペンライト」と最近のペンライト事情を紹介するだけで一本記事が書けそうなくらい充実していた。
カラオケの受付でも貸し出していました。
カラオケの受付でも貸し出していました。
光る棒を振って楽しくないわけがない。ライブや応援上映に行く予定のないひとも、ペンライトは買って振ってみるといいと思う。すごく楽しいので。
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予想できない展開、なんて謳い文句はサスペンス作品なら最高なのだろうけど、声援をおくるのにはちょっと向いていない。予想ができないと、何を言っていいのかわからないからだ。
『白雪姫』にこんなシーンあったっけ。
『白雪姫』にこんなシーンあったっけ。
当然、ストーリーはあらかじめ知っておいた方がいい。必須ではないが推奨と言い切ってもいいような気がする。

小人たちが「ハイホー!」と歌いだしたので、一緒に歌おうと「ハイホー!」と声を出したら、ちょうどそのタイミングで画面が暗転して次のシーンに……なんて事故は、少ない方がいい。
毒リンゴってすぐ食べるんだっけ? まだ?
毒リンゴってすぐ食べるんだっけ? まだ?
今回の撮影では一度見た後に、どのようなかけ声ができそうか相談したうえで、ラスト20分をもう一度見た。ラスト20分というと、白雪姫が毒リンゴを食べて眠りについてから目覚めるまでのシーンである。

もちろん慣れもあるが、ストーリーを把握してから臨んだ二回目の方がおおいに盛り上がった。
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実際の応援上映でも、特定のシーンで多くの人が声を揃えるお決まりのコールというものが発生する。
衛生的にはおそらくアウト。
衛生的にはおそらくアウト。
今回の『白雪姫』では、一度目の鑑賞のとき、小鳥がパイのうえに乗って足あとをつけるシーンで一人が「汚いよー!」と言ったのがウケて、二回目では全員で声を揃えて「汚いよー!」と小鳥に注意した。
「汚いよー!」「踏まないでー」
「汚いよー!」「踏まないでー」
こういったお決まりのコールで声が揃うと、とても楽しい。まさか『白雪姫』で一番盛り上がるのが、毒リンゴを食べるところでも王子様のキスでもなく、小鳥がパイに乗るシーンになるとは、予想もつかなかった。
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声を揃えてコールをするのも楽しいが、同じポーズをするのもまた楽しい。
「わたしが世界で一番美しい」
「わたしが世界で一番美しい」
このパブリックドメイン応援上映でも、一回はやりたかったので、魔女が「一番」と言いながら指を一本立てるシーンで、「一番」と声を合わせてペンライトを突き立てるように掲げるようにお願いした。

この魔女がよく動くし、感情をむき出しにするので応援のしがいがある。白雪姫の歌は一緒に歌うには難しすぎるし、基本的に家の掃除ばかりしているのであまり応援するポイントがない。世界で一番美しいのは白雪姫だとしても、一番応援したい女性は女王様、あなたです。
「一番!」と動きをあわせる。
「一番!」と動きをあわせる。
少し無理があるかもしれないけれど、「一番!」と声を揃えてペンライトを掲げるのは奇妙な一体感があった。

その後もすっかり魔女の一味になった気分で、小人たちから逃げ惑う魔女に対して、みんなで「逃げてー!」「来てるよー!」などと、口々に魔女に応援していた。

まさか白雪姫を見て、魔女を好きになるとは思わなかった。
てこの原理で岩を落とそうとする魔女に、「てーこ!」「てーこ!」とかけ声を合わせる。
てこの原理で岩を落とそうとする魔女に、「てーこ!」「てーこ!」とかけ声を合わせる。
常に何かしらの声をだしていなければいけないイメージがあったのだけど、実際にやってみると、無言の時間もそれなりにあった。

この無言の時間は前半に書いた気まずい沈黙ではなく、じっくりと映画を見ているときの無言の時間だ。例えるなら、前半のものが話したことのないクラスメイトと二人きりの教室で、後半は熟年夫婦がくつろぐリビングである。

声をだしやすいシーンと、そうでないシーンがある。だしやすいシーンでは精いっぱい声援を送り、そうでないシーンでは落ち着いて楽しむ。これがわかるまで1時間くらいかかったし、わかるまでは沈黙が怖くてとにかく大声を出していた。今思うと恥ずかしい。
濡れた小人をじっくり見る。
濡れた小人をじっくり見る。
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楽しむ心が大切、と今度は6歳児のようなことを書いてしまったが、棒を持って振っていたころよりも4歳年をとっているのでその分の成長を認めてほしい。
クライマックスでは自然と全員が拍手をしていた。
クライマックスでは自然と全員が拍手をしていた。
繰り返し書かないといけないくらい大事なことなので、何回でも書く。いや、ほんと、終わってみれば楽しかったけど、盛り上がるまでが大変だったんですって!

終わった後ラーメンを食べて解散した。そのときはおおむね「楽しかった」という評価だったが、あれが気づかいだったと考えると恐ろしい。結局「奢るから!」と言った分のお金ももらってしまっているのだ。

私は白雪姫を応援しているつもりだったのだが、実は私が友人たちに応援されていたのだろうか?
最終的には自然と声がでるようになっていました。
最終的には自然と声がでるようになっていました。
いや、写真を見ればわかる。みんな心から楽しんでいる表情ではないか。間違いない。応援上映、みなさんもぜひ友人を集めてやってみてください。楽しいです。楽しいです。
みんなで「ありがとうディズニー」と感謝の言葉を口にして終わった。
みんなで「ありがとうディズニー」と感謝の言葉を口にして終わった。

未知の体験

結局あれはなんだったのか。こうして記事を書いた今でも正直いまいち飲み込めていない。ただ、日常と非日常に分けるなら、間違いなく非日常側の体験だった。あと何回か通えばわかるだろうか。

最後にひとつ。今回の記事はあくまでも個人的に応援上映をやってみての感想なので、実際に行われているものとは様々な点で異なる場合がございます、と一応いいわけをしておきます。
カラオケで「ハイ・ホー」を歌ったら、ひたすらアメリカの工業の映像が流れました。なぜ?
カラオケで「ハイ・ホー」を歌ったら、ひたすらアメリカの工業の映像が流れました。なぜ?
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