ひらめきの月曜日 2016年7月18日
 

“ガイドブックに載っていないお店”は、本当にガイドブックに載っていないのか?

穴場情報の代名詞「ガイドブックに載っていない」の真実に迫ります
穴場情報の代名詞「ガイドブックに載っていない」の真実に迫ります
テレビの旅番組などで穴場のスポットを紹介する際、「ガイドブックには載っていない」という煽り文句が入ることがある。より穴場感が強調されるし、いかにも独自調査による貴重な情報っぽい印象を視聴者に与える効果もあるのだろう。

だけど、それ本当に独自情報なのかい?

「ガイドブックに載っていない」情報は、本当にガイドブックに載っていないのだろうか?
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。
> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

「ガイドブックに載ってない」安易に使い過ぎ疑惑

僕は編集者をしており、キャリアのスタートは旅行ガイドブックだった。最近はそれがメインの仕事ではなくなったが、今も年に数冊は手がけている。編集の基礎を教えてくれたガイドブックに対し、個人的な思い入れはわりと強い。

だからこそ「ガイドブックに載っていない」などという煽りを見聞きすると、若干モヤっとする。本当に載ってないか、ちゃんと調べたのかい?
ちなみに今は鎌倉の本などを作っています
ちなみに今は鎌倉の本などを作っています

足で情報集めてます

作り手が言ってしまうとかっこ悪いが、ガイドブックってじつはけっこう真面目に作られているんですよ、奥さん。

特にリサーチには時間と手間がかけられ、たとえば僕が新人の頃に仕事をした版元の編集者は、自分が担当するエリアに(自腹で)頻繁に足を運び、それこそ「ガイドブックに載らない」ような住宅街の小さな小さなラスク屋まで入念にチェックしていた。時にはリサーチのためだけに(自腹で)マンスリーマンションを借りて現地に泊まり込んでもいたほどのリサーチの鬼である。
たとえば日々情報が更新される東京の本なんて、リサーチだけで凄まじく時間がかかる
たとえば日々情報が更新される東京の本なんて、リサーチだけで凄まじく時間がかかる
もちろん誌面には限りがあるため、その全てを掲載することはできない。情報が溢れる東京などのガイドブックは、どうしても外せない有名どころを優先せざるを得ず、泣く泣く「落とす」物件もある。

なお、そういうスポットは、デイリーポータルZに登場することも多い。
それはたとえば3億円の隕石を売る「隕石直売所」や
それはたとえば3億円の隕石を売る「隕石直売所」や
東京駅の構内にあった「100年柱」などである
東京駅の構内にあった「100年柱」などである
だが、ガイドブックといっても様々で、たとえば「るるぶ」や「まっぷる」など絶対に外せない定番スポット、王道の旅を提案する本もあれば、一方でテーマを絞り、マニアックな情報をあえて掲載しているものもある。
たとえばシニア向けの散歩ガイドでは
たとえばシニア向けの散歩ガイドでは
おしゃれカフェには目もくれず、主に石などを紹介している
おしゃれカフェには目もくれず、主に石などを紹介している
なお、力石はこういうやつです
なお、力石はこういうやつです
それらも含めて考えると、「ガイドブックに載っていない」スポットなんて、そうそうあるもんじゃないはずだ。

白黒つけようじゃないか

そこで、過去にテレビやネットで「ガイドブックに載っていない」のふれこみで紹介されたスポットを無作為に50カ所選び、本当に載っていないのか、いやらしく調べ上げてやることにした。
過去のガイドブックは国立国会図書館で探す
過去のガイドブックは国立国会図書館で探す
やってきたのは国立国会図書館。国内で出版された全ての書物を保存している。ここで、それが放送あるいは公開された日以前に出版されたガイドブックを照会し、掲載の有無をチェックする。とはいえ全てのガイドを確認するのはさすがに果てしなさすぎるので、今回は「まっぷる」「るるぶ」に限定して調査を行った。
大人げないリサーチの始まりである
大人げないリサーチの始まりである
まずは某トラベルサイトにて公開された記事。「ガイドブックに載っていない」のタイトルで、ハワイのグルメスポットを紹介している。「裏グルメ」とうたいつつ、ハワイのことをよく知らない僕でも聞いたことのあるような有名店が紹介されているので、本当に載っていないのかじつに疑わしい。
結果。けっこう載ってた
結果。けっこう載ってた

載ってるじゃあないの

なんと「ガイドブックに載っていない」はずの10店のうち6店が「まっぷる」という超メジャーなガイドブックにどどんと掲載されているではないか。裏グルメどころか表も表である。


また、その2カ月前に公開された記事では「ドラマ・あまちゃんのロケ地」を紹介しているのだが、これにも「ガイドブックに載っていない」のタイトルが冠されている。そんなこと言って大丈夫なのかい?
載っとるね
載っとるね
うん、けっこう載っているね。

そもそも、あまちゃんのロケ地なんて超定番のポイントをガイドブックが押さえていないワケがない。「ガイドブックに載っていない」のフレーズが、いかに軽く乱用されているかが分かる事例だと思う。


テレビ番組も捜査してみよう。まずは2013年に放送された某バラエティ番組である。「ガイドブックには一切載らない」テーマパークとして、「秩父珍石館」(埼玉県)、「恐怖の洞窟」(群馬県)が紹介されている(※ちなみにデイリーポータルではどちらも北村ヂンさんが取材済みです)。
「恐怖の洞窟」は載っていなかったが、「秩父珍石館」は10年前の「まっぷる奥多摩・秩父」にバッチリ掲載されていた
「恐怖の洞窟」は載っていなかったが、「秩父珍石館」は10年前の「まっぷる奥多摩・秩父」にバッチリ掲載されていた
「まっぷる奥多摩・秩父」2005年版より
「まっぷる奥多摩・秩父」2005年版より
なぜそんな古い情報を知っているかというと、僕が編集した本だからです
なぜそんな古い情報を知っているかというと、僕が編集した本だからです
ただ、残念ながら最新版のまっぷるに珍石館は紹介されていないようだ。当時の僕はこれを秩父観光におけるマストスポットであるとの確信をもって載せたわけだが、担当が変わり、色々な判断があって非掲載に至ったのだろう。秩父には最近おしゃれなカフェなども増えていると聞くし、珍石に割く誌面がなくなってきたのかもしれない。
ということで、ちょっと古いが珍石館は「掲載あり」ということにしたい
ということで、ちょっと古いが珍石館は「掲載あり」ということにしたい
とはいえ、バラエティ番組のワンコーナーであれば、そう目くじらを立てる必要もあるまい。問題は「ガイドに載らないマル秘ツアー」のように、番組名自体がガイドブックを引き合いに出して穴場感をアピールしているケースだ。しかも、その番組が人気を博しシリーズ化されていたりすることもあるので、申し訳ないがこれは目くじらを立てさせていただくしかない。

というわけで、ねっとり調べてみた。

載ってる載ってる

結論から言うと、案の定、こちらもけっこう載っていた。
名所や飲食店に関しては半分ほどが「ガイドに載るマル秘ツアー」だったのである。
!
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さらに、秘湯、秘境などと紹介されている「ガイドに載らない」温泉宿は、そのほとんどがガイドに載っていた。
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また、まっぷる、るるぶには載っていないマイナーな滝、階段、坂なども、テーマ系のガイドブックにまで対象を広げると案外載っていたりする。
仕事柄、うちの本棚には色んなガイドブックがある
仕事柄、うちの本棚には色んなガイドブックがある
たとえば、日光といえば華厳ノ滝が有名だが、前述の某「ガイドに載らない」旅番組ではあえてマイナーな滝めぐりと称して「虹見の滝」や「蛇王の滝」などを紹介していた。

でも、載っているんだな、これが。
放送日前に刊行された「日光パーフェクトガイド」
放送日前に刊行された「日光パーフェクトガイド」
しっかりと「虹見ノ滝」の記述がある
しっかりと「虹見ノ滝」の記述がある
同じガイドに「蛇王の滝」も載っていました
同じガイドに「蛇王の滝」も載っていました
ちなみに都内の坂道をひたすら紹介しまくるマニアックなガイドブックもあります
ちなみに都内の坂道をひたすら紹介しまくるマニアックなガイドブックもあります
で、やはりまったく載っていないことはない
で、やはりまったく載っていないことはない
つまり、この記事で言いたかったのはこういうことだ。


ガイドブックなめんな。

ガイドブックにもいい場所たくさん載ってますよ

「ガイドに載っていない」のうたい文句。それがいかにあやふやで簡単に使われ過ぎているか、これでお分かりいただけたと思う。そもそもガイドブックに載らないから偉いみたいなノリで紹介されるのは甚だ遺憾である。

そういった番組を非難したいわけではまったくないが、ガイドブックも定番から穴場までけっこう幅広く押さえていることをお分かりいただければ幸いです。
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