とくべつ企画:「上京して驚いたこと」を確かめる 2016年7月21日
 

茶碗蒸しに春雨入れるのは鳥取県米子市近辺だけ!

スーパーで買い集めた春雨入り茶碗蒸し
スーパーで買い集めた春雨入り茶碗蒸し
鳥取県西部の米子市とその周辺地域では、茶碗蒸しに春雨が入っている。

春雨だけが特殊? だったら銀杏は? え、それは普通?

その文化圏内で生まれ育ったため、それが珍しいものだというのがなかなかピンとこない。

自分にとっては馴染みのある「春雨入り茶碗蒸し」ってどんなものなのか、現地で調べてきた。

※この記事はとくべつ企画、「『上京して驚いたこと』を確かめる」のなかの1本です。

読者の方からいただいた、上京して驚いたことの投稿をライターが現地へ行ってたしかめます。
島根県生まれ。毛糸を自在に操れる人になりたい。地元に戻ったり上京したりを繰り返してるため、一体どこにいるのか分からないと言われることが多い。プログラマーっぽい仕事が本業。

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春雨への意識がうすい

こんな投稿が届いた。
鳥取県米子市では茶碗蒸しに春雨が入ってまして、上京した時に茶碗蒸しに春雨が入ってなくてショックでした。

スーパーで売ってる茶碗蒸しも春雨入りなので、うちの実家だけというわけではなかったと思います。
部下の人さん
投稿者の方は、春雨にすごくこだわりを持ってるみたいだが、私はそんなに気にしたことがない。
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当サイトのライター西村さんもこの春雨入りに馴染みがある地域の出身なので、この調査前にこの件について話したのだが

まず「どうやら東京の茶碗蒸しって春雨入ってないっぽい……?」「どうやらそうらしいですよ……」という話になったぐらい、お互いに春雨への意識レベルが薄かった。
「具として入ってる場合もある」ぐらいな認識。今まで気にしたことがなかった。
「具として入ってる場合もある」ぐらいな認識。今まで気にしたことがなかった。
西村さんはコーナーの中で、青森の甘い茶碗蒸しは珍しがってたのに、この件に関しては「インパクトがなかったから」と採用してなかったが、それってすごくローカルな感覚なんじゃないか。意識は薄いけど。

どうやらこだわり強い派も存在する

「こだわりない」「春雨への意識が薄い」と思いつつも、聞き取り調査を始めてみるとある事実に気づいた。

春雨文化の中心地・米子の人って春雨への意識が強い人が多いかもしれない。質問を投げてみると、こだわりがあるような回答が返ってきて、自分との温度差を感じる。
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そういや西村さんも私も春雨文化圏の中心からはちょっと外れてるのだ。
両脇の地域の者たちが話し合ってんだなと思ってもらえれば
両脇の地域の者たちが話し合ってんだなと思ってもらえれば
この微妙な地域差と意識の違いをなんとなく感じつつ、アンケートを取ってみたらやっぱりそうだった。
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へぇー、米子の方の人はこだわり強いんだなぁ……とよそ者視点で感心してたが、いやちょっと待て。

県外の人も含めた調査結果を見てみると……

え、こんなにも他の地域でまっったく存在してないものだったのか!!
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更にびっくりしたのが、鳥取県東部の鳥取市までいくとまるで存在してないらしいということ。(鳥取市の回答数が異様に多いのは、身内に頼んだら大量に回答を取ってくれたため。そのうちのすべてが「ない」だった。)
これだけ位置がずれるだけで、こんなにも「ない」のか! それも衝撃。
これだけ位置がずれるだけで、こんなにも「ない」のか! それも衝撃。
大人になってから移住してきてびっくりした、というコメントをいくつかもらったので紹介しよう。
・最初は違和感あったけど、春雨好きだから入ってたらラッキー(愛知県出身/嫁ぎ先が鳥取県西部 40代女性)

・義祖母が作ってくれて、びっくりしました。「えっ!?春雨!?」って聞いたら、自分は昔から春雨入りで育ったけど……と言われました。(愛知県出身/嫁ぎ先が鳥取県西部 30代女性)
嫁いできたパターン2つ。(出身地も同じだ。)どうやら馴染みのない人たちにとっては、「違和感」「びっくり」という存在らしい。

米子の人達のこだわりを聞きたい

春雨文化の中心である米子市と言うと、当サイトのイベントなどで以前お世話になった、あの「米子ガイナックス」もある。

春雨の件で質問を投げてみたところ、どうやら冒頭で紹介した投稿をした方はこちらの社員さんだと判明!
ええっ、なんという偶然!

事務所へお邪魔して話を聞いてみよう。
こちらが投稿者の「部下の人」さん。以前5年間ぐらい東京に住んでいたことがあるが、今は米子市在住。
こちらが投稿者の「部下の人」さん。以前5年間ぐらい東京に住んでいたことがあるが、今は米子市在住。
部下の人さんは、上京してすぐに茶碗蒸しの違いに気づいたんですか?
茶碗蒸しが好きなのでよく買ってはいたんですけど、一度も春雨が入ったやつに当たったことがなくて、ハズレだな。安いから? って思ってました。
なるほど、単に入ってないものを買ってしまったんだ……と。私、今回まで気づいてなかったんですよ。
向こう(東京)で食べたことは?
あるんですけど、地域性の問題だと思ってなくて。例えば銀杏が入ってるものと入ってないものがあったり、海鮮のがあったり……、海老だったり鶏肉だったりみたいな感じで、春雨がない場合もあるなぁ ぐらいな感じで。単に具の問題だと思ってました。

いつごろ地域性のものだって気づかれました?
こっち(米子)に帰ってきてからです。家でつくって、やっぱり必須だよねって話になって。姉も一時期関西の方に出てて、そういや向こうで食べてないなというので話が合って。やっぱりこの辺は入っちょーねと。
ああ、入っちょーねと。
夫の家では春雨入ってないんですよ。ずっと米子に住んでてお母さんが広島出身なんですけど。私が入れたら「なんで春雨入ってんの?」って言われました。
親の出身地って関係しますよね。うちも母が米子出身だから知ってるのか、生まれ育った地域のものなのか、今回よく分からなくなってました。
確かに春雨が好きで、そもそもこだわりがある人なら県外に出て異変に気付くのか。

ここで、たまたま居合わせたNさん(方言強めの50代男性)にも話を振ってみたところ、また違った春雨観が返ってくる。
【Nさんの回答まとめ】

・市街地よりも田舎の方がモソモソするほど大量に入ってる
・本格的なのにはみんな入ってる
・チープなのは入ってない!
・ちゃんとした料亭のは入ってるでしょ!?
・おふくろはいつも入れてた
・大きくなっていろんなところに行くとなにもないプリンみたいなのがあってなぁ! あら?これ茶碗蒸しじゃないなぁ……と思いながら食べとった

・僕の意見はあんまり当てにならんけん
・そんなの観察もしたことないし
・そもそも食べ物に興味ないけん
方言の強さとこっちが思ってたよりもずっと春雨を良いものだと思ってる感じから、「昭和の田舎のごちそう」っぷりを感じる。
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そして、ここでもうひとり入ってこられたのが、クリエイターの赤井孝美さん。うお、なんか突然有名な方が来られた……!
赤井さんは、現在米子で活動中
赤井さんは、現在米子で活動中
ちょっと話を伺ってみたところ、「茶碗蒸しのメインは春雨だと思ってた」だとか「春雨の入ってない茶碗蒸しは、スパゲッティの麺以外のパスタを見たような驚き」だとか、聞き捨てならない春雨観が次々と飛び出す。
春雨入り茶碗蒸しが一般的でないっていつ気づかれましたか?
学生のときに関西に出て、茶碗蒸しに何の具が入ってるか言い合ったときに「春雨」と言ったら異常に驚かれてびっくりしたことがあって。

入ってないにしても、そんなに驚くことないやろみたいな。ああいう存在感のある麺的なものが入ってるっていうのが意外だったみたいですね。
言われてみれば異質ですけど、そんなに驚く感覚は分かんないですよね。
茶碗蒸しが出るようなお祝いとか、親戚が集まるようなときは春雨が楽しみでした。

もう大好きだったんですよ! あまりに僕が好きなので、うちの春雨はちょっと多めだったりするんです。
それほんとにメインですね(笑)
そんなにメインというほど入ってるの見たことあったかな……。あるような、ないような。
あと、春雨だけ沈殿しますよね。あれが茶碗蒸しの上の方の具を食べたら掘っても掘っても卵だけっていうのを防いでくれるわけですよ。
確かに具は浮くから上の方にありますもんね。
聞けば聞くほど春雨への思いの熱量がちがう! Nさんにとっても赤井さんにとっても「茶碗蒸しに入ったたっぷりの春雨」は子供のころのごちそうの思い出でもあるのか。

私が食べていたのは「ほかの具に混じって春雨がある」という感じだったが、「春雨メイン」というほどたっぷりだと、「県外に出て春雨なかったガッカリ感」があるのも納得する。

スーパーをまわって探してみよう!

春雨入り茶碗蒸しを置いてそうな範囲のスーパーをまわってみた。西は島根県出雲市から東は鳥取県倉吉市、距離にすると120q程度だ。もうちょっと広い範囲でありそうな気はしてる。
文化圏の端っこである倉吉市での目撃談もあったが、この日は見つからなかった。ところで「暮らしのパイロット」ってなんだ。
文化圏の端っこである倉吉市での目撃談もあったが、この日は見つからなかった。ところで「暮らしのパイロット」ってなんだ。
本筋から逸れるが、このマークとロゴが気に入った。目的のものは置いてなかったけど。
本筋から逸れるが、このマークとロゴが気に入った。目的のものは置いてなかったけど。
米子から離れるとなかなか置いてないが、米子付近だとだいたいスーパーのお総菜コーナーに置いてある。
売り場でPOPに「春雨入り」って書かれてるのはここだけだった。ほかの店では春雨については何も書かれず普通に置いてある
売り場でPOPに「春雨入り」って書かれてるのはここだけだった。ほかの店では春雨については何も書かれず普通に置いてある
地元のスーパーはもちろん、イオンのような全国チェーンのスーパーでも、地元メーカーの春雨入り茶碗蒸しは置いてあった。

車であちこちまわって、買い集めた茶碗蒸しがこの6種類。
密封してない容器が多いので、出汁が漏れないよう気を付けつつ、保冷バッグに入れて持って帰った
密封してない容器が多いので、出汁が漏れないよう気を付けつつ、保冷バッグに入れて持って帰った
透けて見える春雨
透けて見える春雨
掘ったら出てくる春雨
掘ったら出てくる春雨
比べると、太さは全然違う
比べると、太さは全然違う
スーパーで買った春雨は、ほとんどが地元のメーカーによって作られているが、岡山県総社市のメーカー(藤徳物産株式会社さん)で作られているものが2つあった。

岡山県だと春雨茶碗蒸しの文化圏外のはずだし、一体どういうことなんだろう。山陰の方へ出荷するものにだけ春雨を入れてるとか……?

電話で確認してみた。
茶碗蒸しは、山陰の方へ出荷する分だけ春雨を入れてるんでしょうか?
山陰の方へ出荷するウェイトが高いんで、全部の茶碗蒸しに春雨を入れるようにしてます。実は以前は茶碗蒸しは冬しか作ってなかったんですが、山陰では夏でも冬でも関係なく売れるということで、一年中作るようになりました。
どういう範囲に出荷されてるんですか?
主に米子の方へ。一部、岡山県内にも出荷してます。
春雨が入ってるということで、購入された方からなにかリアクションがあることはありますか?
「なんで入ってるんですか?」と聞かれることはありますが、山陰の方に合わせて作っていると説明しています。
……ということらしい。そんなに消費量があったとは! それと確かに季節関係なく食べるものだと思ってた。

なんと愛好会もあった

春雨入り茶碗蒸しについて調べてる途中で存在を知った「春雨入りだよ茶碗蒸しは愛好会」。保護を目的とした団体(?)まで存在したのか!?

調べてみると、料理担当の方は以前一度取材をさせてもらったことがあった。話を伺いに、経営されている飲食店の店舗にお邪魔する。
店舗どころかいきなり厨房にお邪魔してしまった。茶碗蒸しを蒸す「和Cafe&Dining えんや」代表の清水さん。
店舗どころかいきなり厨房にお邪魔してしまった。茶碗蒸しを蒸す「和Cafe&Dining えんや」代表の清水さん。
愛好会の活動は主にどこでやっておられるんでしょうか?
活動が広がってる訳ではないんですが、イベントでお出ししたり、スーパーや飲食店で茶碗蒸しを出されてるところに小さいのぼりを置いてもらってます。
それは米子市内で?
そうです。
Mマートさん(事前に教えて頂いたスーパー)に行ったときにPOPを見たんですけど、それもですか? (※上に写真を載せた、「春雨入り」って書かれたスーパーのPOP)
それはちがいますね。駐車場に大きいのぼりがあって。
インタビュー前に行ったので見逃した。どこだ……。(左の方にちょっと見えてる旗は違うっぽい)
インタビュー前に行ったので見逃した。どこだ……。(左の方にちょっと見えてる旗は違うっぽい)
地元の人って春雨が特殊な文化だって気づいてない場合があるので、のぼりがあったとしても何のことか分からないってことがありそうな気がします。
地元の地域資源になるってことはまだ気づかれない状況ですよね。なので、のぼりを持って、「地域資源なんですよ」「観光資源なんですよ」なんて出かけるんですけどまだまだで。
県外のイベントでアピールすることはあるんですか?
ありませんね。ここ数年はあんまり活動を大きくしてないです。
イベント用には春雨多めにするらしい。この日も撮影用にどっさり入れたのだそう。食べるときにはスプーンも箸もどちらも使う場合が多いが、このお店では箸が出てくる。
イベント用には春雨多めにするらしい。この日も撮影用にどっさり入れたのだそう。食べるときにはスプーンも箸もどちらも使う場合が多いが、このお店では箸が出てくる。
地元の飲食店では、春雨入り茶碗蒸しを出す店は多いんですか?
料理人の方は、関西や関東で修業をしたので入れないんです という方々が多いので、この地域でも出てくるところって限定されてると思います。縮小されて、春雨がない文化も浸透してきてるので、知らずに育った方もおられるでしょうし……
油断してたら絶滅の危機になるんじゃないか……ズルズル……
油断してたら絶滅の危機になるんじゃないか……ズルズル……
そういえば、太さや量って地域によってではなく家庭によって違うって感じですかね?
そうですね。家庭によって違います。あと、数年前まで細い緑豆春雨が流行りだったんですけど、地元のおばあちゃんたちに聞くと太くて伸びた春雨が主流だと言われるんで、最近は太いのに戻してます。
おばあちゃんたち、というのはどちらで聞かれたんですか?
地元の老人ホームをたずねて、おばあちゃんたちの主流にたどり着きました。あとは給食センターも訪ねてます。
老人ホームにまで! 給食にも入ってるんですか?
入ってるところもありますね。
「家庭によってちがう」という話が出たところで、集計したアンケートを見返すと、

・春雨ではなく糸こんにゃくを入れる
・そうめんを入れることもある

という声が目に留まる。少数意見ではあるが、これもおそらく「家庭によって」という話だ。

ちなみに「うどんを入れる」場合もあるようだが、それは山陰以外の他地域にもあるらしいので、そこを追及するとまた違う話になってくるか。
やっぱり米子近辺は「春雨はないと物足りない」って人が多いんですよね?
特に40代より上ぐらいの方に多いと思います。
スーパーでは大手で作られた茶碗蒸しと地元のお総菜屋さんで作られた茶碗蒸しと2つ並んでるんですけど、やっぱり地元のほうを手に取る人が多いようですね。
スーパーのお惣菜用の茶碗蒸しをわざわざ作るところが多いのは、春雨のためなんですかね。
それはあるかもしれませんね。
茶碗蒸しのプルンとした食感と春雨が好きな人、両方に満足してもらいたいので、卵の層と春雨の層を分けて蒸すのだと、コツを教えてもらった
茶碗蒸しのプルンとした食感と春雨が好きな人、両方に満足してもらいたいので、卵の層と春雨の層を分けて蒸すのだと、コツを教えてもらった
出すお店も減って、普通の家庭でもなかなか作らなくなってきてるとなると、ほんとになくなってしまうのでは……と心配になってきた。

愛好会の活動も近年下火になりつつあるとのことだが、やっぱりそういう活動をやっていかないと消えてしまうものなんだろうか。

せっかくこういう文化があるんだし、なんとか消えるのは阻止してもらいたい。

当初「食べ歩き取材かな」と思ってたが、色んな人の話を聞いてるうちに自分が生まれ育った文化圏のまったく気づかなかった事実がゴロゴロ出てきて、聞き込み中心の取材となった。聞く人によってまったく違う答えが返ってきたのも面白い。

それはそうと、取材中に部下の人さんが「いちごに塩かけますよね?」と言って、全員から「ないないない!!」と言われていた。

これは、どこかの文化ではないと思うが…… どうなんだろう。

取材協力:和Cafe&Dining えんや

住所:鳥取県米子市淀江町西原1135-4
TEL:0859-56-1588

※記事内に出てきた茶碗蒸し(伯耆の国名物春雨茶碗蒸し)は予約が必要です
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